一昨日まで長崎なり
移動中の執筆で充電が………
「答えて」
「えっと、三玖お姉ちゃん?」
「どこへ行こうとしてたの?答えて」
「ふ、ふぇぇ」
「あははは、今回ばかりは私も援護できないなぁ。勝手に出て行こうだなんて許せないし」
「そのとおりですよ!そんなの悲しいです!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
私、中野六花は絶賛一花お姉ちゃん、三玖お姉ちゃんと四葉お姉ちゃんに強制的に取り調べをうけております。
リビングで。
(また迷惑をかけてしまった……。いつまでも迷惑をかけられない)
そう思い立った私は、過呼吸を起こしてから数日後の夜にこっそり家を出ることにしたのだ。
適当に握ったお金と、日傘を持って夜中に自分の部屋を出る。姉妹のみんなを起こさないようにと、ゆっくりゆっくりと忍び足で玄関付近まで来たとこで、急に外に出ることが怖くなり足がすくんでしまう。外に出るのは怖い。それは自分がアルビノであるから日が苦手であることも要因の一つではあるが、それ以前に私は長いこと5人のお姉ちゃんに甘えて、怖いことを避けてきた。病弱ということもあり学校に行けない私に参考書を買ってきてくれたり、人が怖い私のために料理を勉強して色んな種類の料理を作ってくれたりと。
こんなのじゃだめだ。
私はお姉ちゃんの足枷になりたくない。
(そうだ、今日こそ)
それ故の家出。別に家が嫌になったわけではないけど、弱い自分と決別するため。これは必要な家出なのだ。
「今まで、本当にありがとうございました」
「誰に言ってるの?」
「えっ?」
意を決めて放った最後の挨拶に、帰ってくるはずのない返事が返ってきて戸惑う。しかし今は夜で、良く周りが見えないため誰かいるのか目視できない。でも今、確かに返事が……
「ねぇ、どこに行くつもり?こんな時間に」
月明かりが照らす場所にゆっくりと現れたのは、寝間着を着ている月のように美しい三女、三玖であった。その顔は美しさを潜ませ、怒りに歪んでおり、誰が見ても怒っているのが丸分かりであった。
「説明、してくれる?」
「はいぃぃぃ…」
抵抗なんて意味がない。そう思った六花は素直に従うしか選択肢がなかったのである。
「まだ理解できてなさそうだね…私たちがどれくらいあなたが大好きか」
「まったく…最近大人しいと思ったらそんな下らない事考えてたなんて」
「六花、私たちが嫌い?」
「未遂で終わってよかったです!三玖ナイスです!」
「あなたの家は、ここなんですよ?勝手にいなくなってはだめと何度も言っているではありませんか」
5人全員から同時に猛烈な非難を受け、ただでさえ148cmと小柄な身長に加えさらに小さくなってしまう。
でも、今回ばかりは決意が違う。例えなんと言われようと意思を貫かなければならない。みんなの為にも、それ以上に自分の為にも。
「で、でもこれで「どうでもいいことです」あ、あう…」
これで何回迷惑をかけたかわからないと言おうとしたら、まるで心を読まれたかのように先に遮られてしまう。あうあう次の言葉を考えている私を、一花お姉ちゃんが横に座り優しく抱き寄せる。
「もう、すぐそんなこと考えるんだから。六花は私たちにとってなくてはならないかけがえのない妹。それに変わりはないよ?」
そう言い、頭も撫でてくれる。決意が少しずつ削れていく感覚を感じる。まずいと思い離れようとするが、反対から三玖お姉ちゃんに抱きつかれる。
「六花は私たち、嫌い?」
「そ、それはないです!」
「じゃあ、いい」
ふと抱きついてきた三玖お姉ちゃんを見ると、目尻に涙をためていた。私は一体何をやっているのだろうか。姉妹に迷惑をかけないように行動したはずなのに、傷つけてしまっているではないか。
決意が揺らぐ、このままここにいていいのだろうか……
そんなことを思っていると、横から四葉お姉ちゃんにぎゅっと抱き締められる。
「りっちゃんは難しく考えすぎなんだよ。私たちは姉妹で、ここはみんなの家。それでおっけーだよね!」
「四葉お姉ちゃん……」
駄目だ。徐々に決意が砕かれていく。これではダメと思いながらも、一花お姉ちゃんの撫で撫でに三玖お姉ちゃんの優しい感触と匂い。四葉お姉ちゃんの笑顔に溶かされていく感覚に襲われる。
「あんたたちみてて暑苦しいわよ。はい、とりあえず焼いてあったクッキーでも食べながら話し合いましょ?さぁ、おいで六花」
「は、はい…二乃お姉ちゃん…」
こうなったら自分の体でありながら思うように動かない。なんだかぼーっとしてきた。私は愛なんて小さい頃に感じたことなく、愛に飢えていたのだろう。5人に甘やかされてから、あるレベルで愛を感じると頭がよく働かなくなるのだ。
「よしよし、いい子ね。いい?私の目をよくみなさい」
「はい…」
「貴方は私たちの可愛い可愛い妹。家出なんて絶対してはだめよ?私たちの事を思ってそう考えたことはわかってるわ。貴方は優しいもの」
いえ、で?そうだ……私は……家出を…
「私たちのことを本当に思っているなら、ずっとずっとここにいなさい。これは命令よ」
「はい…二乃お姉ちゃん…で、でも……」
「でもも何もないの。さぁ、早起きして眠いでしょ?胸を貸してあげるからゆっくり眠りなさい…」
「わ…わた…し」
「おやすみ、六花」
私の意見を聞いて貰わないと、と思いながらも不思議と勝手に瞼が降りて、抗えないまま意識を手放した。
「よし、それじゃあ姉妹会議を始めるわ」
「待ってください!六花を布団に連れて行ってからにしましょう!」
「あら?何か問題がある?」
「「「「問題しかない!!」」」」
六花が眠った後姉妹会議の開催を告げた二乃であったが、そこに五月の待ったが入る。あとの3人もその通りだとばかりに全力で叫んだ。
何が問題視されているかというと、現在爆睡中の六花は体の力を全て抜き、二乃にもたれかかっているのだ。六花が起きていれば性格上、絶対してくれない態勢に姉妹全員嫉妬していた。
埒があかないので、散々文句を喚き散らす二乃を取り押さえながら、六花を部屋に寝かしにいったあと仕切り直す。
「チッ…折角の甘々タイムを……」
「抜け駆け禁止ですよ!二乃!」
「わかったわよ…もう。じゃぁ今回の議題だけど、前々から言っていた六花の部屋についてだわ」
「あー、あの部屋を無くそうってやつね」
「賛成」
「賛成です!」
「まだ二乃最後まで言いきってないですよ!可決が早すぎます!」
結論を先走る2人を諌める五月であるが、腹は決まっていた。もちろん賛成だ。もちろん六花のことになると周りが見えなくなる六花大好き人間五月には、もちろん目的があるのだ。
「これでりっちゃんとまた仲良く寝れますね!」
「「「「!?」」」」
そう、そこなのだ。部屋をなくすことによってプライベートルームを削り、脱走を企てにくくし、誰かと一緒に過ごすことで愛を感じさせる。これが理由だが、あくまで表向きにはだ。
本当はみんな、裏を返せば一緒に寝たいだけである。
「こ、公平にいくわよ!じゃんけんよ、じゃんけん!」
「お姉さん、この勝負は譲れないなぁ…」
「負けない」
「負けませんよー!」
「一緒に寝るのは私です!」
「「「「「じゃんけん……」」」」」
ん
「部屋の改装とはいえ、ごめんなさい一花お姉ちゃん」
「いいのいいの!気にしないでくつろいでね。足の踏み場、少ないけど…」
あの後目覚めた六花には当分部屋の改装を行うと嘘の話を教え、信じた六花はじゃんけんに勝った一花に手を引かれ一花の部屋に来ていた。
少し掃除してから呼ぶべきだったかと少し後悔していると、六花がなにやら思いついたような顔をしていることに気づいた。
「ど、どうしたの?六花」
「決めました!せっかくお邪魔させていただくのですし、お掃除させてもらいますね!」
「えぇえ?!いいよそんなの!」
「いいえ!私が気にするんです!ダメ…ですか?」
「う…」
こんな甘え方、ずるい。抗う術など五姉妹は誰も持っていなかったのだ。六花1人に掃除はさせられないと、渋々一緒に掃除を開始するのであった。
「よし……ゴミの分別はこんなものですかね……。こ、これは…」
だんだんと床が見えてきた辺りで、次に片付けようと適当に掴んだものを見て息を呑む。
それを表すなら黒。黒くて透け透けで…
「あ、私の下着」
「これは一花お姉ちゃんが片付けて!!」
「えー……めんどくさぃぃ」
自分の下着ながら、畳んで片付けることに少しめんどくささを感じて渋る一花だったが、なにを思ったのか突然ニヤニヤしだし、いまだに顔を赤くし片付けをしている六花に声をかける。
「ね、六花」
「なんですか?一花お姉ちゃん」
ベッドに腰掛け、床に座る六花を見下ろしながら下着を差し出す。
「これ、あげる」
「へっ!?」
「掃除のお礼もしたいし」
あまりに突然のことに動揺を隠せない六花をただただ楽しそうに見つめる一花。もちろん思惑があるのだが、理由は簡単。
その下着は黒と白のおそろいの模様のペア下着なのだ。六花にあげようと黒の下着を六花用に仕立てたのだが、完全に忘れていたのだ。
ここにきて突然思い出して、お礼も兼ねて渡してさりげなくペアルックをしようと考えたのだ。
問題は六花の性格だ。遠慮の塊、謙虚の権化、自分卑下人間などなど、色々な異名を持つ六花にいかにして渡すかが問題だ。
「も、貰えません!これくらい、姉妹として当然のことで…」
「仕事には相応の対価ってものが発生するんだよ?」
「これはボランティアです!ボランティアに対価は必要ありません!」
「じゃぁ、これは気持ち。私の気持ち、受け取ってくれる?」
「き、気持ち……」
追い詰めた。
あと一押しだと確信する一花。ニコニコしながら手招きをして、自分の横に座ることを勧める。おずおずと隣に腰をかける六花の頭をゆっくりと撫でる。
「あっ………」
「いい子いい子。六花は本当にいい子だね。私たちの自慢の妹だよ」
「そんな…私は」
「六花が知らないだけで、私たち本当にみんな六花に支えられてるんだ。だから、もっと自信もってほしいな、お姉ちゃん」
ゆっくりと洗脳のように頭を撫でながら語りかけてくる一花を見ながら、頭がぼーっとしてくる。六花はそもそも褒められたり、愛されることに慣れてないので人より倍以上感情の変動が大きく、嬉しい気持ちが一瞬でキャパを超えてしまうのだ。そうなると、頭がぼーっとなり蕩ける顔になってしまう。
その状態が好きで好きでたまらない五姉妹は、事あるごとにスキンシップや愛を囁きかけるのだ。
「だ・か・ら。お姉ちゃんの気持ち、受け取ってくれない?六花が受け取ってくれないなら、捨てちゃおうかな……」
「あっ……」
「捨てちゃおうかな…………」
ゴミ箱に泣き真似をしながら手を伸ばす一花。もちろん指先には下着が摘まれており、あとは離すだけ。およよと泣くふりをする一花に、本気でテンパりだす六花。
「も…も………」
いくら謙虚な六花でも物は無駄にできないし、心の底からお姉ちゃんたちが好きな六花に姉を泣かすなどという選択肢など、この段階でもう既になかったのである。
「貰います……」
次の日、異常に上機嫌な一花を他の姉妹が問い詰めたがその場ははぐらかされた模様。しかし、洗濯中の二乃にバレ、抜け駆けの罰として六花の部屋担当を外されたのはまた別の話。
(立花と同じ部屋でねれなくなっちゃったけど、いいもーん♩あの下着、実は私ずっと抱いて寝てたから、もはや私の匂いついてるし。『偶然』見つけてもらうように仕向けるの、大変だったなー♫)