Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
因みにですが、作中のロシア大統領官邸はクレムリン宮殿の場所ではありません。少し離れた所に置いています(観光地と政治の中心が同じ場所というのは少し不便ですからね)
_5月29日午後1時36分_
モスクワ 大統領府庁舎
大統領執務室では、椅子に腰かけるニコルシチャフがロスチヤと対面していた。
「急な要件のようだな、一体なんだ?」
「はい、緊急のCБ*1を召集していただきたい」
その発言にニコルシチャフは驚く。
「午前中に報告含めたものをやったばかりだぞ!……もしかして、CLFの謎が解けたのか?」
「100%完璧に解けたとは言い切りませんが、一応の答えは出ています」
「ふむ……だが、参加閣僚を召集するのに時間がかかる。14時00分でいいか?」
「構いません、こちらも時間がかかりますので。それでは失礼します」
ロスチヤは一礼をして、早々に退出する。ニコルシチャフはそれを見届けた後、補佐官に参加閣僚の召集を伝える。
_午後2時04分_
ニコルシチャフは時刻通り、安全保障会議級に重要会議専用の会議室に関係閣僚を召集していた。
「国防大臣、始めてくれ」
「はい。まずはこちらをご覧ください」
ロスチヤは補佐官に目線で合図を送り、モニターに画像が映される。
その画像はニキーチンが送信した報告書を可視化しやすいように修正、加工したものである。
「わかりにくい方は、手元の端末で正式な報告書をご覧ください」
2分ほど経過し、ウリンソン参謀総長除き誰しもが驚きの表情を浮かべる中、ニコルシチャフが口を開く。
「国防大臣、報告はこれで以上か」
「はい、この報告書が全てです」
ニコルシチャフは再び黙る。
「皆はどう思う?私としては……罪もない少女達を性の掃溜めにしておきながら、道具として戦わせる……これ以上の非道な行いが無いと信じたい」
ニコルシチャフは表情では平静を装っているものの、その声からは怒りが滲み出ていた。
重苦しい空気の最中、一人の男が手を挙げる。
「検察総長」
自分の役職を呼ばれた当人、ヤーコフ・チムーロヴィチ・リトヴィネンコ最高検察庁検察総長は机上で手を組み、話し始める。
「これほどの性犯罪、前例がありませんし、あっても欲しくありませんでした。しかしながら、CJFの指導者アポロフとそれに付き添うサディストのアニシモフ両名には、祖国ロシアを裏切った罪も含め、規模から極刑が適切と思われます」
リトヴィネンコの意見に多くの閣僚は頷く。だが、異をとなえるものも少なからずおり、その一人はキール・ジェニーソヴィチ・グラツキーМЧС*2大臣である。
「私は法律で裁くことには反対していないが、死刑を下すにはいささか簡単すぎるのではないか?彼女たちの多くは親を含め大事なものを失っているのだぞ。死刑程度で彼女たちが納得するわけがない」
グラツキーの意見も理にかなっており、閣僚らは頷く。
「ですから、私からは『重労働刑』というものを提案します」
リトヴィネンコの提案にニコルシチャフが疑問を口にする。
「それは?」
「旧ソ連、スターリン政権下で名称はありませんでしたが、多くの者が酷使されたものです。受刑者には最低限の生活を与え、自殺できないよう監視しておけば、一生働かせる事ができます。МЧСの実働部隊一個分隊で監視させておけば十分かと」
「ふむ……それは捕まった後でも検討しよう。他に意見は?」
「私から提案があります」
司法大臣ヴコール・アルノーリドヴィチ・マルコフスキーが口を開く。
「これほどの非人道的行為、国連人権理事会に提言すべきでは?国際的な支持が得られると思われますが……」
「いや……形式的にはそうだが、国際世論は動かない。大抵の西側諸国が世論が騒がない限り、重い腰を上げることは絶対に無い。人権理事会の提言で動く国がいることもあるが、確実ではない」
マルコフスキーの意見に反論したユーリー・フリストフォロヴィチ・ブラチーシェフ外務大臣は話を続ける。
「人権理事会への提言は確かにいい意見だが、同時に西側諸国での世論形勢をしなくては話にならん。簡単なのは、各国メディアで情報を流してもらうことだろう」
ブラチーシェフに続き、
「可能ですな。西側諸国、特に我々の冷戦相手で唯一無二の超大国アメリカに対し、集中的な情報戦を仕掛ければ、世論形勢は十分できますな。大統領」
「速やかに資料の作成は可能か?チェルノフ長官」
ニコルシチャフにそう言われたチェルノフは不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。
「お任せください。我々は悪名高いKGB第一総局の後継であるんですから、少女の顔写真等を貰えれば、映像資料はわずか一日で作成できます、一日半でアメリカ含む西側諸国のメディアで流せると思います」
「CIA*3への対策はどうしてる?」
「わずか一日半です、奴らが能動的に動けるとは思いません。が、隠密していく必要はあります。MI6*4に関しても同じでしょう」
「ふむ……ウリンソン参謀総長、CLFへの軍事行動はどうしている?」
ニコルシチャフは若干思案して、ウリンソンへと視線を向ける。
「我々ロシア連邦軍はCLFに対し、三つの目標を定めました。一つ目は当然ながら、アポロフ、アニシモフ両名の拘束、二つ目は虜囚となった者達の救出、そして三つ目はCLFの殲滅です。現在は第39親衛戦闘機航空連隊と第49親衛爆撃機航空連隊による偵察及び対空火器等の設備破壊を行いつつ、第10独立特殊任務旅団及びCCO*5によって少女達の捜索を行っており、ダゲスタンに派遣している第45独立親衛特殊任務連隊や、海軍スペツナズ第136PDSS分遣隊にも参加させます」
「第45…というと、彼女達もいるのか?」
「ええ。虜囚の少女達にその対策能力を持つ可能性を鑑みて派遣します。捜索して発見後、少女達のいない軍事拠点を直ちに破壊し、航空優勢を確保。攻撃による陽動を行いつつ、救出を行う算段となっております。規模と状況によっては、CBP及びФСБ*6には協力を申し出るかもしれません」
「構わんよ」「わかっている」
ウリンソンの言葉にチェルノフ及び、アズレート・ザハーロヴィチ・クロチコフФСБ長官は頷く。
「よし、ブラチーシェフ外務大臣は国連人権理事会への決議案提出の準備を。ただし、CBPの情報工作が終わるまでは待て。CBPは示した通り、アメリカ含む西側諸国に世論形成、映像資料の放送などの報工作を行え」
ニコルシチャフの命令に両者は頷く。
_同時刻_
ババユルト 仮設駐屯地
間もなく第45独立親衛特殊任務連隊にも偵察命令が下され、サンダーク大佐は各支隊、各分隊に命令を伝達。
それはイエヴァ率いる第186分隊も例外ではなく、同じく出撃準備に入る。
「イエヴァ…」
女子更衣室で着替え中のリリーヤは隣で着替えてるイエヴァに話しかける。
「何、リリーヤ?」
イエヴァはリリーヤの方を振り向き、彼女が僅かに震えてるのを見る。
「どうしたの?」
「なんか…怖くなってきちゃった…初実戦だから死んじゃうかもしれない……いつもは強気でいるのに…」
そんなリリーヤをイエヴァは心配そうに見つめる。
「……リリーヤが望むなら、辞退しても「それはダメ……!」!」
「一緒に行きたい……でも、怖い……」
その時、イエヴァはリリーヤをそっと抱きしめる。
「リリーヤは私が守るって言ったよね?大丈夫」
「……うん」
リリーヤはわずかに頷く。
「じゃあ、私は先に待ってるから」
「え、はや……」
リリーヤはイエヴァが話してる間に着替え終わってたことに驚く。周りも着替え終わり始めてることに危機感を覚えた彼女は急いで、着替える。
クラフトパンツタイプのズボンを履き、青白の
その上に、Gorka-3戦闘服を着用し、Smersh-AK/VOG戦術装備キットと、6Sh92-5ベスト、6b33ボディーアーマーを装着し、
すぐに更衣室の外に出ると、イエヴァが壁に背中を預けて待っていた。
「イエヴァ、お待たせ」
イエヴァもリリーヤと同じ装備を身に着けており、制服の時とは印象が幾分か変わっている。
「うん、じゃあ行こうか」
「あ、その前にさ、ニーナちゃん達と話さない?私達が出撃したって事を聞いたら、多分心配するよ」
リリーヤの言葉を聞き、イエヴァは微笑みながら、そうだね、と答える。
二人はニーナとポリーナのいる部屋に着き、ドアを開ける。
「イエヴァさん…!その格好は?もしかして…行くの?」
ニーナはイエヴァとリリーヤの見慣れない服装を見て、戦場に赴くことを察する。
「……うん」
「だったら、私も……「違う」」
ニーナの言葉は突然イエヴァに遮られる。
「私達は助けにいくんじゃない、
「探しに行くって……じゃあみんなは……!」
「……もちろん、助けるよ。でも、まずは見つけて、私達の用意ができたら助け出す」
「早く、みんなを助けて……」
ニーナは祈るように手を組み、頭をイエヴァの胸に押し付ける。
「分かってる、でも焦ったらダメだから。それと、ニーナちゃんが救出作戦に参加したい事は伝えたよ、後はニーナちゃん次第」
ニーナは少し黙り込む、が、そこに姉のポリーナが口をはさむ。
「ニーナ」
「お姉ちゃん……」
ニーナは姉に内緒で勝手に行きたいと言ったことに罪悪感を覚える。
「行くの?」
「うん。……お姉ちゃん、あの……「いいよ、行っても」え?」
姉の発言にニーナは驚く。
「だって、みんなを助けに行きたいんでしょ?私なんか気弱だからニーナに頼りっぱなしだから、むしろ後押しすることしか出来ない。訓練、するんでしょ。ここにいれば安全だから、私は一人でも大丈夫」
「お姉ちゃん……ありがとう」
決して向かい合って姉の前では涙を見せないようにしていたニーナは涙を流し、ポリーナの胸に顔をうずめる。
「やっと、私に甘えてくれたね、ニーナ」
「ニーナちゃん、どうする?」
ニーナが落ち着いてきた様子を見て、リリーヤが声をかける。
ニーナはイエヴァとリリーヤの方を振り向き、答える。
「行きます……行かせてください」
イエヴァとリリーヤの二人はすぐに、連隊司令部に赴き、サンダーク大佐に伝える。
「本人も意思を決めたか……本当だな?」
サンダークの言葉に二人は頷く。
「そうか……それで死の覚悟はできているか?」
「それは……分かりません……」
イエヴァは俯く。
「その点は二人に任せる、無論配属も貴官らの分隊だ。駐屯地司令には最低限の事を教えるよう伝えておこう」
「ありがとうございますっ!」
「では、お前たちも出撃だ、すぐに用意しろ」
「「はっ!」」
二人は武器保管室に走り、AK-12を持ち、弾倉をチェックする。今までは、実戦の機会すらなく、訓練でしか使用して無い為、非殺傷性の訓練弾を装填していた。だが、今回は実戦の為、実弾である5.45x39㎜弾を装填することとなる。ロックがかかっているのを確認し、速やかに銃に異常が無いかをチェックする。新規に装填する弾倉は、集結地点で配給されることになってる為、今はAK-12にセットしてある弾倉一つしか装備していない。
AK-12を担いだ後、自動拳銃GSh-18の動作を確認し、ホルスターへと挿入する。その他、バックパックを背負い、必要な消耗品や救急セットを入れ、装備の準備が整い次第、2人は再集合する。
そして、連隊はババユルト南西のブデンノフカまで輸送車両で移動し、ダゲスタン各地からの偵察部隊、そして第45独立親衛特殊任務連隊と同様の特殊部隊も集結。連隊司令部はここに設置される。
参謀本部は、準備完了次第、無条件に偵察行動を開始する命令を全部隊に伝達しており、偵察部隊は次々と強襲用の輸送ヘリに乗り込む。無論、そのメンバーには、第186分隊の姿もあった。
スタヴロポリ地方 ブデンノフスク空軍基地
コーカサス地方最大規模の空軍基地であるブデンノフスク空軍基地でも、出撃が開始される。
一機のSu-27SM2が滑走路に侵入。各部機器チェックを終え、管制塔に発進許可を求める。
「こちらウラヴ01。ブデンノフスク・コントロールへ、本機含めた12機の発進許可を求める」
一瞬ノイズがした後、管制塔から無線がつながる。
『こちらブデンノフスク・コントロール。全機の発進を許可する、ただし注意を徹底せよ。発進後、作戦計画に基づき、行動を行え。
「了解、離陸する。ウラヴ01より全機、順次離陸せよ」
パイロットがスロットルを上げ、それに伴いエンジンノズルから火が噴き、数秒の滑走の後、ランディング・ギアと地上が離れ、収納される。パイロットが後続を伺うと、12機が順次、順調に離陸し、無事に飛び立つ。戦闘機パイロットの基礎中の基礎であるこの行為を戦闘経験は浅くとも、訓練で戦闘機を乗り回していた彼らが失敗するわけが無かった。
彼らウラヴ中隊の後ろからも、別の中隊が離陸し、さらに他の空軍基地でも同様の光景が見られた。
陸軍部隊も次々と行動を開始。
先の戦闘には不参加であったダゲスタン共和国ブイナクスク駐在の第58諸兵科連合軍第136独立親衛自動車化狙撃旅団、T-72B2戦車を含む部隊が国境沿いに輸送が行われ、チェチェン首都グロズヌイへの進撃を開始する。
チェチェン西方よりは、カラチャイ・チェルケス共和国駐留の第34独立自動車化狙撃旅団が展開。
スタヴロポリ地方ブデンノフスクには、第205独立自動車化狙撃旅団が警戒態勢で待機状態にあった他、第20独立親衛自動車化狙撃旅団がヴォルゴグラードより集結し、第8、第17、第18独立親衛自動車化狙撃旅団の再編された部隊である第178独立親衛自動車化狙撃旅団も展開する。
本来であれば、敵情偵察や人質救出にこれほどの戦力を陽動に使うことはしないばかりか、陽動すら行わないのだが、連邦軍参謀本部は、相手の出方次第ではあるが、敵が隠密部隊を察知できる可能性を鑑みて、敵が潜入部隊に関心を向けさせないように、陽動を行うことを決めている。
かくして、CLFの壊滅及び少女達の救出を含めた作戦の第一段階は開始された。
チェチェン共和国ナウルスカヤ地区上空
『こちら、スラバル。前方に約80機の機影を補足。その後方には40機の計120機だ。形状は例のMiG-21と同型だ。性能はこちらが上だが油断はするな。
通常のジャンボジェット機の形状に大型レドームドームが特徴的な、A-50
「ウラヴ全機、ミサイル発射」
ウラヴ01の言葉に隊員らは反応し、目標から70km手前で翼下ハードポイントから切り離されたR-77-1中射程空対空ミサイルはロケットノズルから勢いよく炎を噴射し、目標へと向かう。
『シェンコ隊、一斉射!』
『ズニィ隊、発射』
ウラヴ隊以外の第39親衛戦闘機航空連隊所属の航空隊が次々とR-77-1空対空ミサイルを吐きだし、スラバルによってそれぞれのミサイルの目標が被らないように調整された管制誘導で目標へと飛翔する。
十数秒後、幾つもの火球が浮かび上がる。幾ら強化されているであろうMiG-21であっても、最大110kmの射程を持つ空対空ミサイルによる視界外攻撃に対抗する手段は無い。要はMiG-21が装備する短射程空対空ミサイルの射程や、MiG-21が得意とする領域に足を踏み込まなければ良いだけである。
再びスラバルの管制誘導で、R-77-1空対空ミサイルが一斉に放たれ、数十機のMiG-21を鉄屑へと変えていく。
その隙を付き、第166戦闘機航空連隊の所属部隊は分散して、すでに判明しているレーダーサイトやチェチェン共和国軍の武器保管庫だった倉庫等の敵拠点を攻撃。高空からのSu-35Sの翼下ハードポイントより、KAB-500L誘導爆弾を投下し、破壊していく。
ここで、遂に損害を受ける。高空から誘導爆弾による爆撃を行っていた一機が高空からは観測できない地上より極細の光線を右翼に受ける、幸い、その時に被弾を受けた右翼のハードポイントには誘導爆弾を投下しきった後であったが、被弾したことにより、一時帰投する。
その後、両連隊は燃料及び弾薬補給で帰投、緒戦は一機が被弾したのみで、大戦果と言えるものであった。
※次回予告
チェチェンの真実《6》【策士】
ロシアによる世界を相手にした情報戦は、アメリカをも陥れる。