[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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十七話「どうにもならないことと褐色の男性」

ポツポツと雨が体に当たる感触。うっすらと目を開ける。見慣れた鉄の身体が目の前にあった。

 

 

[....アル兄]

 

「ハル」

 

 

ゆっくりと手を合わせる。帰ってきたのは硬い声だった。

 

 

[...どしたの?]

 

 

おれの言葉に微かに俯くアル兄。背中から降り、アル兄とエド兄を見る。昨日よりも悲愴の色が見えるエド兄の表情に、何かがあったと確信する。

 

 

[なにが、あったの?]

 

 

エド兄が口を開く。だが直ぐに閉じ、唇を噛み締めた。カシャ、とアル兄が顔をあげる。

 

 

「...タッカーさんとニーナとアレキサンダーが...殺されたって....」

 

[....っ!!]

 

 

語られた事実。彼らが、死んだ?しかも...殺された?

 

 

[誰に!!]

 

 

生きていて欲しかった。もしかしたら直せる方法があるかもしれなかった。もう一度彼女と彼に会えるのだったらおれは寝る間も惜しんで研究をしていただろう。

 

そんな可能性すら、神は与えてくれなかったらしい。信仰している神などいないが、創造した神様はいるはずだ。酷い仕打ちをしてくれる。

 

 

「わからない」

 

 

そう首を振ったアル兄は時計台の下に座り込んだ。その横に、エド兄も座る。

 

悔しくて、悔しくてたまらない。今すぐ暴れ回りたいくらいだが、それをしたって意味が無い。

 

おれは大人しくアル兄の横に腰を下ろした。

 

 

「兄さん」

 

 

アル兄がエド兄に声をかける。今まで一言も発さなかった兄は、俯いたまま反応した。

 

 

「ん?ああ...なんだかもういっぱいいっぱいでさ、何から考えていいかわかんねーや」

 

 

エド兄にしては珍しい、弱気な発言。微かに見えた横顔には、自嘲気味な笑みが浮かんでいた。

 

 

「...昨日の夜からオレ達の信じる錬金術ってなんだろう...ってずっと考えてた」

 

「...『錬金術とは、物質の内に存在する法則と流れを知り分解し、再構築すること』」

 

[『この法則にしたがって流れ循環している。人が死ぬのも、その流れのうち』]

 

「『流れを受け入れろ』....師匠(せんせい)にくどいくらい言われたっけな...わかっているつもりだった」

 

 

エド兄がぎゅ、と拳を握る。

 

 

「でもわかってなかったからあの時...母さんを...」

 

[...今も、おれはどうにかならないことをどうにかできないかと考えちゃってるよ...]

 

「オレもだ」

 

 

ぐるぐると頭の中で繰り広げられる人体錬成の術式。おれはすぐにそれが出てくる自分が恨めしくて仕方がなかった。

 

エド兄は膝を抱え、縮こまる。

 

 

「オレはバカだ。あの時から少しも成長しちゃいない」

 

 

はぁ...と大きくため息をついてどんよりとした空を見上げるエド兄。

 

 

「外に出れば雨と一緒に心の中のモヤモヤした物も少しは流れるかなと思ったけど、顔に当たる1粒さえも今はうっとうしいや」

 

「でも...肉体がないボクには雨が肌を打つ感覚もない。それはやっぱりさびしいし、つらい」

 

 

アル兄の話を聴きながらふととある夜のことを思い出す。廊下でしゃがんでいたアル兄に眠れないのかと声をかけると寂しげに笑って言った「寝れないんだ」という言葉。アル兄は、あれから何度独りの夜を過ごしたのだろうか。

 

カシャリ、と鎧の手を握りしめるアル兄。

 

 

「兄さん、ハル、ボクはやっぱり元の身体に...人間に戻りたい。たとえそれが夜の流れに逆らうどうにもならないことだとしても」

 

[...アル兄も、エド兄も、きっと元に戻してみせる。おれは確かに戻れたら嬉しいけど戻れなくてもこうして会話もできるし、声を変えれば感情だって表現出来る。アル兄やエド兄のそれは、どうにかして戻してみせる]

 

「ハル...」

 

「...それじゃ、だ...」

 

「あ!!いたいた!エドワードさん!」

 

 

何かを言いかけたエド兄を遮って軍服の青年が声をあげ、こちらへかけてくる。

 

 

「ああ、無事でよかった!捜しましたよ」

 

「なに?オレに用事?」

 

「至急本部に戻るようにとの事です。実は連続殺人犯がこの...」

 

 

かつ、と青年の後ろに褐色の男性が立つ。誰だろう、と見上げる。

 

 

「エドワード・エルリック...鋼の錬金術師!!」

 

 

殺気。全身にぶわっと鳥肌が立つ。こいつは、ヤバいやつだ、と脳が警鐘を鳴らす。

 

 

「!!額に傷の...」

 

 

青年は腰の銃を構えようとする。だが、それは男性にとって悪手であろうと言うことは想像できた。

 

 

「よせっ!!」

 

 

エド兄が叫ぶ。咄嗟におれは地面に手をつき、青年の足元を盛り上げさせる。

 

凄まじいスピードで近づいた褐色の男性は青年の頭めがけて手を伸ばす。その手が頭に触れる間一髪。地面が盛り上がりバランスを崩した青年の腕を男性が捉えた。

 

ごばっと言う音。青年の腕が吹き飛び、あたりに血肉が飛び散る。

 

 

「う、う、うわああああああ!!!!!」

 

 

絶叫。腕を抱えうずくまる青年に目もくれず、男性はこちらを見据えてくる。

 

 

(こいつは、絶対やばいやつだ!!すぐ、すぐに逃げなきゃいけない!!エド兄もアル兄も無事で、こいつから逃げる...

 

ダメだ、思いつかない...)

 

 

万事休す、諦めかけたその時。ゴーン!!と時計台の鐘が鳴る。

 

 

「...っアルッハルッ逃げろ!!!」

 

 

エド兄の声でばっとその場を蹴る。3人無事でこいつから逃げる方法を、必死に頭の中で考えるが堂々巡りで答えは出ない。

 

 

(...っていうかなんでエド兄を狙ってるんだ!?さっきのお兄さんにやったのってあれは...あの反応は...)

 

「なんだってんだ!!人に恨み買うようなことは...いっぱいしてるけど...命狙われる筋合いはねーぞ!!」

 

 

考える隣でエド兄が叫びながら走る。アル兄はさすがの身体能力で一足早く走っており、不意に路地へ曲がった。

 

 

「二人ともこっち!!」

 

 

アル兄の言葉に路地へ飛び込む。焦ったようにエド兄がアル兄に声をかける。

 

 

「こんな路地に入ってどうすんだよ!!」

 

「いいから!!」

 

 

そういうアル兄の足元には錬成陣。カッと仕上げを書き上げ、発動した錬金は地面を盛り上げ路地の入口を隠すほどの土壁となった。

 

 

「これなら追ってこれないだろ」

 

 

満足気なアル兄に、遠慮気味に声をかける。

 

 

[アル兄...多分それ無意味..]

 

 

言い終える前に壁にズ...と窪みが現れる。

 

一瞬のうちに大きくなった窪みは次の瞬間にはゴン!!と壁を破壊した。

 

 

[やっぱりぃ!!]

 

「でえええええ!!」

 

 

叫びながら路地の反対方向へと走る。しかしそんなことを許してくれる男性ではないだろうということはわかっていた。

 

真横の壁がビキビキと音を立てながらひび割れていく。そうなった家は当然...

 

ドオオオオオン!!

 

土埃と瓦礫を撒き散らしながら倒壊した建物に道を塞がれる。

 

ザッという足音に振り返ると、男性はすぐ近くまで迫ってきていた。

 

 

「あんた何者だ...なんでオレたちをねらう?」

 

「貴様ら「創る者」がいれば「壊す者」もいると言うことだ」

 

[やっぱり...お前...錬金術師だろ...]

 

「「!?」」

 

 

男は黙っている。否定もしなければ肯定しない。静まりかえった場に、エド兄の手を合わせる音が鳴り響く。

 

 

「やるしかねえ...ってか」

 

 

ガッと近くのパイプを掴むエド兄。錬成して一振のナイフを作り出し、構える。

 

それに呼応してアル兄はすっと体術の構えをする。

 

おれは両手を合わせ、いつでも錬成ができるように構えていた。

 

その様子を見た男はにいっと笑う。

 

 

「いい度胸だ...」

 

「行くぞっ!!」

 

 

エド兄とアル兄が駆け出す。同時におれは錬成をし、男の周りの空気を薄くする。

 

微かに顔色を変えた男性にアル兄が殴り掛かる。しかしその拳を躱した男性にさらにエド兄のナイフが襲いかかる。それも軽々躱した男性は「だが、遅い」と言ってアル兄へと手を伸ばす。

 

おれの空気を薄くするのはほんの一部しかできない。それ以上やるとエド兄にまで被害が行く。かと言って動きに合わせて錬成をするのはとても難しいので今のおれには無理だ。

 

咄嗟にもう一度手を鳴らし、ガラスを引っ掻いたような音を大音量で出す。

 

顔を歪めた男性は、しかしその手を伸ばすことをやめない。

 

男性の手がアル兄に触れた瞬間。

 

アル兄の身体が弾け飛んだ。

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