ピナはまだことの重大さを理解していないのか……?
真面目な表情をしているが、まったくもって真面目な雰囲気が出てない!
なんかその、子供がスパイごっこという名のかくれんぼしてるみたいな……。
「ピナさん。ほんとに、僕一人で大丈夫ですから……」
「はい!私も大丈夫です!」
「話聞いてるかなぁ!?」
「勇者に会ったら信用しろって、両親にも言われてますから!」
「それ子供の時の話だったりしない?」
この子、アホの子だ……!
路地裏から表の様子を確認しつつ移動していくも、行く先々で兵士がうろついている。
もうかなり顔も出回っている……と思う。何より……。
「勇者軍!出動!」
「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」
先に選ばれたであろう勇者候補の皆様が捜索隊に加わった!
中にはほんのちょっとだけ覚えてる顔もいるし、このままじゃこの国を埋める勢いだぞ!
「ピナさん、少し離れてください」
「い、いやです!」
「…………」
そんなやる気満々な顔で言われても。
ピナさんはひょこりと壁の向こうに顔を出し、左右を確認すると手招きをした。
「私が先に行きます。私はまだ指名手配されてませんから……」
「なんでそこまでしてくれるのさ!自分の命が惜しく無いの!?」
「……それは……うまく表現はできないですけど……とにかく、ヒロさんについていったら何か変わるかもっていう、その……直感です!」
直感かよ……。
とはいえど。
今のこの状況で、先導してくれる存在があるのはありがたいことこの上ない。
ピナさんと別れるかどうかは、まずはこの国を無事に出てから考えよう……。
「ヒロさんこっちへ!」
「わかった」
ピナさんの指示や観察力はとても優秀で、一度も兵士と鉢合わせることなく、順調に進めている。
「このままスラム……の方まで行けば、ゴミ処理用の通路があるはず……です!」
「頼もしい!」
「い、いえ、私はそんな……」
なぁんでこのタイミングで謙遜するかね。わからん。
とりあえずは、この剣を人間の血で染めることがなくて助かった。
戦う覚悟はしてるけど、正直まだ怖いから……。
悪臭のするスラムは、兵士ではなく傭兵がうろついていた。
王のお抱えの兵士がゴミの臭いをつけてきたらクビにされるかもわからんからだろう。
運がいい。
傭兵はスラムに慣れてる代わりに、あんまり人の顔を覚えない。
それに、向こうは俺たちがスラムに隠れてはいても脱出しようなんて考えもしないだろう。
だ、と、す、れ、ば……。
「こっちです。ここを通れば、ゴミ捨て場に出ます」
「……協力ありがとう、ピナさん」
「お役に立てて光栄です!」
つくづく遊び人らしくない人だ……。
「それじゃ、ピナさん。俺はいくよ」
「……?はい」
「ピナさんはちゃんとこの街で平和に暮らして。勘だろうとなんだろうと、こんな指名手配されたやつについていくのはダメだ」
「…………そうですか?」
「そうだよ。勇者だろうとなんだろうと絶対ついてきちゃダメ。……本当は俺だってピナさんと一緒に行きたかったけど、指名手配が終わってから。安心して。ほとぼりが冷めたら、また来るよ」
「……そうですね。私たちは、相性ピッタリなんですから!また、会えますよね!なら……待ってます」
「うん」
ピナさんに別れを告げる。
ここから先は、どうなるかわからない。だったら、ピナさんがついてくるべきじゃない。
「絶対帰ってきてくださいね……」
「……うん」
俺はフードのずれを直して、ダストシュートへと向き直る。
……帰ってくる気は、ない。
帰って来ても、ピナさんは巻き込まない。
アリアンテさんも、ルイーダさんも。───コルも。
「それじゃ」
「はい。御武運を」
俺は、ダストシュートの暗闇の中へと飛び出した───!!
◇
─────────。
◇
臭い。
しばらくの間、滑り台を滑り続けた。
ゴミを詰めた袋をシュウーッしてただけのようで、幸い滑り台自体にゴミが付着しているようなことはなかったが……。
その先がねぇ?
捨てたまま放置されてるからか、野生動物が革製の袋を食い破ってゴミが凄いことになってる。
クッションができたと言えばそれでいいかもしれんが綺麗好きな日本人が許すわけねぇだろ!!
はぁ……。
まぁ、かなり高い位置から落下して傷一つないなんて、そんな奇跡二度もない。
よし、武器も大丈夫。それじゃ、気を取り直して改めて兵士から逃げるための冒険に───。
「あたっ、あいたたっ、わぁ〜っ……」
バサッ!!
…………。
「いたた……おしり打っちゃった……」
「ピナさん!?」
ピナのキャラ、書いてて分かったけどすっげえ扱いづらい