なんで異世界勇者の俺よりも嫁と娘の方が強いの......?   作:北極狐2018

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会話

マコトとユイの二人がリア充爆ぜろ生活をしている時、彼らの妹に当たる桜は渋々ミハクを膝に乗せながら王女の話を聞いていた。

あの後も二十四時間ミハクを愛でて風呂に入れてなどなどニヤニヤ顔でこなしていた桜はふと一言言ったのだ。

 

『そういえば、魔王死んだのになんで私召喚されてるんですかー?』

 

読み聞かせがてら童話をミハクに読ませている際そう呟いたのだ。

童話の内容は簡単、現れた魔王が王女をさらったり国を攻撃したところで国は勇者を召喚する。

だが今魔王は存在していない、それが今この世界での常識。

信条マコトーー勇者が魔王を倒してから数十年、魔王は現れず世界には平和が続いている。

代々魔王は百年周期で現れることから災害と同じように扱われる。

何を目的に人に敵対するのかもわからないし何を目的に人と戦うのかもわからない。

だが一つ言えることは全ての魔王が総じて人類を滅ぼそうと動いたということ。

八人の幹部に四人の四天王なるものを作り自身は王座に座る魔王。

全ての物語においてこれは常識、というか絶対に現れるものだ。

 

最初の四天王は勇者にやられて他の四天王が奴は四天王の中でも最弱...ここまでがセオリー。

 

百九年たった今魔王はもう現れないというのが人類の考えることだ。

 

それなのになぜ自分が召喚されたのか、勇者として異世界に呼ばれたのが彼女には理解できなかった。

 

「そうですよ!働くのがその奴隷を貴方に譲渡する条件です!さぁ、働きましょう今すぐに!」

 

嬉々とした王女は興奮気味に桜に顔を寄せる。

丸く人差し指を曲げてデコピンを放つと王女の額にクリティカルヒット、涙目で数歩後ずさった。

 

「ひっ酷い...私が何をしたというんですか」

 

「異世界に召喚したこともそうですけど結構ありません?私そろそろ死んで楽になるって時に異世界に召喚されて働けとか言われてるんですが」

 

「貴女は私たちが召喚したことで生きていられるんですよ!お礼を言われてもいいぐらいです!」

 

「だから、誰が生かしてほしい、生きたいと言いましたか?」

 

「なっ貴女死にたいとか言うんですか?まだ生きてるのにそんな神様に報わないような事を...!」

 

「だから、私はもう死ねるところだったんですよ。生きる意味もそんなに無いのに勝手に異世界に召喚されて勝手に働く事を決められて、はっきり言って迷惑です」

 

桜にとっての世界は兄の読むラノベと兄が言う作り話。

兄に友人がいない事だってわかってたし、楽しい学校生活を送っているとは思えなかった。

それでも兄の口から語られる話は本当に楽しくて喜んで聞いていた。

例え嘘だったとしても自分が楽しまずに文句を言えば兄が傷つくこともわかってたし自分が生かされていることだってわかっていた。

そうやって自分が生きていることで兄が多少なりとも救われてる、生きる意義を見出してくれていたと思っていた。

 

「だけどもう兄さんもいないし生きて何になるんですか?はっきり言って叔母さんおっとクソババアが私の呼吸器を外そうとしてた時も嫌じゃありませんでした」

 

「一概に貴女が間違ってるとは王女の私は...言ったら多分人としてダメだとも思うんですよ。だけど貴女の態度はイラっする、折角救われたんだし人生楽しんだらどうですか?」

 

生まれつき恵まれた環境で望んだもの全てを手にしてきた自分が彼女に対して何か言う権利は無いと、言ってはいけないと王女は思った。

何より自分によく似た、どことなく似ている彼女がこのような態度をとることに若干、かなり胸のどこかがざわめいた。

この不快感が今はまだわからないが心地よいものでは無いと言うのが確かに理解できた。

 

「私には世界のため、国のため尽力すると言う生きる目的があります。だから貴女とは違う、けれど何か楽しみを見つけてほしいです」

 

「自己中ですね、流石王女」

 

「王女は何処の国も自己中心的な方ばかりですよ。なんなら生きる意味を与えてあげましょうか?」

 

ふふふと不敵に王女は笑う。

 

「ていうかそれ本末転倒でしょう?生きる意味って他人に与えられるものですか?」

 

「欲しいんだったらあげますよ。それに亜人ーーいや、ミハク。貴女は今、なんのために生きてるんですか?」

 

王女は言い方を改めて少女に生きる意味を問う。

賢い少女は重要な話題だと悟り少し思案してから桜の手を掴む。

 

「私は勇者様の為になりたい。私を見つけてくださった第一王女殿下の為に生きたい」

 

狼人族の特徴である丸くくっきりとした赤い瞳が真っ直ぐに王女へと向き細長く毛の塊のような尻尾がふんわりと床に垂れた。

狼人族である彼女にとってそれは忠誠を示すサインであり王女もそれを理解し静かに目を合わせ意思疎通が成された。

 

だがそんな空気をぶち壊すように桜は柔らかい少女の手をにぎにぎと優しく撫で回し頬を白色の頬に擦り付けて王族が使うような高級シャンプーで洗われふわふわとなった髪を撫でる。

 

「あーもう可愛いですねー可愛すぎて失神しそう、ミハクちゃん天使マジ天使」

 

恍惚とした表情で桜は少女を撫で回す、鬱陶しいと普通なら思うのだがその暖かさに少女は感情表現が上手くできずされるがままに桜の胸に頭を預けた。

 

王女はやはり思う。

生きる理由なんて言葉にする必要性はないんだと。

少なくとも今勇者ーーいや、ひとりの少女が幼い子供と戯れている。

これが本当は最も正しいものではないのだろうかと思った。

本当に素晴らしい光景だが一度手を叩き意識を自身に向けた。

 

「さて、質問の答えですが貴女を召喚した理由は一つ、賢者の命令であるシンジョウマコトの捜索です。彼がいなければ世界が滅びるとかなんとか」

 

「...待ってください、どうして世界が滅ぶんですか?というか明らかに話のスケールがでかいのと、その賢者とやらが信用できないのと、信条マコトはもう死んでるはずなのに...どうすればいいんですか!?」

 

サイレントノイズ並みの矛盾に桜は頭を抱えて文句を言った。

まず最初に世界が滅ぶと言う事、何故世界が滅ぶのか具体的な説明がなされてない、そして世界が滅ぶにしても最もな原因の魔王は信条マコトと共に死んでいる。

そう、信条マコトは魔王と戦って死んでいるはず。

ならば今になって何故信条マコトを探すのか、それが桜には理解できなかった。

だが無機物的な目で王女は続ける。

 

「知りません、私も流石に賢者様方の言っている事を全て理解できるわけではありません。ですがそれが必要ならば協力するのが私達王族の役目であり人類の義務です」

 

「全く見ず知らずの賢者とかに貴女は命を捧げるんですか?馬鹿ですか?死ぬんですか?」

 

今日も桜の煽り文句は絶好調である。

彼女にとってそれは耳コピで歌詞なしで魂のル◯ランを歌えと言われるのと同義、まずできるきがしなかった。

 

「拒否権はないですし、それが仕事です。その奴隷を取り上げられたくなかったらーー」

 

「それ以上言うと冗談抜きで怒りますよ?とりあえずわかりました、仕事はしましょう、その兄さーー信条マコトさんを探せばいいんですよね?」

 

「私も同行しますし、その奴隷も戦闘員として優秀です、使ってください」

 

「本人の許諾なしにそう言う決定嫌いですね、クソババアみたいでイライラします。ミハクは私についてきてくれる?」

 

「うん、お姉ちゃんについてく」

 

はにかみ笑いで桜を見上げ上目遣いで少女は言った。

N◯地雷で吹き飛ばされたのかと言うレベルで桜は地面を転げまわり数秒間悶絶したあとはぁはぁと息を荒げながらミハクを抱っこする。

 

「うん、今のもう一回言って、もっと甘えた感じで」

 

「おっお姉ちゃんについてく、大好きだから」

 

「あぁもうこの子可愛すぎでしょ、本当になんなんですかもう。王女さん、とっとと家出兄貴を探しに生きましょう!桜木町の交差点とか新聞見れば行けるでしょ!」

 

ハイテンションで宣言する桜。

迷わずミハクの右手を優しく握り立ち上がる。

だがやはり最後の方の日本人(それも30代後半にしか通じない)ジョークに困惑し王女は首をかしげる。

 

「桜木町ってどこですか!?これだから勇者の言うことは!」

 

だが無視、通じないとお互いが理解してるので何も言わない、ただ呆れたようにと息を吐くだけ。

廊下を走りながらも器用に言い争いを続ける二人を見て少女は心の底から嬉しそうに笑う。

 

「お姉ちゃん達楽しそう、私も嬉しい」

 

と、子供ながらに感想をこぼしたのであった。

 

 

 

 

かつて古代の遺跡の中央に位置した古代城があった大地は魔力濃度が高すぎて防御魔法を重ねがけしても入れないと噂される禁忌の地だ。

過去の古代文明が滅びた際魔力が放出され世界に溢れ出したとか、神の怒りを買って人類が滅ぼされたとか、説は絶えない。

その中のどれが本物だとかは関係ないし本人達だって未知の土地というのを好奇心で定義づけているだけにすぎない。

最近は神様がヤッた結果魔力が溢れすぎて白濁色の液体が城を真っ白に染めたとかいう説も学会で発表されたレベルだ。

 

そう噂される場所で本来誰一人として存在しないであろう場所で、一人の青年が新しく作られた(・・・・・・・・・・)窓から地平線の果てを眺めた。

黒髪の青年は苦虫を噛み潰したような顔で城を覆うように描かれた魔法陣に舌打ちしその両手を握りしめた。

 

「信条、あいつは一体どこにいるんだ...」

 

その男はそういうと二十八人の仲間達へと振り返った。

誰もかれもが同じローブを羽織り各々の道具を携えている。

それは剣であったり扇であったり、はたまたナイフであったりと特色様々な道具を持ち彼等彼女等は佇む。

道具たちは全て国宝級の代物であり街ではまず見かけないような一品だ。

そして男が持つコンパス、その針は荒ぶる様に回転しぐるぐると回る。

本来なら願いを叶える万能の願望機、それですら特定できない男の居場所。

 

だがそれでも、それだからこそ彼とその仲間たちは期待しながらしばらくの時を待つこととした。

反応がなかったあの頃とは違う、今はそれがある。

生きているということだけがわかっただけでも十分な収穫、計画はもう一歩前へと進んだ。

そうして三十人のクラスメイト達は欠けた一人を探すため各々の能力を活かすため何処かへと移動した。

 

 

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