[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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十六話「人の命と雨の日」

「よぉ大将、迎えに来たぞ」

 

[あ、ハボックさん、こんにちは]

 

 

タッカーさんに連れられてタバコをふかした軍服の男性がこちらへやってくる。ロイさんの部下のハボックさんだ。人の良さそうな笑顔を浮かべ、「よっ」と手をあげて答えてくれる。

 

 

「...大将はなにやってんだ?」

 

 

ハボックさんの視線がアレキサンダーとニーナちゃんにぺちゃんこにされているエド兄に向けられる。「ああああうう」とエド兄が唸っている。

 

がばっと顔をあげたエド兄が焦った顔で

 

 

「いや、これは資料検索の合間の息抜きというかなんと言うか!」

 

 

と弁明を始める。

 

 

「で、いい資料は見つかったかい?」

 

 

タッカーさんの言葉に顔を青くして冷や汗を垂らすエド兄。ばう、とアレキサンダーの手がエド兄の頭に乗せられた。うらやましい。

 

 

「....またあした、来るといいよ」

 

 

タッカーさんの言葉にエド兄はこくこくとうなづいた。

 

 

[すみません、お世話になります]

 

「お兄ちゃんたちまた来てくれるんだよね?」

 

「うん、また明日遊ぼうね」

 

 

タッカーさんに頭を下げている後ろで微笑ましい会話が繰り広げられている。アル兄は小さい子や動物と接している時はなんだかほわほわしたオーラを纏う気がする。

 

ニーナちゃんとアレキサンダーにばいばい、と手を振り帰路につく。

 

 

[ニーナちゃんもアレキサンダーもいい子だね]

 

「ニーナはともかくあの犬畜生は...次こそ見つけてやるっ...」

 

「ボクらに妹がいたらあんな感じなのかなー」

 

「アル...実はずっと言わなきゃと思ってたんだがな...お前の頭は妹の魂が定着してるんだ...」

 

[オニイチャーン(高音)]

 

「タチの悪い冗談やめて!?ハルも悪ノリしないの!!」

 

 

3人茶番を繰り広げながら茜色の道を歩く。アル兄にもー!!と怒られ、エド兄と顔を見合わせ駆け出す。ガシャガシャと鎧がなる音とエド兄の笑い声、ハボックさんの慌てた声と4人分の足音が茜の街に響いた。

 

 

 

 

ペラリ....ぺらり...

 

次の日。タッカーさんのお屋敷にお邪魔しまた研究資料を見せてもらっていた。

 

昨日と違うのは書庫にニーナちゃんとアレキサンダーがいることか。

 

ペラリ...ペラリ...

 

(にしてもこの資料数は本当にすごい。これだけの知識が全て頭に入っているなら人語を理解する合成獣を作ることも可能なのだろうか。まずそれだけの脳は、神経回路などはどこから持ってきているのだろう。チンパンジーやゴリラなどが人間に似てるとは言われているが...)

 

 

「ばう!!」

 

 

ハッと顔をあげる。アレキサンダーとニーナちゃんがこちらを覗き込んでいた。

 

 

「お兄ちゃん、一緒に遊んでくれる?」

 

 

入口付近には腕を組んでドアにもたれかかっているエド兄と今しがたドアノブに手をかけるアル兄が見える。

 

ちら、とエド兄を見ると

 

 

「オラ、犬行くぞ!」

 

 

と言ってアレキサンダーを呼び寄せる。

 

アレキサンダーはばう!とひと鳴きしてエド兄の方へかけて行った。

 

 

[ニーナちゃん、おれたちもいこう]

 

 

そうニーナちゃんに声をかけるとにぱっと笑って「うん!」とうなずいてくれた。

 

 

 

 

ゴロロロロ...

 

遠くで雷鳴がする。すん、と鼻を鳴らすと独特の雨の匂いがどこからか漂って来ていた。

 

 

「今日は降るなこりゃ」

 

 

カランカラン...

 

アル兄がタッカー邸の呼び鈴を鳴らす。

 

それからぎぃ、と扉を開けた。

 

 

「こんにちはー、タッカーさん今日もよろしくお願いします...あれ?」

 

 

いつもならアレキサンダーが真っ先に飛び出してきて、その後にニーナちゃんやタッカーさんが来てくれている。何も返事のない館に、言い表し用のない不安感が募る。

 

 

「誰もいないのかな」

 

「タッカーさん?」

 

 

不信感を抱きながらもスタスタと入っていく。2日間ですっかり見慣れた館を、住人の名を呼びながら歩く。

 

 

「タッカーさーん」

 

「ニーナ?」

 

[アレキサンダー?]

 

 

歩き回っていると半開きの扉があった。ちらりと見えた室内にはタッカーさんの姿があった。

 

 

「なんだ、いるじゃないか」

 

「ああ、君たちか」

 

 

エド兄が声をかけるとゆったりとした仕草でこちらを振り返るタッカーさん。

 

その足元でナニカが動いているのが見えた。

 

 

「見てくれ、完成品だ」

 

 

そう言いながらタッカーさんはその足元のナニカをこちらにはっきりと見せてくれる。

 

タッカーさんの背丈の半分ほどの犬のようなシルエット。普通の犬より長い毛はまるで髪の毛のようだった。

 

 

「人語を理解する合成獣だよ」

 

 

ぱた、とその長い毛のしっぽをソレは揺らした。

 

 

「見ててごらん、いいかい?この人はエドワード」

 

 

合成獣に向き直りタッカーさんが語りかける。

 

きょとん、と言う感じで小首を傾げた合成獣は

 

 

「えど、わーど?」

 

 

とタッカーさんの言葉を復唱した。

 

 

[すごい...本当に理解して喋ってる...]

 

 

よしよし、と合成獣の頭を撫でるタッカーさん。ふう、と安心したようにため息をつく。

 

 

「あー...査定に間に合って良かった。これで首が繋がった。また当分研究費用の心配はしなくていいよ」

 

 

ごきごきと首を鳴らし、タッカーさんはそう言った。

 

エド兄と2人合成獣の元へ近づく。

 

 

「えど、わーど....えど、わーど」

 

 

合成獣は先程の言葉を繰り返していた。

 

(本当にすごいな...これはきっとあれだけの知識を持ったタッカーさんだからこそできたんだろう。でも...何と等価交換したんだろう...)

 

何かヒントを得られないものか、と合成獣を見る。相変わらず合成獣は言葉を繰り返している。

 

 

「えど、わーど...えど、わーど...お、にぃ、ちゃ」

 

 

...は?

 

今、なんて言った?

 

 

エド兄のことを、お兄ちゃんと呼ぶのは、

 

この家に、今居ないのは、

 

瞬間。おれは全て理解した。理解して、顔をくしゃりと歪めたかったのに表情はピクリとも動かない。

 

同時に力が抜ける。がく、と膝から崩れ落ちると、目の前に合成獣____ニーナちゃんとアレキサンダーがいた。

 

ぎゅ、と1人と一匹を強く抱きしめる。とくとく、と近くで鳴る心臓の音が、肌で感じる体温が、これが夢でないと嫌なくらいハッキリと伝えてくる。

 

 

「タッカーさん」

 

 

隣にいるエド兄が酷く冷たい声でタッカーさんを呼んだ。

 

(きっとエド兄も気づいてしまった)

 

おれは彼らを抱く力をいっそう強くする。

 

 

「人語を理解する合成獣の研究が認められて資格とったのっていつだっけ」

 

「ええと...2年前だね」

 

「...奥さんがいなくなったのは?」

 

「......2年前だね」

 

「もひとつ、質問いいかな」

 

 

ギロリ、とエド兄がタッカーさんを睨みつける。

 

 

「ニーナとアレキサンダー、どこに行った?」

 

 

それは今までに聞いたことがないくらい冷たい、怒りの声。

 

かしゃ、と鎧の音がする。アル兄にも伝わったようだった。

 

タッカーさんはこちらを振り返る。窪んだ目元、不機嫌そうな口元、メガネの奥に見える狂気の目。

 

 

「.....君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

ガッ!!!ゴン!!!

 

そう言い放ったタッカーさんの襟元を掴んだエド兄はそのまま壁へと体を投げる。

 

 

「かはっ」

 

「兄さん!!」

 

「ああ、そういう事だ!!!この野郎...やりやがったなこの野郎!!2年前はてめぇの妻を!!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!」

 

 

ずっと感じていた違和感。これほどの知性が、どこからか生まれて来ているのだろうと。答えは本当に簡単で、単純で、....残酷なものだった。

 

 

「そうだよな、動物実験にも限界があるからな!!人間を使えば楽だよなあ!!ああ!?」

 

 

ぎりぎりとタッカーさんの襟元をつかみ壁に押し付けるエド兄。おれがしたいことを、エド兄はいつもしてくれる。おれはいま、そんな表情でその親父を同じようにとっちめてやりたい。何もできない悔しさが、抱きしめる力を自然と強くしてしまう。

 

 

「は...何を怒ることがある?医学に代表される用に人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら...」

 

「ふざけんな!!こんなことが許されると思ってるのか!?こんな...人の命を弄ぶようなことが!!」

 

「人の命!?はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!君のその手足と弟達!それも君が言う"命を弄んだ"結果だろう!?」

 

 

ゴッ!!

 

鈍い音。かしゃん、とメガネが飛んで床に落ちる。エド兄に殴られたタッカーさんは、しかし笑みを浮かべて言う。

 

 

「ははは...同じだよ、君も、私も!!」

 

「ちがう!!」

 

「違わないさ、目の前に可能性があったから試した」

 

「ちがう!!」

 

「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」

 

 

ゴッ!!

 

再びエド兄が殴る。

 

 

「ちがう!!」

 

 

悲痛な声を上げ、鋼の右腕でタッカーさんを殴り続ける。

 

 

「オレたち錬金術師は....こんなこと....オレは...オレは...!!!」

 

「兄さん、それ以上やったらしんでしまう」

 

 

ガシ、とアル兄がその拳を掴む。

 

肩で息をするエド兄は、その言葉に我を取り戻したようだった。

 

ぎり、と歯を鳴らしタッカーさんを離す。

 

ずる、と壁をずり落ちたタッカーさんは口の端をあげた。

 

 

「はは...きれいごとだけでやっていけるかよ」

 

 

ぱん!!

 

おれは両の手を合わせる。タッカーさんの周りの空気を薄くすると途端にタッカーさんの顔が青くなる。

 

 

「タッカーさん」

 

 

同時に、アル兄が声をかける。

 

 

「それ以上喋ったら、今度はボク達がブチ切れる」

 

 

錬成を止める。タッカーさんはぜえはぁ、と苦しげに息を吐いた。

 

 

「ニーナ」

 

[アレキサンダー]

 

「ごめんねボク達の今の技術では君達を元に戻してあげられない」

 

[ごめんな...]

 

「ごめんね...」

 

 

ぎゅ、ともう一度抱きしめる。

 

 

「あそ、ぼう...あそぼうよ、あそぼうよ...」

 

 

ざああああああああ、という雨の音が、やけに大きく聞こえた。

 

 

 

 

ざぁざぁと雨は降り続く。とどまるところを知らないその雨に晒した体は濡れ、冷たくなっていく。

 

体育座りで階段に座っているおれたちは、何も話さずただ雨に打たれていた。

 

(おれは、何故あの時気づけなかったんだろう。確かな疑問があったなら、いつものように探求すればよかった。なんで...なんでおれは...)

 

カッカッという足音が上からする。

 

 

「そうだろう、鋼の。いつまでそうやってへこんでいる気だね」

 

 

足音の持ち主のロイさんは、そう声をかけた。

 

 

「....うるさいよ」

 

 

普段は絶対に賛成しないけど、今だけはその意見に賛成だ。すこし、放っておいて欲しい。

 

 

「軍の狗よ悪魔よとののしられてもその特権をフルに使って元に戻ると決めたのは君自身だ。これしきのことで立ち止まっているヒマがあるのか?」

 

「「これしき」....かよ」

 

 

ぎり、と歯噛みが聞こえる。

 

 

「...ああそうだ狗だ悪魔だとののしられてもアルとハルと3人元の体に戻ってやるさ。だけどな、オレ達は悪魔でもましてや神でもない...」

 

 

エド兄が立ち上がる。ぱしゃり、と足元の水たまりが音を立てた。

 

 

「人間なんだよたった1人の女の子さえ、たった一匹の犬でさえ助けてやれない...ちっぽけな人間だ...!!!」

 

「...カゼをひく、帰って休みなさい」

 

 

そういってロイさんは去っていった。

 

 

[...帰ろう、エド兄、アル兄。もうあんなことが起きないように、おれらはもっと変わらなきゃいけない]

 

「...おう」

 

「...うん」

 

 

雨の日が、嫌いになりそうだった。




ん~。。。難しい,,,今回かなり長いですね、通常の二話分です。二時間分です疲れた。
本編で少し違和感だったアレキサンダーが忘れ去られてるのを追加しちゃいました。ニーナもかわいそうだけど同じくらいアレキサンダーもかわいそうだと思うんです。
変なとこが出てきちゃってるかもですが、もし何か違和感あったら教えてください。
前に言ったようにハガレンにおり主はマジでむずいので...
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