申し訳ないです。
さて、一日回ってみてどうじゃったかな。
なに、意外と面白かったじゃと。
それは何よりじゃが、その事ではない。
何か思い出したかと聞いておるのじゃ。
まぁその反応を見る限り、収穫はなかったようじゃがな。
ま、構わんじゃろ。
試しに聞いてみただけじゃ。
忘れてる事を忘れられてる内は大丈夫じゃ。
別に焦燥感なんかはないんじゃろ。
なら問題なしじゃ。
それで、織斑少年に憑いて回ってみてどうじゃった。
ほほぅ、確かに『お馬鹿なへたれいけめん』は秀逸じゃったのぉ。
姉には頭が上がらず、予習してくるはずじゃった参考書を間違って捨ててしまったせいで授業はちんぷんかんぷん、高飛車なお嬢様には難癖を付けられ、゛らんち゛は屋上に避難、最後は自業自得じゃが幼なじみに狼藉を働いて投げ飛ばされて気絶と、まぁなんじゃ、愉快な少年じゃな。
じゃが儂の憑いとった明智少年も女性教師にただれた性生活を暴露、というより説教されとったし、来栖少年も゛るぅむめいと゛の女子に転がされまくっとったようじゃから、お相子といった感じじゃな。
なに? 織斑少年は゛くらす代表゛にならんのかじゃと。
おぉ、言われてみれば一組の記録を見る限り゛くらす代表゛を決めておらんかったようじゃのぉ。
大方、遅れてきた担任教師がえらくもてはやされとったせいで゛ほぉむるぅむ゛の時間が押して決め忘れてしまったんじゃろぉ。
まぁ明日にでも決めるのではないか。
それに今日決めようが明日決めようが織斑少年が選ばれる事には違いはあるまい。
そこは空気を読むじゃろ。
ん? おぉ、確かに。
あの金髪がくりんくりんしとるお嬢さんは何か言ってきそうじゃな。
今から楽しみじゃのぉ。
儂も明日は織斑少年に憑こうかの。
後はそうじゃな、三人の゛るぅむめいと゛はどうじゃった。
侍のような時代錯誤な娘に、動物の着ぐるみで擬態しておる食わせ物な娘、色々問題を抱えてそうな眼鏡の娘じゃ。
ふむ、儂もあの侍娘は織斑少年に恋慕の情を抱いておるように見えたの。
本人は全く気付いておらんようじゃったがな。
幼なじみはかませ犬というのが鉄板じゃが、はてさて、どうなるかのぉ。
おぉ確かにあの着ぐるみには儂もすっかり騙されたわい。
あれぞ正しく擬態じゃな。
美しい花には棘があると言うが、可愛らしい動物にも爪があるとはのぉ。
護衛としては申し分ないんじゃが、なんとも複雑な気分じゃ。
ふむ、゛あいえす゛をたった一人で組み上げる事が可能かどうかか…………普通に考えれば無謀と言わざるを得んが、身近な所に前例がおるからのぉ。
彼女の姉じゃ。
どうやら姉妹仲があまり良好とは言えんらしくてのぉ、何やら妹が姉に対して対抗心を抱いておるそうなのじゃ。
まぁ動機はそうじゃとしても、明智少年も言っておったように失敗も成長の糧になるのじゃから、思い切ってやりたいようにやってみればいいという考え方には儂も賛成じゃ。
後は織斑少年との因縁をどうしていくかも気になる所じゃな。
それによって明智少年の振る舞いも変わってこよう。
板挟みにならんとよいがのぉ、ふぉっふぉっふぉっ。
さて、今日のまとめはそんな所じゃな。
儂らのような存在に睡眠は基本必要ないが、こういうのは気分じゃ。
空き部屋でも探して゛べっと゛を借りるとしようかのぉ。
あぁ心配せんでも保健室という保険があるから見つからんでも安心してえぇぞ。
【織斑一夏の場合】
昨夜、来栖淳から話を聞いた時点で一夏は覚悟していた。
いや、諦めていたと言った方が正しいかもしれない。
世界で三人しかいない男性IS操縦者。
その一人がクラスにいれば御輿として担ぎ上げようとするのは至極当然の流れで、当人にしてみれば有り難迷惑でしかなかったとしても、数は正義であり力なのだ。
しかも男子1人に対して女子29人ではお話にすらならない。
それは女尊男卑になる前の世界でも変わらない一面の真理と言える。
クラス代表。
昨夜、来栖淳からその話を聞き、自ら立候補した明智博光と推薦された来栖淳という違いはあっても圧倒的多数から支持される『学園における男子のあり方』をまざまざと見せつけられてしまっては、明日の我が身がどうなるかなど火を見るより明らかだろう。
そして朝のホームルーム。
担任である姉の口から「昨日は決め忘れたが」という切り口で始まったクラス代表決めは、案の定一夏を推薦する声で占められた。
語り出しで述べた通り、一夏はこの展開になる事は覚悟していたし、諦めてもいた。
だがしかし、自分の意志のない所で勝手に期待されるままに流される事に対して、ささやかな抵抗の構えを見せる。
「先生、俺はオルコットさんを推薦します」
「ほぅ、理由を言ってみろ」
ドイツへの単身赴任もそうだが、一夏を女手一つで養うために高校を卒業してから家を空けている状態が日常になってしまっている姉だったが、そこは血の繋がりのなせる技か、はたまたシスコンとブラコンというWIN-WINな関係の影響か、鈍感な一夏にも姉の機微だけは察する事ができるようで、こちらを面白がる視線が半分に試している視線が半分と、要は遊ばれているのを察するが、平静を取り繕って先を続ける。
「彼女が代表候補生で入試は主席合格、それに専用機を持っているからです」
「ふむ、誰の入れ知恵だ」
切り返しでいきなり看破された事に頬がひきつるのを自覚しつつ、事実を前に出す事で、なんとかアドバイスしてくれた来栖淳や布仏本音の存在を誤魔化す。
「いえ、本人から昨日色々言われました。自分はエリートだから頼めば教えてくれるって。つまりこれって彼女がそういう立場に慣れているって事じゃないですか」
「どうなんだ、オルコット」
姉に急に水を向けられたオルコットは慌てて立ち上がり、返事こそ優雅さを欠いていたが、すぐに体制を立て直し、場慣れした強さを見せ付ける。
「は、はいっ! わたくしは貴族として代表候補生として人の先に立ち、導く事を経験しております。彼に言った通り、請われれば手助けするのも吝かではありません。ノーブル・オブリゲーション、下々に手をさしのべるのは高貴なる貴族の義務ですから」
胸を張り、その張った胸と腰に手をやった姿勢のオルコットは、そのまま高笑いしそうなほど自信に満ち溢れているように見える。
しかしそれを聞くクラスメイトとは温度差があり、その鼻持ちならない態度に眉をしかめる者もチラホラと見受けられるが、他人への関心が薄いせいで機微に疎く、その反面で無駄に懐の広い一夏は特に思う所はなく、「へぇ、貴族ってまだいるんだな」と的外れな感想を抱いていた。
と、ここで話がまとまって彼女が代表に決まれば丸く収まったのだが、そうは問屋がおろさない。
「ふむ、どうやら候補はこの二人に絞られたようだな。多数決を取る前に、教師として公平を期すためにいくつか情報を付け加えておこうか」
そう言った時の姉の口元は悪戯を思い付いた子供のようにつり上がっていて、一夏は嫌な予感しかしない。
「まずクラス代表の大きな仕事としてクラス代表戦が挙げられるが、これにはクラス代表とは別にもう一人参加する事になっている。大会と言っておきながら1学年4人では様にならないという理由もあるが、代表候補生や専用機持ちがなりがちなクラス代表だけでは一般生徒の実力が見られないという教育機関ならではの理由もある。このもう一人の選考基準は成績で選ばれるのが常だが、クラスの総意として推薦がある場合はそちらを優先しても問題はない。珍しいケースだが、代表候補生とテストパイロットの二枚看板で挑んだクラスも過去にはあった。優勝したクラスには全員に賞品が出るとあって皆必死というわけだな。山田君、今年の賞品は何だったかな」
「はい、学生寮食堂の一年間デザートフリーパス券ですね」
それを聞いた甘いものに目のない女子高生たちから歓声があがる中、一夏も「デザートじゃなくて定食のフリーパス、は無理でも割引に変更してもらえたりしないかな」と暢気に気を緩めていたが、続く姉の言葉に打ちのめされる。
「もう分かっていると思うが、別に織斑を選んだとしても、優勝にこだわるならオルコットを大会に推しても構わないという事だ」
これは明らかに一夏への嫌がらせ、もとい実力の劣っている一夏への援護射撃である事は疑いようがない。
「ちょっ、千冬姉っ」
「織斑先生だ」
「…………すみません」
文句を言おうにも、即座に出席簿で鎮圧される一夏。
まぁ素で呼んでしまった一夏の自業自得だ。
「織斑先生、よろしいでしょうか」
「なんだ、オルコット」
「クラス代表の座を譲る気は毛頭ありませんが、もし万が一にも彼が代表に選ばれたとして、もう一人の成績優秀者は必然的にわたくしという事になると思うのですが」
「いや、その場合は訓練機を使う一般生徒から選ぶ事になる」
「な、なぜですか。訓練機なら彼が使いますでしょう」
「いや、織斑には近々専用機が用意される。データ取りと、まぁ自衛のためだ」
「なっ!?」
オルコットを始め、先ほどの歓声とは違った意味で教室が喧騒に包まれるが、当の一夏はと言えば、専用機をもらえるという事の意味をまだよく理解していないせいで、周りの反応に微妙な表情を返す事しかできないでいた。
それに対して気が気でない様子なのがオルコットだ。
専用機というアドバンテージは潰され、実力差も代表にならなくても代表戦の大会に出られるとあっては、後はもうどちらがよりクラスの顔に相応しいかという単純な話になってしまっている。
彼女は自分の国にも代表候補生という肩書きにも誇りを持っているが、それでも一国の代表候補生でしかない自分と、世界に三人しかいない男性操縦者。
しかも一夏はその中でも飛びっきりのネームバリューを誇るブリュンヒルデの弟とあっては正直なところ、彼女の旗色はかなり悪いと言わざるを得ない。
その人気の高さは昨日一日、一夏のお馬鹿でヘタレで情けない振る舞いを見た上で、なお代表にと推す声が大きい事からも容易に感じ取る事ができる。
かと言って、この不利な流れを変えようにも、この状況を作り出した黒幕は明らかに目の前の担任教師であって、一塊の候補生ごときがかのブリュンヒルデに刃向かえるはずもなく、しかもやった事は大会のルールの説明と一夏に専用機が用意される事実を告げただけとあっては、どちらにしろ文句のつけようもない。
しかし彼女はただ結果を座して待つのを良しとはしなかった。
その理由について語るためには、少し彼女の生い立ちについて触れなければならない。
彼女は12歳のおり、両親を事故で揃って亡くしてしまい、若くして、本当に若々し過ぎる歳でオルコット家の当主に就いている。
それが彼女の苦難の始まりだった。
昔と違い今の貴族は土地の運用や会社の経営で生計を立てている。
つまりは地主や会社のオーナーという事になる。
そんな地位に日本で言えば小学六年生でしかない無知な子供が就いたとしたら、それはもう鴨が葱どころか鍋まで背負って来たようなもの。
彼女を自分の好きなように操ろうとする後見人、養子にして家を乗っ取ろうとする親戚遠者、持ち株を手放させて経営権を奪おうとする役員たち、詐欺紛いの契約を持ち込む取引先など、利権に群がるハイエナのような連中が大挙して押し寄せて来たが、聡明だった彼女は現状維持以外の全てを突っぱねる事でとりあえずの時間稼ぎをしたが、それも早々に限界が近付き、追い詰められた彼女は親から残された家を守るために、己の身を差し出す決心をした。
EUで統一規格のISを配備する計画『イグニッションプラン』。
そのコンベンションに参加するために自国が推し進めているISの次世代機の開発。
その目玉となる特殊兵装『BTシステム』に対する彼女の高い適正に目を付けた政府から、テストパイロットを務める代わりに家の保護を申し込まれたのだ。
まだほんの子供でしかなかった彼女に他の選択肢はなかったのは事実だが、これでは体のいい人質も同然。
もちろん彼女もそれを理解しているため、彼女はISについて妥協するという事がなかった。
ことは自分の身だけでなく、雇っている使用人や従業員、その家族にまで類の及ぶ問題なのだからと。
しかし彼女には同時に貴族の子女として求められる教養というものがあり、IS以外の時間はもっぱらそちらに当てられ、テニスや乗馬は身体能力のトレーニングとして、お茶を飲めば茶葉の銘柄や産地を気にし、音楽を聞けば曲にまつわる蘊蓄を覚えるといった様に、本当の意味でのプライベートな時間というものは彼女の生活から姿を消した。
その甲斐もあって遡ること半年前、彼女は見事イギリス製第三世代機『ブルーティアーズ』の専属パイロットに選ばれる事となった。
しかしそれは一つのゴールではあっても同時に新たなステージのスタートでもあり、彼女の苦難は終わらない。
今年で16歳、まだまだ小娘と呼ばれる年齢の彼女が当主としての足場を固め、対外的にも確固たる地位を築き、自分の力だけで家を守れるようになるその時まで、結果を出し続けなければならないというプレッシャーと常に戦い続ける。
そして今回、イギリスの代表候補生として、相手がいくら男性操縦者であったとしてもスポットライトの当たる場所を譲るわけにはいかないのだ。
国から「男性操縦者とは良好な関係を築くように」とも言われているが、それは自身が代表となり、彼を指導する立場になれば問題ないと考えている。
その背景には「自分が上でなければ気が済まない」という少なからず男性を蔑む女尊男卑に染まった感情も含まれている事は否定しないが、決してそれだけではない事を理解しておいて欲しい。
長々としゃべってしまったが、そういった理由から彼女は少しでもクラスメイトの関心という天秤が自分の方に傾くようにと行動に移る。
「織斑先生」
「なんだ」
「多数決を取られるのでしたら、その前にアピールタイムを設けていただけませんか。やはりクラスの代表を務める以上、モチベーションは高いに越した事はないと思うのですが」
「ふむ、まぁいいだろう」
「ア、アピールタイムって、そんなのやるくらいだったら俺は」
「黙れ。推薦された以上、辞退は許さん。周りの期待に応えるくらいの気概を見せんか馬鹿者が」
「…………すみません」
懲りずに二発目の出席簿をちょいだいする一夏。
とりあえず、オルコットの思惑通りに舞台は整えられた。
「オルコット、レディファーストだ。やれ」
「はい」
気持ちを切り替えた彼女の佇まいは、公的な立場の経験ゆえか、同い年とは思えない凛とした雰囲気を醸し出す。
「皆さんが彼を、世界に三人しかいない男性IS操縦者を持ち上げたい気持ちも分かりますが、少し落ち着いて冷静に考えてみてください。彼はほんの二月前にISに触れただけの全くの素人、いえ、学業と言う積み重ねがない分、素人以前の問題だという事は昨日の授業態度を見れば一目瞭然でしょう。入学試験の際に試験官を倒したという話も調べてみれば不用意に突撃してきた試験官を躱しただけで、あれは無様を晒した試験官の自爆でしかありませんでした。正直な話、あれでよく試験官が務まるものだと疑問しか湧いてきませんでしたわ。多分ですが、貴重な男性操縦者に怪我をさせるわけにはいかないという上からの圧力と、そんな事をなさるとは露程も思ってはいませんが、ブリュンヒルデの怒りを買ってしまうかもと邪推したのではないでしょうか。これは別に彼のせいではありませんが、そういう色眼鏡で見る事は思わぬ所で足元をすくわれる結果になるという良い例かもしれません。代表戦については確かにもう一つの枠にわたくしを推薦していただければ勝利の二文字を皆さんにお約束いたしますが、それでもクラスの看板であるクラス代表が負けた事には違いありません。それにクラス代表には委員会の出席やクラス運営の仕事があります。昨日一日の彼の体(てい)たらくを見て、安心して任せられると言えますか? 要必読の参考書を電話帳と間違えて捨てて気付かない方ですのよ? わたくしは不安しかありません。そもそも自分たちをまとめるのが男で皆さん本当によろしいんですか? 情けなくわたくし達女性の顔色を窺う事しかできない男に、自分たちの代表を任せると? 確かに彼はISを動かせます。他の男どもとは違うかもしれない。そこに期待したい気持ちも少しですが分かります。しかしわたくし達は、子供の頃から己を高めるために研鑽を積んできたわたくし達は、男でISを動かせたからというただそれだけの理由で入学を許された彼と果たして対等なのですか? いいえ、そんな事わたくしは認めません。遊びたい心を我慢し、手を抜きたい心を戒め、友人たちと切磋琢磨し、狭き門を争ってきたたわたくし達の努力に対する、これは侮辱です。面倒事を押し付けたい。娯楽としてちょうどいい。お祭り好きとして盛り上げたい。せっかく閉鎖された空間に異性がいるのだ。楽しまないのはもったいない。そういった気持ちを否定したくはありませんが、もう一度よく考えてみてください。一国の代表候補生まで登りつめ、国の未来のかかった専用機を任されたわたくしと、姉の七光りとISを動かせたという希少性だけの彼と、どちらが皆さんの代表に相応しいか。皆さんが賢明なる判断を下される事を期待して、わたくしの話を終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました」
優雅に制服のスカートを摘まんで一礼して見せた姿に、思わずと言った感じの溜め息が漏れ、次いで拍手が巻き起こった。
その拍手には、こけ下ろされた当の本人である一夏も加わっている。
男云々という点には思う所はあるが、そういう男がいる事は一夏も実際に目にしてきていたし、参考書を捨てた事や自分が望んだ事ではないがほぼフリーパスで入学してきたのは紛れもない事実なのだから、そこを否定するつもりは一夏には全くなかった。
そして日本人の自分からすればオーバーリアクションに感じられたが、その大きな身振り手振りを交えた演説は正直見事と言っていいレベルだった。
それゆえの拍手である。
「これなら俺に代表が回ってくる事はないだろう」という安心感も気持ちを軽くしている。
そんな一夏のゆるんだ表情を見咎めている視線がある事を一夏は気付いていない。
セシリアさん、ちょっと原作よりマシにしてみました。
チョロイさんになるかは……。
皆さん、チョロイさんはお好きですか?