志道は夢を見た。
先程語った夢ではなく、眠りについた時に見る方の夢だ。
炎の中で、倒れている所からいつもその夢は始まる。
もう顔も思い出せない両親の悲鳴、毒を吸うのと変わらない煙、肌を焦がす灼熱の世界、全てが志道の生存を拒む。
ーーーこれは、走馬灯か。
「…………」
終わり際の夢まで、このザマか。
志道は何かを悲観する事もなく淡々と炎の苦しみに耐えていた。
生にしがみつくのも、引き際だと今の彼は思い込んでいる。
悲鳴一つ上げず、燃え盛る道の壁際にもたれかかり空を見上げる。
真っ赤な空は、下品なキャンパスのようだった。
私のせいだ。
私が狙われていたから。
私が生きているから。
私が。
視界が急速に滲んでいく、ああ、またこの世界から消えるのだろうか?
いや、違う。
瞳から水が流れている。とめどなく流れ続け指で拭っても止まらない。
志道の事を一つ、思い浮かべるたびに更に瞳から水が溢れ出す。
なのに。
胸の中でくすむ物は、焔のようだとトオカは思った。
燃えたぎるこのココロの何かを、教えてくれる人は。
今そこで、2度と起き上がらなくなった事だけはトオカにもわかる。
それだけで。
「誰だ」
「私から、シドーを奪ったのは誰だッッッ!!!」
トオカは世界を酷く憎んだ。
世界は私を受け入れない。
世界はシドーも受け入れない。
なら、もういい。
シドーが教えてくれた私の「ユメ」とやらはもうないから。
「神威霊装・十番ッ!!!」
地が鳴き、空が震え、海が荒れだす。
神々の力が、溢れ出す。
精霊《災害》は動き出した。
誤算。
予想外。
計画外。
想定外。
「嘘」
現実だ。
「嘘………」
折紙は、銃を地面に落とすと地面に倒れ込んだ。
志道が、精霊を庇った???
それだけではなく、自分の、銃弾が彼の頭に。
「う、ぁ、いや、いやあ…あ…」
声もまともに発音出来ない、海底に沈んだように体が重くなる。
無理もない。
自分にとって最後の光を、折紙は自分で壊してしまった。
そして、発狂の引き金のように。
悪魔《精霊》の鳴きそうな声が意識を落とす折紙の鼓膜に確かに響いた。
「鏖殺公/《サンダルフォン》______【最後の剣/《ハルヴァンヘレヴ》】」
トオカが冷たい声でそう告げると共に、腹の辺りが光り輝き紫野大剣が出現しようとする。
それを右手で引き抜くと、トオカは銃弾の飛んできた方向に向かって剣を振り抜いた。
刹那。
山が砕けた。
凄まじき轟音と共に街に隣接する高山が一撃にして土も、森も何もかもが崩れ去る。上半分を失った山は後は土砂崩れで連鎖的に壊れていくのみだ。
これで、シドーを奪ったモノは消した。
ああ、でも。
まだ腹が燃えている。
じゃあ次は、何を壊そうか。
「アア、アアアアア、アアアアアアアアーーーーッ!!!」
トオカは雄叫びと共に空中へ飛び立つ。
空の方が、より壊せるから。
轟音が轟いた。
志道はその音の響いた方をふと見上げる。
勿論何も変わらない煉獄の街が広がっていた。
けど。
けれども。
泣き方も知らない女の子の、雄叫びに聞こえたのは気のせいだろうか。
「…………トオカ!」
思い出した。
何も知らない女の子を。
世界を知らない、人を知らない、夢を知らない。
でも、地獄だけは知っていた女の子。
…同じ、なんで口が裂けても言うつもりはない。
だが。
彼女がこの雄叫びを上げているなら。
そんな事をすべきじゃないと、言わないとならない。
(どうしてだ)
志道は立ち上がった自分に問う。
(俺には関係無いはずだろ)
志道は走り出した自分に問う。
(俺如きに何が出来る)
志道は。
(わからない)
(だから、見つけに行く)
生にしがみつく為に炎の街を走り抜けた。
トオカは鏖殺公を構え、街に振りかざそうとしている。
彼女が上空で力を溜めているだけで、空間震は最高潮に暴発している。
ASTの部隊も、市民の避難誘導が最優先でまともに出動出来やしない。
例えした所で、彼女に灰すら残さず消されてしまうが。
「ハアアアアア………」
巨大な光柱に包まれた鏖殺公が今、振り抜かれようとした時。
「俺には夢なんてない、けど…」
「せめて、お前の夢ぐらいは守ってやる」
立ち上がった志道が、息を吸う。
ぶち抜かれた頭には傷など残っていなかった。
そして、また鞄にしまってあったファイズギアを巻き、フォンに【555】と入力する。
「変身」
『complete』
「トオカーッ!!!!!」
彼史上最高の声量で、555は『プリンセス』の『名前』を呼んだ。