【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-   作:炎の剣製

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更新します。


第030話 6日目・2月05日『迷走する思い』

………志郎は昨日から一睡も出来ていなかった。

セイバーに抱きしめられながら寝ようと思うが寝る事も出来ずに気が付けば窓から光が差してきていた。

昨日の夜に志郎は凛の元へと桜の一件が解決したために今度はイリヤ姉さんに対しての対策を練りにセイバーとともに向かっていたのだ。

だが、部屋に近づいてきたところでセイバーがいきなりキャスターのフードを被せてきて何事だと思った矢先に部屋の中の会話が聞こえてきてしまった。

 

『昨日………あなたの、生前のエミヤシロウの過去を夢で見たわ』

 

凛のその一言で志郎の頭は一瞬で真っ白になった。

エミヤ、シロウ………?

シロウって、まさか、そんな………アーチャーの正体ってまさか………。

それからも次々と明かされる話。

 

 

『別に………。見られたのなら別に隠す必要はないさ。私は心の底から過去の自身を恨んでいるのはもう話したな? 私の真の目的も』

『自分殺し………。でも、そんな事をしてもただの八つ当たりよ?』

『そんなことは先刻承知済みだ。それでも私はそれに綴るしかもう希望が見いだせないのだよ』

『でも、この世界のあなたは………』

『ああ。志郎を守ってすでにこの世にいないことは知っている。だから私は志郎のことを………』

 

アーチャー………いえ、シロウ。つまり士郎兄さんの聖杯への願いは自分自身の殺害?

どうして、兄さんがそんな事を思うほどにまで切羽詰まってしまったの………?

断片的にしか語られない話だが、それでも志郎にとっては衝撃は十分だった。

思わず眩暈がして志郎は壁に手を着いてしまった。

それでセイバーが小声で『まずいッ!』と言って私の存在を悟られないように自ら名乗り出たのだ。

それからはなんとかセイバーに話を任せられたが志郎はショックからか体を震わせていたためにセイバーと一緒に布団で寝ることになったのだ。

 

 

………そして、一見冷静そうに志郎を宥めていたセイバーでさえ顔には出さないがショックを受けていたのは言うまでもない。

あのアーチャーが語ってくれた夜の話にはまだ続きがあったのだ。

確かにアーチャーはセイバーや衛宮切嗣といった聖杯戦争関係者には恨みは一切抱いていないというのは本当だろう。

だが、目的が自分殺しなどと聞かされてしまっては心穏やかにはいられなかった。

どうして話してくれなかった………?という言葉はセイバーにはおそらく言えないだろう。

アーチャーの願いはセイバーの願いとあまりにも酷似していた。

過去の自身を無かったことにしようという願いはセイバーにも通ずる願いだからだ。

だからアーチャーを責める事はセイバーにとっては己にも帰ってくる棘のセリフなのだ。

だから無理だ。

私では彼は救えない。

聖杯に願ってしまえばとも思うが彼も聖杯の破壊には異議は唱えていない。

当然だ。

その聖杯によってエミヤシロウという男の人生は狂わされシロという家族も失い、どういう経緯を至ったか分からないが自分殺しを願うほどにまで心が摩耗してしまったのか。

おそらく正義の味方という言葉が関係してきているのだろう。

もっと彼の最後を聞くべきだったか。

今からでも遅くない。アーチャーに話を聞きに行くことも吝かではない。

しかし、シロも断片的にだが真実を知ってしまった。

だから私はもうアーチャーに話を聞く機会もあまりないだろう。

シロのサポートと心のケアに当たらなければこのままではシロが壊れてしまう。

セイバーはそう思い、今回は私ではアーチャーは救えないと感じ、ならシロとアーチャーの事の成り行きを見守る。

それが今の私にできる最大限の仕事だ。

そう、セイバーは割り切った。

 

 

「………ねぇ、セイバーは、アーチャーがシロウ兄さんだって、知っていたの………?」

「………はい、シロ。あの夜に聞かされていたのです。今まで隠していてすみませんでした」

 

目に光がない志郎にそう聞かれて申し訳ない気持ちになりながらもセイバーは謝罪した。

やはり、志郎の心に傷が入ってしまった。

それで志郎は「そっか………」と悲し気に呟く。

そんな志郎の姿にいてもたってもいられずにセイバーは再度抱きしめながら、

 

「大丈夫です、シロ。彼は、シロウはあなたの味方です。ですから心が落ち着いたら彼と話しましょうか」

 

セイバーのその申し出は志郎にとっては願ったりの事であったが、

 

「ううん………。私は、兄さんを困らせたくない。もう英霊となってしまった兄さんにはきっと私の想いも届かない。だから………」

「シロ………ですが」

「そんな悲しそうな顔をしないで、セイバー。大丈夫………もう少ししたらいつも通りの私に戻るから。でも、だからもう少しだけ私を抱きしめて………」

 

未だに震える志郎の体をセイバーは無言で抱きしめてあげた。

このか弱い少女にいつか救いがありますようにとセイバーは願わずにはいられなかった。

 

 

 

………………

……………

…………

 

 

 

それから志郎は心にメッキでもいい、偽りの仮面を被っていつも通りに振る舞うようにした。

志郎が居間に着くとそこからはいい匂いがしてきた。

キッチンへと足を運ぶとそこでは桜は当然として慎二が一緒になって料理を作っていた。

 

「え? 慎二くん………?」

「ああ、衛宮か。おはよう」

「おはようございます、先輩」

「お、おはよう………。それよりどうしたの慎二くん? 桜と一緒に料理なんて」

「いや、お爺様がもういなくなった以上は僕が間桐の家を切り盛りしないといけないからね。

あそこにはつらい思い出しかない………だからいずれは遠坂に財産以外は土地を譲るかもしれないけど、それでも今まで僕たちが住んできた家だからな。

だから僕も手始めに料理の一つも覚えないといけないと思ってな。こうして桜に教えてもらっているところなんだ」

「そっか。うん、いいと思うな」

「はい。兄さんは筋は私よりいいですからすぐに料理は習得できると思うんです」

「はっ、僕だっていざとなれば料理の一つや二つはわけないさ」

 

そう言いつつその慎二の指にはいくつか絆創膏が貼られているのを見て志郎はクスッと笑う。

 

「まるで私のところに初めて来たときの桜みたいだね」

「あっ! 先輩、それは言わないでください! 恥ずかしいですから………」

「ごめんごめん」

 

志郎が桜に謝っているとそこに遅れて凛がやってきた。

 

「ああーーー………志郎、おはようぅ………牛乳ある?」

 

そこにはいつも通りというべきかパジャマ姿のその人をも殺せそうな死んだ魚の目をした凜の姿があった。

まだ寝ぼけているのだろうか? そんな姿に桜と慎二は面を食らって茫然としていた。

 

「凛さん凛さんッ! もう寝ぼけてないで! 桜と慎二くんがいるんだよ!」

「………え? ッ!?」

 

そこで完全に目を覚ましたのかどんどんと顔が赤くなっていく凛。

 

「う………」

「う?」

「うわわわわっ!?」

 

凛は珍しい奇声を上げながら部屋へと走って行ってしまった。

そんな姿も珍しかったのだろう。

慎二は茫然としながら、

 

「遠坂って朝に弱かったんだな………」

「はい。びっくりしました………」

「あはは………。多分少ししたら元通りになっていると思うからあまり触れないようにね」

 

志郎の言葉にこくこくと頷く桜と慎二の二人であった。

そこに遅れてアーチャーが居間へと姿を現す。

 

「衛宮志郎。こちらに凛がこなかったかね?」

「ッ!」

「む? どうした、急に体を硬直させて………?」

「う、ううん! なんでもないよアーチャー! うん………なんでもない。凛さんなら部屋に戻っていったよ」

「ん、そうか。わかった」

 

そう言って部屋のある方へと歩いていくアーチャー。

そのアーチャーの後姿を見て思わず志郎は、

 

「あの! アーチャー!」

「む、どうしたかね?」

「その、ね………その………おは、よう………」

 

顔を赤らめながらも朝の挨拶をする少ししおらしい志郎の姿に少し違和感を覚えたアーチャーだったが、

 

「ああ、おはよう」

 

返事を返して今度こそアーチャーは凜の後を追っていった。

それを見送って少しため息をつく志郎。

そんな志郎の肩にいつから見ていたのかセイバーが手を置いて、

 

「よく我慢できましたね、シロ」

「うん………」

 

志郎はアーチャーの事を兄として意識してしまっていた。

だがなんとか堪えることができたのは志郎とアーチャーにとっては良かったのかわからない状況である。

セイバーにとっては見ていて切ないと感じてしまっている。

そして状況が分からずまたしても意外な姿を見せられた桜達は何が起こっているんだ………?という想いであった。

 

「あ、そうでした。サクラ、少しよろしいですか?」

「あ、はい。なんでしょうか、アルトリアさん?」

「先程キャスターから言伝をもらったのですが一時的にとはいえサクラは聖杯と繋がっていた。

ですからもうキャスターの宝具で繋がりは絶ちましたが一応異常はないか確認をしたいという事ですので後でキャスターの元へと行ってください。部屋は分かりますね?」

「はい、わかりました。それじゃ後で向かいますね」

 

それで話は終わった。

それから志郎は数日間は学校がお休みだという事で桜や慎二といった客人も増えたためにセイバーと一緒に食料の買い出しをしてくるといって食事後に家を出て行った。

………ちなみに凛はしばし顔が赤かった事をここに記しておく。

 

 

 

 

商店街で色々と買い出しを済ませた志郎とセイバーは帰り道を歩きながら、

 

「シロ。その、大丈夫ですか………?」

「うん? 荷物の事?」

「いえ、アーチャーの件に関して………」

「………うん。大丈夫。きっとこの聖杯戦争が終わったら兄さんは消えてしまうと思う。

だから心残りはしてほしくない………だからいいんだ」

「シロは、それで後悔はないのですか………?」

 

セイバーは真剣な表情になって志郎へと問いかける。

それに志郎は少し黙りこくる。

セイバーの表情は語っていた。後悔だけはしないでください、と。

 

「わかってるの………でも、今はこの聖杯戦争に集中しないと、だから………」

「そうですか」

 

それで会話が途切れる。

その場に重たい雰囲気が流れる感じであった。

だが、そんな時に志郎の目に前にとある人が現れる。

 

「………シロ? どうしたの? どこか苦しそうだよ?」

「イリヤ姉さん………?」

 

志郎達の前にイリヤの姿があった。

 

 

 




最後に久しぶりにイリヤさん登場です。
舞台は新たなステージに。
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