FALLs ADVENTURE   作:オカタヌキ

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ゆうきを翼に込めて飛べ 前編

 

 トウカの森。トウカシティからカナズミシティの中間地点に位置する広大な森林地帯である。

 古くからポケモンの生息地として有名であり、特にその深部に存在する密林は、この地域固有のポケモンの生息地に指定されている。

そして、ひとたび順路を外れ奥地に入り込めば、森は入り組んだ樹木と生い茂った苔による天然のダンジョンと化す。事実、トレーナーや密猟者がこの森の固有種であるポケモンを求め深部へと入り込み、そのまま消息を絶つケースも毎年後を絶たないのだ。

 だが、それでも毎年順路を外れ深部へと進もうとする者は一定数存在している。それほどまでに、世のトレーナーやポケモン愛好家にとってレアなポケモンというものは魔性の存在なのだ。

 

「で、我々はそんな森をポケモンの生態調査をしつつ進んで行くわけだ。さっきも言ったけど、はぐれないようしっかりついてくるように」

 

「「「はーい」」」

 

 先頭を歩きながら引率として注意を促すケンタ。そして元気よく返事をする3()()()()

 

「はいストップ」

「「「?」」」

「………何でおるねんミツグ」

 

 そう、先ほどトウカの森入り口付近でバトルを仕掛けてきたおぼっちゃまのミツグが、何故かそのままついてきているのである。

 

「いやいや。何でも何も、僕の実家はカナズミだからね。一旦顔出しに帰る途中なんだ」

 

「だったら一人でさっさと行けばいいだろうが。なんでわざわざついてくるんだよ?」

 

「まあまあそう言わずに。旅は道連れ世は情けって言うじゃないか」

 

「帰れ」

「ふむよろしい。ならばこうしよう」

 

 そう言うとミツグは、その場でそれは見事な土下座を披露して見せた。

 

「一緒に連れてってくださいお願いします」

 

「お前のプライドってどうなってんの?」

 

 腐葉土の地面に頭を擦り付けるミツグ。その恥も外見もない姿にケンタは冷ややかなツッコミを入れる。そして、そんな様のミツグにハルカとユウキも気の毒な視線を向けていた。

 

「ねえお兄ちゃん、きっとミツグさんひとりじゃさみしいんだよ。連れてってあげようよ」

「ケンタさん、ここは連れて行ってあげましょうよ」

 

「あれ、おかしいな?なんで俺が促される立場になってる訳?」

 

 まさかの身内からの援護射撃にケンタはたじろぐが、やがて尚も土下座の姿勢を保つミツグに目をやり、ため息を吐いた。

 

「はぁ……わかったわかった。連れてってやる連れてってやるから」

 

そうかそこまで言うならついていってやろう!!

 

「マジでなんなんだよお前は」

 

 ミツグの変わり身の速さにケンタの冷淡なツッコミが決まった。

 そんなこんなで、一時的にミツグを加えることになったケンタ一行はトウカの森を進んでいった。

 

「わはぁ~、タネボーがいち、にぃ、さん……12匹、枝からぶら下がってる~!かわいいー♥️」

 

「あ、ナマケロだ。父さんのジムにいたやつより若干小さいや」

 

「ケムッソの群れ、ざっと20……いや、34か。やっぱトウカ産のは他よりよく育って……あ、スバメに2匹もってかれた……」

 

 ある程度開けた林道を起点に歩きながら、遭遇したポケモンの種類や数を記録していく。途中野生のポケモンや一般トレーナーとのバトルを挟み経験値を稼ぎながらも、一行は兼ね順調に進んでいると言えた。

 

 

「よーし、今日はここでキャンプにするぞ。各自用意するように!」

 

「「「はーい!!」」」

 

「うん、だいたい予想してたけどやっぱお前も混ざるのね」

 

 もはやごく当たり前のように混ざっているミツグに、ケンタは早々にツッコミを諦めテントを組み立てる。

事実、曲がりなりにもトレーナーとして先輩であるミツグは、ハルカとユウキに危険な場所を教えたり、不用意なバトルを避けるよう誘導したりとそこそこ役に立ってはいたので、邪魔にならなければある程度は黙認することにしていた。

それに、旅のトレーナーが安全の為共同でキャンプを張ることは割とよくある情景である。

 

「あ、ごめん。僕今日は日帰りのつもりだったからテント持ってないんだよね。てか、そもそも今までホテル泊まりだったから、野宿もしたことないや。テント入れて~」

 

 訂正、早速後悔してきた。結局、ミツグはケンタのテントで同宿することになった。

 

「いや~にしても狭いねこれ。ウチのトイレの半分以下じゃん。モンスターボールの中ってこんな感じなのかなぁ?」

「叩き出すぞてめぇ。てか、俺明日は深部の調査に行く予定なんだけど、お前どうすんの?」

「うん?あ、やっぱ行くんだ」

 

 ミツグは少し考える素振りをしてからケンタに返した。

 

「いや、止めておくよ。君の仕事にまで顔を突っ込むほど無粋じゃないさ」

 

 その返事にケンタは以外だとばかりの顔をする。

 

「ふーん、お前にも社会的良識ってものがあったのか。以外だわ」

「君、僕のことどういうイメージで見てるわけ?」

「行く先々でまとわりついてくる拗らせストーカー金づるホモ」

「よっしゃ表出ろコラ。タイマンでやってやる」

そして、翌朝

 

「………と、そういうわけで、明日俺は森の深部へ調査に向かうから、二人はミツグと一緒に先にカナヅミに向かっていてくれ」

 

「え~!?わたしもキノココちゃん見たかったのに~!」

「仕方ないよハルカちゃん。僕ら新人トレーナーには危険過ぎるんだよ」

 

不満の声を上げるハルカと対象に、ユウキはそんなハルカを宥める。この年で危機察知能力が着々と身に付き始めているようである。

 

「けど、ケンタさん一人で大丈夫なんですか?」

「何、心配いらんよ。今までもこういった場所で調査は何度もしてきたし。それに事前にカナヅミ市役所と父さんには連絡は入れてある。24時間以上連絡がなければポケモンレンジャーが派遣されることになってるんだ」

「ああ、なるほど」

 

ケンタの説明に二人はひとまず納得はしたようだ。

 

「ま、言うほど危険な調査でもないし、2日もあれば終わるだろ。

その間カナヅミでジム戦でもしてみたらどうだ?」

「「ジム戦!!」」

 

ケンタの提案にハルカとユウキは浮き足立つ。

 

「やるやるやる!ジム戦やりたい!」

「僕も!自分の実力を確かめたいです!」

「なははっ、その意気その意気」ケンタはそう言うとミツグへと顔を向ける。

 

「じゃ、そういうことだから。カナヅミジムまで引率よろしく」

「OFF COURSE まかせたまえ。新人を導くのは先人トレーナーの義務だ」

 

ケンタの申し付けにミツグは快く頷く。なんだかんだで良識のある男なのだ。

 

「ああそうだ。カナヅミのジムリーダーはいわタイプの使い手だから、ハルカはこの森でくさタイプのポケモンをゲットして行くのがいいだろう。まだ時間もあるし、俺も手伝うよ」

「あっ!じゃあわたし、昨日見つけたタネボーちゃんがいい!」

「よし、それじゃあタネボーのいた木へ行こうか」

 

こうして、ケンタ一行は昨日タネボーの群れを見つけた林へと向かう。

 

林の木には、ドングリの姿をしたポケモン、タネボーがいくつも枝にゆらゆらとぶら下がっていた。

 

 

 『タネボー どんぐりポケモン  

 くさタイプ

木の枝へぶら下がって栄養や水分を吸収している。

どきどき木の実と間違えて ついばみにきた鳥ポケモンを驚かせて遊ぶ。』

 

 

「どいつにする?」

「えーとえーとっ」

 

ハルカは枝のタネボーを見比べてうんうん唸る。やがてその中の一匹を指差した。

 

「あ、あの子!あの子が一番コロコロでかわいい!」

「おっ、あれか。確かに健康的でいい面構えだ。やるなハルカ」

「えへへ~♪」

 

ハルカの指差した個体を見て、ケンタは満足気に頷き頭を撫でる。どこを向いても無表情のどんぐりフェイスである。

 

(ぜんぶ同じに見える……)

(全部同じに見える)

 

「よーし、それじゃ早速……おや?」

 

「?どうしたんですかケンタさん?」

「いや、あれ」

 

「スバ~」

 

 ケンタが指差した先には、スバメが一羽林の向こうからこちらに飛んできていた。

 

 『スバメ こツバメポケモン

 ひこう・ノーマル タイプ

 

自分よりも大きな相手にも勇敢に戦いを挑む。

お腹が空くと大声で鳴く。』

 

「あのスバメがどうかしたんですか?」

 

「ああ、スバメは本来群れで生活しているポケモンなんだ。

進化して独り立ちしたならともかく、ああして一匹だけでいることは滅多にないんだが……」

「成程、確かにそのとおりだ」

 

 ケンタの疑問にミツグも同意し、ハルカとユウキは二人の知識に関心する。

スバメはタネボーたちのいる木に留まると、そのうちの一匹へと近づいて行く。偶然にもそれはハルカの選んだタネボーだった。

 

「スバ~」

「カカ?」

 

 スバメはタネボーを見てよだれを垂らしている。どうやら木の実と勘違いしているようだ。

 

「スバ、スバスバ?」

「カカ、カカカ!!」

「スバーー!?」

 

スバメはくちばしでタネボーをつつくと、タネボーが大きく体を揺らして脅かす。スバメはそれに仰天してひっくり返ってしまい、そのまま枝から落ちてしまった。

 

「あっ、やばっ!」

 

ケンタはとっさに飛び出しスバメを受け止める。

 

「大丈夫か?」

「ス、スバァ……」

 

 ケンタはスバメが無事なことを確認すると地面に降ろす。一方木の上ではタネボーたちがその様をケラケラと笑っていた。

 

「カーカッカッカッカ♪」

 

「スバー!スバスバー!」

 

「カカ?カカカッカッ!」

 

ボムッ!!

 

「スバー!?」

「なっ!?うおわっ!」

 

 スバメは笑うタネボーに抗議する様に鳴き声を上げるが、それに対してタネボーは“タネばくだん”をお見舞いする。

あわや直撃したスバメは黒焦げになって目を回し、一緒にいたケンタも吹っ飛んでしまう。

 

「け、ケンタさん大丈夫ですか!?」

「あたた……ああ、なんとかな。

つーかあのタネボー、“タネばくだん”なんて使えるのかよ……」

 

「むむむ……コラー!!なんでそんなことするの!?お兄ちゃんまでケガするじゃない!」

 

「カカカカッ!カーカカ!!」

 

 ケンタが感心するそばでハルカはタネばくだんを撃ったタネボーに怒る。しかし、タネボーはそれもケラケラ笑って体を揺らし、枝からポトリと落ちる。

 

「カカカカッカッカー!」

 

 そして、枝から落ちたタネボーはまばゆい光に包まれる。

 

「うえ!?」「あれって!」「ほほぅ」「なんと、進化だ」

 

「コーーノハッハッハー!」

 

 そして、タネボーはコノハナに進化した。

 

『コノハナ いじわるポケモン

 くさ・あく タイプ

 

うっそうと 茂った 森に すむ。 草笛の 音色で 旅人を惑わせ 面白がる。 

長い鼻を 触られることを 嫌う。 』

 

 

「スッスバ!スバ~」

 

「コーノハッハッハ!」

 

 目を覚ましたスバメだったが、コノハナの姿に完全におびえてしまっている。コノハナはそれを見て指を刺してゲラゲラ笑う。

 

「こらー!いい加減にしなさーい!」

 

 そこへハルカが割って入った。

 

「なんでそんなにいじわるするの!?スバメちゃんかわいそうじゃない!!」

 

「ハッ、コーノノ!」

 

 ハルカはコノハナを叱り付けるが、コノハナはアカンベーをして反発する。

 

「ハルカ、いじわるポケモンにいじわるすんなって言っても……」

「黙ってて!!」

「はい」

 

 ケンタの無粋な発言をバッサリ切り捨て、ハルカはずんずんと向かっていく。

 

「いじめっ子はゆるさない!いくよチャモ!」

「チャモー!」

 

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