[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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二十二話「料理研究書と密かな誓い」

「いやぁすみません、かなりの量だったもので写すのに五日もかかってしまいました」

 

 

そういってどさっと紙の束を机の上に置く短髪の眼鏡の女性、シェスカさん。

 

おれたちの泊まっている宿に複写が完成したと連絡があっておれたち兄弟と護衛をしてくれてるロスさんとブロッシュさんの五人で図書館へ向かうと、シェスカさんと大量の紙の山がおれたちを出迎えてくれたのだ。

 

 

「ティム・マルコー氏の研究書の複写です」

 

 

シェスカさんはにこやかにそういう。しかしおれたちはその光景を唖然と見ていた。

 

(本にしたらこれはいったい何冊あるんだ...それをすべて頭に入れてるシェスカさんっていったい...というかその能力おれも欲しい)

 

「...本当にやった...」

 

「世の中にはすげー人がいるもんだなぁ、アル、ハル...」

 

 

エド兄の言葉に激しく頷き資料の山を見つめる。

 

(これが、賢者の石の...)

 

これがあれば、エド兄もアル兄も元に戻せる。あふれてきた生唾をごくりと飲み込んだ。

 

 

「うわぁ...そうか、こんなに量があったんじゃこれ持って逃亡は無理だったんだねマルコーさん」

 

「これ本当にマルコーさんの?」

 

「はい、間違いなく!」

 

 

エド兄の問いに笑顔で答えたシェスカさんはその笑顔のまま驚くことを言った。

 

 

「ティム・マルコー著の料理研究書、「今日の献立1000種」です!」

 

 

(((は??)))

 

 

シェスカさんから資料を受け取ったロスさんがぱらぱらとページをめくる。

 

 

「「砂糖大匙1に水少々を加え....」本当に今日の献立1000種だわ...」

 

「君!これのどこが重要書類なんだね!」

 

「重...!?そんな!私は読んだまま、覚えたまま写しただけですよ!」

 

「ということは同姓同名の人が書いた全く別のもの!?お三方、これは無駄足だったのでは?」

 

 

たはー!というかんじでブロッシュさんがこちらを見る。でも、これは無駄足なんかではないことはおれたちにはすぐにわかった。

 

 

「これ本当にマルコーさんの書いたもの一字一句間違いないんだな?」

 

「はいっ!まちがいありません!」

 

「あんたスゲーよ、ありがとな」

 

 

ニッと資料を読んだエド兄が笑う。

 

 

「よし!アル、ハル、これ持って中央図書館に戻ろう」

 

「うん、あそこなら辞書がそろってるしね」

 

[シェスカさん、今度いろんな本について話しましょう?ついでにどうやって覚えてるのかも教えてくれたらうれしいんですけど...]

 

「おいハル...っと、お礼お礼」

 

 

呆れた顔でエド兄に諭される。割とガチ目に教えてほしいんだけど、今はこっち優先だ、しょうがない。

 

 

「ロス少尉!これオレの登録コードと署名と身分証明の銀時計!大統領府の国家錬金術師機関に行ってオレの年間研究費からそこに書いてある金額引き出してシェスカに渡してあげて!」

 

「はぁ...」

 

「シェスカ本当にありがとな!じゃ!」

 

 

がちゃ、と扉を開けたエド兄の後ろでぺこ、と頭を下げて持てるだけの資料を手に部屋から出る。

 

...出た後にロスさんの絶叫が聞こえたのは気のせいだ、きっと。

 

 

 

ぺらり。

 

<今日の夕飯はこれで決まり!!大人も子供も喜ぶカレーライス!>

 

ぺらり。

 

<人参一本ジャガイモ二個>

 

 

[...]

 

 

中央図書館につき、机の上に持ってきた書類を広げたおれたちは、その難解な言葉とにらめっこをしていた。

 

錬金術師は高度な技術を一人一人が磨き、もっている。そんな技術の結晶をホイホイとそこら辺に置いておくわけにはいかない。そこで行われるのが錬金研究書の暗号化である。たとえ他人がこれを読んでもわからないほどの比喩表現や様々な寓意で書き綴られているということだ。

 

 

「書いた本人にしかわからないって...そんなのどうやって解読するんですか?」

 

 

エド兄がそう説明するとブロッシュさんがそう尋ねてくる。おれは資料から顔を上げずに答える。

 

 

[知識とひらめきと...あとは根気ですね]

 

「うわぁ...気が遠くなりそうですよ」

 

 

そうこぼすブロッシュさんにアル兄が補足を入れる。

 

 

「でも料理研究書に似せてる分まだ解読しやすいと思いますよ。錬金術ってのは台所から発生したものだっていう人もいるくらいですからね。兄さんの研究手帳なんて旅行記風に書いて有るし、ハルなんて物語風に書いてあるもんだからボクが読んでもさっぱりで」

 

[エド兄のは全然わかんない真面目に]

 

「そうかぁ?オレからしたらハルのやつの方がわかんねえよ...普通に物語として読んじゃうし」

 

「そういえばなんでハルは研究手帳つけてるの?」

 

[ん~..暇つぶしに?]

 

「なんだそりゃ」

 

 

くつくつ、とエド兄が笑う。

 

(本当は記憶がなくなってもいいように、なんて言えないもんなあ)

 

さあ、解読するぞと意気込む兄たちを見てそう思う。

 

 

(もし、賢者の石が見つからなかったり作り出せないのだとしたら)

 

 

___おれの記憶を対価に、二人の身体を戻そうと小さなころから決めていたから。

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