【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-   作:炎の剣製

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更新します。


第035話 7日目・2月06日『志郎とアーチャー』

 

………今夜、柳洞寺の地下にある地下大空洞に安置されている大聖杯がある場所へと私達は向かう。

でもその前に姉さんの現状を知れてどうにか助かる事が分かった私は安心していた。

そしてその過程でアーチャー…兄さんのおかげで姉さんの事を救えたという事をセイバーに教えてもらい、

 

「(兄さん………)」

 

思わず両手を胸にギュッと合わせていた。

それほどにアーチャー…兄さんには感謝している。

私にはできなかった事をすんなりとやり遂げてしまう。

思えば桜の件でももしかしたら間桐臓硯を殺しえる薬をキャスターに提案したのは兄さんなのではないだろうか。

………やっぱり兄さんは正義の味方なんだね。

だからそれだけに兄さんの望みが自身の抹殺というのを知ったからか悲しくなってしまう。

どうしてそんな悲しい願いを抱くほどまでに思いが摩耗してしまったのかと。

凛さんなら多分知っていると思う。

でも、今はまだ聞く勇気が持てない。

もし今聞いてしまったらきっとこれからやるであろう最後の戦いに集中できないかもしれないからだ。

でも、今日を逃したら兄さんはいなくなってしまう。

キャスターは自前でなんとか残れるらしいけど兄さんやセイバーはきっと戦いが終わったら………。

それで自室で今夜の準備をしながらも考えている時だった。

私の部屋のドアをノックする音が聞こえたのは。

セイバーかな………?

それで返事を返すと、

 

『アーチャーだ』

「っ!?」

 

私は思わず息を呑んだ。

まさか兄さんから私に直接会いに来てくれるなんて。

 

『衛宮志郎………少しばかり話があるのだが、中に入っても構わないかね?』

「あ、えっと………少し待ってください」

『わかった』

 

ドアの向こうから兄さんはそう言って黙った。

ど、どうしようか。

こんな時だっていうのに私の胸の鼓動は早鐘のように鳴っている。

とりあえず少し身嗜みだけでも整えて、

 

「………ど、どうぞ」

「では、失礼する」

 

そう言って兄さんは私の部屋へと入ってきた。

 

「突然どうしたんですか…?」

 

私が開口一番に兄さんへとそう尋ねる。

そう聞くと兄さんは「そうだな」と一回目を瞑った。

そしてすぐに真剣な表情になり、

 

「衛宮志郎…いや、志郎。私の、いや俺の話を聞いてくれるかい?」

 

そう、兄さんは切り出してきた。

 

 

 

――Interlude

 

 

 

とうとう切り出してしまった。

アーチャーは少し時間を遡って凛にこう話をされていた。

 

「アーチャー」

「なんだね、凛?」

「きっと、志郎と会えるのは今日で最後よ」

「ああ。わかっている…」

「セイバーに聞いたけどあの子は気付いたそうよ」

「それも、知っている」

「なら………少しでもあの子と一緒にいてやって。

心の贅肉かもしれないけど二人を見ていると今まで正直になれなかった私と桜にあんた達が被るのよ。

見ていて放っておけないっていうか…」

「………」

 

アーチャーは凜の言い分を最後まで聞いていた。

 

「だから後悔だけはしないでほしいのよ。

あの子もだけど今回を逃したら貴方もきっと後悔する。自身を許せなくなる。どうしてあの時行動しなかったのかってね…」

「だが…」

「わかってる。あんたがあの子の事を何も知らない事は。でも薄情だと言われてもいい。今回だけは兄としてあの子の事を助けてあげて。

今一番志郎が必要としているのはアーチャーが志郎の肩を押してあげる事よ。

過去に死に別れをして満足に言葉も交わせなかったでしょう…。でも今も志郎はあんたの事を尊敬している。だから…」

 

それでアーチャーはおもむろに凜の目尻を拭う。

凛は涙を流していたのだ。

「あれ、私………?」と言っているので自覚はなかったのだろう。

 

「やれやれ………君に泣かれてまで行動を起こさなかったら私は畜生に成り下がってしまうではないか。わかった。今夜、出る前に話をしよう」

「ありがとう、アーチャー」

「なに、マスターの頼みだ。気にするな」

 

そんなやり取りをしてアーチャーは志郎の元へとやってきたのだった。

アーチャーはこれから恐らく志郎に酷な話をするだろうという予感をしながらも、

 

「衛宮志郎…いや、志郎。私の、いや俺の話を聞いてくれるかい?」

 

そう切り出したら志郎は多少ではあるがその表情に動揺の色を映す。

それでも覚悟ができたのであろう無言で頷いた。

それにアーチャーは感謝しながらも、

 

「話をする前に俺はこの世界の君の兄に謝らなければいけない」

「えっ?」

「君はもう気づいているのだろう? 私の正体を………」

 

それで志郎は少し顔を伏せながらも「うん」と頷く。

志郎が俯いたまま、それでもアーチャーは話を続ける。

 

「俺はこうしてこの世界の士郎の立場を侵してしまっている。横取りのようなものだ」

「そんな………」

「そして思えば俺は酷い男だと思う。あの大火災で俺は切嗣に助けられたが家族の人達を君も含めて一切忘れてしまっていたのだからな」

「………」

「許してくれとは言わない。でも、同時に嬉しかった。数多ある平行世界で君という妹を助けられる世界も存在したという事に」

 

そう言って座っている志郎の顔と同じくらいアーチャーは腰を下げて、

 

「そして辛い思いをさせてしまってすまない。この出会いも聖杯が導いてくれた奇跡なのだろうが志郎にとっては気が動転するほどのショックな話だったと思う」

「そんな、こと………」

「私と凜の会話も聞いてしまったのだろう?」

「………ッ!」

 

それで志郎の体が数秒だが震えている。

 

「アーチャーは………兄さんはどうして自分自身を憎んでしまったの?」

 

志郎の言葉に内心で(やはりか…)と己の不甲斐なさに情けなくなった。

 

「そこまで聞かれていたか。そうだな………少し難しい話になるがいいか?」

「うん。聞かせて………聞かなきゃいけないんだと思うの」

「わかった」

 

それでアーチャーは語った。

正義の味方として最後まで駆け抜けてしまった生涯の話を。

そして守護者としての在り方を。

 

「俺はね、正義の味方なんかにならなければよかったと思っている。

切嗣の話を聞いた君なら分かると思うが俺の手も切嗣と同じくたくさんの血で汚れてしまっている」

 

そう言ってアーチャーは片手で顔を覆い、

 

「そして守護者となった今、俺の正義は完璧に否定されてしまった。

そこからは地獄だった………もう殺したくないと願いながらも世界から命令されてはたくさんの人達を殺してきた。

俺を慕ってくれた桜でさえ、俺はその手にかけた。

そんなろくでなしな俺にはもう八つ当たりだろうと構わないという思いで過去の自分である衛宮士郎をこの手で消しさるという願いを抱いてしまった。馬鹿だよな、本当に………」

「そんな事ないッ!!」

 

そこで志郎が顔を上げて涙を流しながらもアーチャーに抱き着いた。

 

「兄さんは何も悪く、ない………確かにお父さんと同じように悲しみをたくさんの人に味合わせたかもしれない」

「そうだな。俺は…」

「でも! それ以上に笑顔を、感謝されるような行いをしていったんでしょう!? だって兄さんは正義の味方なんだから!」

 

泣きながらも志郎にそう言われてアーチャーは自身の原点を思い出していた。

この身は誰かのためにあろうと。

嫌われてもいい、笑顔を浮かべてくれるのならばそれで十分だったと。

正義の味方とはそういうものだと。決して夢物語の話なんかではないと。

 

「兄さんはもう自分の事を許してもいいんだよ…?

もう後戻りはできないかもしれない。だけど! それでも兄さんの目指した正義は決して間違いなんかじゃなかったんでしょう!?」

 

そう言って志郎はまた泣き出してしまった。

そんな志郎の頭に手を置いて撫でる。

 

「………こんな俺のために涙を流してくれてありがとう。志郎。それだけでも幾分は救われたよ」

「そんな、こんな兄さんの言う本当の地獄を体験していない私なんかが言っても気休めにしかならないと思う。

でも、兄さんを救いたいという願いは本当なんだよ? 私の理想は『大事な、大切な人達を護れる正義の味方』………だから私は兄さんが守護者となっても幸せを探求できるように願いたい」

「そうか。俺も、そんな事に早くに気づいておけばこんな無間地獄には落とされなかっただろうな。

俺は志郎のように俺の事を大切に思ってくれた人達の手も払ってこんなところまで来てしまった。

だが、そんな俺でもまだやり直せるだろうか………?」

「それは、わからない………」

「おいおい。志郎が言い出したことだろう?」

「うん。でもきっといつか報われる時が来ると思うの」

「信じる、か………」

「うん」

 

それからアーチャーはしばらくの間、志郎と他愛ない話などをして時を過ごした。

そこには確かに兄妹としての光景があった事を信じて………。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

兄さんと思いっきり話すことができて私もすっきりできた。

兄さんもきっと思いを吐き出せてすっきりできたと思う。

それから桜と慎二くんが決戦へと向かう私達のために夜食を作ってくれていたために全員で頂くことにした。

その際に凛さんが、

 

「志郎、少しは悩みは晴れた?」

 

と聞いてきたので「うん」と答えておいた。

それで気力も十分となって私達は桜と慎二くん、キャスターと姉さんを家に残して家を出ていくのであった。

 

 

 




決戦前に二人の時間を確保できました。

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