正月、特にやることもなく同室の、のび太とドラえもんは床でごろごろしていた。
自身の兄であるのびろうは、いつものように机で難しそうな本を読んでいる。
「兄さんも、ゆっくりしないの?」
自身が床で寝ているのに対して兄は机で読書、それもマンガではなく文字ばかりの本。
兄は自分と違い優秀だ。
テストはいつも百点だし、運動もできる、性格も少しぶっきらぼうのところはあるが優しい。
何時も怒られている自分とはくらべものにはならないだろう。
それでも、自分が兄を妬むようなことはない。
小さいころから自身のあこがれのような兄、だからこそその努力も知っている。
皆は、兄を天才というが違う、その証拠に一緒に使っている机の一番下の引き出しには自身の零点のテストの答案用紙と一緒に兄の勉強で使ってあるノートが同じように溜まっている。
運動だって、自分で計画してトレーニングしている。
そんな、昔から多くの努力をしている兄を妬んだり恨んだりすることなんてできるはずがない。
自分が勉強できないのは分っている、運動ができないのは分っている。
だけど、それを理由に努力している人を妬むのは間違っているのだ。
「私は十分ゆっくりしているよ。のび太こそそんなにのんびりして宿題はやったの?」
少し意地悪なことを言うが、いつものことだ。
「だ、だいじょうぶだよ。あとでキチンとやるし」
「私はママに言われてるしのび太のためにもならないから、もう見せないからね」
「そ、そんなぁ!」
一切手を付けていない宿題…どうしよう。
何時も兄の答えを写していたからすぐに終わるものと思っていたのに。
「はぁ、解き方は教えるからあとでキチンとやろうな?」
「はぁあい」
「ふふふ」
そんなやり取りを見て笑っているドラえもん。
何時もののんびりとした空気。
バタ
そんな空気の中急に部屋の扉が開いた。
「…」
兄が苛立つのがわかる。
基本的に優しい兄だがそんな兄が嫌うものの中で特に嫌うものが、自身の時間を邪魔されることである。
「なんじゃっ!若い者が真昼間からごろごろして!」
「…」
部屋に入ってきたのは中年ぐらいで小太りしているおじさんである。
少し剥げている頭とちょび髭が印象的だ。
ドラえもんがアワアワしている。
うん、わかってるよ。
裾を引っ張らないでよ。
「…」
「マラソンでもしてきなさい!」
だから、わかってるってドラえもん。
兄さんが本気で怒ってるのは分ったから。
もう少し現実逃避させてよ。
★
さっきのおじさんはパパの会社の社長らしく会社関係での年始の挨拶が嫌になってうちに逃げてきたらしい。
いまは、パパと食事している。
会話の内容は先ほども言った内容と、二三日泊めてくれといったもの。
何時もの自分ならすぐに文句を言ったり怒ったりするところだが今は違う。
「…」
無言の兄が怖い。
表情もいつもニコニコと優しい表情ではなく真顔だ。
ママも本気で怒った兄を一度見ているのでもう駄目だという表情だ。
「ドラえもん」
「はっ、ハイ!」
兄に声をかけられ気を付けの姿勢で返事をするドラえもん。
わかるよその気持ち。今の兄に声を掛けられたら同じようなことをしていただろうと、考える。
ああ、でも本当に今の兄が怖い。
★
…兄がドラえもんに出すように言ったのは催眠グラスとゴーホームオルゴールとどこでもドア。
どんな道具か自分は分らないがドラえもんは理解しているようで兄に対してやはり、震えている。
「さてやるか」
兄の悪い顔に自分とドラえもんは抱き合いながら震えた。
★
恐ろしく早い手際だった。
パパとママに耳栓をつけさせ催眠グラスで、何日も仕事が忙しく家に帰っていないようにおじさんに催眠をかけそこにオルゴールを流し、どこでもドアで目の前に自宅を出すなんて。
普段優しい人が起こると本当に怖いんだと今日知った。
★
お、おう
「や、やりすぎた」
完全にやりすぎである。
ドラえもんに道具を借りむかつくおっさんを自宅へと返したが、やりすぎた。
あのあとに、おっさんの奥さんに会話を録音しておいたテープを渡して聞かせたが。
うんまあ、怒ってたよね。
ま、まあ、社長として年始の挨拶は大事だし。そ、それにほら、社長だからと言って特に気にしている社員でもないところに転がり込むのはおかしいし。
おっさんのおくさん、怖かったなぁ。
一時間クオリティ!