ドラゴンクエストM〜英雄の軌跡〜   作:翠晶 秋

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初めてのドラクエ

 

「お?これ新作だよなぁ。なんで余ってんの」

 

それは、中古のゲームを買おうとしたときだった。

『新作ゲームコーナー!』のところにあったソフトを何気なく覗いたとき、とあるゲームが目に入ったのだ。

 

「ドラゴンクエストねぇ……」

 

俺は大抵アクションゲームばっかやってて、ドラクエみたいなターン制のゲームは進行が遅くてあんまやらなかったんだよな。

ほら、『〇〇の攻撃!△△に11ダメージ!』とか。

めんどくさいったらありゃしない。

 

「……いやでもしかし、評判の……。うぬ……」

 

友人のゲーム好き、奏治(そうじ)の話によれば最新作は面白そうらしい。

アバターメイクシステムに装備のマップ反映、探索範囲の広いオープンワールド制に豊富なクエストが魅力だとか。

まあ本人はその幼馴染みの凛さんと失踪中なんだけどね。

みんなも覚えてないみたいだし、ホントどこに行ったんだか。

 

「値段もお手軽……。ここいらで一つ手を出して見るか……?」

 

オタク特有の優柔不断で悩んでいると、ぽんと肩に手を置かれた。

振り向くと頰に指が突きつけられた。

 

「引っかかった!引っかかった!いやー、ホントお前って警戒心ないのな、浩輝(ひろき)

「…………」

「あ、怒った?わりーわりー。でも、そんな浩輝もカワイイぜ?アタシが保証してやらあ」

「そんなこと保証されたくねえよ」

 

カラカラと笑う少女の名は空九里(からくり)

剣道部所属、俺と同じ若草(わかくさ)高の生徒。

昔は素行が悪かったが故に、あんまり絡みたくない相手だ。

 

「空九里はどうしてここに?」

「えー、昔みたいにミツホって呼んでくれよー」

「……光穂。どうして君がここに」

「アタシは見ての通り、ゲーム買いに来たんだぜ」

 

そう言って手を広げる光穂の背中には、小さめのリュックサックと竹刀袋が。

 

「部活帰りに?」

「そ。部活帰りに」

「…………」

「さあて、時間も遅いけどあるかなー……って、あった!ドラクエの最新作!……ん?浩輝もドラクエ買うの?こーいうのやるタイプだっけ?」

「いや、最新作なのに余ってるから手に取っただけ。買わねえよ」

「買えよもったいない!今回は素晴らしいんだぜ!アバターメイクシステムに……」

「聴いた、聴いたから。もういいから、それ」

 

耳にタコができる。

ただでさえ奏治が演説のように聴かせてきたのに、光穂のも聴かされたらたまらない。

 

「え、そうなのか?なぁんだ。……しかし、浩輝が持ってるのも含めてあと二本か。ギリギリだったな」

「お前、こういうのやるんだな、意外。……ってか金は?金欠でイラついてるってクラスの女子が言ってたけど」

「校舎裏にいるやつらから強請(もら)った」

「カツアゲじゃねえか」

 

変わらねえ。こいつはいつまでたっても中学生だ。

身長、胸共に幼き頃のまま……。

 

「……?なんか知らねえけど、気に入らねえ目だ。斬る」

「通報するぞ」

「ダイヤル押す前に墓に送ってやるからな」

 

中学生の頃に交わしたような気がするやりとりをしながら、俺たちの意識は再びドラクエへと向いていった。

「しっかしなあ」と、光穂が切り出す。

 

「本当に買う気ねぇの?いい作品だぞ?スクエニもやる気出してる」

「知らんわ」

「マルチプレイも出来るんだぞ?」

「ドラクエに手を出してる友達知らねえよ」

「レベル上げ、手伝ってあげるぞ?」

「そーいうチマチマしたのが苦手なんだって」

 

どうにか買わせようとする光穂と、どうにか買うまいとする俺。

やがて、本当に俺に買う気が無いと悟ったのか、光穂は、

 

「そっかあ……」

 

と肩をす落とすと、一人寂しくカウンターに向かっていった。

やがて買い終わったのか、カウンターから戻ってきてすれ違うときに「今度感想聞かせるからな……」と去っていった。

 

光穂のあんな顔、久しぶりにみた。

いつも笑ってるくせに。

そんなにユーザーを増やしたかったのか?

いやでも、俺が光穂の誘いを断ったことなんて山ほどあるし───。

 

…………。

 

 

 

 

買ってしまった……!

パッケージを置こうとするたびになぜかしょんぼりした光穂の顔がよぎりついつい買ってしまった……。

あぁ、さらばアクションシューティング。俺は一つのゲームを最後までやる派だから、しばらくはやらなくなるだろう。

 

ディスクを本体に入れ、ゲームを起動する。

携帯ゲーム機ながらテレビの大画面でもできる優れものだ。

 

起動すると派手なラッパの音と共にムービーが流れる。

何回か聞いたことのある有名なテーマ曲。

冒険の書───セーブデータを作ると、キャラメイク画面に移った。

髪型、顔のパーツ等……細かいところまで設定できるらしい。

オンラインではなくローカルマルチらしいから、顔バレの心配はない。なるべくリアルと同じ造形にしよう。

名前は……『ヒロ』、と。

 

五分後、ようやく出来た。髪色は同じように黒だが、目の色を金色に変えてみた。

結構違和感あるな……とも思うが、まぁそれでも構わないだろう。どうせゲームである。

 

アバターメイクを終えると簡単なチュートリアルが始まった。

やはりコマンド制か。スピーディーじゃない。

 

「『これでチュートリアルは終了です』……。こんな丁寧なのか?奏治の話だとチュートリアルは話口調じゃないはずだけど」

 

変わったのか……そう考えていると、ゲームの画面が突然光り出した。

だっ、大分ハデな演出だな。てかまぶしっ、うわ───

 

 

『これでチュートリアルは終了です。引き続き、ドラゴンクエストの()()をお楽しみください。』

 

 

 

 

苦しい。

息が出来ない。

脳が酸素を求めて覚醒し、俺は液体の中でもがいた。

 

「かぼっ……ごぼっ……」

 

突然のことに混乱し、ちゃんとした判断ができない。

服が濡れて体にまとわりつき、どんどん体が沈んでいく。

ここで、死ぬのか……。ゲームしてたはずなのに……なんで……。

 

もがく俺の視界に最後に移ったのは、慌てた様子でこちらを指差す少女の姿だった。

 

 

 

 

──────…………。

 

 

 

 

知らない天井だ。

ゆっくりと身を起こすと、今俺が寝ていたベッドがぎしと鳴った。

もしかしなくても、助けてもらったのだろう。

 

視線を落とすと、俺の部屋の布団よりクオリティの低い毛布と、俺のものではない服。

平凡な村人って感じだ。

だとすると元から着ていた服はどうなったか……。そっとベッドから抜け出し、軽く体を動かしてみる。

ちょっと体が重い程度か。

伸びをしていると扉が開き、最後にみた少女が飛び込んできた。

 

「あーっ!ちょっと、ダメだよ!勝手に動いちゃ!キミ、丸2日も寝ていたんだよ!?」

「……?キミが俺を助けてくれたのか?」

「私は見つけただけなんだけどね。あの日、キミが川で溺れててびっくりしたよ。村の人じゃないよね。どうして溺れてたの?」

「いや、俺にも何がなんだか……。この服ありがとう。お兄さんか誰かの?」

「え?キミが着てたやつだよ?」

 

一瞬理解が出来なくなる。

は?え?じゃあ俺の着ていた服は?

 

「俺ジャージ着てたよな?赤色の服」

「じゃーじ?……うーん、見つけた時にはその格好だったから……流されちゃったのかも?」

「こんなインナーも着ていないはずなんだけど……」

「う、うーん……?まあとにかく、お腹減ったでしょ?今ご飯持ってくるから、待ってて」

「あっ、おい」

 

少女は部屋を飛び出してとたとたと階段を降りていってしまった。

……この間に状況を整理しよう。

俺は、何らかの理由で川に転落し、それを彼女に助けて貰った。

いつのまにか服は着替えさせられて未知のものを着させられている。

わかってはいたけど、情報が少なすぎる。

窓でもあれば外の様子が見られるんだけど……。

 

「ただいま!今日のお昼に作ってたグラタンなんだけど……なんか受け付けない食べ物ってある?」

「アレルギーのこと?」

「あれるぎー……が何かはわからないけど、背中が痒くなったり、妙にごほごほしたり」

「アレルギーだな。アレルギーならなんもないよ」

「よかった。これ食べて。今窓開けるね」

 

少女は壁に向かうと壁の合間に指を差し込んだ。

蝶番の扉が開き、爽やかな風が吹き込んでくる。

……それ窓だったのか。

 

「んーっ。いい天気。洗濯物スグに乾きそう!」

「…………」

 

やたらとうめえグラタンを頬張りながら考える。

いったい俺はどうしてしまったのか。

俺は家でゲームをしていたはずだ。それが、こんな爽やかな風の吹くところに来るなんて。

俺が知らないうちにここに来た理由を現実的に考えるとするならば……。

 

ゲーム→寝落ち→夢遊病→川に転落→今に至る

 

無いな。

夢遊病ってただ歩くだけじゃないのか?

だったら扉を開けて階段を降りて着替えて……なんてことはできないはず。

しかし、他に考えられることなんて───スプーンが器の底を突いた。

 

「ご馳走さま。美味しかったよ」

「お粗末さま。へへ、人に自分の料理を食べて貰うなんてことあんまりなかったから少し恥ずかしいな」

「キミが作ったのか?これ。売っているものだと思ってた」

「売ってる料理なんて高くて買えないよ。でも、ありがとう。それくらい美味しかったってことでしょ?」

「うん。レストランで出せるレベルだ」

 

少女は俺から容器を回収するとコップの水を追加して微笑んだ。

 

「私はキッカ。キミの第1発見者」

「俺はひろ───」

 

言いかけた所で、外から甲高い叫び声が聞こえた。

慌てて窓から身を乗り出すと、村の中心にズッキーニの化け物が村人に槍を突きつけているのが見えた。

 

「あれは!?」

「魔物だ……どうして!?いつも聖水を振りまいて魔物にはこの村が見えなくなっているはずなのに!」

「聖す……」

 

聞いたことのある単語に引っかかる。

それに、この世には魔物なんていない。

あのズッキーニも、取り扱い説明書に載っていた。

───ドラゴンクエストの世界観。

 

「襲われてるのはケニスおじさんだ……用心棒の冒険者はどこに!?」

「アレ、ピンチなのか?」

「私たちは冒険者と違って戦闘経験がないんだ……武器があっても、魔物と戦うなんて……」

「戦えないのか?」

「戦闘経験がないから……。キミもそこでじっとしてて……ってもういない!?」

 

俺は飛び出していた。

階段から飛び降り、直感で見つけた玄関を開け、外に飛び出す。

壁に立てかけてあった棒を掴みとり、そのまま駆け出す。

 

『ひのきのぼう』

 

「ううぅぅぅうううらああああああ!!」

「!?」

 

思い切り叩きつけた棒は中腹から真っ二つに折れ、青い粒子になって俺の手から消えた。

だがそれなりのダメージは負わせられたはず。

残る武器は己の体のみ。あいにく俺は武術を嗜んでいない。

突き出される槍を体をそらして避け、なんとかソレを掴む。

 

「逃げて!」

「お、おう!助かった!」

 

拮抗状態になり、槍の先が向いているこちらの方が勝率は低い。

槍の長さも考えると、キックも届かない。

どうにか───

 

「踏み込め、ボウズ!」

「っ、あああああ!」

 

聞こえた声の言う通りにして一歩踏み込めば、ズッキーニの化け物の後ろからくすんだ金髪のおじさんが現れ、その背中を切り裂いた。

一撃で葬ったのか、ズッキーニの体が青い粒子となって消えていく。

俺の手にあった鉄っぽい槍は姿を変えていき、竹の槍になった。切り口が門松のようにニッコリしてて縁起がよい。

 

「ふう……よく頑張ったな。ボウズ、君は強いな」

「へへ…まあ、どうも」

「見ない顔だな。旅人か?」

「……というよりは、遭難者……と言いますか……川に転落したらしくて、気がついたらここに」

「キミ!」

 

びくりと肩を震わせる。

恐る恐る振り返ると、頰を膨らませたキッカがこっちに歩いてきた。

そのままぶつくさと文句を垂れながら俺の体をチェックしていく。

 

「お、おい。別に傷なんてない……」

「じっとしてて。まったくもう、心配したんだから」

「へ〜……。ボウズはキッカちゃんの彼氏だったのか」

「なっ、ちょっ、ええ!?ち、違いますよアーニーさん!私は彼の第1発見者です!」

「恋の第1発見者?」

「殴りますよ?」

「ごめんて」

 

アーニーと呼ばれた冒険者がキッカをからかう。

顔を真っ赤にしたキッカがまくしたてるも、飄々と受け流している。

うんうん、思春期の女の子は勝手に彼氏とか言われるの嫌だもんな。

 

「んでボウズ。武器折れちまったけどいいのか?」

「いいんです!この人には戦わせません!」

「……って言ってるけど?」

「……正直、少し不安です」「ちょっ!?」

「へぇ。なんでだ?」「アーニーさん!」

「帰る方法を探したいんです。そのためには、旅をしないと……」「……っ」

「……そうか。ボウズみたいな勇敢なやつがこの村を出るのは惜しいと思うが……」

 

アーニーは頭をぼりぼりと掻くと自分が持っていた剣を俺に差し出した。

 

「持ってけ。旅をするには丁度いいだろ」

「……ありがとう」

 

『どうのつるぎ』

 

赤茶色の剣と鞘を貰う。背中に背負うとずっしりとした重みが無性に安心感を与えてくれる。

 

「だっ、ダメだよ!キミ、2日も寝ていたんだよ!?それに外には魔物がいっぱいだし、危険だよ!」

「キッカちゃん、止めてやるな。時には男を見送ってやるのが、良い女というものだ」

「嫌だ!良い女じゃなくて良いから行かないで!」

 

涙目で引き止めてくるキッカ。

喚きながら懇願する姿が、小さい頃の光穂と妙に重なって……。

 

「えーと……アーニー、さん?」

「ん?」

「キッカもこう言ってますし、助けてもらった恩返しが出来るまで、この辺りで稼ぐ事にします」

「ふ〜ん……?そっか。わかった!」

「魔物を倒して稼げたらって思うんです」

「魔物ぉ?へえ、勇気あるじゃねえか」

 

アーニーはさっきのズッキーニの魔物がいた辺りに落ちた銅貨を拾う。

その数、四枚。

 

「この通り、この辺の魔物は落とすゴールドが少ない。それでも、やるのか?」

「農業するより楽そうだからですかね」

 

目を丸くしたアーニーはその後笑うと、右手を差し出してきた。

ぎゅっとその手を握り返す。

 

「改めて、俺はアーニー。タメ口で構わない。よろしくな、()()()のボウズ」

「ぼ……俺はヒロだ。よろしくアーニー」

「最初のうちは戦闘の指南をしてやる。村の外に出るときは俺も連れてけよ」

 

この間、キッカはずっと「そういうことじゃないんだけどなあ……」と頰を膨らませていた。

 

そして半月が経った。

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