この村はいい村だ。
俺を暖かく出迎えてくれた。
だからこそ、この村に迷惑をかけるわけにはいかないんだ。
早く出れば、そして強くなってたくさん稼げば、この村に貢献できる。
「空が綺麗だな」
星々が瞬く夜空は、地球のものとは違ってとても美しく輝いていた。
「もっと強くならなくちゃ」
左拳を握り、夜空に掲げる。
キラリと、流れ星が一筋流れた。
この手が、いつか栄光を手にできたら───。
「……?」
掲げた俺の手の甲に、うっすらと何かが浮かび上がっている。
なんだろ……うっ!?
「あつっ、熱ッ!!な、なんだこれ!?いてててててて!!」
焼けるような痛みを覚え、必死に手の甲を払う。
それでも痛みは収まらず、痛みが消える頃には───。
「なんだこれ。鳥……?」
鳥のような模様が、焼きついていた。
コレあれだ、ゲームのパッケージに書かれてたやつだ。
CMで主人公が持ってた剣のモチーフにもなってた。
「いや、ホントになんだこれ。紋章ってか?」
もしも呪いとかだったら怖いな。
ドラキーが使ってきた睡眠魔法の怖さはよく知ってる。
村のシスターに相談してみよう。
◇
「シスター」
「ようこそ迷える子羊よ。こんな夜更けにどんなご用ですか?」
「さっき高台に登ってたら左手にこんなん出てきたんだけど、呪いかなんかだと怖いから一応解呪の魔法かけてくれる?」
教会に入ってすぐさま、左手を見せる。
こんな夜更けに悪いとは思うけど、それでも自分の身が大切なんだ。ごめんシスター。
「あらあら……みせてごらんなさいな。左手に……これは紋章、かしら?」
「それっぽいんだけどね……正体不明だから」
「どこかで見覚えがあります。少し待ってて下さい、調べて来ますから……」
「頼むよ」
シスターが自室へ引っ込む。
手持ち無沙汰になった俺は適当に座り、両手を組んで神に祈る。
教会に来た時はいっつもこうしてる。
こうすることでなんかこう……大丈夫って感じがする。
「俺、これからどうなるのかな……。この紋章、害の無い物だといいな」
パッケージに書いてあったんだから悪いものでは無いだろうけど……なんにせよ、心配だ。
あ、あとそれと……。
「……キッカと仲直りできますように。キッカに災難が降りかかりませんように」
もう少しで旅に出るんだ、それくらいは。
ってかさっきから騒がしいなシスターの部屋。なんかあったのかな?
「ヒロ!」
「シスター。どうだった?」
「今すぐ村長の家へお行きなさい。あなたは───」
「───勇者です!」
勇者?
「勇者?」
「ゆうしゃ」
「ゆうしゃ?」
「ん。勇者」
「俺が?」
「あなたが」
「はえー……」
信じられませんな。
でも本当だとしたらこれは強くなれるチャンス。
勇者って主人公っぽいしお金も貰える……よな?
「とにかくはやく来てください!」
「うわっちょ、シスター、少し待ってよ!」
シスターに手を引かれて村長の家へ急ぐ。
村長は村の事を一番に考えている。
お金に左右されない、理想の村長だ。
もちろん、夜間の対応もしている。
「村長!」
「シスターか?どうした?」
「この子に……勇者の紋章がっ!」
「なんだと!?」
いつもは物腰柔らかな村長の顔がこわばる。
左手を優しく握られ、その目が紋章を見つめた。
「シスター、これは本当に……?」
「ええ。伝承の物とそっくりです。ヒロは、もしかしたら本当に……」
「ううんむ。……ヒロ、事態がうまく飲み込めんといった顔だな。それも仕方ない」
村長が本棚から一冊の本を取り出し、俺の目の前に差し出す。
それは、見覚えのあるものだった。
「この村の子供ならみんな知っとる絵本だ。ヒロも、ときたま子供に読み聞かせをしてくれただろう」
「ええ、はい」
勇者に選ばれたロトという青年が、魔王を倒しにいくお話。
魔王はとてつもなく強く、古代兵器【ソー・ジーキ】に行く手を阻まれながらも、ロトは魔王を倒す。
倒された魔王は言った。
『もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを おまえに やろう』
……ここで絵本は終わる。
シスターや村長が言うには、『この後の展開を子供に考えさせる』らしいのだが……実話らしいので勇者はきっと断ったのだろう。
そうでなければ、この世は魔物で溢れかえり、こんな村は壊滅状態だ。
「あぁ……だいたい察しました。先祖帰りとかそんなんですか」
「いや違う」
違うのかよ!
考えりゃそりゃそうか。地球出身の俺の先祖がロトなんて、絶対にありえないだろう。次元の壁があるしな。
「この話には続きがある。勇者はとてつもない力を持っていた。それこそ、英雄1000人分くらい」
「いっせんにんぶん」
「勇者はな。自分の人生が終わるそのとき、自分の力を世界中に散らせたのだ。そして、幸運にもその力を授かる事が出来た人間は……新たな勇者となる」
新たな勇者。
ロトの力を受け継いだ者。
「マジか……」
「この紋章はいつ?」
「ついさっき」
「なるほど。今でこそ大した変化は見られないが、そのうち勇者として力が発現し始めるだろう。その前に、まずはそうだな、王国に行くといい。勇者を血眼になって探しているらしいぞ」
「嫌な予感しかしないんですけど」
「案ずるな、勇者は旅をするのが仕事だ。王国の使い物になるわけでもない。……まあ、本人にも心の準備は必要か。今日は帰りなさい」
「……はい」
手の甲を見つめながら村長宅を出る。
俺が、勇者。
王国に行って、旅をする。
……念願の旅だ。
でも、なんだろう、この……胸に穴が空いたような気分は。
「俺は、自分が考えている以上にこの村が好きだったのかも?」
自嘲気味に呟く。
ホントは行きたくないのに、目の前にぶら下げられたニンジンだけを見て、キッカを泣かせた。
最悪だ。
「……んだ、またヒロじゃねえか。どしたんだ」
「おやっさん。決めた。買うよ、この剣」
「……そうか。ついに出るんだな、旅に」
「うん、出るよ。チャンスが来たんだ。勇者になった、これで、たくさんお金を稼いで、この村に貢献できるよ。今度は、俺が恩返しする番だ」
「勇者、か。わかった。『兵士のつるぎ』、150Gだ」
まけてはくれないのか、なんて軽口を叩いてお金を払う。
おやっさんは「当たり前だろ」と笑った後、急にしんみりしだして、
「……そっか。これをお前に言うのも、もう最後なんだな」
「よせやい。もしかしたらひょっこり帰って来てなんか買ってくかもしれないだろ」
「そうだな。よし、言うぞ。……ここで装備していくかい?」
「……ああ!!」