ノベルゲームEndシリーズ(大体カルカノM91/38) 作:窓明
(押掛女房ルート(職業一般人限定))
私の部屋には、物はそう多くはない
簡素な机、ベット...
そして、窓とカーテンに
話相手の小さな観葉植物
テレビはおいておらず
本棚とパソコン、そして
パソコン用の机と椅子だけだ
だがいつもと違うところがある...
いや、それ以上に何故か
目の前の机にご飯がおいてある……
今日も仕事の残業を終え
自宅へ向かう
家に着いたのは
午前0時を回った頃
ここが私の家だ...
そこは古いアパートであり
203という番号の部屋の前に立つ
不快な金属音を立てぬよう
ゆっくりとドアノブを捻り
部屋の中に入る
…ただいま
元気のない言葉
そして、返えらぬ挨拶
家には誰もいないが
防犯や空き巣狙いから
自身を守る為
そう独り言を言うようにしている
と、いうよりも
いい歳になっても縁がなく
結婚する相手も
親しき友人もいない事実を
直視しないために…
玄関に鞄を投げ捨て
狭い三和土で靴を脱ごうとする
…電気を消し忘れたか
入るまで気が付かなかったが
居間の電気がついていた
最近忙しいせいか
消し忘れが多い……
そういえば入るとき
鍵を使ったか…?
うっ...頭がボーっとする...
今さっきの事ですら思い出せない...
と、いうよりも思い出す気力も起きない…
かなり疲れているようだ
手短に食事を済ませ
明日の残業に備え体を休めよう...
そう思い、そのまま居間の明かりに
惹かれるように扉を開ける…
...誰もいない我が家…
その誰もいない自分だけの空間
それがが一番
自分を癒し
現実から遠ざけてくれる
だがそこには
用意してないはずの
晩御飯が置いてあった
…私は小さい頃に親を亡くし
若くして天涯孤独の身となった
親戚をたらい回しにされながら
なんとかこれまで生きてきた…
もちろんそんな私に
わざわざご飯を作りに来てくれる
奇特な人なんていない
来たとしても金の催促だけだろう
…いや、それすらもないな
テレビの集金の奴らですら
ここは金がないと匙を投げ
ここを飛ばして集金に向かうほどだ
最近では
近所の人付き合いもほとんどないな...
誰から言われるでもなく
机の前に腰をおろす
あぐらをかき、ご飯を正面に見据える
とてもいい香りがする
ご飯と味噌汁そして、
………カルボナーラ?
あと、つぶつぶしたものと
お芋のような添え物?
…どちらかといえば
私は、料理する方ではない
あまり食事に
お金をかけたくないため
適当なもので済ませている
仕事先で貰った
消費期限切れかけの乾パンや
冷凍食品、カップ麺
先程のように
会社でも人付き合いはせず
ご飯を食べに行くようなこともない
あまりに料理に対して
知識が乏しい…
とはいえ、日本人だから
ご飯と味噌汁ぐらいは作れるし
卵焼きだって作れる
見たこともない食べ物もあるが
ここは私の部屋である
せっかくなので
いただくことにする
1週間働き詰めの自分への
ご褒美のつもりで...
………
改めて目の前の料理を眺める
一見、それぞれに
関係性がなさそうに見える
だが、私がいつも食べる
ご飯と味噌汁、これはセットだ
そして、ご飯とパスタ
両方とも炭水化物で主食なのに
この二つが重なっている
また、カルボナーラと
その他2点の料理
どうやら3点は
イタリアン料理なのか?
そうすれば説明がつく
日本料理とイタリアン料理
その二つが並んでいる
それだけの事...
簡単に自分の中でまとめて
納得する
とにかく
2種の料理をおかずにして
ご飯を頂くとするか
せっかく目の前に
おいしそうな料理があるのだ
しかも湯気を立てて
食べられるのを
今か今かと待っているようだ
ここまでお膳立てされておいて
食べないなんて選択肢はない
こういうものを食べる
あまり知らないが
出されたものは食べる
それが自分の中で
大切にしている事で
作ってくれた人に対しての
自分ができる最大限の
手を合わせ、感謝を
料理自体と
作ってくれた人へ
まずは
味噌汁を手に取りすする
…とても温かい
仕事から帰り
今日初めての食事だ
喉に味噌の香りが突き抜け
心まで暖かくなるのを感じる
いつもの味噌汁よりも
格別に美味しい気がする
普段、粉の味噌汁の素に
お湯を差すだけのものだが
これは、味噌の香りが
これでもかというほどに感じられる
空腹感で満ちていたお腹に
これから食事をするぞと
宣誓をするかのように
私の体へ流れ込み満ちる…
そのまま
他の料理にも手を付ける
普段は箸を使うのだが
隣には銀色の光る物が…
フォークとスプーン
使ったことはないが
せっかくなのでこれを使おう…
手探りで使っているが
一つ一つ味を感じながら
食をすすめる…
これまで食べたことのない味だ
しっかりと噛み締め
心が満ちていくのを感じる……
気がつけば目の前には
空になったお皿があった
幻覚でも夢でもない
そこには確かな満足感があった
慌てて食べていたわけでもないが
本当にふとしたら
食べ終わってしまっていた
……心とお腹が満ち足りて
幸せの本当の意味を
理解した気がする
ここまで、生きているという感触を
覚えたことはない
あったとしてもそれは
あまり思い出したくない
良くない過去ばかり...
だが今は...まさに至福
心より人へ感謝できると思える
そんなことを思っていた
次の瞬間
目の前に人の気配を感じる
ふと目線を上げると
紫陽花の花びらを感じさせる
鮮やかながら
とても落ち着いた
それでいて
そこにいるという存在感を放つ
女性が佇んていた
紫色の髪を揺らし
その顔は微笑んでいた
透き通るほどの白い肌
だが頬には薄赤い筋が…
私は見とれていた
溺れてしまった
その目の前の女性に…
彼女の服装はとても主張しているが
それ故なのか
目の前の女性の本質の奥ゆかしさに
惹き込まれるようだった
言葉を交わしたわけではないが
心とともに全ての感覚が
向けられ惹かれていくのを感じる
視線の交差する一瞬、それが幾千もの
季節を巡ったかと思えるほど
時が圧縮されたかに思える…
そんな出会いから早数ヶ月...
私達は婚約をしていた
いつの間にやら
同棲をしていた
彼女とはあまり多くの事を
語り合ったわけでもなく
一定の距離を保ち続けたままだが
それでよかった...
だが私は...
自分にはこの人しかないのだと
思えるほどに彼女に
惹かれてしまっていた
意を決し
彼女に胸の内を伝えると
快く、そして涙を浮かべ
気持ちを受け取ってくれた
彼女は、私を大事にしてくれ
甲斐甲斐しく支えてくれた
これまでもこれからも
そして少しでも
今から返していくつもりだ...
私の生きがいとなってくれた彼女へ
…これ以上の幸福はない
結婚式は挙げられていない
祝ってもらえる人などいないし
何よりもお金が足りない
今現時点でもお金がないが
これからたくさんのお金が
必要になるから
無理してする必要はないと
相談して決定した...
いつかは彼女のために
挙げてあげよう...
必ず...
にしても
これ以上の幸福はないか…
いや、これから先
更に幸せになってしまいそうで
逆に怖くなってきた
今日も家の扉を開ける
今日も帰りは遅いが
足取りは軽い
鞄を玄関の壁にそっと立て掛け
スーツはハンガーに掛け埃を払う
居間の明かりが漏れる
扉に手を伸ばし
あふれた光が私を包み込む
いつもと同じ
彼女と温かいご飯
相変わらずチョイスが不思議だが
これが我が家の味
形なのかもしれない
これまでの冷たい人生に
春の兆しが見え
これから...これからも
この幸せが永遠だと願う
いつの間にか現れた
同居人に黒い箱を手渡す
何も知らない
何も見えなかった人生に
色を与えてくれた彼女に
一人の女性として
私の一番愛する者として...
綺麗に着飾り
幸せを形としてあらわす結婚式
それを挙げさせて
あげれなかった彼女への
ささやかなお返し…
私から彼女への幸せの形...
箱を開き
銀色の輝きが私達の繋がりを示す
…ただいま
それが私と彼女の
繋がり...