ぼんやりと明かりが光っている。
「ぷぁっ!!うっめェなぁ!」
「苦い……」
「なんだ、酒飲んだことねぇのか!いいか、酒は飲んでも呑まれるな、だぞ!」
「べろんべろんのアリアンテさんがそれ言いますか」
アリアンテさんがいろんな人達と杯を交わしている。
どうやらアリアンテさんは有名人らしい。
「アリアンテ、お前しばらくの間どこに行ってた!」
「ちょいと魔王退治にな!」
「そりゃすげぇ!」
「「うはははははは!」」
え、魔王退治?
アリアンテさん勇者なの?
「なーに呆けた顔してんだ!ジョーダンだ、ジョーダン!ちょいとここを離れてたからな!」
「あっ、冗談……」
この雰囲気嫌い。
アリアンテさんから逃げるようにテーブルを離れ、よろよろとカウンターに寄りかかって大きく息を吐く。
ふぅ。
……幼い頃に酔ったいとこのおじさんに絡まれたことを思い出す。これが大人の付き合いってやつだろうか。
「ボウヤ、ここはあなたみたいなのが来るところじゃ無いわよ?」
「えっ」
「ふふっ、テンプレートが過ぎたかしら?」
振り返ると、大人の色気をムンムンと放出する青い髪の女性が。
「ルイーダって言うの。あなたは?」
「あ、へ、ヒロって言います」
「ヒロ。ヒロ、いい名前ね。見たところ新米の旅人って感じかしら……」
「おうルイーダ!!そうだった、ルイーダ、こいつに仲間を紹介してくれ!」
「言われなくても探してるわよ、まったく……」
ルイーダさんは頬に手を当ててしばらく考えるような仕草をしてみせ、次に酒場を見渡すとなぜか首を傾げた。
ちょっと待って、仲間がいないとか言うのはさすがに悲しい。
と、そんな俺の心中を察してくれたのか、ルイーダさんは苦笑しながら手を振った。
「さすがに仲間がいないなんてのは無いわよ。ただ、今はここにいないみたいね。少し前まではあの子も仲間を探してずっとここにいたのだけど……」
「あ、仲間候補がいるなら気長に待ちます」
「そうしてくれると助かるわ。あの子、あなた以外に良いパーティーになれそうな子が見つからなかったのよね」
互いにパーティー候補は他に無し、か。
ルイーダさんを疑うわけではないが、本当に最良なパーティー候補などいるのだろうか。我、異世界人ぞ?
まぁいるのならありがたい。
「ヒロ、仲間は見つかったか?」
「今はここにいないみたいでくっさ!酒くさ!!」
「おいおい、乙女になんてこと言うんだぁ?」
「アリアンテが乙女だってよ!」
「どっちかってぇと魔物サイドだろーが!」
「んだとこらぁ?」
アリアンテさんは再び酒飲みの間に割って入っていく。
どうやら腕相撲をするみたいだ。
俺、これどうやって対応したら良いんだろう……。
「ごめんなさいね。あの子、呑んだら全財産果たすまで働かずに呑みきるタイプの子なのよ。だから一ヶ月に一回くらいしかこの国にこないの。雇われ兵として各地を転々としてるのね」
「なるほど」
「結構良い働きをするみたいよ?あの子に感謝した村や町がこの酒場にあの子当てにいろんなものが送られたりしてね……」
だからリンゴ配達のクエストが……。
アリアンテさんを見ながら手に持った杯の中身を再度舐める。うん、苦い。
「こら。お酒はまだ早いんじゃないの?」
「飲める年齢らしいんですけどね」
「体がまだ成熟してないのよ。ほら、今日の所はあの子連れて帰りなさいな。このままじゃあの子、三日後にまたこの国を離れるわよ」
「家に住まわせてくれてるのって留守番代わりって意味か!!アリアンテさん、早く帰りますよ!」
テーブルの端を掴んで離そうとしないアリアンテさんの襟首を掴んで引っ張っていく。
旅に出ようとしてるのにこの国で留守番として定住とかシャレにならない。
「やらぁ!まだのむ!」と半分寝ていて最早ろれつも回ってないアリアンテさんを背負い、酒場のみんなに頭を下げる。
「じゃあ、もう帰ります!お先失礼します!」
「おう!また来な彼氏!」
「彼氏じゃありません!」
「律儀じゃのー!!」
いらつく!
笑い声の鳴り響く酒場を逃げるように出て、すっかり
こんな夜は考え事に最適だ。……考えることなんて無いけど。
ひんやりとした空気が肌を刺す。
背中ですやすやと寝息を立てるアリアンテさん。当分起きそうに無い。
お、フード……外套だ。地球でこんな真夜中に着てたらご用だされるな。
……地球、ねぇ。帰れるのかしら。
「……っ?」
手の甲が痛む。頭も痛い。
勇者の紋章がヒリヒリと熱を発していた。
なんだよう、ゴミ捨て場の時といい今といい。
何かの合図なのだろうか?それとも行動の制限があって、それ以上は行動を許さない、とか?
まだまだ謎だ、勇者の紋章。
まぁ、明日城に行けばなにかわかるかもしれない。
それまでは、深く考えないようにしよう。ファンタジーな世界では考えるだけ無駄な気がする。
「アリアンテさん、家に着きましたよ、鍵をください」
「うえきばちのしたー」
「植木鉢……あ、あった」
こんな隠し方する人初めて見たわ。そもそも木、枯れてるじゃないか。さてはこの人水をあげてないな?
家に入ってアリアンテさんをソファに寝かせる。部屋にはさすがに入れないからな。
戸締まりを確認、アリアンテさんにタオルケットはかけた、よし、安全安心。
「おやすみなさい」
一言、アリアンテさんに断ってから、俺はランタンの灯を吹き消した。