[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」   作:春川遥

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二十六話「元研究所といい人」

[アームストロングさん?]

 

 

ロスさんの口から出てきた名前は聞き覚えのあるものだった。確か、兄さんたちがリゼンブールに行くときに護衛してくれた軍人さんだったはず。その人がここへきて、詰め寄られて賢者の石の秘密を話してしまったという。

 

 

「本当にごめんなさい...」

 

 

後ろに「反省」という文字が見えそうなほどしょんぼりとしているロスさん。

 

 

[まあ、話しちゃったならしょうがないですよ!あんまり気負わないでください。そもそもはおれたちのせいですし]

 

 

へたくそなフォローしか入れれない自分の語彙力が憎い。手をぶんぶんと振り、気にしていないことをアピールする。そんなおれが滑稽だったのかロスさんはクスリと笑ってくれた。

 

 

「おーい!ハル!」

 

 

先ほど飛び出してきた扉から金髪がのぞく。次に鎧と、筋肉の塊がひょっこりと顔を出した。

 

 

「ちょっと来てくれ!まだ...まだなにかあるんだ」

 

 

エド兄にちょいちょいと手招きされて部屋に向かう。狭い部屋に六人も入ったことで少し部屋の温度は高かった。

 

 

「そなたがハルフェス・エルリックであるか!吾輩は中央所属!アレックス・ルイ・アームストロングと申す!よろしく頼むぞ!!」

 

 

入ってすぐ筋肉の塊さんにがっしりと両手をつかまれ握手される。いい人なのだろうと思うが握手した手をそのままぶんぶんするのはやめてほしい。やめてほしい。やめっ...

 

 

ブンッ!

 

 

[やめろっつってるでしょ!]

 

 

下に振り下ろされたときにそのまま勢いをつけて手から逃れる。全力で手をたたきむきー!と不満をぶつける。ガチで起こっているわけではないがそれやられるとほんとにコミュニケーションとれなくなるので、やめていただきたい。

 

 

「おお!すまないな!吾輩少し興奮してしまった!」

 

 

ぱっと両手を広げ豪快に笑うアームストロングさん。そのあとなぜかむっきんと力こぶを作っていた。こっそりおれも作ってみる。...むなしくなるだけだ、やめよう。なぜ毎日トレーニングしてるのに筋肉がつかないのか。解せぬ。

 

 

 

「地図持ってきました!」

 

「ありがと!そこの机にお願い」

 

 

おれたちがそんなことをしている間にエド兄がブロッシュさんに地図を持ってくるよう頼んでいたようだ。バサリと広げられた地図をのぞき込む。

 

 

「マルコーさんは「真実の奥のさらなる真実」があるっていってたんだ...」

 

 

地図をじっと睨みながらエド兄が教えてくれる。

 

 

「なあ、少佐。この辺の錬金術研究所はどこにあるんだ?軍の管理下のやつ」

 

「それであれば中央には現在四か所。ドクター・マルコーが所属していたのは第三研究所。ここが一番怪しいな」

 

「うーん..市内の研究所はオレが国家資格とってすぐに全部回ってみたけどここはそんない大した研究はしてなかったような...」

 

 

アームストロングさんが第三研究所の場所を指で示してくれる。エド兄の言葉を聞き流しながらその周辺をじっと見る。

 

 

[...?この建物って]

 

 

とん、と指さす。何も書かれていないけど施設は存在するところ。ぱらぱらとロスさんがページをめくる。おそらく住所録だろう。

 

 

「以前は第五研究所と呼ばれていた建物ですが現在は使用されていないただの廃屋です。崩壊の危険性があるので立ち入り禁止になっていたはずですが」

 

「これだ」

 

 

確信めいた声色でエド兄が言う。流石と差し出されたこぶしにこつんとこぶしをぶつける。

 

 

「え?何の確証があって?」

 

 

ほんとにわからない、といった様子のブロッシュさん。敬語も抜けている。おれはもと第五研究所の隣を指さす。

 

 

[隣に刑務所があるじゃないですか]

 

「えっと...」

 

「賢者の石を作るために生きた人間が材料として必要ってことは材料調達の場がいるってことだ」

 

[たしか死刑囚は処刑後も遺族に遺体は返されなかったはずです。表向きは刑務所内の絞首台で死んだことにしておいて生きたままこっそり研究所に移動させ、そこで賢者の石の実験に使われる...そうすると刑務所に一番近い場所が怪しいって考えられるはずです]

 

 

一息に説明した後顔を上げる。大半の人の顔が引きつっていた。

 

 

「...囚人が...材料...」

 

[嫌な顔しないでくださいよ...説明してる側だっていやなんですから]

 

 

げっそりした顔でぼやくロスさんに頭をぼりぼりとかきながら思わずそう返す。ロスさんに引きつった笑みを向けられた。なぜだ。

 

 

「刑務所がらみってことはやはり政府も一枚かんでるってことですかね」

 

「一枚かんでるのが刑務所の所長レベルか政府レベルかはわからないけどね」

 

 

半笑いでエド兄がブロッシュさんに返す。顔面蒼白のロスさんとブロッシュさん。

 

 

「なんだかとんでもないことに首を突っ込んでしまった気がするんですが..」

 

「だから聞かなかったことにしろって言ったでしょう」

 

 

ため息交じりにアル兄が言う。まあ多分知ったくらいで消されはしない...と思う。知った時のリスクは知っておくべきだが引き際も考えなくちゃいけない。

 

 

[これ以上聞くとほんとに後戻りできなくなると思うんですが...お三方]

 

 

一応警告はする。ここで引くかひかないかはもうその人が決めることだと思う。

 

 

「うむ。しかし現時点ではあくまでも推測で語っているにすぎん。国は関係なく、この研究機関が単独でやっていたことかもしれんしな」

 

[この研究機関の責任者は誰なんです?]

 

「名目上は”鉄血の錬金術師”バスク・グラン准将ということになっていたぞ」

 

 

名目上という言葉にかすかに違和感を覚える。

 

 

[そのグランさんにカマかけてみるとか...]

 

「無駄だ。」

 

 

食い気味に否定されてしまった。アームストロングさんの顔を見る。真剣な顔だった。

 

 

「先日スカーに殺害されている」

 

 

スカー。傷の男。アレキサンダーとニーナを殺した人。動かないはずの表情筋がピクリと痙攣した気がした。

 

 

「スカーには軍上層部に所属する国家錬金術師を何人か殺された。その殺された中に真実を知る者がいたかもしれん」

 

 

そういいながら席を立ち、地図をくるくるとまとめだす。

 

 

「しかし本当にこの研究にグラン准将以上の軍上層部がかかわっているとなるとややこしいことになるのは必然。そちらは吾輩が探りを入れて後で報告をしよう」

 

 

丸めた地図を小脇に抱え指示を出し始めるアームストロングさん。

 

 

「それまで少尉と軍曹はこのことは他言無用!エルリック兄弟はおとなしくしているのだぞ!!」

 

 

「「[ええ!?」」]

 

 

思わずその指示に反応してしまうおれたち。場が一瞬気まずい沈黙に包まれる。

 

 

「むう!さてはお前たち!!この建物に忍び込んで中を調べようとか思っておったな!」

 

 

地図を広げたアームストロングさんがすごい剣幕でこちらに迫ってくる。当然図星なのでおれの心臓はドキリと音を立てた。決してビビったとかそういうのじゃない。決して。

 

 

「ならんぞ!元の身体に戻る方法がそこにあるかもしれんとはいえ子供がそのような危険な真似をしてはならん!!」

 

 

...やっぱり、この人はいい人なんだと思う。エド兄は国家錬金術師だしアル兄は鎧。おれは大人よりも知識はあると思ってる。そんなおれたちを普通の人だったら利用しようとするだろう。今だって、それができたのにしなかった。熱血な感じで一対一ではあんまり話しづらそうだけど。

 

 

「わかったわかった!!そんな危ないことしないよ」

 

「ボク達少佐の報告をおとなしく待ちます」

 

[痛いのは嫌なのでそんなことしませんよ]

 

 

...うそついて、ごめんなさい


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