スカンッ。
スカコンッ。
ヒノキの棒が振られる度、硬い音が響く。
片方が上段から振り下ろし、片方は即座に体を落として上に棒を構え、攻撃を防ぐ。
すかさずジャンプ。
跳ねあげられた腕が棒を離した瞬間、俺の棒が相手の喉元に吸い込まれた。
「そこまで!」
寸止め。
アーニーに、勝った。
「ッッッしゃおらァ!」
「マジか……負けた……!」
旅立ちの前にアーニーと一手、打ち合わせてもらった。
みんなに実力を見せつけて、旅に出ても大丈夫と分からせるため。
俺はカバンと剣を背負い、みんなを見渡す。
「アーニーに勝ったんなら、大丈夫でしょ?」
「……そうだな。きっと、大丈夫だ」
「元気でやれよ!」
「すぐ帰って来てもいいんだからね?」
「ヒロちゃんは良い子だったのに……寂しくなるわねぇ」
「ま、お前さんがそこまでやるなら、止める義理はないわな」
村のみんなが俺の肩を叩く。
心地よい痛み。
村のおじさんが馬を引いてきた。手伝いで何度か世話をした馬だ。
「こいつは村一番の器量良しだ。覚えてるだろ?」
「え!?良いんですか!?」
「なつき具合を見ると、ヒロのところがいいんだろ」
「……っ、ありがとうございます! っておい、くすぐったいって」
頰を俺に擦り付ける白い馬。名前はまだない。
大切にしよう。しばらくの相棒だ。
「それと」と村のみんなが一斉に道を開けた。
「ヒロ」
キッカだった。
モーセが割った海を進むように、キッカはこちらに歩み寄ってくる。
「行ってらっしゃい」
差し出された手は震えていた。
……無理してるだろうに。
「うん。行ってきます」
「!」
手を掴むと同時に引き寄せ、ぎゅっとハグする。
精神を安定させるのはハグが良いって聴いた。
……村人が盛り上がる。やめろよ、そんなんじゃないって。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん。元気でね」
「まずは王都───アルスデンまで行ってくる。旅のお土産、たくさん持ってくるから」
「うん。ずっと、待ってるから」
馬に騎乗し、村から出る。
名残惜しいな……。
色んなことがあった。子供のお守りをやったり、魔物を倒して稼いだり。
せいすいを振りまいて魔物の目から村を隠したり。
後ろを振り返れば、まだみんなが手を振ってくれていた。
「まぁ、悪くはなかった。それどころか楽しかったよ」
「ぶるうう」
「わかってる。……いくぞ!」
手綱を引けば、馬が歩き出した。
小石を無視し、土を踏み固め。
魔物狩りの遠征で来れる範囲を超え、橋を渡り。
のどかな風景に流れる川で水を飲んで休憩し。
「……ん? っと、魔物か」
弓を構えた小さな魔物、リリパットをぶん殴って泣かせて。
空を見上げて雲を眺めた。
山を迂回して麓を通り、キッカの作ってくれたおにぎりと干し肉の携帯食料を食べ。
遠くの方に、ようやくお城が見えてきた。
「見えた……あれが、王都アルスデン」
「ぶるる」
「……よし。いくぞ」
なんだかちょっぴりテンションが上がり、パッカラパッカラ蹄を鳴らして王都に近づいていく。
王都にいくついでにキャラバンの人からリンゴを譲り受け、『王都にリンゴを届けろ!』なんてクエストを受けて進みゆく。
そして……。
「ここから先はアルスデン領だ。要件は?」
「えっと、観光と旅の仲間探し、あとアリアンテつて人にリンゴを届けにきました。クエスト承諾書もあります」
「よし、通っていいぞ」
王都アルスデンに、ようやく足を踏み入れた。
この国の城壁は分厚いレンガ造りになっている。
中心にある噴水がアーチを描き、子供が行儀悪くも楽しそうに噴水に足を抜き挿ししている。
第一印象としては、笑顔の絶えない良い街。
馬の手綱を引っ張りながらキョロキョロと辺りを見渡す。
アリアンテさん家は……ここかな。
ドアに直接ついているベルを鳴らす。
しばらくして褐色肌のなんか……戦士風のスレンダーなお姉さんが出てきた。
「んあ……?どちら様だ、アンタ?」
下着姿で。
「あ、う、デットリって人から、リンゴを届けてくれって頼まれまして……」
「あーはいはい! お、ご苦労様だなぁ。クエスト承諾書、あるかい?」
「はい、ここに」
「どーもどーも……どうする? クエストの報酬」
「へ?」
「なんでもいいぞ。クエストの報酬、用意してないんだ。だから、お前が望むもんをくれてやろう」
とりあえず服を着てください。
たゆんと揺れる二つの丘に目がいく中、アリアンテさんはボサボサの銀髪を揺らして目を細める。
「そのなりは旅人ってカンジか? 宿屋はとったか?」
「いえ、まだ」
「じゃあウチ泊まってけ!」
「へ?」
「この時期は宿屋が混雑するんだ。ウチの空き部屋を使えば、そのまま王都でなんやかやできるぞ!」
なんやかんやって……。
でも、本当に宿屋が混雑しているのならありがたい。
ここはひとつ、ご厚意に甘えるとしよう。
「じゃあ、お願いします」
「おうよ。こう見えて、アタシも昔は旅人やってたんだ。なんか相談あったら聞きなね。ハイこれ部屋の鍵」
「あ、どうも」
「んじゃあ部屋に案内するぞ。入ってこい」
「その前に服を着てくださいよ!」
王都アルスデンは、思ったよりも大変な場所だった。