ついでに実況もそのままだとマズいかなって事で微妙に変えてます。
『さぁ、パドックを終え、華々しい栄光への架け橋へと至るための初戦、新ウマ娘戦、まもなく出走です!』
本馬場へと続く地下道。
アグネスタキオンを見送るべく待っていた僕の目に、ようやくその姿が写された。
G1レースでは無いために、来ている服は体操服。
だが、そんな事は関係無いと、纏う空気が教えてくれる。
気合い十分、どころか、近付いたら噛まれそうなほどの気迫で若干怖い。
「トレーナー、ズバリ聞くが、スケルトンキングとリコーディング、どちらが強いと思う?」
向かう足を止めて、周りに居るウマ娘やトレーナーを全く気にせずに、そんな答えづらい事を聞いてくる。
そもそもまだ一度もレースをしていないウマ娘しか出走出来ないこのレースなのだから分かるはずが無い。
けど……。
「僕は、リコーディングの方が厄介だと思う」
「ほぅ。その心は?」
「何度かトレーニングを見てるんだけど、脚質が先行っぽいんだよね。だから、レースの流れを作られそうで厄介かなと」
流石に僕は周りを気にして小声。
タキオンにしか届かないように声量を絞って話す。
僕の話を聞いたタキオンは、腕を組んで何度か頷いて。
「ふむ。なるほど。よし、今回の作戦が決まったぞ」
と何やら一人で納得して本馬場入りしてしまった。
もはやどんな作戦なのかの確認すら出来ず、こうなった以上僕に出来るのは彼女の勝利を祈るのみ。
一先ず他のトレーナーと同じく地下道を出て、ゴール前最前線へと移動する。
すでに、出走するウマ娘がゲートインを終えて、次の瞬間に――レースが始まった。
*
『さぁスタート! おっとスケルトンキングあまりいいスタートではないようです! バラついたスタートとなってしまいました! 好スタートはリコーディング! そのまま先頭に立ちレースを引っ張るようです!』
(ふむ、一番人気の重圧に圧された者と、二番人気になったことで気が楽になった者の差かな? まぁ、先に行くなら好きにしたまえ)
『先頭はリコーディング! 二馬身から三馬身ほどのリード! その後ろからイチノオー、マニチャクラ三番手、メイショウラーメス、それからセカンドボスと続いています! そしてヴァニッシュタッチ、アグネスタキオンが続いて、後ろから三頭目イセノブラック、後ろから二頭目にスケルトンキング、殿にアドマイヤチョイスという展開です!』
(ペース的にタイムは平凡。ならば、前に残っている者ほどチャンスは有る……か)
自分以外に複数頭居るウマ娘と走る、という初めての体験をしながらも、アグネスタキオンは思考する余裕を見せていた。
自身の持つ体内時計を信じ切り、ラップを刻む自信と周囲、その動きを細かく把握しながら、一コーナーのカーブへ向かう。
『一コーナーから二コーナーへ向かうところで、先頭は逃げるリコーディング! その差は三馬身から四馬身くらいでしょうか。その後ろにイチノオー、マニチャクラ続いて四番手にメイショウラーメス、その後ろから五、六馬身から七馬身開いて、セカンドボスが続きます。後ろから五頭目にヴァニッシュタッチ、その後ろにアグネスタキオンです!』
(少し離れすぎたか? ……ここらで少しだけ差を詰めるか)
考えるが早いか『天才』は、少しだけペースを上げて前へと行く気持ちを見せると。
彼女より後ろにいたウマ娘達もまた、アグネスタキオンに引っ張られる形で上がって行く。
そうして三コーナーに差し掛かる頃には、中団に空いていた六、七馬身の空間は消え去り、先頭のリコーディングから二番手までの三馬身以外、まるで隙間の無い展開となっていった。
(ふふふ。上出来だ。……さて、『天才』の実力をそろそろ見せるとしよう)
『三コーナーから四コーナーへ! 先頭は以前変わらず逃げるリコーディングですが、ここで一気にアグネスタキオン! アグネスタキオンが二番手に上がってきた! その後ろからアドマイヤチョイス、メイショウラーメス、そして、ようやくスケルトンキングも上がってきました!』
四コーナーの出口が見えた残り六百メートル。
身体を傾け、コーナーを曲がりきったタキオンは、ゆっくりとギアを上げていく。
『さぁ残り四百の標識を通過して、先頭はリコーディングですが、外から来たアグネスタキオンと差がほとんどありません! さぁ直線を向いてスパートがかかりますが、ちょっとスケルトンキングは伸びそうにありません!』
(ペース作成ご苦労。一人旅の逃げ足は疲れただろう? ゆっくりするといい。――私の後ろで、な)
『さぁ残り二百メートル! 外から来たアグネスタキオン先頭! タキオンが先頭! 内でリコーディングが粘りますが全く並ぶ事無くタキオンが抜けた!』
たった一歩。
並んで競り合おうと目論んだリコーディングを絶望させた、驚異的な加速度の一歩。
それは、彼女がこれから歩むウマ娘人生の中で、最も大きな武器となり得たもので。
同時に、無意識に繰り出した、『天才』の本能から導かれた、結果だった。
『先頭は確実にアグネスタキオン! そのままの勢いでゴールイン!! 二着はリコーディング、アグネスタキオンとの差は四馬身ほどでありましょうか。そして三着にはメイショウラーメスであります!』
*
「ふぅ……」
自分が走ったわけでも無いのに、心臓の動悸が治まらない。
最後の直線では、呼吸することすら忘れていた。
安堵のため息を吐いた後に、込み上げてきたのは歓喜。
初戦勝利。この事実が、どれほど遠く、希少なものであるかを僕は知っている。
「何だその表情は。……もしや、私が勝てないとでも思っていたのかね?」
一人勝利を噛み締めていると、戻って来たタキオンにそう言われてしまった。
「勝てる勝てない以前に、無事に戻ってこないこともある。競馬に絶対は無い。そうだろ?」
答えになっていない返事。けれどもその内容は本心。
「ふむ。
どうやら煙に撒けたようで、変に感心しながら俺の隣へと歩んできた。
「ところでトレーナー? 私が持ってきてくれと頼んだ物は、持ってきてくれているのだろうな?」
「あぁ、緑のラベルのドリンクって、コレでよかったのか?」
彼女特製謎のドリンク。
様々な色のドリンクがある中で、彼女が指名したのは緑ラベル。
「これだこれ。すまないね」
それを僕からひったくるように受け取ると、喉を鳴らして飲み始める。
っと、そろそろ時間か。
「タキオン、ウィーナーズライブの時間だが……」
「ぷはっ。そうか、もう時間か。ではトレーナー、行ってくるよ」
カラになった容器を投げて寄越し、ライブ準備のために移動しようとしたタキオンは、ふと思い出した様に僕の方へと顔を向けた後、
「そう言えば、先ほど言っていた『競馬に絶対は無い』という言葉だがな。――――私が『絶対』になって見せよう」
と、自信満々の表情で言って、舞台裏へと消えていった。
……天才の考えることは、つくづく分からないものである。
PS・いつの間に練習したのか、初めてとは思えないライブの完璧な立ち回りをしたタキオンに、その事を聞くと、
「『天才』だからな」
と一言だけ返答を貰った。
と言うわけで二話目です。
あまり間隔を開けずに更新していきたい(他の二次創作から目を逸らしつつ)