転生したのは前世もち   作:刀花子爵

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いつも誤字報告ありがとうございます(`・ω・´)ゝ


ブラックベルト

学校から帰ってすぐに何時ものジャージに着替える。

広くなった庭の端に植えてある木には藁が巻かれている。

 

「…はぁ」

気を付けの姿勢から半歩右足を前に、左足を半歩後ろに半身になるように、左こぶしは腰の側面に付けるように持っていき、右手は甲を相手に見せるように前に構える。

 

今の自分の状態、各場所に意識を充てる。

 

「ハッ!」

右手を一度引き正拳突き、また、右を引き右足の上段蹴り。

同じように左も動かす。

 

右、左、右、左、同じ動作を繰り返し体があったまってきた。

体温が上がり汗がにじみ出る。

 

呼吸が深くなる。

ドン、ドンと木が揺れ、付いていた葉が一枚、また一枚と落ちてくる。

その葉をめがけてさらに足を飛ばす。

自身を中心に葉っぱの円ができあがり、全ての葉の真ん中には穴が開きいつの間にか葉が付いていた木は丸裸となっていた。

 

「…やりすぎたな」

あとでドラえもんに直してもらおう。

 

動いたせいで髪が汗でぬれていた。

地面を見ると自分がいた場所だけ水たまりのようになっている。

上のジャージを脱ぐと汗のせいで張り付いたシャツが見える。

 

うん、風呂はいろう。

 

                  ★

風呂から出ると、のび太が帰ってきたと思ったらまたドラえもんに道具を借りて外に行った。

十中八九ジャイアンの所だろう。

 

あいつも懲りないなぁ。

やれやれと思いつつ温かくなってきている気温に嫌気がさす。

 

もうすぐ夏だ。

…本当に嫌だ、何もしなくても出る汗、べたつく肌、最悪すぎる。

 

それにもうすぐあれが来るかもしれない。

道具も不十分だし調べも終わってない。

やることが多すぎて手が回っていかない。

 

…もういいや、気晴らしに散歩にいこ。

                  

   

 

                  ★

 

「ひぃ、ゆるしてぇ」

 

運命は私をゆっくりさせてくれないのだろう。

聞きなれた声の方向に走ればスネ夫たちが高校生達に金をせびられていた。

…はぁ、まったく嫌になる

「その辺でやめてくれないだろうか?」

「あ?」

声を掛ければこちらを見る高校生達。

その眼には獲物が増えたと書かれている。

 

…はぁ、嫌になる。

「本当に嫌になる」

「あ?」

「気晴らしに出かけたのにこんな奴らに会うなんて本当に嫌になる」

「んだとこらぁ!」

ガンっ!

「のび郎!」

頭に衝撃が走る。意識が真っ白になった、右側頭部に鈍痛。

高校生の一人が持っていた木刀で私の頭を殴りつけたようだ。

殴られた場所からは皮膚が切れてしまったのだろうか血が出ている。

「よくも兄さんを!」

近くにいたのかのび太が高校生に走る。

だが、石につまずいて転んでしまった。

「あ、帯が」

のび太が巻いていた黒帯がこけたときにちぎれた。

「ははは、また増えやがった」

大柄な高校生がのび太を捕まえようと近づく。

「く、くるな」

のび太も逃げようとしているが恐怖で腰が抜けたのか立ち上がれていない。

「なあ、こいつも使おうぜ」

 

細目の高校生が銃らしきものを出した。

金属特有の光沢はないからエアガンだろうが。

どうやら、こいつらはそれで私たちを痛めつけようとしているらしい。

…はぁ、本当に。

「本当に嫌になる」

「あ?」

人の痛みをわからず悪戯に人を傷つけようとする。

「こいつっ」

「自身がよければ周りを傷つけようがなにもかまわない」

私の言葉に苛立ちを覚えたのか高校生がまた木刀で殴ろうとしてくる。

だが。

「その行動がどれだけ人を傷つけるか理解しない」

それをつかんだ。

「なっ!」

「だから、知らずのうちに人を殺してしまう」

つかんでいた木刀が握っていたところから折れた。

「…私は弱い者いじめをする奴らが嫌いだ」

眼に血が入ったのか視界が赤い。

ああ、でも、このままこいつらは懲らしめないと。

 

 

折れた木刀をまだ持っている高校生めがけて、折れた先を投げると同時に踏み込む。

「ぎぇっ」

わきの下、あばらがもろに出ている場所に三日月蹴りを叩き込んだ。

感触からして骨が折れているだろう。

痛みで転げまわっている高校生。

あとふたりか。

「な、やりやがったな!」

怒りをあらわにしてエアガンを持った男は銃口を私に向ける。

「だが、おそい」

乾いた音が四発。

エアガンというものは意外にその弾道が見える。

ならばあとはそのあとの弾道を予測すればすべてよけられる。

 

「な、ぎゃあ」

間合いを詰め即座に溝に肘内をぶち込む。

すぐに背後に回り蹴りも叩き込む。

「は、はっ」

肺に入っていた空気をすべて吐かせた。

しばらくは動けまい。

「な、っく」

逃げようとするが遅い。

そもそも逃げるならば喧嘩を売らなければよかったんだ。

すぐにその背中に追いつき太もも側面にけりを入れる。

 

「が、ええ」

ちょうど筋に入ったらしく高校生はその場に膝をついた。

そいつの髪を鷲掴みしてエアガンを取り出した高校生に投げつける。

スネ夫たちはもう逃げたらしくこの場には私たち兄弟と高校生達だけだ。

 

「…さぁ、ここからが本番だ」

 

折れた木刀を拾い折れた先を高校生たちに向けた。

おそらくあいつらにはとても恐ろしく見えたのだろう。

 

顔を青白くさせていた。

っち、白ける。

「帰るぞのび・・た」

木刀を高校生たちに投げ、まだ腰を抜かしているのび太に声を掛ける。

「兄さん後ろ!」

 

のび太が指差し叫ぶ。

ああ、知ってるよのび太。

こういう奴らほど愚かなんだ。

 

即座に振り返り塊になって襲ってくる三人に本気の蹴りをぶち込む。

鈍い音が三つ。

「ぎゃ!」

男たちの右腕は、そろってブランと吊るした鐘のようになっている。

骨が折れたのだ。

「次はどこがいい?もう片方の腕?それとも足?ああ、折れてる腕をもっと酷くするのもいい」

もう、見逃す気も失せた。

こいつらはとことんしなくちゃ。

1歩、また1歩高校生達に歩みを進める。

 

もう手加減しなくてもいい。

こいつらはそういうことをしたんだ。

こっちは年下で木刀で殴られた。

血もまだ止まらない、それにエアガンで痛めつけようともした。

警察沙汰になっても困るのは相手だ。

なら、相手が許してくださいと言うまでやろうじゃないか。

大丈夫だ、痛いだけで死にはしない。

口角がゆっくりと上がる。

目が細くなる。

 

まだ頭から鬱陶しい鈍痛が引かない、ああ、それならこいつらにも同じことをすればいい、同じように殴って同じように血を流してもらおう。

木刀の折れた部分を握り尻もちを着いている高校生めがけて木刀を振り下ろー「兄さん!」ー

 

「のび郎くん!」

    

高校生たちは三人そろって逃げて行った。

 

はぁ、おわった。

                  ★

 

結局頭の傷は八針も縫うことになった。

それだけでなく右足の骨にはヒビが、右手にもヒビが。

体がもろすぎる。

 

高校生の中に大手会社の、社長息子が居たらしくあまり大事にはならなかった。

……こういう人ほどことを大きくしたがらないものだ。

楽でいい。

 

「のび郎くん」

「どうしたんだ、ドラえもん」

自分の部屋で寝ているとドラえもんが尋ねてきた。

今回の事でパパには怒られママには泣かれてしまった。

 

ドラえもんもだいぶ心配していた。

「今回かなり危なかったんだよ、へたをすればもっと大怪我していたかもしれないんだよ」

「だろうな、だけどあの時私も抑えれなかったんだ」

抑えてもっとスマートに解決もできたのに、私はできなかった。

 

精神は肉体に引っ張られると聞いたことがあるが。

まさか自身で体験することになるとは思わなかった。

「強いのはわかるけど、ほんとに壊れちゃうよ」

「分かってる、もう無茶はしないさ」

これ以上は本当にきつい。

心配ばかりかけている。

「そう?」

『□□□お前すげぇよ!』

…………嫌な言葉だ。

「ああ、私は少し寝るから少しの間部屋に人が入らないようにしてくれるか?」

「それぐらいならおやすい御用さ」

ドラえもんは、ポケットから何かの道具を取り出した。

「外で使う道具だから僕はもう部屋から出るけどきちんと休みなよ」

「ああ、分かったよ」

「じゃあね」

ドラえもんはそう言うとドアを開けて部屋の外に出た。

 

天井を見上げる。

ふたつのファンがクルクルと回っており室内の空気を循環させている。

目を本棚に向けると見えるのは3つの化石。

……もう、次のことが動き出す。

 

怪我を治して万全の状態にしなければ。

 

 

 

 

 

 

 




次回からのび太の恐竜です。

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