「おはようございま……寝てる」
早朝というわけでもないけど……まだ睡眠が深いようだ。そりゃ昨日あれだけ飲んでたらそうなるか。
たしか王城が開かれるのはお昼だったはず。だったら王城付近で買い食いでもしながら待つとしようかな。
「それじゃ、アリアンテさん、行ってきます」
剣も下げ、とりあえず全財産の3分の1を持って家を出る。
もしも離れることになっても宿代として受け取ってもらえばいいし、一応何があってもいいようにしている。
勇者とは、そういうもんだ。……といっても、絵本で得たくらいの知識しかないけれど。
まだ日も登りかけている頃、爽やかな風を肺いっぱいに吸い込む。
いい朝だ。
やっぱりこの国はいい。表現こそできないけれど、雰囲気がいいんだよ。
売り出されているクズ野菜のスープを片手に啜りつつ、王城への歩みを進める、
ちなみに武器屋は開いてなかった。開いている時間帯が書いてないのは不親切だ。
あ、こんな道あったんだ。昼までは時間あるし寄り道は……いやよそう、迷子になったらおしまいだもんな。
さて、そろそろ王城なんだけど……うっわあ、思ったよりも人が溢れている……。
勇者候補ってこんないるの?これが毎日?一千人とか比じゃないと思うんだが……。
ドン。
「おっと、すみませ……」
「…………」
「あっ……」
スープが……マントに……。
振り返った大柄の男は取り外したビショビショのマント見つめると、次に俺を頭のてっぺんから足の爪先まで睨めつけるように眺める。
無表情だ。怒ってんのか気にしてないのかわかんない。
「……貴様、勇者に立候補するのか?」
「えぇ、はい、まぁ」
「なんだその無礼な態度は!この方をどなたを心得る!」
ほげ。なんか偉い人だったん?
「王国直属騎士のローグ様なるぞ!」
「うわぁ……」
職場の上司的な人やんけ。
お付きの兵士っぽい人が腰の剣に手をかける。
「いやその、田舎から来たもんで……それに、ウチの村に来たらなんの権力もない人ですし……」
「あ゛!?」
「あっ、いや、すみません!正論で殴ってすみません!」
「舐めてんのかお前!」
違うんです、怒らせる気は全くないんです……!
いやもうマジプレミっすわ。
「どうしますか、ローグ様。首を飛ばしますか?」
俺首飛ばされるんすか。
「……いや、貴様も勇者に立候補するのだろう?もしも本物の勇者であった場合、こいつと共に私の首も飛ぶ。今は捨ておけ」
「いやほんとマジすいません」
「ローグ様の慈悲だぞ。命拾いしたな」
「はい、ほんと。お世話になっております……」
ぶわああああああああ!!
よかった俺、今世紀最大のミスやらかしたから最悪人生終わるかと思った!!
それこそ村のみんなに顔向けできない。もっとも、向ける顔はすでに晒し首になってたかもしれないけれど。
「…………」
し、視線が……。
そこまで偉かったんだあの人。信じられないって目で見て来る。
ぐうううううう。
「…………は?」
「は、あは、ははは……」
踏んだり蹴ったりだよもう。
そういえばスープだって3分の1程度しか飲めてない。当然お腹は減る。
スープはひっくり返ったし、楽しみに残しておいた一本のソーセージは地に落ちている。
……はぁ。
「幸先悪いなぁ……」
「あー、あー、諸君!」
あ、始まりました?もう少し早ければあんなことには……。
「遠く、もしくは近くから遥々ごくろうだった!これより、王城で選定された騎士による、勇者選別を行う!形式は面接を第一次選考とし、二次選考は兵士との模擬戦となる!最後に残った者が勇者として認定され、我が主の王城で働くことを許可される!」
辺りを見渡す。
勇者多いなぁ。
湧き立つ者、不安そうな者、首を傾げている者、フードや兜でそもそも顔が見えない者。
勇者、多いなぁ……。
「門を通る際、門番から番号札を受け取れ!少しでも怪しい行動をしたら直属の魔法使いが直ちに押さえ込む!」
スクランブル交差点のように一気に流れ出す人の波の中、流されないように踏ん張りながら番号札を受け取る。
あっ、後ろに針がついてる。ワッペンみたいな感じだろうか。
『128』と書かれた札を胸に貼り付け、「120〜129」と書かれた看板の元へ向かう。どうやら十人単位で面接するらしい。
あ、あの人マントに札をかけてる。127だから俺はこの人の後ろか……いやだいぶ強面だな、話しかけるのはやめておこう。
「あの……」
それにしてもやはり量が多い。番号札はいったいいくつまであるんだろう。
見える範囲では500くらいか……面接官も大変だ。
「も、もしもし……」
女もいる。斧を担いでいるアリアンテさんスタイルの人もいるし、杖を握りしめている人もいる。
うっわ、お爺さんまで勇者に立候補したのか。もし選定を潜り抜けたとしても、その年で最前線はキツイと思うけどなぁ。
「む、無視……?……うわっ」
おっと、背中に軽めの感触。
振り返ると俺より頭ひとつ分小さい身長のつむじが見えた。
顔を上げたその人は艶やかな髪と大きな瞳を持っており、なんだか庇護欲の湧く少女って感じだ。
「あっ、すみません」
「さっきからずっと話しかけてたんですけど……」
うわぁ。やりやがったよ。
今日は厄日だわ。
「すみません気づかなくって……それで、なんですか?」
「あの、僕」
ほう。僕とな。
巷で人気の僕っ娘とかいうのだろうか。
「あ。先に行っておきますと僕は男ですからね」
「ッスゥ───……」
「やっぱり女の子だと思ってましたか……?えと、その、128番ですよね?僕、129番のコルと言うんです。よろしくお願いします」
「……あぁ、どうも……」
礼儀正しく彼女……じゃない、彼は頭を下げる。
胸には129の札。
「僕、田舎からやってきて、それでちょっと、話し相手が欲しかったんです」
「あぁ、それわかる。微妙に気まずいよな」
「はい、ピリピリしてるというか……」
コルは自分の村をどうにか支えるため、勇者に立候補したらしい。
根本は俺とよく似ている。大物になってキッカに恩返しがしたい……っていう。
それから色んなことを話した。今までの環境や経験が似ている俺たちは意気投合し、待ち時間の間すっかり話し込んでいた。
……俺が異世界からやってきたよそ者であることは伏せておいた。コルには関係ないし、嫌われたら嫌だから。
「それで、どうなったんですか!」
「おっちゃんがしみじみと言ったんだよ。『ここで装備していくかい?』って」
「わぁ!もしかしたら最後になるかもしれないやりとりに決意と渋さを感じます!」
「んで、そこで買った剣がこれね。本当はこの国の武器屋でレイピアを買いたかったんだけど、武器屋が開いてなくって」
今は『兵士のつるぎ』は背中に背負っている。
行列に並ぶとき、腰からカチャカチャしてたら邪魔になることを学んだからなぁ。
腰に挿す時はどちらかというと、狭い森の中や家の中を歩くとき。どちらも邪魔ではあるが、何かあったときに抜きやすい。それと抜刀術みたいにカウンターをするのに都合がいい。
「なるほど。それじゃあ、ヒロさんは剣士だから……せんしやバトルマスターなどの前衛職タイプなんですね」
「うん。ついこの前メラって魔法を覚えたから遠距離攻撃もできなくはないし」
「死角なしですね!」
「そういうコルは何をメインに使ってるんだ?……って言っても、だいぶ前から見えてはいたけど」
コルの背中に背負われているのは、コルの身長分と少しかさ増しした程度の長さの槍がこさえられている。
「僕は……その、そうりょです!ホイミなど回復魔法が使えます!」
「へぇ、ホイミかぁ」
「手を切って実演してみせますか?」
「あ、いや、いいよ、魔法を使おうとして万が一にも怪しまれたら怖いし」
コルは「それもそうですね」とナイフをしまった。
「ホイミだったら俺も覚えてるんだけど、俺のとコルのじゃ効力が違うわけだよな」
「そうですね。熟練度に左右されますし」
このドラクエが異端なのかは知らないが、魔法は熟練度に沿って効力が決まるようだ。
会ってきた人たちは全員魔法を使ってなかったから初めて知った。コルとは今後とも良い関係を続けていきたい。
「しかし、剣が使えて、攻撃魔法に加えて回復魔法も使えるなんて、本当に御伽噺の勇者みたいですね!」
「勇者の定義がなんなのかによるけどな。俺は、なんか印があるって村長に教えてもらって来たんだけど、コルはなんかあるのか?」
「印……ですか。いえ、僕は……その、恥ずかしながらそんな印はないんです。勇者を騙りに来た、と言いますか」
「……まぁ、大半がそうなんだろうなぁ」
辺りを見渡すも、俺と同じように左手に紋章が付いている人はいない。中には数人紋章が付いている人も見えるが、パチモンくさかったり模様が違ったりしている。
「俺のも本物かどうかわからないからさ、ダメ元で来たんだ」
村長を疑ってるわけでは無いけれど、ここまでみんな揃いも揃って騙りに来てると、自分も勇者とかではなく別の存在なのでは無いかという疑念が生まれてしまう。
ま、違ったら違ったで村に帰ってみんなと暮らせばよろしかろうて。
旅をするのは諦めて、キッカと畑でも耕して。
「そうですか……受かるといいですね!」
「そっちもな」
「120番から129番!ついてこい!」
「おし。そろそろいくか!」
「はい!」
◇
「帰っていいです」
───おっとよく言ってることが理解できませんがあのその。
「……128番?128番、聞こえていますか?帰っていいと言ったんです」
視線を横に逸らす。
青ざめているコルと目があった。
「こら、目を逸らさない。お帰りの会場はあちらになります。他の者はその場に残って、後から来る兵士に付いて行ってください」
「「「「「「「「あ、はい」」」」」」」」
気まず……。
面接で手を晒してくださいとか言われたから自信満々に見せたら俺の手を見た途端に「やわで無骨すぎる手ですね」とか邪険にされたんだが?
なんだよそれ、面接でもなんでもねぇ第一印象じゃねえか。
「歩くのが遅い!」
「わかってますよ!!!!もう……」
兵士に怒鳴られて俺だけ違う道を進む。
コルが心配そうにこちらを見ているので手を振ってやる。
コル、頑張りな……就職おめでとう。
長い長い廊下を進んでいく。
「この先を右に曲がれ。一見ただの壁だが一つだけ出っ張っているところを押し込むと仕掛けが作動して外に出られる」
「あ、はい……すみません、ご迷惑をおかけしました」
「……あ、いや、その……言い方はキツかったもしれないが、俺とて人の子……。その、この先苦労もあるかもしれないけど、頑張れよ」
なんだ、この兵士さんいい人じゃん。
ここから先は兵士さんはついてこれないらしい。他の人との区別は「さん」付けするかしないかにしよう。
えっと、進む。で、分かれ道を右にすすむ……お、壁じゃん壁。
……ねえこれ左に進んだら何かあるとかない?
兵士さんに見つからないようにUターンし、そのまま進んでいく。
と、思った通り宝箱がおありじゃないですか。
……。ま、宝箱の一つくらいええやろ!手間賃や手間賃!
カギ開いてるし。無用心だから警告だな、盗まれるぞ、と。
あそーれ。
なんだこれ?メダル?
微妙に小さいなぁ……ポケットサイズだし、なんか損した気分。
まあいいや、引き返しましょ。
で、なに?壁の出っ張ってるところ?
押す。
おっと浮遊感。
景色が上に上がっていく。
「落とし穴ああぁぁ……」
人間不信になりそう。