「アルッ!」
[アル兄ィッ!!]
身体の半分を失い、バランスを崩したアル兄はそのまま地面へ倒れ込んで。咄嗟にアル兄の元へ駆け寄り、その身体を支える。
[アル兄!大丈夫!?]
「....野郎オオオオオオ!」
激昂したエド兄がナイフを構え男性へと駆けていく。最大限の怒りを込めたひと振りはしかし、あっさりと受け止められてしまう。
「遅いと言っている!」
そしてエド兄のうでをつかんだままぐっと力を籠める男性。
(まずい!錬金術を!!)
[エド兄逃げてっ!!]
エド兄に警告を飛ばすが一度とらえた腕を簡単に離してくれるような相手ではない。なすすべなく錬金術が発動する。
バチィッ!!
大きな錬成音とまぶしい光。
衝撃でナイフを取り落としたエド兄はそのまま雨に打たれた地面へと吹き飛ばされた。
[エド兄ッ!!]
[大丈夫だ!」
そういって泥にまみれた赤いコートと手袋を脱ぎ捨てる。
「...くそっ!」
忌々しげに吐き捨てたエド兄を一瞥して男性が冷静に分析する。
「機械鎧(オートメイル)...なるほど、”人体破壊”では壊せぬわけだ。あっちはあっちで鎧をはがしてから中身を破壊してやろうと思ったが肝心の中身がない。そしてもう一人は我の人体破壊のカラクリに気づいたうえ一定の距離を保ち攻撃をさせない...変わったやつらよ...おかげで余計な時間を食ってしまったではないか」
男性が長々と解析している間におれはアル兄の周りに土をできる限り固くした格子を作る。作りながら、頭をフルで回転させる。
(あいつは手合わせ錬成をしていない...ということはアレは見ていないはずだ。だが、あいつの手や周りに錬成陣は見られない...いったいどうやって...それに人体破壊...アイツはカラクリに気づいてるっていうけど実際は錬金術ってこと以外わかんねーんだよな...)
「てめえの予定に付き合ってやるほどお人よしじゃないんだよ!」
エド兄の声に顔を上げる。エド兄は機械鎧の一部をブレードに変化させ、男性に向かって叫んでいた。
(今はこれを考えたって結論が出ない。それよりも...この状況をどう打破するか、だ)
「兄さん!ハル!ダメだ、逃げた方が...」
「馬鹿野郎!お前置いて逃げられっか!」
[それに正直...おれはコイツから無事に三人逃げる方法が思いつかないよ...だからこの場でなんとかするしかない!]
じぃ、とおれたちを眺めていた男性はまた分析を始める。
「ふむ、両の手を合わせることで輪を作り、循環させた力を持って錬成するわけか。ならば...」
「らああああああああ!!」
エド兄が男性へと殴り掛かる。それと同時に男性の耳元で爆音を鳴らす。
バン!!
空気が破裂する音。男性はかすかに顔をゆがめる。あれは確実に鼓膜行ってるだろ!と思いながら第二派を用意する。
しかし、その用意は無駄だった。
耳から血を流しながらそれを厭いもせずエド兄の腕を男性がつかんだのだ。
つう、とブレードによって男性の頬が傷つけられるが、それだけだ。
ガッとエド兄の腕を掴んだのとは反対の手で機械鎧へ手を伸ばす。
「まずはこのうっとおしい右腕を」
そのあと起こる展開をすべて理解してしまったおれは、どうしようもないとわかりながらも叫ぶことしかできなかった。
[エド兄イイイイイ!!!]
「破壊させてもらおう」
ピシ、とかすかにひびの入った音。
瞬間的にひびは機械鎧全体へ広がっていく。
[やめろおおおおおおおおお!!]
ボッ!!
何かが破裂する音。次いでばらばらとパーツが落ちる音が人気のない路地で響く。
体重をかけていた腕が消失したエド兄はその場へ崩れ落ちる。
「兄さん!!!」
[エド兄!!!]
男性はまだ動き続ける。動くことのできないおれたちの目の前で左足の機械鎧さえも破壊して見せた。
完全に動けなくなったエド兄を見下ろし
「さて...あとはそこのお前だけか」
とアル兄のそばで立ちすくんでいるおれへ殺気を飛ばしてくる。
ひゅ、と悲鳴にもならない空気の音がした。
咄嗟に合わせた両手を地面につく。巨大な土壁を錬成。
(とにかく、時間を稼がなくちゃいけない!ここからできるだけ離れた場所で!)
一瞬できた時間で今何をすべきかを考える。もう一度地面に触れ地面を泥沼化させる。
目の前の土壁がパリパリと錬成反応を立てながら崩れていく。かすかに見えた向こう側にはサングラスで見ることはできない男性の目元。しかしみることはできなくとも発せられる大量の殺気で足がすくむ。判断が鈍る。
回らない脳を、反応の鈍い体を必死に動かしもう一度錬成。
ズオオオオオオ!
自分の足元を盛り上げさせる。もし落ちても大丈夫なように泥沼化させたが...
随分と高くまで伸びた土柱の下を覗く。
(これ、無事でいられるかな...)
不安ではあるがもうやるしかない。撤退は許されない。
土柱を動かし近くの家の屋根へ飛び移る。途中破壊されかけたが伸ばしまくったおかげで何とか耐えたようだ。
焦りながら男性をおびき寄せるために声を出す。
[oおぃ!おまeえnエものハこつちだぞォ!!]
声の錬成はかなり集中力がいる。最近こそすらすらできるようになったがやはり焦ると発音が甘くなってしまう。
しかし、声を出したことでどこにいるかはわかったようだ。すぐ隣の家が轟音を立てて崩れていく。
(ひいいいいいいい!!)
必死に走り回る。踏み切った瞬間に崩れていく住宅。進もうとした方向に発生するがれきの雪崩。
(くっそ!こんなとこでやられるわけにはいかないんだって!!)
次の家へ足を踏み出す。
しかし、その足が踏みしめるものは何もなく。
バランスを崩したおれの体はまっさかさまにがれきの中へと落ちていく。
「「ハル!!」」
聞こえたのは遠ざけたはずの兄たちの声。
(は、はは...まんまと踊らされていたわけだ...)
手で顔を覆う。こうしないと悔しくてこみあげてくる何かを見られてしまいそうで嫌だった。
ザク、とそばに誰かが立った音がする。
おそらく足が一本折れている。前衛で戦うことがすくないおれは痛みに慣れていない。ともすれば叫びだしたくなるような痛みと目からあふれてくる何かを抑えることに必死で、もう戦える気はしなかった。
「神に祈る間をやろう」
おれらを追い込んだヤツの声がする。いったいどんな表情でおれを見下ろしているのか、もはや知る気力すら起きなかった。
だが質問に答えないのはしゃくなので、重たい両腕をぱし、と合わせる。
[...あいにくダケド、いのりたいカミサマがいナいからさ...]
ああ、でも。守りたい人たちはいるんだ。
[ねえ、あなタがねらってルのはエド兄なんでしょ...おれノいのちでサ、かんべんしてくれない...?]
「我が狙うのは国家錬金術師のみ...お前の命ではだめだ」
冷たい返事。ふは、と息を吐く。ゆるりと開けた視界に泣きそうな顔のエド兄と格子を必死に壊そうとするアル兄が映る。
[しょうじキエド兄よりおれの方がきけんダトおもうよ...?エド兄よりあたま回る自信あるモン...エド兄コロシタっておれがこっかれんきんジュツシになるかもよ?]
「ふむ...では、貴様もここで排除しておくか」
「好き勝手いいやがってっ....!ハルッ!死ぬなんて許さねえからな!!」
「早く、早く逃げてハルっ!」
兄たちの声がする。ぼやけてきた意識の中で、黒い手が眼前に迫ってくるのが見えた。