どれだけ書けるか分かりませんが、良かったらお付き合いください。
ちなみに語り部の声は永井一郎さん、ハリーポッターのダンブルドアの声で脳内補完しながらお楽しみください。
ん、なんじゃお前さんは。
儂か、儂は…………なんじゃったかな。
人と話したのはもう随分と久しぶりなことで忘れてしまった。
そうじゃな…………目の前に立っても誰も儂のことには気付かんし、喉がかれるまで叫んでも誰にも儂の声は届かん。
すがりついて泣こうにも触れることさえ叶わない。
つまり…………幽霊みたいなもんじゃな。
何を驚いておる。
儂と言葉を交わしておる時点でお前さんも似たようなもんじゃろうに。
まぁ、そう慌てることもない。
人生なるようにしかならんぞ。
もう終わっとるかもしれんがな。
ふぉっふぉっふぉっ、ちと”ぶらっく”過ぎたかのぉ。
まずはそうじゃな、名前を聞かせてくれんか。
なに、覚えてない。
家族や友人、どこに住んでおったかは…………ふむ、まぁそのうち思い出すじゃろ。
時間はたっぷりとある。
焦らんことじゃ。
急いては事を仕損じると言うじゃろ。
儂みたいに暇つぶしも兼ねて世間を見て回わってはどうじゃ。
何かを思い出すきっかけになるかもしれんぞ。
ん、儂か、儂は今、歴史の転換点と言うと、ちと大袈裟じゃが、世界的”にゅうす”になった三人の人物を追いかけておるところじゃ。
『あいえす』と言うのを知っとるか。
なんじゃ、知らんのか。
お前さん相当な田舎者じゃのぉ。
では、少し説明してやるとしよう。
正式名称は『いんふぃにっとすとらとす』。
十年前に発明された、宇宙空間での活動を目的に作られた”めかめかしい”ちょぉぉぉぉ凄い船外服なのじゃが、ある事件をきっかけに、それまでの戦闘機や戦車といった兵器に取って代わる”飛行ぱわぁどすぅつ”として世界に認知されてしまったものじゃ。
戦闘機よりも速く飛び、”へりこぷたぁ”よりも小回りが利き、戦車の主砲のような銃を片手で取り回し、”ばりあ”によってどんな攻撃も防ぐ。
まさに”げぇむ”で言うところの”ちぃと”じゃな。
”えねるぎぃ”が続く限り無敵なんじゃから始末に負えん。
そんな『あいえす』の発明者は当時まだ中学生だった篠ノ之束という女の子でのぉ。
六年程前に失踪するまでの四年間に四百六十七個の『あいえすこあ』、言ってみれば『あいえす』の心臓みたいなもんじゃな、それを作って世界中に分配したわけじゃ。
今ではそれが国家防衛の要であり、世界の”軍事ばらんす”を左右しておる。
ところで、この『あいえす』には一つ、いや、二つ重大な欠陥があっての。
一つは、心臓たる『あいえすこあ』を開発者の篠ノ之束以外作ることができないせいで上限が増えないということ。
そしてもう一つは、『あいえす』を女性しか動かすことができんということじゃ。
前者は技術の進歩を願っておればいいが、後者のせいで世に女尊男卑なんていう風潮ができてしまった。
差別と区別は違うと言うのに実に嘆かわしいことじゃ。
力が強い方が偉いなどと、いくら何でも旧時代的過ぎるじゃろぉに。
まぁこの話は長くなるから置いておくとして、最初に儂が三人の人物に注目しておると言ったのを覚えておるか。
三人の名前は織斑一夏(おりむらいちか)、来栖淳(くるすじゅん)、明智博光(あけちひろみつ)。
名前から分かる通り、こやつらは皆『男』じゃが、男でありながら『あいえす』を動かした奇天烈な存在じゃ。
初の男性操縦者として脚光を浴びた織斑一夏は、実の姉が『あいえす』の世界大会の優勝者でな。
ぶ、ぶ、ぶぅ…………なんじゃったかな。
まぁ、何とか言う称号を持つ一般人でも知らない者はいない程の有名人じゃ。
それに加えて、”あいえす開発者”の篠ノ之束とも懇意にしていることから「もし男が『あいえす』を動かせるとしたら他にいないだろう」と言っても過言ではなく、ある意味、動かすべくして動かしたという存在じゃな。
それに対して二番目の来栖淳は何の後ろ盾もない完璧な一般人だそうじゃ。
そして最後、三番目の明智博光は、二番目の来栖淳よりも多少縁があり、父親が”あいえす開発”をしておる会社のお偉いさんじゃ。
ここで、ちと面白いのがな。
織斑一夏が『あいえす』を動かしたのは今年の二月初め、”あいえす学園”の受験会場に紛れ込んで偶然触った『あいえす』が動いてしまったそうじゃ。
男でも『あいえす』を動かせる。
その事実を受けて世界中で一斉に男の”あいえす適性”の検査が行われ、それに引っかかったのが二番目の来栖淳じゃ。
では、三番目もそうなのかと言うとそうではない。
明智博光が『あいえす』を初めて動かしたのは二人よりずっと早く、それは昨年の四月までさかのぼり、父親の勤める会社を見学しておる最中じゃった。
ん、おぉ良く気が付いたのぉ。
そうじゃ、儂はその瞬間に立ち会っておる。
ま、たまたまじゃがな。
この十年、世界の最先端技術は”あいえす研究”から生まれておる。
どこでも勝手に入り込める儂はたまにふらふらっと見学なぞしておるのじゃ。
とは言っても難しいことはちんぷんかんぷんじゃが、”ろぼっとばとる”を見て楽しむ分には理屈なんぞ関係ないからのぉ。
おっほん、話を戻すぞ。
彼が『あいえす』を動かした時は、さしもの儂も度肝を抜かれ、次いで「これから大騒ぎになるぞ」と年甲斐もなくわくわくしたんもんじゃが、実際にはそうはならなかった。
場所が機密情報の塊である”あいえす研究所”の中だったことと、彼の父親がそこの責任者だったことが主な要因じゃな。
彼の情報は厳重に秘匿され、どこかの時点で公表はするが、それまでに自分の身は自分で守れるように訓練を施し、”てすとぱいろっと”として専用機を与えることが決められたのじゃ。
それからの三ヶ月は見物じゃったぞ。
聞いた所によると、彼は日本の宇宙について研究する公的機関『じゃくさ』に勤めていた祖父の影響で、宇宙に行くことや、将来宇宙研究に携わることを目標に勉学に励んできたらしいのじゃが、肉体面は少し運動ができるだけの全くの素人じゃ。
それを短期間にいっぱしの軍人並みに仕立て上げると言うのじゃから、容易なことではないのは簡単に想像がつくじゃろぉ。
案の定、訓練は”すぱるた”を極めんがごとく苛烈なものになり、来る日も来る日も体力作りと言っては走らされ、軍隊でやるような生身での格闘訓練に射撃訓練、そして基礎は体で覚えろと言わんばかりに『あいえす』に乗らされ続け、日に何度も何度も気絶しては”ばけつ”の水をぶっかけられ、しかし彼は悪態をつきながらも立ち上がり続けたのじゃ。
その様子は、すぽ根漫画なぞ目じゃなかったわい。
世界初の男性操縦者という肩書きは、彼の人権を無視して命を危険にさらすには十分な理由じゃったとは言え、あれを乗り越えた根性は正直驚嘆に値するのぉ。
じゃがな、訓練の成果が出始め、少しは形になってきた所で座学も加わり気絶する機会が激減したのは良いんじゃが、それでもまだ完全に゛ぜろ゛とは言えない状況じゃと言うのに、儂も含めてそこに余裕を感じる様になってしまった辺り、慣れとは恐ろしいものじゃ。
春から梅雨にと体をいじめ抜き、余裕が出てきた夏には季節と共に開放的になった年上の綺麗どころに摘み食いされながらそっちの方の訓練もさせられ、秋の到来と共に出来あがってきた専用機を乗っては直し乗っては直し、「もう公表しても大丈夫じゃないか」と本人含め皆が納得した時には既に年が明けておった。
ん、さらっと流したと言うのに食い付いて来おったか。
お前さんも若いのぉ。
じゃが、そこは気にしたら負けじゃし、年齢的にも問題はない。
言い忘れておったが、織斑一夏と来栖淳は中学三年生の十五歳じゃが、明智博光は同じ三年生でも高校三年生の十八歳なのじゃ。
未成年じゃが、結婚ができる歳なら問題ないじゃろ。
避妊についても女性側が薬でしっかりとしておったようじゃしのぉ。
むしろ問題はこの後の話じゃな。
明智少年が訓練に明け暮れている裏で、彼の父親が勤めておる会社のトップ陣は、細心の注意を払いながら信頼できる筋から秘密裏に交渉を進めていき、彼を春から『あいえす学園』に入学させる話をまとめておったのじゃ。
゛あいえす学園゛というのはの、名前のごとく世界で唯一『あいえす』について学べる教育機関でな、『あいえす』の開発者が日本人じゃったことから世界から押し付けられる形で日本が創らされたものなのじゃが、日本国内に建てられ、日本の国家予算から出資され、日本の責任の下に運営されておる機関であるにもかかわらず、世界中のどんな組織からも影響を受けない治外法権な施設とされておる場所なのじゃ。
ん、それの何が問題かじゃと。
問題大ありじゃ。
よいか、『あいえす』はそもそも女性しか動かせないのが今までの常識じゃ。
つまり『あいえす』について学ぶ学校は、必然的に女子校ということになる。
しかも゛あいえす学園゛は全寮制で、教師も職員も皆女性、敷地も島を丸々買い上げて建てられておることから巨大な密室と変わりなく、そんな中に非童貞の十八歳男子を一人放り込むのじゃぞ、むしろ問題しかないわい。
しかしじゃ、こんな無茶をする理由もちゃんとある。
言った通り゛あいえす学園゛は治外法権な施設じゃ。
授業のためとはいえ世界中のどの国よりも多く『あいえす』が配備されており、教師陣も一線を引いたとはいえ一流どころが揃っておる。
しかも次代の国家防衛を担う人材を育成する施設であると同時に、自国の武力を見せつける示威運動の場ということから世界中の目が常に集まっておる。
これはつまり表裏問わず、手を出しにくいという意味を持っておってな、中に入ってさえしまえば在籍中は身の安全がおおよその範囲で守られるというわけじゃ。
在籍期間は普通に考えれば三年間、その間に男性操縦者の扱いについて世界で議論、答えを出させようという魂胆じゃな。
まぁ、選択肢としては最善じゃったと儂も思うが、物事に゛いれぎゅらぁ゛は付き物。
入学まで後二ヶ月を切った所で、織斑一夏の゛にゅうす゛が世界を駆け巡った。
そして対応にまごついておる間に、今度は来栖淳が発見されてしもうた。
まぁ、それで開き直ってしまったんじゃな。
流れに乗って明智博光を三番目の男性操縦者として発表したというわけじゃ。
そして今にいたるわけじゃが、彼を”あいえす学園”で受け入れることが決まっておったことで、前の二人も一緒くたに入れてしまえと、すんなりと決められたことは不幸中の幸いじゃったろうな。
ちなみにじゃが、”あいえす学園”は日本の教育”しすてむ”の高等学校という扱いじゃ。
つまり十六歳から十八歳までの子供が通うわけじゃな。
女の園に男三人、しかも彼は本来ならこの春から大学一年生じゃったことから学園内は年下しかいないという”だぶるぱんち”じゃったりするのじゃが、ご愁傷様としか言えんわい、ふぉっふぉっふぉっ。
長々と説明したが、これで儂が注目しておる三人については大体伝わったじゃろぉ。
この三人は間違いなく、これからの世界の中心人物じゃ。
暇つぶしに観察するにはもってこいの逸材じゃろぉな。
どうじゃ、なんならお前さんも少し一緒に眺めて行っては。
ん、そうかそうか。
旅は道連れ、世は情けじゃな。
では、さっそく覗きに行くとするかのぉ。
とりあえずプロローグ的な何かでした。
次の話から学園での生活が始まります。