だらだらと汗を流しながら教主が叫んだ。
「鋼の義肢"機械鎧(オートメイル)"...ああそうか...
鋼の錬金術師!!!!!」
その言葉にゆっくりと顔を上げ、その鋼の右手で教主を煽るエド兄。
「降りてこいよド三流。格の違いってやつを見せてやる!!」
だがしかし、教主もそんな見え見えの挑発には乗らない。
ただ、何かを理解したようにニヤリと笑った。
「何故こんなガキが"鋼"なんぞという厳つい称号を掲げているのか不思議でならなかったが...
そういう訳か...
ロゼ、この者たちはな、錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている「人体錬成」を...
最大の禁忌を犯しおったのよ!!」
教主の言葉を聞いたロゼさんの顔が大きく歪んだ。
そして多分おれたちは同じ記憶を思い出していた。
「アル!ハル!アルフォンス!ハルフェス!」
エド兄がぼくとアル兄の元へかけてくる。
足元に置いていた資料をぶちまけながら走ってくるもんだから、思わずぼくはエド兄に文句を言った。
「あー!エド兄散らかさないでよね!片付けるの誰だと思ってるの!」
そんなぼくにまあまあ、と笑ってアル兄もエド兄に問う。
「それで?そんなに急いでどうしたのさ兄さん」
それを聞かれるとエド兄は待ってましたとばかりにニイッっと笑った。
「これだ!この理論なら完璧だよ!」
抱えていた羊皮紙を手近な机に広げて興奮した様子でエド兄は言う。
それをなにそれ、という程ぼくもアル兄も馬鹿ではない。
「「これってまさか...」」
「そうだ!母さんを生き返らせることが出来る!」
アル兄がロゼさんに向かって言う。
「生命を創り出すことになんの疑いもなかった。やさしい...本当に優しい母さんだった。ボク達はただもう一度母さんの笑顔が見たかっただけなんだ。たとえそれが錬金術の禁忌に触れていたとしても、それだけのためにボク達は錬金術を鍛えて来たんだから...
錬成は、失敗だった。
錬成の過程で兄さんは左足を
ハルは表情を
ボクは身体を全部"持っていかれた"。
次に目を開けた時に見たものはこの鎧の身体と血の海の中の兄さんと、そばで蹲っているハルだった。」
何か、声を掛けたかった。
痛みに喘ぐエド兄に、大丈夫?と声を掛けたかった。
鎧になってしまったアル兄にごめんなさいと言いたかった。
でもぼくにできたのは口をその形にしてはくはくと空気を食むことだけだった。
「へへ...ごめんな、右手1本じゃお前の魂しか錬成できなかったよ...ああ、違うや、ハルも一緒に錬成したんだ...ごめんな、アル。オレたちじゃお前の身体を取り戻せなかった...」
「なんて無茶を...!!」
声が、出なかった。
比喩でも何でもなく、空気を震わせて兄弟に話しかけることができなかった。
そのことが苦しくて顔を歪めたくても、表情は1ミリとも動いてはくれなかった。
アル兄が続ける。
「兄さんは左足を失ったままの重症で、ハルは何を失ったかわかってないままに今度は僕の魂を兄さんの右腕とハルの声と引替えに錬成してこの鎧に定着させたんだ。後にハルが最初に失ったのは表情だって気づいたんだ」
「へっ...3人がかりで1人の人間を甦らせようとしてこのザマだ...」
[ロゼさん、人を蘇らせるってことはこういうことなんだよ..]
真実を語ったアル兄の後で茶化すように言うエド兄。
おれはロゼさんにこんな思いはして欲しくないから言葉を続けた。
「その覚悟があんのかアンタには!!」
エド兄が、叫んだ。