一般人の2人目とかなり盛ってる3人目   作:もけ

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初日だけでどれだけ書くつもりなんだと……。

ま、まぁ、こんなのは最初だけで、初日が終われば展開は早くなります。


IS学園初日⑥食堂

【織斑一夏の場合】

 

 保健室を出て真っ直ぐ寮へと向かい、部屋の前まで来てようやく「そういえば相手の女子の名前、聞くの忘れたな」と気付くも手は既にドアノブを回しており、不用意に開けた先には、ちょうど洗面所兼脱衣所から出てきた濡れた髪の幼なじみ、篠ノ之箒が立っていた。

 

 部屋着なのだろう、下ろした髪に半袖膝下の華美な装飾のないシンプルなワンピース姿は、『ザ・剣道場の娘』といったポニーテールの制服姿よりもお嬢様度が三割り増しに見え、教室での一悶着の負い目もあって一夏は一瞬腰が引ける。

 

「ほ、箒」

「一夏か。色々言いたい事はあるが、とりあえずノックぐらいしたらどうだ」

「す、すまん」

「もうすぐ夕食の時間だが、お前も荷物の整理があるだろうし、茶でも入れよう」

「お、おぅ、助かる。って、箒が俺のルームメイトなのか?」

「何だ、千冬さんから聞いてないのか?」

「あぁ、信用できる女子とは聞いたけど、誰かまでは教えてもらってない」

「うむ、私も直々に千冬さんから頼まれた身。本来なら男女七歳にして同衾せずと言いたい所だが、そこは幼なじみのよしみだ。私がお前を不逞な輩から守ってやる事にした」

「守るのは男の役目だ!! って反論したい所だけど、ついさっき投げ飛ばされて気絶した身じゃあ説得力がないよな。っと、そうだ箒、いきなり抱きついたりして悪かった」

「あ、あれは、その、私も過剰に反応し過ぎた。軽率だったとは思うがお前にそういう意図があったとは私も思ってはいない。ただ男性に不利な時勢だ。私だからこのくらいで済んだが、次からは気を付けるんだぞ」

「あぁ、ありがとう、箒」

 

 お許しが出てホッとした一夏はてきぱきと手際良く荷物を片付け、机のワークチェアに座って箒の入れてくれたお茶をすする。

 

 一息ついた所でシャワーの順番や着替えの仕方など男女が共同生活を送る上で欠かせない決まり事をいくつか決めてから、いい時間だろうとカーディガンを羽織った箒と食堂へ向う。

 

 食堂が開いているのは18時から21時までだがオーダーストップは20時で、18時半を回った現在はピークに差し掛かろうというタイミングのため窓際のボックス席は埋まり、長テーブルに少し空きが見える程度の混み具合となっている。

 

 一夏がざる蕎麦に鱚(きす)の天ぷら、筑前煮をトレーに載せて空いている席を探すと、ボックス席の一つに放課後ニアミスした人物を発見した。

 

「箒、あそこに相席を頼んでもいいか」

「む、仕方ないな」

「よし、ならさっそく行こうぜ」

「あ、こら、先に行くな」

 

 トレーを持っていなければ駆け出してしまいそうに逸る気持ちを何とか早足程度に抑え、目的の席へと向かう。

 

「食事中、悪い。良かったら相席頼めるか」

「お? おぉ、織斑一夏。意識戻ったんだな。もう大丈夫なのか。って、まぁとりあえず座れよ」

 

 声をかけた相手は来栖淳。

 

 同い年の男とあって、一夏にとっては最も声をかけやすい相手だ。

 

「もう一人いるんだが、いいか」

「げっ、あんたはさっきの暴力女」

「一夏、私は一人で食べる事にする」

 

 淳のリアクションに瞬時にへそを曲げた箒の袖を掴んで止める。

 

「まぁ待てって。こいつは俺の幼なじみで篠ノ之箒。昔っから剣道習ってて手は早いが、誰かれってわけじゃないから安心してくれ」

「おい、一夏。それではまるで私が危険人物みたいではないか」

「いや、そういうつもりじゃ」

 

 フォローを入れたつもりが藪蛇になった所で、淳と食事を取っていた女子生徒、本音から助け舟が出される。

 

「まぁまぁしののんもおりむ~もとりあえず座りなよ~。せっかくのご飯が冷めちゃうよ」

「し、しののん!?」

「おりむ~って、俺の事か?」

「あぁ、布仏は初対面の相手に一方的に変なあだ名つけるのが趣味らしい。諦めろ」

「変なって、じゅんじゅん酷い~」

「はいはい、すみませんね」

「とりあえず座るか、箒」

「う、うむ」

 

 向かい合って座っていた淳と本音が奥にずれ、空いた場所に一夏と箒が腰を降ろす。

 

「織斑一夏だ。さっきは無駄足させて悪かった」

「気にすんなって。俺は来栖淳。よろしくな」

「なぁ、同い年の男は俺たちだけなんだし、名前呼びでもいいか」

「あぁ、いいぜ。さすがに明智さんを下の名前じゃ呼べないからな」

「おぉ、やった。改めてよろしくな、淳」

「あぁ、一夏」

 

 一日中女子に囲まれ精神的にまいっていた一夏は、ここぞとばかりにテンションが上がっている。

 

「私はじゅんじゅんのクラスメイトでルームメイトの布仏本音だよ~」

「わ、私も一夏と教室と寝所を共にする篠ノ之箒だ。よろしく頼む」

「よろしくな、布仏さん」

「おりむ~はおりむ~だから私にもあだ名付けてくれてもいいんだよ?」

「そうか? えっと、じゃあ『のほほんさん』なんてどうだ」

 

 語呂もいいし、見るからに、こう、のほほんという感じなのだ。

 

「お、それ何かそれっぽいな」

「一夏、少し失礼じゃないか」

「おっけ~おっけ~。大丈夫だよ、しののん。ありがとね」

「う、うむ、布仏が嫌じゃないならいいんだ」

「しののんもあだ名…………は苦手そうだから、せめて名前で呼んで欲しいな~なんて」

「分かった。本音、よろしくな」

「うん、よろしくね~しののん」

 

 とても社交的とは言えない幼なじみに、クラスは違うが早々に友達ができた事に、一夏は父親が娘を愛でるような笑顔を向ける。

 

「それにしても本当に淳も女子と相部屋なんだな」

「最初聞いた時はさすがに俺も耳を疑ったけどな」

「やっぱ、そうだよな。うんうん」

「だけど理由が理由だから断れねぇし、こっちはまぁ諦めるしかないわな」

「だよな~」

「そうそう、じゅんじゅんは弱っちぃから観念するのだ~」

「く、悔しいが言い返せない」

「何かあったのか」

「あぁ、同室の子は護衛だって聞かされてたからどんなゴッツいのが出て来るかと身構えてたんだが、ふたを開けてみれば着ぐるみだろ? 正直信じられなかったんだが、布仏はこう見えて合気道の段持ちらしい。ってか、実際に転がされまくった」

「へぇ~、人は見掛けによらないとはよく言ったもんだな」

「一夏、失礼だぞ」

「う、確かに。ごめん、のほほんさん」

 

 箒に睨まれ、即座に謝る一夏。

 

 この素直に自分の非を認め、頭を下げられる点は一夏の美点と言える。

 

「自分でもそう思うから大丈夫~。しののんは優しいさんだね~」

「そ、そんな事ないぞ。当然の事をしたまでだ。うん」

 

 そんな下手な照れ隠しをする箒を見て、「ツンデレかよ」と淳がボソッと呟くと、「何か今、聞き捨てならない事を言わなかったか」と耳ざとく聞きつけた箒が態度を180度変えて睨みつける。

 

「き、気のせいじゃないかな~。あ、ほら、あっちに明智さんがいるみたいだから俺呼んでくる」

「じゅんじゅんのヘタレ~」

「うるせぇ」

 

 本音に茶化されつつ一夏を押しのけ、凄みを利かせる箒から逃げ出した淳の背中を目で追えば、三人目の男、明智博光を視界にとらえる。

 

 そのまま成り行きを見守っていると、淳と二、三言葉を交わした明智の隣りにトレーを持った眼鏡の女子が並び、こちらを睨んだかと思うと背を向けて行ってしまい、明智もそれを追って行ってしまった。

 

 それを見送り、何とも言えない表情で帰ってきた淳。

 

「どうしたんだ」

「あぁ、いやぁ、よく分かんねぇけど、とりあえず明智さんはルームメイトの子と食べるってさ」

「そっか。じゃあ、俺はちょっと保健室に運んでもらったお礼だけでも言ってくるよ」

 

 しかし、これにはストップがかかった。

 

「おりむ~。今はやめといた方が良いと思うな~」

「のほほんさん?」

「かんちゃん、先輩の隣にいた女の子だけど、ちょっと理由があっておりむ~のこと凄く怒っちゃってるんだよね~」

「お、俺!?」

「明智さんは普通に先輩なのな」

「口振りからすると一夏と彼女には面識がないようだが?」

「うん、怒ってる理由も直接おりむ~のせいってわけじゃないんだけど、そこは仕方がないって言うか~」

「なんだよ、布仏。もったいぶらずにスパッと言っちまえよ」

「あぁ、俺に責任があるならちゃんと謝りたいし、教えてくれないか」

「じゃあおりむ~、おりむ~の専用機の話って聞いてる?」

「専用機ってアレか? 世界大会で千冬姉が動かしてた暮桜みたいなやつ」

 

 第一回はテレビ中継を見ていたし、第二回は会場で生で見ていた。

 

「そう、それ」

「いや、何も聞いてないけど。え、俺、もらえるのか?」

「あげるわけじゃないけどね~」

「明智さんに次いで一夏もか。羨ましいじゃねぇか、こいつ」

「『次いで』って事は明智さんはもう持ってるのか?」

「あぁ、明智さんは俺らより一年早くIS動かしてるし、企業のテストパイロットしてるからな」

「へぇ~、それって給料出たりすんのかな?」

 

 人によってはあまり良い印象を受けない質問だが、一夏にとってそれはとても重要なポイントなのだ。

 

「出るんじゃねぇか? よく分かんねぇけど」

「だったら俺もなれないかな。そのテストパイロットってやつ」

「なんだよ、何か欲しいもんでもあんのか?」

「いや、うちは俺が物心つく前から親がいなくて千冬姉が女手一つで俺を養ってくれてきたんだ。だから少しでも早く独り立ちして恩返しがしたくてさ。中学ん時は自分の生活費くらいはって無理言って知り合いにバイトさせてもらってたし、高校も就職率いいとこ選んだんだけど、こんな状況だろ? どうしたもんかと思ってたんだけど、今から稼ぐ手段があるならむしろ好都合だと思ってさ」

「なんつぅか、色々大変なんだな」

「一夏、お前…………」

「おりむ~は偉いさんだね」

 

 一夏の突っ込んだ事情に、話を聞いた3人は感心した表情を浮かべる。

 

 普通ならそれらに照れたり何らかの反応を返す所だが、自己評価が低いというか、自分基準が先行し過ぎて自分の考えが当たり前だと信じ込んでいる一夏は、向けられている視線の意味も言葉の意味も感じ取る事はせず、話を進める。

 

「やっぱり経験者に聞くのが一番だよな。とりあえず明智さんにって、そうだ、俺が専用機をもらえる事とあの女の子を怒らせる事とどう繋がるんだ?」

「それはね~、おりむ~の専用機を作るからって、それまで作ってたかんちゃんの専用機の開発が止められちゃったからなんだよ~」

「なんだよ、それ」

「のほほんさん、もっと詳しく教えてくれないか」

「ん~、そんなに詳しく知ってるわけじゃないんだけど、おりむ~たち男性操縦者がISを動かせる理由を調べなくちゃっていうのは分かるよね?」

「あぁ」

「そのためのデータを集めるために専用機が用意される事になりました~っていうのも当然な流れだよね?」

「そうだな」

「でもISのコアの数は決まってるし、余ってるのなんて滅多にないんだよ」

「『滅多に』って事はあったんだな」

「うん、日本の代表候補生であるかんちゃんの専用機を、かんちゃんのIS学園入学に合わせて作ってた会社、倉持技研にね」

「つまりその会社は一夏の専用機を作るために彼女の専用機を後回しにしたという事なのか」

「ううん、違うよ、しののん。それならまだ良かったんだけど、かんちゃんが言われたのは無期延期、事実上の開発中止だったんだよ」

「むぅ」

「ひでぇな」

「な、何で中止に」

「単純に手が回らないからだって~。ISは作って終わりじゃないからね。補修に改良もしなくちゃだし、それにそもそもの目的、男の子であるおりむ~がISを動かせる理由の解明っていう大仕事があるから」

「他に引継ぐ事はできないのか?」

「ISは機密の塊だからね~。他に回すくらいなら解体してコアを貸し出す方がマシなんじゃないかな~」

「そっか…………そんな事になってたら怒りを買ってるのも当然だな」

「いや、しかし一夏は悪くないではないかっ」

「確かに八つ当たりだと思うよ~。かんちゃんもそれが分かってるから怒ってても何も言わないんじゃないかな」

「それは、そうなのだろうが…………」

「箒、ありがとな。俺の事なら心配いらない」

「一夏…………」

「彼女の怒りはもっともだと思う」

 

 そう言って、席を立つ一夏。

 

「どこ行くんだよ?」

「気が晴れるか分からないけど、一発くらい殴られないと彼女に悪いだろ?」

「そんなっ」

「いいんじゃねぇの」

「来栖っ、貴様何をっ」

「格好つけてこそ、男ってもんだよな」

「そういう事だな」

 

 一夏と淳は拳をぶつけ合い、男らしい通じ合い方をする。

 

「えっとね~おりむ~」

「なんだ、のほほんさん」

「青春してるとこ悪いんだけど~、できればTPOは考えてくれると嬉しいかな~」

「TPO?」

「ほら、おりむ~たちって目立ってるでしょ? こんな所でおりむ~をかんちゃんが責めたらかんちゃんが悪者みたいになっちゃうと思うんだけどな~」

「うっ」

「あぁ~確かにな」

「一夏、諦めろ」

 

 しぶしぶ腰を下ろした一夏は、冷えてしまった食事に手を付けるのだった。

 

 

 

 

 

【明智博光の場合】

 

 織斑を見咎めるなり背を向けてその場から離れ、視界に入らない席に腰を下ろした簪。

 

 それを追った博光は向かい合って座り、簪が自分から会話を切り出すまで沈黙を守りつつ食事を進める。

 

「あ、あの、ごめんなさい」

 

 簪がそう口を開いたのは二人の食事が終わって博光がお茶を持ってきた時だった。

 

「織斑か?」

 

 頷きが返ってくるが、無言で続きを促す。

 

「悪いのは日本政府や技研だって、これは八つ当たりだって、私にも分かってはいるんです。だけど、それでも原因である彼が許せなくて」

 

 うつむいてしまっているため表情は読めないが、声には苦々しい感情が乗っているように感じられる。

 

「簪は大人だな」

「え、」

「簪の立場を考えれば、織斑の頬を一発二発ひっぱたくくらいしても誰も責めはしないだろう。なのに彼を責めるでもなく、自分の感情を抑えて距離を取っている。分別のある行動だと思う」

「えっと、あの、つ、疲れる、から」

 

 博光からの評価が気恥ずかしかったのか、少し落ち着きをなくし、チラチラと博光を見たり、目が合えば逸らしたりと忙しくなる。

 

「疲れる?」

「怒ってるのって疲れます。自分の中がぐちゃぐちゃになって、嫌な事ばっかりぐるぐるして。それに叩いても、手、痛くなるだけですし」

「ふっ、簪は変なとこで合理的なんだな」

「へ、変ですか?」

「いや、好ましいよ」

「そ、そうですか」

 

 ホッとした様子でようやく簪の表情が和らぐ。

 

「織斑は3人の男性操縦者の中でも飛び切りのVIPだ。仲良くなるに越したことはないが、気乗りしないのに無理して関わる必要もない」

「はい」

「政府や家からは何も言われていないんだろう?」

「はい、特に何も」

「じゃあ簪は専用機の開発を全力で楽しんでいればいいさ」

「が、頑張ります」

「研究者を目指していた手前、そういう機会に恵まれるのは正直羨ましい限りだ」

「明智さんは宇宙に興味があるんですよね?」

「あぁ、子供心に宇宙から地球を見てみたい。そして違う星に立ってみたいって思ったのがきっかけだったよ」

「ちょっと分かる気がします」

「うん、気軽に行けるなら行ってみたいと思う人間が大半だと思う。それを足掛かりに宇宙開発を進めていく研究がしたかったんだが、まぁこんな状況になってしまっている」

「それは、その、」

 

 博光を傷付けてしまったかと、フォローしようとして焦っている簪は、それだけで可愛らしく見ていて癒される。

 

 と、いつまでも愛でていては悪いので、こちらからフォローを入れる。

 

「気にするな。まだ秘密だが、まるっきり諦めたわけじゃないんだ。簪の方が落ち着いたら相談に乗ってくれるか?」

「は、はい、私なんかで良ければ」

「ありがとう」

「ど、どういたしまして」

 

 はにかんだ笑顔も可愛らしい簪を見ながら、一人っ子の博光は「妹がいたらこんな感じだったか」と、実際に妹がいる者にしてみれば失笑ものの感想を抱いていた。

 




実際に兄弟、姉妹がいる人と、一人っ子って温度差ありますよね。
かく言う作者も姉持ちです。
悪いもんじゃないですが、そんなに良いもんでもないですよ。
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