デット・ア・ファイズ   作:リベンジ

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夢の始まり・前編③

グランインパクトの衝撃で、パンサーオルフェノクは数メートル吹っ飛んで再びガードレールに叩きつけられた。

「ガ、ア…」

今度は立ち上がる事も出来ず、ただうずくまるのみ。

555は腕のファイズショットを見つめ、その威力に唖然としている。

その555を鋭い眼光で睨むものの、もう足が動かないパンサーオルフェノクは懸命に手を伸ばす。

だが。

「…!?ナ、ア゛…」

手から灰がこぼれていく。いや、手が灰になっていくのだ。

足も、胸も、腹も、顔も、泥人形が雨で解けるように体のシルエットが崩れていく。

「…な!」

555もそれに気づき、思わず後ずさりした。

「ア゛、アア゛…!」

歯も舌も崩れたパンサーオルフェノクだったモノは、遺言すら残せず。

全身全てを灰に変え、崩れ落ちた。

 

555はフォンをベルトから抜き取り、クリアキーを押して変身を解除した。

真っ青な顔をした志道は、おぼつかない足取りで灰の元へと歩く。

(俺、俺、殺し、た………)

いくら、化け物でも。

殺してしまった。

命を、奪った。

正当防衛なのかもしれない。

生き物を食べて生きる生物が今更何を、と言うかもしれない。

でも、これは。

そう考えてはいけない。そんな気がする。

灰を軽くすくい上げて、じっと見つめる。

軽い。

魂が消え失せた身体のかけらは、こんなにも軽いのか。

重さを奪ったのは俺だ。

こいつの人生という重さも、命という換えの効かない重さも、俺が全て奪った。

「……軽いな」

その呟きと共に灰は風にさらわれて掌から消え失せた。

後には、志道だけが残された。

 

帰宅して、夕飯を急ピッチで仕上げた後いてもたってもいられずに事故現場近くから回収されていたバイクを出して海へと向かった。

海に着いた途端に、志道は服も着たまま海に飛び込んだ。

「ぷはっ、げほっ」

塩水が殴れた全身に染みて痛い。今日の無茶苦茶な出来事が荒波を通じてでも嫌でも染み込んでいく。

海から志道は、月を見つめた。

狼男が喜びそうな満月だった。

 

翌日。

昨晩深夜、帰ってきた志道はそのまま寝ずに朝ごはんを作り、部屋を片付けて早朝に家を出ようとしていた。

志道はとにかく琴理と顔を合わせたくなかった。

(少しキツい言い方だったかもしれない。でもこっちは殺されかけたんだ。…何も守ることが出来なくて、むしろ側にいる事すらかなわなくて)

靴紐を強引に結んで志道はドアに手をかけた。

(こんな無様な俺に、化け物を守るなんて事が出来る筈がないんだ)

「お兄ちゃん」

「!…琴理」

パジャマ姿のまま、白いリボンでツインテールにした琴理が玄関に立っていた。

志道は驚きつつも、会話を返す。

「…呼び方、元に戻ってるぞ」

「切り替えてるの。白いリボンの時は普通の女子中学生の私。黒いリボンの時はトップ司令官としての私。…どっちのリボンもお兄ちゃんが私にくれたものだよ」

「…そうだったかな」

志道は頭をむしりながらすっとぼけた。

忘れるはずはない。

黒いリボンも、白いリボンも。

まだ2歳だった彼女に、似合うと駄々をこねて買ったのだから。

「…お兄ちゃんにこれ以上迷惑はかけたくないのは本当だよ、もう高校3年生で、保護者の叔父さんは2年も前からずっと連絡が取れない。

そんな状況で、精霊とデートしろなんて無茶苦茶もいい加減にしてくれだよね」

「………分かってるならなんで頼んだ」

志道は答えは分かっていた。でも聞かずにはいられなかった。

「お兄ちゃんなら助けてくれるって思ったから。出来るか出来ないとかじゃなくて、やってくれるって」

琴理は微笑みながらそう言った。

「…考えとくよ。いってきます」

「うん、いってらっしゃい」

琴理は、笑顔のまま手を振って志道を見送った。

 

来弾高校3年1組の教室近くの廊下にて。

「返す」

人通りのない突き当たりにて、志道は登校してきた鳶一折紙を呼び出しトランクを突き返した。

「…ありがとう」

折紙はそれだけ言って受け取る。

ぬか喜びだったと一瞬落ち込んだが志道は勿論気がつかない。

志道は受け取ったことを確認して、そのまま席に戻ろうとしたが。

「待って」

制服の裾を掴んできた折紙によって阻止された。

「なんで変身出来たのか、聞いてない」

「…知らねーよ。偶然だろ」

志道はそれしか言いようがない。このベルトのシステムなど説明書に書いてある事以外は何も知らないのだ。

「…分かった。これ以上、精霊なんかに関わらない方が良い」

「…お前に言われたくないね」

「私はASTの一員だから」

「…待て」

今度は志道が折紙を呼び止めていた。

 

対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)。

通称:AST。その名の通り、『精霊』を武力によって殲滅することを目的とした特殊部隊の総称。日本国の陸上自衛隊所属の部隊だが、各国にも同様の部隊が存在している。

だが悲しきことに、ASTが精霊討伐に成功した例は発足からの12年間一度もない。一部では最低の税金泥棒とか、兵士運用のカモフラージュなのでないかと散々な言われようだ。

「高校生でも入れるもんなのかよ、んな組織」

「適性テストに合格すれば、誰でも」

「そうじゃなくて学校が認めてるのかって事だよ」

「バレなければ犯罪じゃない」

「…テメェいい性格してんな」

…合点はいく。なので黙ってシェルターから飛び出したのだ。

そもそもこいつは人の手を舐め回す変態だ。軽犯罪行為に躊躇がなくても不思議ではない。

「…なんでそんなもんに入ろうと思った」

志道の疑問は、そこだけだ。

折紙は、一瞬驚いた顔をした後、両手で抱きしめたトランクを見つめてぽつり、ぽつりと語り始めた。

「私の両親は、精霊に殺された」

 

「両親が燃えて、爛れて、体が崩れていくのを見た、瞬きする間にボロボロに肉片が転がって、灰になった」

 

「だから、私は殺すの」

「復讐を遂げても両親は戻らない事ぐらい知ってる」

「でも、このぐちゃぐちゃになった気分を奴らにぶつけてやらないと」

 

「私は、もう生きていられない」

 

足が震えている。

目が血走っている。

手はトランクを握りつぶしそうなぐらい強い力がこもっている。

「そうか」

それだけしか言えない。

部外者が何を言っても余計な事だ。

 

「…でも私には、これは使えなかった」

トランクを見つめ、悔しさを噛み締めた表情で折紙は零す。

志道はその顔を見て、頭をむしりながら今思いついたもう一つの疑問を口にした。

「そもそもこんなベルト、どこで手に入れたんだよ、ASTの物ってわけじゃないだろ」

なんせご丁寧にトランクにはスマートブレインのロゴが入っている。それにこんなに強力なスーツがあるならあんな成果を出せないパワードスーツを使わなくても良いのでは。と志道は思っていた。

実際飛行機能、マシンガンがあるとはいえ前回の精霊との戦闘では碌なダメージを与えられていなかった。

 

「…貰った」

「貰った?」

「…1ヶ月前、傷だらけの男から」

折紙はまた、話し始める。

謎だらけのあの雨の日という過去を。

 

その日の雨は、豪雨だった。

折紙がASTでの訓練を終え、自宅へと帰る途中。

家への近道の路地裏で、腹から『灰』を流す男が倒れていた。

とにかく駆け寄り、ゆっくり抱き起こし声をかける。

『…君は』

『しっかり、今救急車を』

『いや、いい。どうせ無駄だ。それより君……ただの女子高生という訳ではなさそうだな』

『…どういう意味』

『死線を見た事がある瞳をしている。それに全身から染み付いた銃火器と硝煙の匂いは洗っても分かるさ』

『………』

折紙が思わず黙り込むと、男は隣に置いてあったトランクを手に取った。

『これを、受け取ってくれ。君が使ってもいいし信頼出来る誰かに託してもいい。これは、人類の反逆の狼煙だ』

男はそう言いながらトランクを折紙の胸に押し付けた。

折紙は思わず手に取り、トランクを見つめる。

『開ければ分かる』

男のいう通り、折紙はゆっくりとトランクを開けた。

ベルト、携帯、懐中電灯、カメラ。

『….セールスマン?』

『ハハッ、そりゃ見ただけならそうだな!…だが、それがあれば、精霊だって倒せるかもな』

『…精霊を!詳しく』

折紙は身を乗り出して、男に迫る。

『…ここまでた』

だが、男は。

折紙の首筋を刈り取るように拳を打った。

…折紙はすぐ目覚めたが。

そこにはもう男の姿はなく、投げ捨てられた傘と雨にさらされたトランクだけが残されていた。




この小説では
志道→高校3年生
琴理→中学3年生
です。
後家族構成も大幅に変えてます。
彼らはたった2人の家族です。
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