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七月二日
印度旅行から帰ってきた日だ。そろそろ大學の出席日数が心許なくなって来ているので、明日から行こうと思う。頼まれている土産も、友人に渡さなければいけない
西阿弗利加から印度へ渡る最中、地元の闇市を見学した。その際に、和製と思われる人形を見つけた。
黒髪に御河童頭の、黒眼の女児の人形だ
その人形がある場だけが異様だった
まぁ、周りにおいてあるのはなんの動物かも判らん骨と、呪い用の干物みたいなものばかりだから、目立つのは当然かもしれない
露店の主人に人形のことを聞いてみたら、驚いた様な、焦った様な表情をされた
というか、言葉が通じていなかった
大体だが事情は理解できた
とりあえず、それを引き取ることにした
彼は異国の人形に対する扱いに困っていたようなのでちょうど良かったようだ
人形は何も身につけていなかったので、持っていたタオルで襦袢を作って着せてやった
なんとなく黒目が動いた様に見えたが、気の所為だと思いたい。思いたかった。
それから帰国するまでに、三回程人形が無くなった。何が不満なのかと思いつつ、花で作った髪飾りを贈ったら、失踪は止まった。
気に入ったのだろうか?
飛行機の中は、人が多くて辛かった
七月●⚫︎日
家に帰った後、早々に荷物の整理も終わったので何時もの古本屋に行った。大學は明日からで良いだろう。……駄目?
驚いたことに、古本屋に自分以外の客がいた。あれは通りから大分逸れた、祇園の様に道が何重にも入り組んだ所にある。あの本屋は、いつ行っても店主以外の人間は誰も居なかったというのに
閑古鳥も愛想をつかす様な場所だと思っていたが、新しい発見だ
目があったので、会釈をした。好々爺、といった風な彼は、嬉しいことに挨拶を返してくれた。こんな場所に来る位だから、偏屈な人間かと思ったが、そうではないようだ
彼については、よく分からなかった。だから多分、安定した人なのだろう。友人もそうだが、そういう人間は信用できる。悲しい事にそういった者達には、そうそう出会えるものではないのだが。
思い切って、その奇特な客に声を掛けてみた
つい先日まで日本語を全く喋らなかったからか、一瞬声が出なくて焦ったが、とりあえず大丈夫だった。
喉がひりつくので、風邪かも知れない。
これを書き終えたら、
薬屋に寄って行こうと思う
そういえば、帰ってきてから身体が怠い
七月イ日
頭の中で蝉が鳴いているようだった
いや、猿かも知れない。
脳を引っ掻き回すような、肉に爪を立てる様な痛みが続いている。
夏風邪では無いのだろうか?
一応病院に行ったのだが、医師の診断では何も異常はなかった。異常がないことが異常だ
無視できる痛みは、無視するに限るがこれはそうでは無い
いや、無視できる事には出来る。
ただ方法が何とも奇怪で、不可解であることを除けば
オレは霊魂や妖怪を信じる部類ではないのだが、原因はあの愛らしい女児の人形な気がする。いや愛らしくは無い。何を書いてるんだ
気がつくと枕元に置かれてある事はしょっちゅうだし、偶にオレの部屋の畳に腐った花弁が落ちている事がある。虫が沸くし、片付けるのも面倒なのでよして欲しい
あれは生きているのだろうか
何でもいいが、早急にどうにかしたい
今日は友人の家に泊まりに行く
七月エ日
結論から言うと、泊まりに行ったのは間違いだった。友人の家のベッドを貸してもらったのだが、朝起きたら布団の中に其れが居た
もう、ここまで来ると笑えて来る
部屋には相変わらず花弁やら、茶色い草冠?みたいなものが落ちて居た。友人に問い詰められ、事情を話した。かなり困惑していたが、最後は信じてくれた。科学を骨の髄まで辛抱する彼は、西阿弗利加から持ち込んだ人形に何らかの病原体が付いているのではないかと考察してくれた。花弁は、人形がばら撒いたものではなく、人形に付着している甘い成分を求めた虫の身体に付いたものが運ばれて来たのではないか、とも言っていた
科学の徒はなかなか頼もしい
しかし、オレは人形を持ち運んだ覚えはない
彼はそれを解体して調べたい、と言ってくれたのだが遠慮しておいた。もし解体した後も枕元に立たれたら、恐ろしいからだ
居なくなってしまった、若干記憶喪失気味の彼奴なら、このことをどう思うだろう
矢っ張り頭がどうかしてる、なんて言いながら一緒に悩んでくれるだろうか
七月ゲ日
頭が痛くとも大學には行かなくてはいけない
結局予定していた日より数日遅れて講義に出た。教授に顔色が悪いと言われ、これ幸いと早退してしまったので、あまり行った意味がなかった。
溜まったレポートのことを考えると冷や汗が出る。最近調子が悪く、何時ものチィトが使えないので困っているだが。
はぁ。提出期限に間に合うだろうか
どこに捨てても家に居る人形が置いてあるアパートに帰るのは気が重かった為、寄り道をして行く事にした。
ホテルに泊まっても解決策にならない以上、もう野宿するしかないかもしれない
七月ヴ日
オレの後を付いてくる。もう夢は見たくない