Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
_
ロシア連邦南部連邦管区アディゲ共和国マイコープ
ロシア連邦南部邦管区に属し、クラスノダール地方に囲まれたアディゲ共和国の首都マイコープは重々しい雰囲気に包まれていた。
隣接する北カフカース連邦管区に属するチェチェン共和国にて発生した騒乱、この影響によりアディゲ共和国を含めた南部連邦管区・北カフカース連邦管区全域を管轄とする南部軍管区が交戦地域以外での臨戦態勢をも命じたため、マイコープ市街では銃を持った兵士が各所に配置され、対空ミサイルシステムが常時展開されていた。
そして、このような形ばかりの平和は破られる。
突然街中に響き渡る
そして、避難を呼びかけるアナウンスによって、市民たちは急いで地下鉄や地下駐車場等の隠れられる施設へと避難を始める。
「不明飛行物体接近中!物体はミサイルとの分析出ました。防空ミサイルで迎撃させます!」
マイコープに基地をおいていた第291砲兵旅団は直ちに防空ミサイルシステムによる迎撃を始める。
基地内の固定レーダーからのミサイルのデータがリンクされ、短距離防空ミサイル・システム9K330トールMTS*1は直ちにミサイル接近方向へと向き、最優先目標を識別し、ミサイル検知からたった数秒で迎撃を開始する。
9M330短距離対空ミサイルが次々に発射され、接近するミサイルへの追尾を開始する。
ただ目標へと向かうミサイルに対し、高性能な追尾システムを有する対空ミサイルが容赦なく着弾し撃墜する。
「ミサイル全弾撃墜!、え…ミサイル第二波きます!数60!」
だが、襲撃者はさらに上回る数のミサイルで攻撃を仕掛けた。
トールMTSは9M330短距離対空ミサイルを連発し、必死の迎撃を行う。
その他、2K22ツングースカ自走式対空砲*2の2A38 30㎜連装機関砲による迎撃も行われた。
だが、ミサイルの数が流石に多すぎた。ここマイコープにいるのは第291砲兵旅団であり数十程の対空兵器しか有しておらず、しかも分散配置した為に効率的な迎撃が行えなかったのだ。
結果、撃ち漏らしたミサイルは各所に着弾。マイコープの軍基地の他に、市街の大型ショッピングモール施設の外壁が破壊され、マイコープ市庁舎の一部が損壊するなどの被害を受けた。
「被害報告来ました!市庁舎の他、市街地各所に被害!火災発生しているところが見られ、現在消防が出動中の模様!」
「まずは市庁舎との連絡を!合わせて市庁舎内の負傷者数の確認もだ!市街地の方は救急と協力し被害を受けた民間人の治療にあてさせろ!」
オペレーターの報告に、第291砲兵旅団司令官は矢継ぎ早に指示を出す。
その命令に軍職員が動き出す中、分析官に話しかける。
「ミサイルの発射位置は特定できるか?」
「現在のところ不明です、恐らく移動式の車両と見られています」
「恐らくそうなんだが、既に観測ドローンも展開しているのにもかかわらず見つけられていないか……とりあえず特定を続けてくれ」
「了解です」
旅団司令官は険しい表情を崩さないまま、席へ座ろうする。
だが、次の報告がその行動を止めさせた。
「ドローン部隊から報告!『南西方向約30kmに未確認の戦車部隊を確認』との事です!」
その報告に対し、副旅団長がオペレーターに問いただす。
まず南部軍管区の戦術データと照らし合わせて、味方の戦車部隊ではないことは確実だということ。
次にマイコープにあるロシア航空宇宙軍第4航空軍のハンスカヤ空軍基地には既に別部隊を介して伝達されており、直ちに攻撃隊を送る旨を伝えられたが、当基地到着前に完全に撃破する事は困難だということが伝えられた。
席へと戻りかけた旅団司令官は、咄嗟に踵を返し、言葉を発する。
「全大隊に命令!ただちに戦闘準備!削り切れないか、ならば結構!我々が削ぎ落すまでだ」
その掛け声とともに2S3Mアカーツィヤ152㎜自走榴弾砲*3ら砲兵部隊が基地内に展開され、旅団の有するドローンが次々に飛び立ってゆく。
敵戦車部隊が17km以内に入った時点でドローンからの観測を元にした長距離砲撃が開始され、152㎜2A33榴弾砲が次々に火を吹き、OF-546高性能榴弾が飛翔していく。
一方で遠距離からの攻撃を受けた戦車部隊は
この戦車部隊を構成しているのは、ドイツ製で欧州西側諸国に輸出実績のある
だが、ドイツ連邦共和国がCLFに対し兵器支援をしたわけではない。
そもそもそんなことをすれば、ドイツ自身が国際的信用を失い、孤立し自滅するだけである。
ではどのようにLeopard2A4戦車を編成することが出来たのか、その理由としてCLFに囚われ使役される少女達の中から、見た物、手を触れた物を
だが、複製したとしても戦車は動かす者がいなければただの鉄の塊であり、一部の車両にCLFの兵士が搭乗し、その他は戦車を複製した少女達が遠隔で操作した。
それが仇となり、戦車に乗ったことも無い兵士と何両のも車両をカバーする少女達にとって、突然の攻撃に咄嗟に対応できるものでは無い。
そもそもただ基地を引き潰すだけで敵の反撃を想定していなかった彼らにとっては、その反応は当然とも言えた。
そこにさらなる追い打ちが来る。
「目標を発見した。2番機と3番機は俺に続け。4番、5番、6番機は反対側から回り込み攻撃せよ。誤って正面衝突するなんて馬鹿な真似はするなよ」
『了解!しかし隊長、こんな朝っぱらから戦車を移動させるなんて敵はなんて馬鹿なんですかね』
「そうだな、奴らは戦車の使い方を知らない連中らしい。全機に告ぐ、戦車部隊の生命反応はわずか、識別はブルーだ。つまり、
ハンスカヤ空軍基地を発した6機のSu-25SM2攻撃機*5は現場空域上空に到達。
対空兵装を有しない戦車相手に悠々と空を飛び、蹂躙を開始した。
攻撃機の名の通り豊富なハードポイント搭載数を生かし、Kh-29L空対地ミサイルを4発毎に一斉発射する。
Leopard2A4戦車はドイツ製のれっきとした第3、3.5世代主力戦車であり、その装甲も硬い複合装甲に守られていた。
だが、弱点はないのか、と言われればそれは無く、全ての年代の戦車共通の弱点である最も薄い天板にKh-29Lがぶち刺さり、数秒後にはその車両は爆発炎上する。
他にも、天板の次に薄い、側面、背面装甲を狙われる車両が続出し、その多くが煙を上げてその醜態を晒す。
第291砲兵旅団からの攻撃も絶えず行われ、十数分で全ての車両が戦闘不能含め行動不能となる。
_同時刻_
ロシア連邦北カフカース連邦管区カラチャイ・チェルケス共和国カラチャエフスク
同じ頃、ゼレンチュクスカヤの基地からカラチャエフスク近郊に移動していた第34独立自動車化狙撃旅団とスタヴロポリ地方ネヴィンノムイスクから移動してきた第47独立親衛自動車化狙撃旅団は、マイコープと同様且つ、更に大規模な集団による襲撃を受けた。
二個旅団の内、第34独立自動車化狙撃旅団は、カラチャイ・チェルケス共和国のほぼ全域を訓練・演習の場としていて地の利があったために冷静に対処できた他、上述したように経験の無い兵士が操縦するか、エクシード・リグラの少女達が遠隔で操作していた戦車が大半であった為、戦況は当初優勢に推移する。
だが、この大規模な集団の中には、元戦車兵が搭乗する戦車も少なからずおり、第34独立自動車化狙撃旅団と第47独立親衛自動車化狙撃旅団にとっては手堅く、戦車等車両数の数的不利によって徐々に若干の苦戦を強いられることとなり、BMP-3M歩兵戦闘車が撃破されるなどの損害を被る。
さらにMiG-21の集団が空から現れ、両旅団へと襲い掛かり、23㎜機関砲GSh-23Lを射撃して機関銃弾を地上へとばら撒き、S-24空対地無誘導ロケット弾を発射する。
CLFはこのように第34独立自動車化狙撃旅団と第47独立親衛自動車化狙撃旅団を窮地に立たせ、且つ撃破する機会にも恵まれた。
だが、甘かった。
突如、2機のMiG-21が一瞬で炎に包まれ、続けざまに4機のMiG-21も主翼が裂け墜ちていく。
颯爽と現れたのは、クラスノダール地方アルマヴィル空軍基地から制空任務に当たっていた16機のMiG-29SMT戦闘機*6であった。
「ヴニヤ01より各機、敵航空部隊は未だに健在だ。味方陸上部隊については気にするな、我々の任務は敵航空部隊の殲滅だ」
『
CLF側は確実に甘かった。
襲撃時の陸軍戦力の数で有利であり、航空戦力もMiG-21戦闘機28機と、襲撃してきたMiG-29SMTの航空部隊とは数の面で上回っていた。
だが、性能差は如何ともしがたかった。元々MiG-21全機は少女達の能力で遠隔操作されるいわば無人機であり、いくら戦闘機動が上手くなろうが、無慈悲にも空対空ミサイルの餌食となる機体が続出する。
さらに上空の優位を見て、第34独立自動車化狙撃旅団と第47独立親衛自動車化狙撃旅団も反撃の息を吹き返す。
第47独立親衛自動車化狙撃旅団第223独立戦車大隊が道路上にて敵戦車部隊を真正面から迎え撃つ一方で、第34独立自動車化狙撃旅団は山岳歩兵で構成される2個独立自動車化狙撃大隊を機動運用し、戦車のみの敵戦力をゲリラ戦で翻弄する。
「敵戦車4時方向!」
「了解!発射ぁ!!」
岩などの自然遮蔽物の物陰から、兵士たちがRPG-29携帯式対戦車ロケット擲弾発射器*7を抱え、次々とPG-29V弾頭が撃ち込まれる。
複数両のLeopard2A4戦車の側面装甲に弾頭が直撃し、タンデムHEAT弾によって爆発反応装甲を喰い破り、盛大な爆炎を上げて撃破される。
「仰角調整よし!射撃準備完了」
「迫撃砲撃てぇ!」
さらに第34独立自動車化狙撃旅団第491独立自走榴弾砲大隊の2S1グヴォズジーカ122mm自走榴弾砲*8や120mm迫撃砲システム2S12「サニ」*9による支援射撃が開始され、敵戦車部隊を混乱に陥れる。
結局、激闘は3時間以上に及んだ。MiG-29SMT戦闘機16機の他、多数の増援が駆けつけ、最終的に敵戦車部隊を撃破した。
「やっと終わったか……ひとまず南部軍管区OSKに伝達しろ、『レオパルドからなる敵戦車部隊の撃破を完了した』とな」
第47独立親衛自動車化狙撃旅団の作戦指揮所にて旅団長は第34独立自動車化狙撃旅団の幕僚らが慌ただしく動くのを眺めながら言う。
「はっ、了解しました。ところで旅団長、今後の動きはいかがしますか?我々はここでの進軍待機を命じられてるのは事実、ですが、先の戦闘で予定外の物資損耗をしており、このままでは補給計画に狂いが生じます。物資補給及び再編成も合わせてネヴィンノムイスクに戻るのもありかと」
「……確かにありだが、我々が引いた時にここの防衛を担当するのは34旅団のみだ。戦車で構成される部隊の攻撃を受けた時、彼らに課せられる荷は重いだろう。それよりは、ここで再編成を行った方が良い。補給に関しては補給部隊に進言しよう」
「補給部隊が滞りなく来てくれるかが疑問ですがね……」
「それぐらいは上も認識しているはずだ。きちんと対策していると願いたいものだがな」
「はっ」
_
ロシア連邦南部連邦管区ロストフ州ロストフ・ナ・ドヌ
南部軍管区
「さて報告を求めよう、と言ってもまずはあの件だな」
南部軍管区OSKの会議室にてニキーチンは口を開く。
「はっ、数か所の蜂起及び襲撃にてLeopard2A4戦車が確認された事実に関して、国防省は
その報告にニキーチンら作戦参謀は予想通り、といった表情を浮かべる。
「だろうな、あれがエクシード・リグラの能力であることはわかりきっているし、本当に輸出していたらそれこそ大事だからな」
「しかし、実際ドイツがCLFに支援するとしたら何か利点はあるのだろうか」
「あるわけが無い。それをした場合、ドイツにもたらされるのは国際的な孤立と、経済制裁……最悪武力制裁だ」
ニキーチンはわずかに安堵する表情を浮かべ、すぐに表情を戻す。
「そうだ、陽動作戦の最中に保護された少女はどうしている?」
「それにつきましては、現在はスタヴロポリ地方の病院へと緊急入院させております。現状命に別条は無いのですが、やはり軽い栄養失調状態に加え、体が電流を受けたために一部麻痺状態に陥っていますので、医師の判断によって搬送させました」
「そうか、安心した。その後の事は医療関係者に任せよう。
ニキーチンは自分の想像に対し不愉快となり、眉をひそめる。
「我々南部軍管区OSKが管轄領域内の全軍を統率する立場にあるというのは、周知の事実だが、再度言っておこう。そして、今回の作戦の現場責任を負う立場にいるということを予め言っておく、総員気を引き締めていこう。それで、現在の作戦状況を一応確認しておきたい」
「はっ、現在、陽動作戦による戦闘行動の結果はどれも良好です。捜索に関しても不意の遭遇戦が起きてはおりますが、死傷率は最低限に抑えられております。今回の襲撃の件を除けば、一応予定通りに進んでいると思われます」
「アメリカ軍への共同作戦の伝達は?」
「現在、インジルリク空軍基地へ黒海艦隊から連絡士官を派遣しています」
ニキーチンや報告を行った作戦参謀を除く会議室要員がその報告に安堵する。
その時、足早に会議室へと走り込む人物が見え、その人は衝撃の事実を口にする。
「先ほど、1分前に入った情報です!CLFがソチを急襲し、守備部隊の奮闘むなしく占領されました!また、同時に入った情報でノヴォロシースク海軍基地にもCLFが急襲し、現在基地警備及び海軍歩兵大隊が交戦中!敵の水上戦力として旧式ミサイル艇が確認できるとの未確認情報も入ってます」
まさに急報だった。
先ほどまで余裕のあった空気は今の会議室には無い、室内は緊迫した雰囲気となり、ニキーチンは声を上げる。
「まずは状況の正確な把握が重要だ!偵察ドローン、人工衛星を生かして探れ!いいか、情報収集が先決だ。国防省との連携も密にしろ」
作戦参謀がニキーチンの指示を受けて、各所に指示を飛ばす。通信士も各所の軍部隊に連絡を送るなど、騒がしくなっていく。
_
トルコ共和国アダナ県インジルリク
インジルリク空軍基地
トルコ南部に位置するこの空軍基地は1951年に開設され、トルコ空軍とアメリカ空軍が共同で利用する基地となっている。
そこに第117戦闘飛行隊は既に到着していた。
レイクンヒース空軍基地からインジルリク空軍基地までの距離は約3200km、その距離をフェリー状態のまま巡航で飛行した結果、約3時間で到着している。
「あっつ……流石に本土やイギリスみたいな気温じゃなかったね」
マリオンが照り付ける日光の中で暑がっていると、チェルシーが近づく。
「マリオンちゃーん、いくらなんでも外に長く出てたら倒れちゃうよ。中に戻ろうよ……」
チェルシーは元々外で活動するタイプじゃないため、汗だくでマリオンに話しかける。
「私さ、落ち着く場所が欲しいとは言ったけど、ずっと中にいるのは性に合わないっていうか、なんだろ外に出たいんだよね」
そう話すマリオンはふと上を見る。すると、基地の北西方向からヘリらしき影が接近してきたのが見えた。
「あれは……?」
「ロシア海軍のヘリだな」
マリオンが疑問を口にすると、たまたま近くに来ていたバース少佐が解答を話す。
「二人は外に出ていたのだな、ちょうど良かった。あのヘリにはロシア軍からの連絡士官が乗っているはずだ、その者と我々で共同作戦の情報交換を行うつもりだ。嫌であれば来なくてはいいが、どうする?」
「いえ、行きます「い、行かせてください!」」
二人はほぼ同時に答える。それを聞き、バース少佐は安堵の表情を受かべる。
「それはよかった。ちょうど二人も来てた頃だ」
バース少佐はそう言うと、自分の後ろに視線を動かす。
そこには、リラとアイリーンがパイロットスーツを着込み、歩いてきていた。
「私はさ、みんなの隊長的な立場だから……」
「あんまり外には行きたくないんだけど、やっぱりみんなと一緒にいる方がいいかな」
リラとアイリーンはそれぞれ来た理由を話す。
その間に、ヘリ_Mi-8MTV-7多目的ヘリコプター*10_はヘリポートに着陸する。
ローターの回転が止まり、右舷扉が開かれると、一人の士官がタラップを降りて来た。
基地警備がもつ携帯スキャナーによる簡易的な手荷物検査が行われた後に、バース少佐の元に歩いてきた。
「ロシア海軍黒海艦隊所属、当艦隊より連絡士官として派遣されました。姓名に関しては……お互いの為に伏せておいた方が良いでしょう。ではこれが共同作戦の伝達事項です」
そう言い、彼は一つのタブレット端末をバース少佐へと渡す。
「確認した。これの返却は必要か?」
バース少佐は渡されたタブレット端末の情報を手早く確認する。
「必要ありません、他の機密情報は入ってませんので。ところで、彼女らが件の……」
連絡士官はそう言い、少女達へ視線を向ける。
「ああ、そうだ。貴国ではエクシード・リグラ、我々ではマジックガールと呼ばれる子達だ。決してなめ回すような視線で見るなよ」
「まさか、そんな恐れ多い事は致しませんよ。ただ一度その姿を目に焼きつけたいだけですよ」
そう言いながら、足を一歩踏み出して少女達の前に出て、ゆっくりと敬礼をする。
「突然すみませんね、ただ私としては男であれ女であれ、飛行機乗りが羨ましいだけですね。自国のパイロットとは違った雰囲気でして。私はこのように連絡士官とは言っていますが、常では空母の乗組員として働いてるだけですよ。そして、度々思うんですよ、パイロットには羨ましいという感情とともに、敬意を表したい、と。あなた方には敬意を表するとともに、健闘を祈ります。決してその美貌が傷つかぬよう……」
彼は再び敬礼した後に踵を返し、素早くヘリに戻り、すぐに飛び去って行った。
「早いな、まあ連絡事項についてはこの端末にかかれている事だけだから説明は不要、ということなんだろうな」
_
ロシア連邦北カフカース連邦管区ダゲスタン共和国ババユルトフスキー地区ババユルト
ロシア陸軍駐屯地
バンバンッ、と音が鳴り響く。
射撃訓練場で訓練していたのは、救出作戦へ志願したニーナだった。
かなりの汗をかきながらも、拳銃や短機関銃を構えかなりの確率で的に命中させていく。
「やめ!」
監督官は甲高い声を出して、射撃をやめさせる。
「いい腕だ。だが、縮こまりすぎだな。それに、その腕も実戦だとどこまでできるか、だな。実際、訓練ではうまくいっても実戦だと使えないものは男女関係なく多くいる。肝に銘じておくように」
「はい……!」
「で、どうする?射撃訓練は一旦終わりにして、休息するか?」
「いえ、まだ続けます……!私は…!」
「
「はいっ!」
ニーナは再び拳銃を構え、撃つ。その手には、救いたいという気持ちが強く込められていて、段々と握る力が強くなる。
「力を込め過ぎだ。リラックスしろ」
「はいっ!」
_
ロシア連邦中央連邦管区モスクワ市アルバート地区
ロシア連邦国防省
「全てとは言いませんが、ほぼ全ての準備が完了しました、ロスチヤ国防大臣」
国防省地下の作戦指揮センターにてウリンソン参謀総長は、ロスチヤ国防大臣にそう告げる。
「ほぼ全てか……やはり、ソチとノヴォロシースクの件が原因か」
「それもありますが……実のところ、CLFに囚われている彼女たちの正確な数が分かり切っていないのが現状です。やむを得ない場合もあるでしょう」
「無論、作戦実行中も捜索活動は実施いたします。どこに隠されていようと、見つけ出して見せます」
「頼んだぞ、それで作戦名が『
「ええ。作戦名立案者は私ではありませんが、少女達を守護して戦う、その様を意味していると思われます。アメリカ軍もこの作戦名に共感を示し、『
「アメリカ軍との共同作戦はどうだ?」
「アメリカ国防総省、及び現地作戦実行部隊との連絡を取っており、両者ともに作戦案に了承済みです」
ロスチヤはその言葉に意を決する。
「分かった。大統領に作戦案を提示してくる。だが、大統領は我々に一任している以上、余程の事が無い限り、作戦に変更は無い。現状の作戦に基づき、最終作戦準備を進めてくれ」
「はっ」
男達、そして少女達の闘志に火が灯された。
反攻の時は来た。
※次回予告
チェチェンの真実《9》【反攻】
ロシア連邦軍は反攻を開始する。激闘に継ぐ激闘が行われる。