Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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チェチェンの真実《6》【策士】

_東部標準時(EST)5月30日午前7時20分(モスクワ標準時より8時間遅れ)_

アメリカ合衆国バージニア州フォールズチャーチ独立市

 

 唯一無二の超大国アメリカ。冷戦終結後、一時は経済の低迷で落ち込んでいたが、今では安定傾向に入っていて、対テロ戦争へその意識を変えていた。

 

 そのフォールズチャーチ市の一つのカフェでは、一人の男が窓付近の席に座り、軽食を嗜んでいた。

 アメリカ合衆国国防長官のブレンダン・B・アッシャーである。

 

「隣よろしいか?」

 

 その彼に別の男が声をかける。

 

「ええ、どうぞ」

 

 アッシャーは話しかけた男も見ずに答え、隣に置いていた鞄を自分の席の下にずらす。

 そして、さっと相手の顔を覗き見ると、彼の知る顔であったことに驚く。

 

「これは、リッジウェイ長官、どうも……たしか、この近くにお住みでしたね」

 

 国家情報長官*1クリス・K・リッジウェイは、早速とばかりに紅茶を注文していた。

 

「そうだな、ところで兵器開発は順調か?」

 

「ええ、今のところは。将来的に月面探査用に使用する大型MMUの開発を民間企業も参加して行っています。結果次第ですが、パワードスーツ等に軍事利用できる可能性があり、閉所を除き格段に歩兵の生存性が上がると見られています」

 

 リッジウェイはふっ、と笑みを零す。

 

「パワードスーツか、フィクション作品しか見られないものが現実となるとは」

 

「一応言いますが、あんなに綺麗に整えられた形状にするのはお約束できません。民間用はコクピットが剥き出しですし、軍事用も装甲が張り付けられてるに過ぎませんし」

 

「そうか、まあ楽しみにするとしよう。それじゃあ、本題に入るとしよう」

 

 リッジウェイの表情が、軽口を叩き冗談めいた言葉を言っていた時とは異なり、真剣めいたものへと一変する。

 あからさまなの表情の変化で、アッシャーには大事な話があると察せられるには十分である。

 

「話とは……?」

 

「ロシア連邦がコーカサス地方での大規模な軍事行動を開始した」

 

 その言葉は昨日聞いたはずで、アッシャーはそれに違和感を感じた。

 

「その話は昨日ありましたが?」

 

「まだ継続しているらしい、まるで時間稼ぎでもしているかのように。しかも、ロシア政府の動きは、一々摘発されていて不明だ」

 

 リッジウェイは不満げな様子で語る。

 

国防情報局(DIA)からも私に情報が入ってきていますが、時間稼ぎですか……。未確認情報ですが、スペツナズが活動している話もありますし」

 

「ところで、ロシアがチェチェン解放戦線に敗北した原因はつかめたのか?」

 

 今度はリッジウェイが疑問を上げる。

 

「いえ、全くです。チェチェン解放戦線の軍備程度は判明してるのですが、それでは勝てる訳は無いですし」

 

 アッシャーは思わずため息をつく。その時、ふと推測が浮かぶ。

 

「もしかしたら、マジックガール*2が関わってる可能性も否定はできませんが」

 

「私には考えられんよ。子供が常人以上の力も持つことなんてな」

 

_午前9時_

ワシントンD.C. ホワイトハウス 大統領執務室(オーバルオフィス)

 

 ペンシルバニア通り1600番地という住所を与えられてるホワイトハウスのウエストウィング内の大統領執務室で、アンガス・D・ギレット大統領は遅めの朝食をとっていた。

 その傍で、国家安全保障問題担当ファーナム大統領補佐官と、時々ニュースをみて会話をしながら朝食を楽しんでいた。

 だが。

 

『新しいニュースをお伝えします。記憶に新しいと思われますが、ロシア連邦軍とチェチェン解放戦線という名の武装組織の武力衝突が起きましたが、そのチェチェン解放戦線が、事例の無い性犯罪を起こしていたことがわかりました。2日程前にロシア連邦軍によって姉とともに保護された15歳の少女が、録音無しという限定付きで、我々メディアの前に真実を告白してくれました。その際のVTRがありますので、ご覧ください』

 

 VTRでは、少女と思われるモザイク付きの画像とともに、人工音声が少女の口から語られるかのように、読み上げていく。

 

『これがVTRの内容です。このVTRは我々のメディアサイトにも公開していますので、ご覧ください。この少女はロシア連邦軍にっよって運良く保護された例であり、未だに彼女のような女の子が、性的暴行を受けながら囚われていると思われます。ニュースは以上です』

 

 ギレットはこの報道に衝撃を受けていた。

 

「聞いていないが……?本当なのか?」

 

「わ、わかりません。他の番組なら……」

 

 ファーナムは祈るような気持ちで、チャンネルを握る。だが、他の番組でも、時間は違えど流されるニュースの内容と、VTRの内容は同じであった。

 

「ただちに国家安全保障会議(NSC)を召集しろ、緊急召集だ」

 

「待ってください、速報……ニコルシチャフ大統領の会見です!」

 

 その迅速過ぎる、待っていたとばかりに速すぎるロシア政府の対応に、驚愕する。

 

『先ほど、さまざまな報道機関で取り上げられた、CLFの性犯罪ですが、全て事実です。ロシア政府としては、未だ大人でもない少女が、常人を上回るだけの力を持つという理由だけで、親を殺され、自分は拉致され男達の道具となり、人を殺めさせられ性処理をやらされる。これを許すわけにはいきません。和解などもってのほか、我々はCLFに対し武力制裁を続けていきます』

 

 短い会見であったが、その内容の衝撃は大きい。質問を受けつけず、ニコルシチャフが足早にカメラから背を向け、会見場から立ち去る様子が映された後、映像は切れる。

 

「NSCの緊急召集を行う、迅速にだ」

 

「国防長官と、国家情報長官が遅れますがよろしいでしょうか?」

 

「構わん、最重要要件だ。最上級責任者が集まらんと意味がない」

 

_午前9時30分_

ホワイトハウス地下 シチュエーションルーム

 

 NSCの緊急召集に伴い、30分程度の余裕をもって、参加閣僚が集まった。

 アンガス・D・ギレット大統領を議長とし、定期的参加者でもあるファーナム国家安全保障問題担当補佐官、首席補佐官も参加していた。

 

「早速で悪いが、リッジウェイ長官。わかっている事だけでも報告を」

 

「はっ、先ほどの報道ですが、世界各国の主要報道機関で報道されているようで、わが国に関してはほぼ全ての報道機関で流されている事が判明しています」

 

「そうか……次にアッシャー国防長官、ロシアで言うエクシード・リグラ、我が国にも同様の者は大勢いるはずだが、幼き女性が正規軍を相手にできる力を持つことは本当なのか?」

 

「正直に申し上げます。あの時は情報が少なく、ただ戦略的に戦況を変える力が無いと判断しました。しかし、国防総省職員の自費で立ち上げた特殊能力統合人材管理局(SAHRMB)の軍事分析部で、改めて評価した結果……常人を上回る力を持つのは勿論の事、持つ魔法にもよりますが、一撃で戦車を破壊できる者もいます、実際に破棄された車両で試験を行った所、砲塔の正面装甲を光弾らしきものが貫きました」

 

 大型モニターに調査書と試験映像が映され、ギレット含めた閣僚らは机上の電子端末を持ち内容を見る。

 

「聞いていないが?」

 

「国家予算を使っておらず、成果が出なければ潰すつもりでしたので。調査結果については報告する機会を失っていました……」

 

 アッシャーは申し訳ない表情を浮かべる。

 

「よろしくないな、だが罰を下す必要もないだろう。まずは事態の打開が先決だ。諸外国に動きはあるか?」

 

 ギレットはジョナス・F・グレン国務長官へ視線を向ける。

 

「はっ。当地のロシアに関しては報道直後にありました。その次に、中国が我々に非難声明を出しています」

 

 大型モニターに中国政府報道官による会見映像が映される。

 

『チェチェンにおける性犯罪は世界を敵にまわしたも同然であろう。どんな理由があっても、幼い女性を拉致し、慰め物とする事は許されない行為である。我が国もすぐにでもロシアへの直接支援を行いたいが、現状では難しい。だが、我が国よりも先に動くべき国がいる、アメリカは何を手をこまねいているのか、我々には理解ができない。自由と正義を体現した国ならばすぐに動くべきであるはずなのに、動いてないということは、性犯罪を黙認していると思われても仕方がないでしょう』

 

 ギレットはその会見え映像を不機嫌そうな表情で見つめる。

 

「人権を蔑ろにしている国のくせに言いたい放題だな」

 

「実際、SNSでは批判コメントが殺到しているようです」

 

 ギレットは不満げな表情を浮かべながら、グレンの言葉に反応する。

 

「だが、何もしないわけにもいかない。あいにく、我が国は多民族国家である故に、人種差別、人権問題には感情的になりやすい国民性だ。このように大々的に報道しているんだ、デモが起こってもおかしくは無い」

 

「しかも……私の妻は人権団体の非公式顧問を務めているからな……」

 

 ギレットは妻の怒り狂う顔を思い出し、憂鬱な表情を浮かべる。

 

「ところで、リッジウェイ長官。先ほどの報道にあった映像資料が、全世界の報道機関で流されているのは、どういうことだ?」

 

「それにつきましてはこの資料をご覧ください」

 

 モニター及び各自が持つ電子端末に資料が映される。

 

「まず、国内の報道機関ですが、前日午後10時頃にロシア外交官、又はSVR職員と思われる人物が、国内の報道機関に属する記者と接触していることを確認しています。これは報道直後にCIA、FBIにまとめてもらった物です。また、海外の報道機関ですが、未確認の物が多いですが、一部が接触している事を確認しています」

 

「動きを抑えらなかったのか?」

 

「半日もない時間で動くとは考えられなかったので、泳がせておりました」

 

 リッジウェイは申し訳ない表情で頭を下げる。

 

「そうか……で、やはりロシアによるものか?」

 

「ええ。ロシアによる情報工作です」

 

 その言葉に、ギレットは内心舌打ちを打つ。

 

(チッ……なぜ、このようなまどろっこしいやり方を使うのか……しかもロシアが正義の味方であるという印象付け以外まともな利益が無いはずだ……やはり直接聞く以外ないな)

 

「デミリー首席補佐官、ニコルシチャフとの直通回線(ホットライン)を。奴に問いただしたいことがある」

 

 数分後、アメリカ・ロシア間の通信回線は開かれ、モニターにニコルシチャフの顔が映る。

 

「ニコルシチャフ大統領、顔を合わせたばかりですまないが、単刀直入に尋ねる。我が国や主要国の報道番組に放送するようけしかけたのは貴国か?内政干渉であることは承知しているな?」

 

 そう尋ねられたニコルシチャフの口元がわずかに笑みを浮かべる。

 

『正解だ。中国はアメリカ批判の材料という最低の扱い方をしていたが……それはともかく、我々はあくまでアメリカ国内の報道機関に、対価を与える代わりに映像資料を放送させたまで。内政干渉であろうが、許容できる』

 

「あの報道内容は事実か?」

 

『無論。映像に関しては保護した少女の写真を使った加工映像ではあるが、少女が受けた事はすべて少女の口から話された真実だ……!まあ、CBPが一日と言っていたのをわずか半日で作成してしまうのは驚いたが』

 

 ニコルシチャフの語気が強まり、ギレットらはわずかに圧倒される。

 

「事実か……」

 

 ギレットは頭を悩ませる。

 

『何を悩んでいる。貴様が正義の味方であるロシアを支援すると言えばいい。簡単な事だろう』

 

「簡単なことではない……。一気に外交関係を変えざるを得ない事になる」

 

 ギレットの言葉にニコルシチャフはわずかに考えたふりを見せる。

 

『では、我々ロシアは貴国との関係を重視する外交姿勢に転換しよう』

 

 その言葉に、シチュエーションルームにいるほぼ全員が驚愕する。

 

「……少し時間をくれ、考える時間が欲しい」

 

 カメラを切り、マイクもオフにした状態で、ギレットらは再び話し始める。

 

「主導権を握られましたな、大統領」

 

 グレンはそう、大統領へと声をかける。

 

「ああ、まさか、向こうから外交関係の転換策を打ち出すとは思わなかった」

 

「しかし、なぜニコルシチャフ大統領はあのように、潔く決断できるんでしょうな」

 

 アッシャーは疑問を口に出す。

 ギレットもその事に疑問を感じていたが、一つの答えにたどり着く。

 

「以前、前大統領の首席補佐官だった時があるが……奴は子供と遊ぶのが好きであったな。しかも、児童問題に取り組んでいるらしい。奴は、年端もいかない少女を道具として慰め物にするのが許せないという感情的な理由で方針を転換している」

 

「それだけで、ですか……?」

 

「だが、ある意味理由にはなる。しかも、今回はエクシードを持つ少女は、戦場に変化をもたらすことが認識された。間違いなく世界は変わるぞ」

 

「ですな……」

 

 ギレットはニコルシチャフとの回線を再び開く。

 

「ニコルシチャフ大統領、我が国も外交関係を転換させることにしよう。冷戦以降の顕在的な対立は終わらせるべきだ。同盟国には説得を行えば十分可能だ」

 

 その言葉を聞いたニコルシチャフがほくそ笑む。

 

『……ありがたい、では、こちらから要請が一つある。観戦武官か、もしくは一個飛行隊を派遣してもらいたい。こちらで言うエクシード・リグラを付けてな。無論、貴方なら意味はお分かりのはずだ』

 

「全世界への意思表示か……」

 

『それと、戦術分析だ。貴国でもデータは欲しいだろう』

 

「だが、わざわざ実戦に出すなど……」

 

 ギレットはロシア軍が派遣部隊を盾としないか、と訝しげに見る。

 

『ふん、そんな心配か。ならば、少し遅くてもよい、ヒーローは遅れてやってくるのだろう?

 

 ギレットはため息をつく。論破されたように感じており、目の前にやる事が多すぎる事の疲れの現れであった。

 

「分かった、検討しよう、派遣部隊の選択の自由はこちらにある、貴様が恩を仇で返すような人ではない事を信じている」

 

 ニコルシチャフの口元がわずかに緩んだところで、回線は切られる。

 

「そういや、すでにホワイトハウス前にデモ隊がいますな、『アメリカの正義を示せ』『これ以上体を汚させるな』と、ペンキで塗りたくられたプラカードを掲げてますね。さすが、情報の拡散が早い。中国や、ニューヨーク市長、カリフォルニア州知事の会見もあいまって、デモ隊の人数は増え続けてます」

 

 グレンが自分のスマホの映像を見ながら語る。

 

「30分後に会見を行うと主要メディアに伝えてくれ。アメリカの意思を示す」

 

 ギレットに迷いはない、吹っ切れた表情で伝える。

 

_東部標準時(EST)5月30日午後0時50分_

ワシントンD.C. ホワイトハウス レジデンス

 

 多くの記者が集う中、ギレットはカメラのフラッシュを浴びながら、一段高いマイクの前に立つ。

 早急に記者らにカメラ撮影を抑えさせ、会見が始まる。

 

「皆さん、朝のニュースはご覧になったでしょう。私も遅い朝食の中、ニュースを見ました」

 

「衝撃的な内容でした。エクシードを持つという理由だけで拉致され、そして男達の慰め物になりながら、人を殺さなければならない。このような扱いがあってもよいのでしょうか、いえ、否です!!エクシードの力は世界中で確認されています、これを見逃してしまえば、同様の犯罪が起きることは間違いありません!!」

 

「チェチェン解放戦線は、チェチェンの名を借りた、自分たちの欲を満たしたいだけの獣たちの集団です!CLFは徹底的に叩き潰します、同様の犯罪行為を起こそうものなら我々合衆国は見逃しません」

 

「時間が経つほど、彼女たちの心は壊れ、体は汚されていく。ですから、ロシアは早急に彼女達を解放し、CLFを叩き潰そうとしています。我々はそれを全面的に支援します、ロシアへの制裁は段階的に解除し、直接、間接含めた軍事支援を早急に開始しようと思います」

 

「最後に……

 

アメリカ合衆国は自由の国です!!人間が必ず持っている永久的な権利です!!それを押さえつけ、且つ慰め物にしているCLFは叩き潰さねばなりません。いえ、徹底的に叩き潰します!!我々はCLFという悪魔に対し、自由と正義の制裁を叩きつけることをここに宣言いたします!!

 

 ギレットが拳を上げた姿に一斉にカメラのフラッシュが焚かれる、デモ隊からは歓声が上がり、国歌を歌う者や大統領万歳と叫ぶ者がいた。

 ギレットはフラッシュの中、会見場を足早に去る。

 アメリカは決断した。次は行動のターンだ。

*1
アメリカ政府の情報機関を統括する権限を持つ役職

*2
アメリカ合衆国のエクシードを持つ少女達の呼称




※次回予告

チェチェンの真実《7》【途上】

ロシア軍は反撃を開始する。
そして、アメリカも動き出す。
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