[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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一話「鋼の錬金術師とエルリック兄弟」

バゴッ!

 

何かが壊れる音がした。それと同時に

 

 

「あーーー!!!」

 

「あ」

 

 

という聞いたことないおじさんの叫び声と気の抜けたアル兄の声が聞こえた。

 

ごそり、と身じろぎすると、かしゃりとアル兄の鎧が音を立てた。

 

 

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 

[気にしないで..大丈夫]

 

 

眠気と欠伸を噛み殺しながら返事をする。

 

ずるずるとアル兄から降りるとエド兄が水の入ったコップを差し出してくれた。

 

 

「わりぃわりぃ、すぐ直すから」

 

「直すからってそんな...」

 

 

会話を聞き流しながら手近にあった椅子に腰掛けてコクコクとそれを飲む。

 

 

「まあまあオヤジさん、見てなって」

 

 

露店のカウンターに肘掛ながらエド兄が軽い調子で言う。

 

その下でアル兄がカリカリと錬成陣を書いている。

 

ごく、と最後の一口を飲み終えるとほぼ同時に「よし!」という声。

 

 

「それじゃ、いきまーす」

 

 

それを合図に錬成陣が怪しく光る。

 

ボ!!という音とフラッシュのような光を放ち、残されたのはきっちりと直されたラジオが1つ。

 

 

(...おみごと)

 

 

ぱちぱちと小さく拍手をする。

 

聞こえていないと思ったがアル兄には聞こえていたようだ。

 

「えへへ」と笑いながら小さくピースを返してくれる。

 

 

「こりゃ驚いた...あんた『奇跡の業』が使えるのかい!?」

 

 

おじさんが驚いた顔でそう叫ぶ。

 

思わず[なんじゃそりゃ...]と呟いた。

 

 

「ボク達錬金術師ですよ」

 

「エルリック兄弟っていえば結構名が通ってるんだけどね」

 

 

その言葉を聞いてあたりがざわつく。

 

「エルリック兄弟..?」

 

「聞いたことがある、確か兄が国家錬金術師の...」

 

 

 

 

「"鋼の錬金術師"エドワード・エルリック!」

 

「yes!」

 

 

エド兄が自慢げな顔をする。

 

でもおれはなんとなく次の展開を予想していた。

 

これまでに何度となく繰り返してきた光景を。

 

次の瞬間みんなはわっと騒ぎながら囲いを作った

 

 

____アル兄の周りに。

 

 

「あの、ボクじゃなくて」

 

 

ちょいちょい、とアル兄がエド兄を指さす。

 

民衆の視線がエド兄に向く。

 

それと同時にざわついた。

 

 

「へ?」

 

「あっちのちっこいの?」

 

 

(あーあ、エド兄の地雷踏んだなあ)

 

 

予想通りアル兄の周りに来た人達に、ちっこい、という言葉に過剰反応して

 

 

「誰が豆粒ドちびかーーーーー!!!!」

 

 

とブチ切れながら辺りのものをひっくり返すエド兄。

 

もはや一連の流れと化したその光景を眺めながらカウンターにコップを置いてアル兄のそばに寄る。

 

 

「あはは...ボクは弟の、アルフォンス・エルリックでーす」

 

 

苦笑いアル兄の後にキレ気味のエド兄が続ける。

 

 

「オレが!"鋼の錬金術師"!!エドワード・エルリック!!!」

 

 

なんとなーく両手を合わせ、それに続くおれ。

 

 

[それでおれが末っ子のハルフェス・エルリックでーす]

 

 

幸い音は周りに溢れている。錬金し放題だ。

 

 

「「し、失礼しました...」」

 

 

ひっくり返りながらそういう人達がなんだか可笑しくて、おれはくつくつ、と喉を鳴らした。


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