FALLs ADVENTURE   作:オカタヌキ

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序章
Fall


2017年、大阪。駅のホームから少年が駆け出し、そのあとを父親が追うように出てくる。弾ける笑顔のその下には、ポケモンセンターのビニール袋が大事に抱えられていた。

 

「父さーん!はよっ、はよ家帰ろっ!!」

 

「わーったわーったって。そんな急ぎなや」

 

彼の名前は日野健太。この日、八歳の誕生日を迎える。

誕生日を迎えた彼は、父に以前から行きたいと言っていたポケモンセンターに連れて行って貰い、そこでポケットモンスターサンのゲームソフトと、その攻略本を誕生日プレゼントに買って貰った。

ポケモンセンターで倒れるほど遊び回って、電車の中ではうつらうつらと船を漕いでいたというのに、今すぐにでも遊びたいとウズウズしている息子の様子に、父は顔を綻ばす。

 

「はよー!はよ行こらーよー!」

 

ピョンピョンと跳ねるように主張する健太。二人はやがて交差点に差し掛かっていた。

 

「そない急ぐなゆーとるやん。ほら、もうすぐ交差点やから、手ぇ繋ごら」

「え~、イヤやぁ。俺もう8歳やで」

「えーッ!なんでや~!?えーやん!繋いでくれたらえーや~ん!お父ちゃんと手ー繋いでくれてもえーや~ん!」

「父さんキモいわ」

「ひどっ!?」

 

体をくねらせて迫る父をバッサリと切り捨てる健太。父がショックを受けているのを尻目に、横断歩道の前まで駆けて行く。父はブー垂れながらもそのあとを追った。

 

そして、父が追い付くと同時に信号は青になり、健太はそれと同時に再び駆け出す。

 

「父さーん!ほらっはよー!」

 

横断歩道の中程まで来た所で健太は振り向き、父へ呼び掛ける。すると、遠くの方から人の叫び声と、そして何かが擦れるような大きな音がする。それが車のタイヤが擦れる音とは、その時の健太にはわからなかった。

 

「ッッ!?健太!!逃げろー!!!」

 

突如、父が鬼気迫る表情で走って来る。父の見たこともない顔に、健太はわけがわからなくなる。

 

「え、なん


その時、健太の体に浮遊感が襲う。まるで世界がゆっくりと動いているかのような感覚に、健太は一瞬呆然とするが、直後全身を殴られたかのやうな激しい痛みが襲う。泣き叫ぼうとしても出来ず、混乱する健太の目に写ったのは、目の前を覆うほどの大きな黒い塊がすぐそこまでに迫っている様子だった。

 

「健太っ!!!嘘やろ!おいっ健太ああああああ!!!!」

 

その日、八歳の誕生日を迎えたばかりの子供が、暴走する自動車に跳ねられるという凄惨な事件が起きる。状況から見ても、少年の即死は確定だった。

しかし、不可解なことに、その少年の遺体は何処にも見つからず、肉片は愚か血の一滴も現場に残されてはいなかった。

少年の身柄は、未だ見つかっていない。

 


 

ポケモンワールド。やぶれた世界。

 

その日、世界の裏側を支え、均衡を守る龍神は、表の世界に異物が入り込むのを感じた。

 

世界に生じた小さな歪み、それから零れ落ちた何か。世界の均衡を守るソレは、自身の役割に順じ、その異物が歪みを広げる前に始末しようと、それの目の前に現れた。

 

それは、今にも息絶えそうな人間の幼態だった。

 

人間、古来(ふるく)から世界を裏側から見て来た龍は当然ソレを知っていた。

ポケモンよりも脆弱で何の能力も持たない癖に、知恵が回って数が多く、幾度となく世界に混乱をもたらして来た録でもない生き物だ。

 

これはその幼態。しかも異世界からの異物だ。成体になった時、どんな歪みを生むかわかったものではない。幸いに、重症を負ったのか、今にも死にそうだ。念のため、ここで確実に始末してしまおう。

 

そう思い、龍は自身の翼を鋭い爪に変え、その人間に振り降ろそうとした。

 

しかし、その前に立ち塞がるものがいる。

それは、魔獣(ポケモン)だった。

 

創造主たる母なる神より産み出され、曲がりなりにも自分の同族に当たる魔獣が、自分の前に立ち塞がっている。

 

一匹、また一匹と集まり、幾多もの姿形の魔獣が、その人間を守るかのように立ち塞がっていた。

 

"どういうつもりか?"

そう意識を込めて自身の威圧(プレッシャー)を向ける。それで魔獣達は竦み上がり、ガタガタと震え出す。

自分は調停者だが殺戮者ではない。濃厚な死の波動を感じれば、彼らも逃げ帰るだろう、そう思った。

 

だが、彼らは動かなかった。

自分には絶対に敵わないととっくに悟った筈だ。生への執着が悲鳴を揚げている筈だ。なのに、彼らは逃げなかった。

 

"なぜそれを庇う?"

 

龍は魔獣の言葉で語りかける。魔獣達は驚き固まるが、やがてその中の一体が、震える声で答えた。

 

『生きたいと、泣いていたから』

 

その答えに、龍はじっとその人間を見る。それは、今にも消えそうな弱々しいものだった。だが、龍は確かに命の鼓動を感じた。

今まで表の世界を支えて来た世界の裏側。自分の分身とも言える、自分以外に何もないその世界では、決して感じることのない、暖かな光だった。龍にはそのちっぽけな光が、余りにも眩しく思えた。

そして、龍もまた感じた。今にも消え絶えそうなその命が、必死に生きようと足掻いていることを。

 

その時、龍の心にある思いが芽生えた。調停者としてあるまじき思いだ。あってはならぬ考えだ。だが、確かに感じたのだ。

 

"生かしてやりたい"、と。

 

龍は自身の思いに困惑した。だが、同時に悟った。自分もまた、生命なのだと。自分以外何もない静寂の世界で悠久の時を過ごし、久しく忘れていた感覚であったが、確かに自分は生命(いきもの)だった。

 

龍は再びその人間を見た。

いいだろう。分け身(きょうだい)たちは時空の狭間で好きにやっているのだ。ならば自分も、たまには自分の思うままに動いても文句はなかろうさ。

 

そうして龍は、爪に変えた翼をゆっくり、ゆっくりとその人間に触れる。そして、自分の生命(いのち)の、ほんの一欠片をその人間に分け与えた。

 

どうせ悠久にも等しい自分の命だ。ほんの砂粒ほどの欠片くらいやっても構わんだろう。そうして龍は、その人間の命の鼓動が安定するのを感じた。その瞳が優しく微笑んでいたのを、龍は知るよしもなく、ポケモンたちだけが目にしていた。

 

"生きてみよ"

そう言い残し、龍は世界の裏側へと去って行った。

 

 


 

ホウエン地方・マボロシ島。ホウエン地方の各地に点在し、深い霧で覆われ、特殊な磁場によって衛星にも写らぬ未開の島。

 

ポケモン研究家のオダマキ博士は、その内の一つに生態調査に赴いていた。ゼブライカ、カメテテ、ネイティ、ネイティオ。ホウエン地方では見られない、もしくは数の少ないポケモンたちに、オダマキ博士は興奮を隠せなかった。

 

「いやーっ、実に素晴らしい!ここはまさに天国だ!」

 

ゼブライカの電気ショックで焦げた髪をかき上げながら、オダマキ博士はカラカラと笑う。すると、林の先で動く影が目に入る。見ると、けんかポケモン・バルキーが、山のようにオボンの実を担いで走って行く様子だった。

(群れか家族に持って行くのかな?)

 

オダマキ博士は遠巻きに追いかけてみることにした。気づかれないよう、一定の距離を保ち、慎重にあとを着けて行く。やがて、バルキーは林の奥の木のウロへと到着した。

 

「なっなんーっ!?」

 

思わず叫びそうになり、オダマキ博士は慌てて口をふさぐ。そこには、バルキーだけでなく幾つもの種類のポケモンが集まっていた。

 

ヒノアラシ、スコルピ、コンパン、ニューラ、ラッキー、ミミロル。いずれもホウエン地方では滅多に見られない珍しいポケモン達だった。

種族もタイプも違う複数のポケモン達が集まっている。一体そこに何があるのか、オダマキ博士は双眼鏡でウロの中を覗き込み、そして驚愕する。

 

「なっ!?…なんだって!?」

 

それは、人間の子供だった。怪我をしているのか、息は荒く、寝たままになっている。ポケモンたちは、その子供を代わる代わる介抱をしているようだった。擂り潰したオボンの実を喉に流し込み、ラッキーが"癒しの願い"をかけて、ニューラが"凍える風"で冷やした葉を患部に当てている。その様子に、オダマキ博士はしばらく呆然と眺めていた。

 

『ッ!?ピキー!!ピキー!!』

 

すると、ポケモン達の内の一体、コンパンが騒ぎ出す。その鳴き声にオダマキ博士は我に帰り、しまったと頭を抱える。

 

(コンパンの優れた目を忘れていた!)

 

コンパンの目は複数の目が集まった複眼であり、更にその一つ一つが熱源を感知するレーダーなのだ。騒ぎ立つコンパンの様子に、周りのポケモン達も警戒を強める。

 

オダマキ博士はどうしたものかと頭を抱えるが、衰弱した子供の姿が頭をよぎる。気づけば、オダマキ博士はポケモン達の前に歩み出ていた。

 

『フシャーッ!!』

 

『キチチチチチチッ』

 

『キュルルルルルルッ!』

 

ニューラが毛を逆立てて爪を突き出し、スコルピが爪から毒液を滲ませ、ヒノアラシが炎の鬣を逆立て威嚇する。他のポケモン達も臨戦態勢であり、その子供を守ろうとしているのは一目瞭然であった。

 

それを見たオダマキ博士の行動は速かった。背負っていたリュックを地面に置き、上着を脱ぎ捨て、ズボンに手をかける。やがてまどろっこしくなったのか、ベルトを引きちぎり、無理やりズボンを降ろすと、ゆっくり、ゆっくりとポケモン達に近づいていった。

 

「大丈夫、大丈夫。キミたちやその子にはなにも危害を与えないよ。絶対に傷つけたりはしない。大丈夫、大丈夫だ。」

 

そう言って、ゆっくり、ゆっくりと、ポケモン達の目の前にまで近くと、じっと彼らを見つめる。

 

「僕にその子を診せて欲しい。大丈夫だ、決して傷つけたりしない。僕を信じてくれ」

 

そう言ってポケモン達をじっと見つめる。ポケモン達は顔をそれぞれ合わせると、やがてゆっくりと道を開けた。

 

「ありがとう。」そう言ってオダマキ博士は子供に近づく。見れば、まだ10歳にもなっていないだろう幼い子供だった。なぜこんな所にいるのか。なぜこんな怪我をしているのか。そんな疑問は捨て置き、その子供の胸に手を置き、慎重に身体を触る。自分の専攻はポケモンだが、曲がりなりにも生物学者だ、有り合わせの診察くらいは出来る。

 

(心臓はなんとか動いている。そして、全身に打撲。まるでトラックにでも跳ねられた様だ。だが、徐々に治りかけている。こんな子供がこれだけの怪我をしていて?ポケモン達(かれら)が治療したのか?いや、そうだとしても……)

 

そんな考えを巡らせつつ、オダマキ博士は自分のリュックへと向かう。そして中の救急箱を取り出すと、慎重に服を脱がせ、全身に傷薬を塗り、包帯を巻いた。

 

「応急処置ではあるが、手当てをした。だが、本当に治そうと思ったら、人間の病院に連れて行かねばならない。人間の街にだ。」

 

それを聞いたポケモン達は顔を見合わせる。薄々気づいていたことだ。自分たちでは彼を完全に治すことは出来ない。オダマキ博士は再び真剣な声で語りかける。

 

「信じて欲しい。この子は絶対に死なせはしない。約束するよ。この命に替えてでも」

 

そう言って、オダマキ博士はじっとポケモン達を見つめる。ポケモン達もまたオダマキ博士の目をじっと見つめ、そして博士へと近づいた。

 

「…君たちも、見届けると言うのかい?」

 

ポケモン達は皆頷き、それを見た博士もまた頷き返した。

 

「わかった。行こう」

 

歩きだそうとする博士だが、それをバルキーが引き留める。バルキーの指差す方を見ると、自分の脱ぎ散らかした服が目に入った。

 

「こっ、こりゃ失敬!」

 

そうして博士はあわてて服を着こんで、ポケモン達を連れてボートを出した。ボートの中、運転をするオダマキ博士に、ラッキーがお腹のポケットから袋を手渡す。

 

「これは……?」

 

ポケモンの絵が描かれたビニール袋、その中を見てみると、見たこともないポケモンの絵が描かれた何かのケースと、ポケモンの絵の描かれた分厚い冊子。そのうしろに、拙い字で書かれた、ひの けんた の文字。

 

「ひの……けんた君。キミは一体…?」

そうして博士はボートを走らせ、圏内の島へたどり着くと急いでカナズミシティの大病院へ電話を入れる。やがてその子供はドクターヘリによってカナズミ大病院へと搬送され、緊急手術を受ける。手術から少年が目を覚ますまでの1ヶ月間、オダマキ博士とポケモン達は、片時も側を離れることはなかった。

 

 

そして、それから実に、七年の月日が流れた。


 

 




リハビリがてら、久しぶりに投稿します。とりあえず、しっかりと完結させたいです。

正直 挿し絵って必要でしょうか?

  • 一話に一枚欲しい
  • あった方が面白い
  • 文章だけで表現して欲しい
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