「俺は無実だああああああ!」
「っるせぇぞ!!地上に声は届かねえんだから諦めろ!!」
「だからってこんなとこに入れるこたねえだろがぁ!」
兵士が鉄の柵の向こうで怒鳴る。
対して俺も怒鳴った。
だってそうだろ?就職活動してたらいきなり牢にぶちこまれたんだから。
冤罪もいいとこだ。
「……はぁ……いい加減教えてくれよ。どうして俺は牢にぶちこまれてるんだよ。言っとくけど俺落とし穴に落とされただけの被害者だからな?しかも、落とし穴を落ちた先が牢獄だなんて」
「俺は職務を全うする」
「くそう、職があるやつは羨ましいぜ。全うする職があるってどんな気持ちなんだよ」
「黙れ」
「…………」
誠に解せぬ。
牢はところどころ岩肌が露出してるし、なんだか生臭いし、最悪だ。
牢に扉がない環境だから持ってた剣とかの荷物がこちら側にあるのは救いだけれど……どのみち、バッグの中に食料が入ってない以上、この先ほど出されたカッチカチのパンとべちゃべちゃのスープを食べるしかあるまい。
いやおかしいだろ、素材の質が悪くてもこうはならんぞ。だれが料理したんだ、女将を呼べや。
っていうかさっきから左手がひりひりする。どこか擦ったかこれは?
ダメ元でコインを牢の向こうに投げてみる。
「あっ☆お金がそっちに行っちゃった☆」
「言っとくが買収は効かないぞ」
「釣れねぇ兵士!」
「王国兵士がそう簡単に釣れてたまるか」
いやあ……真面目に聞くけど本当に俺が何したって言うんだよぉ……。
「交代だぞ」
「あぁ、頼んだ」
「アッ兵士さん!兵士さんじゃないですか!」
「……ここにいるやつ全員兵士だけどな。まぁ、合ってはいるな、うん」
交代でやって来たのはあのとき優しい言葉をかけてくれた兵士さんだった。
ジョンと名付けよう。
「それでジョンさん」
「ウィリアムだ」
ウィリアムでした。
「ウィリアムさん。こっから出してくんね?」
「ダメだ」
「頼むよウィリアムっち〜」
「ダメだって……。お前を出したら俺の首が飛ぶ。我が身には変えられないよ」
「クソォ!」
俺のクソォ!が地下にこだました。
結構広いんですねこの洞窟。これは牢から出られても脱出が困難だぞぉ。
「ウィリアムっち、なんで俺が犯罪者扱いされてるのか教えてくんね?」
「……まぁ、そのくらいはいいだろう。理由はな、お前が本物の勇者だからだとさ」
「は?」
「詳しいことを一般兵の俺が知るわけないからあんま深くは聞くなよ。……で、お前は左手に紋章があるだろ。ちょっと見せてみろ」
「お、おう」
左手を牢の隙間から差し出すと、ウィリアムっちはまじまじと俺の手の甲の紋章を見つめた。
「へぇ……これが」
「で、続きプリーズ」
「あぁ、そんで、その紋章があんのが本物の勇者なんだと。勇者は伝説上で各地に己の力を分散させて、勇者をたくさん生み出したってあるだろ。その伝説の通り、左手に紋章を持ったやつがこの王城にめちゃくちゃ来るんだよ。で、彼らは全員、素人でもベテラン兵士を凌駕する力を持っていた。驚くことに、その力は全員均等な力の割り振りだったっていうんだよ。まるで、何かの欠片だって言うかのようにな」
「その欠片ってのが勇者ロトの力ってことか?」
「研究班はそう踏んでるがな。で、その勇者ロトの欠片を受けついだ勇者の子たちは、この王城でそれはもう【特別な待遇】をうけているらしい」
「特別な待遇?」
「そこまでは俺も知らないけどな。魔王討伐の前線に駆り出されているのか、この地下室みたいな秘密の場所で特訓を受けているのか」
なるほど〜。
ってことは、牢に来たのは応急処置で、そこまで酷い目に遭うわけじゃないのかな。
いや違うな、高待遇する相手にこんな不味い飯渡さんな、高確率で奴隷行きですな。
「察したか。俺も、勇者は何かしらの被害を受けていると考えてる。一般兵がこんなこと考えたところで、何が変わるってわけじゃないんだがな」
「くっそう、いい国だと思ったのに」
「人の苦痛なしで成り立つ『いい国』なんて存在しねえよ。これ、気休め程度だが食べとけ」
あっリンゴ。
「ウィリアムっち〜!!」
「さっきからそのウィリアムっちってなんなんだよ!?」
それから───
三日が過ぎた。
体力は衰え、ストレスで髪の毛がよく抜け落ちる。
回復魔法で頭皮のダメージは癒せるっぽいけど、さすがに退屈だし
ウィリアムっちがそれからも質の良い差し入れをくれたおかげで、食に関しては幸い困ってない。
お金さえ渡せば、ウィリアムっちが好きなものを差し入れてくれる。いい人だよあんたホントに。
けど、かの聖人ウィリアムも扉のない牢獄の衛生面はどうしようもできないらしい。
洗剤があっても水が無いから体を洗えない。
便は部屋の片隅にあるから異臭がすごい。
もう限界だ。
調べてみてわかったのは、このオリは魔法による不思議な力で固定されているただの棒らしい。
魔法さえ解除できれば、ただ地面に埋まっている棒と大差ないようだ。
それと、左手がチリチリしてる原因は、勇者の紋章と勇者の紋章とが引き合っているからのようだ。
勇者がいた場所に力の残滓が残って、他の勇者の紋章に影響を及ぼすらしい。
ウィリアムっち曰く、この牢から前の勇者が出て行ったのは四日前。
今朝確認したらチリチリが収まっていたので、力の残滓が残るのは一週間程度。
「ってことはゴミ捨て場には、一週間以内に俺とは別の勇者がいた……?」
「なに独り言やってんだ?」
「ウィリアムっち」
「今日でお前は釈放らしい。お偉いさんが来るみたいだから気を付けろよ」
「わかった」
ウィリアムっちが陰に消えていく。
しばらくすると、ガシャンガシャンという音を鳴らすたくさんの兵士を引き連れて、一人のご老人がやってきた。
「……汚いですねぇ」
「おかげさまで。全身痒くて仕方ないよ」
「あなたの処遇が決まりました。落とし穴に落とされて三日間放置してすみませんね」
あっちは俺が、ウィリアムっち経由でさまざまなことを知っているのを知らない。
あっちからすれば、俺は面接落とされて、落とし穴にも落とされたまま三日間放置された哀れな村人ってことか。
「ホントに……で、どこいくんです」
「ついてくればわかります」
老人が手をかざすとオリの魔法が解け、兵士が棒を抱えて出口を作った。
「さあ、こちらへ。荷物も重いでしょうから預けて良いですよ」
これはだいぶ怪しくなった。
剣も預かられたし、こちらに抵抗の術は無くなったわけだ。
ナチュラルに刀狩りするじゃん。
長い廊下をなるべく覚えようとキョロキョロしながら歩くと、老人がおかしそうに笑う。
なにがおかしいんだよ、こっちは着々と脱走の準備進めてんねんぞ。
せめて剣でも腰に下げられればいいのに……チラリと荷物持ちの兵士を見ると、貼り付けた笑顔でこちらを見つめてきた。
怖いよぉキッカ助けてぇ。
ピリッ。
「ッ」
「おや、どうかなさいましたか」
「いえ、なにも。虫にでも刺されたのだと思います」
左手の甲が痛い。
チリチリと焼けるような痛みが、一歩踏み出すたびに少しずつ強くなっていく。
間違いない。クロだ。紋章が痛いってことは、近くに勇者がいることになる。
……牢獄に直通しているこの地下に!
「さ、この扉の向こうです」
ギィと扉が開く。
部屋の内側から、青白い光が漏れ出し、眩しくて目を瞑った俺は……。
「……ッ!!」
首を締められているような息苦しさに、膝をついた。
紋章が今までにない強さの光と痛みを放っている。
体の内側から何かが吸い取られるような感覚に息を荒くして耐えていると、後ろから笑い声が聞こえてきた。
「くくく……アッハッハッハッハ!!また鴨が釣れた!!勇者はどうも人を信じすぎるきらいがあるらしい!!アハハハハハ!!」
「ぐ……っ、が……っ!!」
「勇者の紋章の力は素晴らしい!!勇者が死ぬほどのダメージを与えられたとき、一度だけ体力や気力を全回復する能力!それを応用、利用した私の頭脳も天ッッッ才だぁ!!」
「このっ……く、そ、ジジィ……ッ!!」
左手の甲の痛みに耐え、死力を尽くして辺りを見渡す。
手錠を付けられた勇者が、同じく手の甲から光を漏らしながら痛みにのたうちまわっているのが視界に入った。
白目を剥きながら力を吸い取られている者も見える。
「この手枷を付ければ魔法は使えなくなり、無抵抗のエネルギー源となる……!勇者を1人捕まえただけで、勇者が勇者を呼び、エネルギーが満ちていく!!これなら術者1人で大魔法を行使することもできる!!フハッ、フハハハハ!!!」
老人が笑いながら近づいてくる。
手錠に鍵を近づけると、鍵はぐにゃぐにゃと形を変え、手錠の鍵穴にハマる形になっていた。
あぁ、もうダメだ。
この老人は……ダメだ。
「あがっ……ぐ……っ!!」
「痛い……痛いよ……!」
「…………っ!!」
たくさんいるからって、勇者を資源みたいに扱って!!
許されるか。
まかり通るか。
何のために強くなったかって、こいつらの道具として長持ちするためじゃない。
リッカの笑顔のため。
そして生き行く人々のため!!
「『メ……ラ』……ッ!!」
「ばっ!?」
老人の法衣に直撃したメラはすぐに燃え広がり、老人の顔に冷や汗が浮かぶ。
できた。一瞬の隙。
抜かれていく力を全身に張り巡らせ、思い切りタックルをかました。
「ぐほぉ!?」
「法士様!」
よろけた老人を横目に俺は再度踏ん張って地面を蹴り、フルプレートメイルの兵士を蹴り倒した。
あと6、7人くらいか!
回し蹴りでまた1人兵士を攻撃し、身につけていたケープをぶん投げて相手側の視界を覆った。
地面に落ちたソレを掴み、ほかの勇者のもとへ。
手錠を力ずくで外そうとするが、外れない。
使い方はわからないけど、これで……。
「はああああ!!」
「ッ!!」
ぴりっと首筋が焼けるような感覚。その場で横に飛び出して地面を転がるように攻撃を躱す。
兵士には、このエネルギー吸収の魔法は効いてないんだよな……圧倒的なアウェーだ。
俺は拘束されなかったとはいえ、今も魔法で勇者の力を吸い取られ続けている。正直辛い。
ガタガタ抜かして震えるふとももを殴りつけ、動かす。
剣が使えないなら、素手で。
相手は槍を装備している。
大丈夫。この世界に来て最初に戦ったズッキーニャと同じ容量でいなせばいける。
「はぁ……はぁ……!」
「囲め!出口を塞げ!」
老人は起き上がりそうにない。そりゃ老人なんだから起き上がるには時間がいる。
……クソッ、いつまで状況分析しているつもりだよ俺!見てるだけじゃ物事は進まねえんだよ!!
「『メラ』ァ!」
「ぬおっ!?」
指先から炎を出し、威嚇。
魔物は倒せるけど、フルプレートに効いてるかと言われたらそうじゃない。
そもそも、俺の目的は脱出じゃない。
「……法士様!」
「鍵が、まほうのカギが!!」
老人が地面にすがって何かを探している。
兵士の突き出してきた槍の中腹を掴み、勢いを利用して鎧の腹部に発勁をする。
痛い。素人に発勁はやはり打てなかった。
けど、これで大丈夫なはず。
脱力する体に正直に、膝を落とす。
兵士の顔が意地悪く歪んだ。勝利と思ったのか。
俺は信じた。
先程、まほうのカギを渡した「勇者」を。
「『とうこんうち』ィ!!!!」
「ッがぁっ!?」
かぁん、と小気味良い音が響く。
見上げると、そこに拳を突き出した勇者がいた。
依然、左の手から光が漏れ出てはいるが。
「せんきゅ!助かった!」
「鍵を渡されなかったら永遠に餌のまんまだ。礼は足らないくらいだ……よッ!!」
「へぐあっ!?」
先程どれだけ頑張っても倒せなかった兵士たちを拳を一つでなぎ倒していく勇者。
その間に、俺は再び鍵を回収して他の勇者たちの手錠を開けていく。
意識を失った者もいる。1人たりとも残して逃げるわけにはいかない。
「逃げて!」
「っ、『ステルス』!」
目の前の勇者の姿が消えた。
……というか、めちゃくちゃ目立たなくなった。
「助かった!」
「これで戦える……」
「もうやだよぉぉぉ!!」
次々に解放されていく勇者たちが、兵士たちの包囲網を破っていく。
気絶している勇者は他の勇者が背負ってくれているようだ。
「全員の鍵を開けた!逃げるぞ!」
「に、逃がしません……!『メラミ』!」
どうやら立ち上がっていたらしい老人の掌から火の玉が放たれた。
ストレートに投げられた火球を身を捻って避けると、背後の壁に当たって小爆発を起こした。
あ、あんなのモロに食らったらひとたまりもねぇ!
「あなただけは許しません……首吊り獄門、磔刑に処します!」
「それじゃあ、裁判官を殺す他ないかなっ!」
「『メラミ』!」
2撃目のメラミ。
全員部屋から逃げたから、もう周りのことを気にする必要はなくなったってことか。
地面を蹴って少し先の位置に飛び込むように避ける。
全員逃げたから、先程のように勇者の助けは得られない。
ここで、俺が老人をどうにかしなきゃ……。
「……ぐっ!!」
気合でなんとか保ってきたけど、やっぱり体が重い!
避けるだけじゃジリ貧。体力を抜かれ続けている俺の方が不利だ。
法衣は厚そうだし、全力を使い果たしたへなちょこキックじゃあダメージはさほど与えられそうにない。
だったら、なけなしの魔力を絞って!
「『メラ』!」
「『ヒャダルコ』」
飛ばしたライター程度の火は、突然現れた氷柱に呑まれて消えた。
そんなのアリかよ!?ずるいだろ火に氷は!!
けど、隙はできたか?だいたい大技にはチャージ時間が生まれるものだろう!
「『ヒャダルコ』」
「くっそぉ!!」
右足が氷に包まれ、身動きが取れなくなる。
ごめんキッカ、俺、これで終わりっぽいわ……。
「隙アリぃ!!」
「なっ!?」
突然、何もない空間から先程助けた勇者が姿を現した。
がちゃりと、老人の腕から音が鳴る。
それは、先程老人が「魔法を封じ込める」と言っていた手錠だった。
勿論鍵は、俺のポケットの中にある。
「…………」(老人と目が合う)
「…………?」(ステルスしていた勇者と目が合う)
「「…………!!」」(勇者と思考がリンクした)
「「よっしゃあリンチだ!!」」
この間に一時間も経ってないけど、形勢は逆転勝利、老人は魔法が使えない老いた体のまま!
勝ち確を察した俺たちはそれぞれ老人をボコボコにするために拳を構える。
その様子を見た老人が脂汗を流しながらこちらを見上げてきた。
「ふ、そんなことをしていていいんですか?すぐに増援が駆けつけますよ……」
「……確かに、気絶してる兵士の数が1人足りないな」
「逃したね、これは」
「その通り。じきに逃げた勇者も捕まるでしょう、そうなったら……あなたたちの死刑は免れぬはずです」
「「じゃあ一発殴っとくか」」
「ふぐっ!!」
ステルスの勇者は顔面に、俺は背中にそれぞれ蹴りを入れ、早々にその場を離れる。
まほうのカギって言ってたこの紫色の鍵が大量生産されてるものでない限り、あの手錠も外れないだろうし。
「バラバラになって逃げるか!?」
「いや、俺の特技に追尾ができるものがある。他の勇者たちに何かあって捕まってない限りは、合流を目指した方がいい!」
「わかった、ついていくよ」
チリチリと光を放つ紋章が、今度は痛みではなくやんわりと優しい光を放つ。
もしかして、あの体力吸収の部屋を抜けたからか?
まあ、おかげで走ることに集中できるのはありがたいけど。
あーあ。これじゃ犯罪者だよ、もう……。