憑き物落とされちゃ堪らない   作:Tabasco

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妖怪丼

 

 

◽︎

 

七月◆◾︎◾️日

 

彼に会った。古本屋にいた、あのお客だ

見かけた時と寸分違わない装いは、何故だかオレを深く安心させた。

まるで血の池に垂らされた蜘蛛の糸を見ている様だった

 

今回会った場所は、神社だ。それも、夜中の

御神木の根元に座り込んで居たオレは、声をかけられるまで彼に気づかなかった

 

というか、不法侵入してるオレが言えたことではないが、この神社夜は立ち入り禁止だ

一体何をしに来たのだろうと思った

 

何故此処にいるのか、と彼が尋ねた

事情があってどこにも泊まれないから、と答えを返したたら、少し考え込んだ風に見えた

 

暗闇でよく見えなかったから根拠は無いのだが、多分彼は笑っていた

それはきっと、表現するなら、稚気と邪悪を溶かした様な笑みじゃないだろうか

 

オレの鈍った思考感覚が、この御仁には何かあると叫んでいる。

形が掴めない、不確定な、なにか

 

だが、とても安定している

在り方、筋、そういったものがしっかりしている……ように見えた。自信ないけど

まるで妖怪だ。姿形は見えずとも、人の心に陰を落とす、そういう存在

…夜の神社で遭遇、っていうのもそれっぽい

 

着物を着た老翁……彼は、休める所が近くにある、という様なことを言って、オレを案内してくれた。常なら断るが、何と無く彼なら問題ないだろうと思って着いて行ってしまった。今思えば、明らかにどうかしていた

 

 

 

 

七月▲◀︎日

 

魔窟だった

 

休める場所___そういって彼がオレを連れていったのは、本の墓場みたいな家だった。

壁一面どころか、部屋の面全てに本棚が置かれ、中には書物がぎっしり詰まっていた。

それだけでも膨大な数だというのに、信じられない事に収まりきらなかったモノたちは床に積み上げられ、足の踏み場も無かった。

そこらの本屋や図書館より書物密度が高い。

 

____あんた、人間じゃないだろ

半ば呆れたように、そして揶揄うように言ったら、彼は笑っていた

 

 

幸いな事に、二階には辛うじて空間があった。布団を貸してくれたので、少々怖かったが有り難く眠る事にした。

一週間はまともに寝て居なかった事もあり、オレは横になってすぐに眠った

 

 

 

 

 

七月▪︎•◉日

 

香の匂いで目が覚めた。

 

見慣れない場所にいる、とぼんやり思ったが、昨晩の出来事を思い出して理解した

 

ある種信じられない事に、部屋には花弁も虫もその死骸も無かった。……あの人形も、だ

加えて、陰鬱で薬中の幻覚の方がまだマシといった基地外じみた夢も見なかった

 

確証は何もないが、あの一癖も二癖もありそうな彼が何かしたのだろうか。

 

____もしそうだったら、どういう訳だ?

単純に、本の山が邪魔で入ってこれなかった、なんていうんだったら面白いのだが

 

 

布団を畳んで一階に降りると、彼は椅子に掛けて本を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____#

 

 

老翁は、ゆっくりと本の頁をめくった

 

 

「まるで乃亜加拉の滝だ。これだけ本があったら、床が抜けてもおかしくない」

 

青年が、感嘆するように呟いた

 

その言葉に、椅子に腰掛け本を読んでいた彼は応えた

 

「良い表現だのう。滝ならば、流さなければいずれ決壊してしまう」

 

「……オレが居る時にゃ、そうならんで欲しいですけど」

二階は本の重みで軋んでいる。後数年もすれば確実に底が抜けるだろう

 

「君は病み上がりじゃったな。立ち話もなんだ、座ったらどうかね」

本が置かれていない貴重な椅子が一つあった。青年は、足元に注視して、本の海を泳いでいく。ふんわりした緩衝物が敷き詰められた椅子に腰掛けた

 

青年は少し目を伏せてから、口を開いた

「オレを拾って下さって、有難うございます

あのまま神社に居座ってたら今頃警察に厄介になってるところでした」

 

「老人の要らぬ節介だったかも知れんがのう

して、お客人。君には何か……困り事があるように見えるが」

着物を着た老翁の声は、低く落ち着いていた

細い黒縁の眼鏡を通して、邪なこと全てを見通す様な瞳が青年を捉えていた

 

「………あぁ、ちょっとやそっとじゃ梃子でも動かない女の子の事で悩んでいますね」

 

「成程。今も昔も、その手の悩みは尽きなんだ」

彼は笑ってこう言った

 

「ところで、君の言う女の子というのは_____

背丈の小さい、御河童頭の子の事かね」

 

 

 

 

 

 

七月▲◽︎▫︎日

 

憑き物落とし、彼は確かそう言った

 

彼___判じ物師、京極殿が言うには、最近オレを蝕んでいた腐敗臭のする不幸なあれこれは、矢張りあの人形が原因らしい

 

ただ、それは前提として考えていたような

通俗的な意味での幽霊や生き霊といったものでは無く

 

高度に専門的でいて限定的、更に認知が低い___異能、というヤツだそうだ

 

今なら安倍晴明や道教の仙人達の偉業が信じられるような気さえする。

此の世には"人ならざる"力を持つ者達が居ると、そう彼は言った

 

なんて世界は広いのだ。一晩にして、己が今迄どれだけ無知であったかを理解させられた

そして、口惜しいような安堵もしている

オレだけではなかった

 

話が逸れた。重要なのは、あの基地外な人形がその異能____誰ぞやの異能力によって、あの人形は自立しているということだ

 

クソッタレ!お祓いに行っても効果がない訳だよ!

安いとこいきゃよかったなぁ、畜生

あぁぁどっかに実入りの良い仕事ないもんか

 

違う、また話が逸れた。解決策が見えて浮かれ過ぎている

 

彼は、オレに憑くこの人形をどうにかしてくれると言ってくれた。宿に飯まで提供してくれて、その上お祓いまでやって貰うなぞ、後で何をお返ししたら釣り合いが取れるのだろうか

気にするな、と言っていたが____彼が、善人でない事を祈るばかりだ

 

 

▲●

 

なんてこった。蜘蛛の糸に見えた解決策が、新たな問題を引き起こしちまった

 

正午前辺りで、腹の虫が耐えきれず鳴き出したオレに彼が出前をとってくれた。年がら年中金に飢えてる真面目な学徒には本当に有り難い話だった。くそ美味かった。もうあの人の方に足を向けて寝られないわ

 

で、肝心の解決方法なんだが

 

どうやら異能による問題は、異能を以って解決する他ないという

 

人形を手に入れた経緯を彼に話した

オレに憑いてる異能は、既に異能者の管理下に無く、自立的に動いている状態だと彼は推測していた

だから人形自体を如何にかしてしまえば問題無くなる

彼が提示したのは、そう云った異能を扱う専門家に依頼するというもの

どうやら異能を無効化する異能者、というのが横浜にいるらしい。なんてチィト、それ?

中々良さそうな話だと思った。なのだが……

 

完全に自業自得なのだが、話がややこしくなったのは此処らへんからだろう

オレが、彼に"貴方は異能力を使わないか"、と聞いてしまったのだ

根拠はある。簡単な話だ

 

 

 

百鬼夜行が見えたんだ

 

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