[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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二十四話「重なる絶望と再びのケツイ」

<<それは苦難に歓喜を。戦いに勝利を。暗黒に光を。死者に生を約束する血のごとき紅き石。人はそれを敬意をもって呼ぶ。「賢者の石」と>>

 

 

 

そんな前置きから始まる研究書はおれたちにとって絶望が書き連ねてある書だった。

 

 

「確かにこれは知らないほうが幸せだったかもしれないな...」

 

 

俯き加減であごに手を当ててエド兄は言う。その声からは怒りと悔しさが感じ取れる。

 

 

「この資料が正しければ賢者の石の材料は生きた人間...」

 

 

おれはそのあとを続ける。そのあとに解読できた恐るべき文章をみんなに知らせるために。

 

ロスさんとブロッシュさんにはわるいが、一度知ってしまった以上はしっかり知っておいた方がいい。

 

 

[その続きも解読できた...石を一個精製するのに複数の犠牲が必要だ....って]

 

 

その言葉に驚くアル兄とさらに俯くエド兄。ロスさんとブロッシュさんはこらえきれなかった怒りを口に出した。

 

 

「そんな非人道的なことが軍の機関で行われているなんて...」

 

「許されることじゃないでしょう!」

 

 

「...ロス少尉、ブロッシュ軍曹」

 

 

俯いたまま、暗い声で二人に声をかけるエド兄。

 

 

「このことは誰にも言わないでおいてくれないか」

 

 

その言葉にブロッシュさんは目を見開く。

 

 

「しかし...!」

 

「頼む。...頼むから、聞かなかったことにしといてくれよ,,,」

 

 

反論は、力ないエド兄の言葉に紡ぎきることができなかったようだった。

 

 

 

先に部屋に戻る、とふらりと立ち上がったエド兄。それをささえるアル兄とブロッシュさん。

 

 

「ハルはどうする?」

 

[おれは...もう少し街をふらついてから戻るよ。ロスさん、わるいけど付き合ってくれますか]

 

「ええ、かまわないわ」

 

「じゃあ、またあとでね」

 

 

パタン、とドアが閉じられる。ぷはー、と息を吐く音が聞こえた。

 

 

「はぁー...」

 

[お疲れですか]

 

 

二人しかいない部屋で犯人を捜すまでもない。軽く顔を押さえているロスさんに書類をまとめながら話しかける。

 

 

[色々...巻き込みまくってすみません。止めようとしたんですけど止められなかった]

 

「気にしないで。知れてよかったとは思っているの。ただ少し受け入れるのに時間が欲しいけれど...」

 

 

 

手伝うわ、とロスさんが書類を持つ。ばらばらな書類をとんとん、と均す。

 

 

[エド兄はああいってますけど...おれ的には知ってしまったならとことん知った方が安全だと思うんですよ]

 

 

逆に?と聞いてくるので頷きながら逆に、と返す。

 

ある程度まとまった書類を抱えるとロスさんが扉を開けてくれる。軽く会釈をして部屋を出る。

 

 

「ハルフェスくんは二人とは少し違う考えなのね」

 

 

アル兄はどう思ってるのかわからないですけど、と思いながらも両手がふさがっているので話すことができない。しょうがないのでどうでしょう、みたいな感じで首をかしげる。

 

 

「あ、危ないわよ」

 

 

くい、とロスさんが誘導してくれる。正直全く前が見えていない。助かる。

 

ありがとうございますの意で頭を下げるとにっこりと笑い返してくれた。

 

 

「これからどうするの?」

 

 

おれを見ながら尋ねてくる。...こういうことがあるとやっぱり声が出ないって不便だなーと思う。

 

ぱくぱく、と口を動かしてからフルフルと首を振る。

 

ロスさんの方を向くととても驚いた顔をしていた。

 

 

「ハルフェスくん...まさか声...」

 

 

こく、とうなずく。目を見開いた彼女は、しかし首をかしげる。

 

 

「じゃあなんでさっき話せてたのかしら?」

 

 

丁度手近にあったベンチに資料をどさりとおく。ふー、と息を吐いてぱし、と手を合わせる。

 

 

[周りの音を錬成して、話してるんですよ]

 

「そんなことまでできるのね...」

 

[慣れないうちはほんとにできないんですけどね...練習すればできるようになりますよ]

 

 

よいしょ、と資料を持ち直す。

 

 

(賢者の石は使えないことが分かったし...もっと他に代わりになるようなものも今んとこないしなー...こりゃほんとに記憶を代償にするしかないかもなあ...)

 

 

ずっと決めてきたはずの覚悟が揺らがないよう、自分に言い聞かせた。

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