なんで異世界勇者の俺よりも嫁と娘の方が強いの......?   作:北極狐2018

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第17話

「まず作戦を説明するわ」

 

むっしゃむっしゃとミートパイを食べながらマコトは頷く。

借りた部屋に置かれた小さな机に数枚の写真を貼りつけてメイリーは一枚の色男を指差す。

クルンクルンした茶髪の男、すらっとした体型に金色のセンスのない弓を持っている。

世の中では弓の勇者と呼ばれる英雄の一人、知る人ぞ知る大英雄様だ。

マコトは心の底から溜息を吐いた、イケメンが多すぎる。

異世界滅べと。

 

だがそんなことも知らずにメイリーは他の写真も集めて並べた。

 

「今回の目的は候補者の一人を暗殺することよ。こいつら全てがその候補者よ」

 

「ん?何言ってんだお前?」

 

半眼でマコトはメイリーを見る。

数枚の写真全てを指差して言っているのだ、誰を言っているのだ。

アバウトすぎて意味不明、何を言ってるのか理解不能である。

だがかえってきたのは深いため息が一つ、そして束となった写真だ。

 

「この写真全てが候補者よ。名前はダビン、侵食型と言えばわかる?」

 

侵食、インベード。

他人を浸して犯していく最悪なタイプの攻撃の型だ。

一度侵食されて周りの人間を傷つけてしまったので良く覚えている。

その間の記憶は無く、結果的に周りが傷ついた結果が残る。

 

机に並べられた写真の数々には街中で見かけた人間も含まれている。

その上豪傑と名高い冒険者や勇者すらいる。

もし、もし全員が全員侵食されてるとなれば事態は最悪に近い。

流石に笑えないとマコトは苦笑いを浮かべる。

 

「...冗談だよな?」

 

「冗談だったら私は苦労しないわよ。王都の半数以上が侵食被害にあっているわ、本体の居場所すらつかめていない今手出しはできない。その上拳の勇者を除いた全ての勇者が既に侵食済みかわからない、拳の勇者はまぁ無いわね」

 

「詰んでね?俺そこまで強く無いぞ?本当に冗談抜きでチーター数人相手にしたら死ぬぞ?」

 

「だから準備をするのよ。犯人の居場所を見つける方法はいくらでもあるわ、侵食型の亜人には特徴があるのよ。まず奴らには肉体っていうものが存在しない」

 

「魂魄の本体がいるんだろ?」

 

「そうよ、その本体を見つけ出してぶっ潰す」

 

闘志滾る双眼がマコトへと向く。

その自信満々な様子にマコトはニコッと笑う。

最も厄介なタイプの相手にこれほどの自身、何かしら確実な方法があるのだろう。

 

「で、方法は?」

 

マコトの問いにメイリーは頬に冷や汗を垂らしながら横を向く。

完全にノープランですねわかります。マコトは遠い目をして思考を一時的にシャットダウンする。

マコトはすぐに笑って方法を脳内で精査していく。

侵食型の亜人の特徴は良く覚えている。

本人の魂を封印に近い状態で押さえ込みその空いたスペースに本体が自身の断片を埋め込む。

魂の入ってない人形となった肉体を操作するのはいとも簡単、魂の本体がなかろうと断片で操作できる。

その上余計な我欲や思考が混ざっていないのでその体の最大の力を発揮でき本来なら強くなる。

 

マコトが侵食された時が特例すぎただけだ。

ステータスは貧弱、能力はゴミに近く魔法適性も無いに等しい、その上唯一の取り柄である生徒という職業の技能である模範。

そして技能ですら無い魔力操作、それによって使われる身体強化。

これら全てを合わせてマコトはいっぱしに戦える。

本気の勇者の腹パンできるレベルでは戦える。

全て魂が覚えこんだものであり、決してこの世界にきてすぐに使えるようになったものではな。

 

つまり、クソザコステータスのマコトが侵食されてそれらの小細工が使えなくなった場合...

 

ーースライム以下、クソザコナメクジ。

簡単に鎮圧されブチギレたユイによって欠片すら残さず消滅させられたらしい。

 

情報はある、王宮図書館で掻き集めた知識が情報となって脳裏を過る。

 

超集中によってここまでの思考はたったの一秒にも満たない。

 

総じて一つの結論がスパコンを超えた脳によって弾き出される。

 

「あっ簡単じゃねぇか、全員気絶させればいいだろ」

 

「貴方は何を言ってるのよ?」

 

突然呟いたマコトにメイリーが問いかける。

一つ策を思いついたマコトが考えついた最適解を上手く説明する為に言葉を選ぶ。

 

「まず最初にだが侵食型は気絶してる人間を侵食できない」

 

「そうなの?」

 

「あぁ、気絶っていうのは魂がシャットされてるんだよ。だから全員を気絶させた状態で動いてるのが侵食された人間だ」

 

「それを分けれても不利なことに変わりはないし、そもそも勝てないわ」

 

大変常識的な判断、そもそも全員を気絶させることすら荒唐無稽な話。

それなのにできる可能性を考えて尚無理だと断じ少女は問いかける。

マコトは悪そうな笑みを浮かべて写真を数枚取る。

 

「侵食型には支配力っていうのがある。傀儡にした人間の重要性によって侵食した者が優先度を決めれる、それによって拘束力は高くなる。今日通りかかった道に本来いるはずのチンピラが街を歩いていた」

 

超集中と記憶力という技能によって通行人全ての顔をリストアップし通った裏通りを張り込んでるチンピラの姿を見出す。

近道だと考える人間をカモにする彼らがなぜ居ないか、なぜ意味もなく道路をきちんとした姿勢で歩いていたのか。

そう命令されたとしたらあのアホくさい猫背のないきちんとした姿も納得できる。

つまりこの写真の中に居るありふれた住人達は優先度が低いと言える。

 

「その中に特異的な行動をしてる人間が黒、いなければ優先度が低い人間に紛れてる可能性は無くなる。そして侵食型の本体の目的がわかればどこに居るかどの人間に本体があるかわかる」

 

「...目的は多分成り上がりよ?」

 

「どういう事だ?」

 

「侵食型の亜人っていうのは代々王族を乗っ取ったりして生きているのよ。権力者になれば種族の安全も保証されるし、まぁ要するに偉くなりたいのよ」

 

「でもそれ無理だろ?ていうかそんな事を目的にしてるんだったら既に国が滅んでるだろ」

 

「無理なのよ。王族は勇者と交配したり、まぁ精神耐性とか色々な耐性があるのよ。その上身体中を魔術耐性とか洗脳耐性、魔術道具で守ってるから不可能。その上侵食は至近距離じゃないと無理、今こんな事態になってるのがおかしいのよ」

 

「じゃあ狙いは王族って事か、なら本体は男だな」

 

「どういう事?」

 

「いやだってこの国王女しかいないだろ?だからそれに近づくのは男が得策だ、それも勇者のどれかが怪しい」

 

「いやでも女性に侵食してる可能性は?」

 

「無いだろ、メリットが無いに等しい。いくら女と言えど王族の、それも魔術道具を全て外して精神性が弱ってる時、そんな場合に近くにいるのは誰だ?」

 

「あっそういう意味の男ね」

 

「色恋沙汰には弱いんだよ。王女って腹黒い事もあるが箱入り娘パターンがある、そういう奴は大体勇者とか、そんなものに憧れるんだよ」

 

「勇者もそこまで親しくなれるの?」

 

「なれる。勇者っていうのは国からしたら最高戦力、大事な大事な王族の護衛には適任だ。王城に全員纏めてるのもそれが理由だな、だから俺が侵食する側だったら勇者を侵食する」

 

机に置かれた弓、魔法、剣、それと拳の勇者の写真を手に持つ。

 

「で、これが詰んでる理由だ」

 

「あぁ...そういうことね、勇者四人と戦うのは無理があるわね」

 

「その上最近召喚された勇者だっている、だからどうする事もできないんだよなぁ...」

 

彼我の戦力差は絶大、その上計画を敢行できる程の戦力がない。

本当にチェックまでの計画は出来るがそのための駒が足りない。

どう足掻こうと今二人では不可能に等しい。

 

ーーそう二人ならば。

 

「で、ユイ、どう思う?」

 

部屋の隅に向けてマコトは語りかける。

その突然の奇行にメイリーが目を丸くするが直ぐに歪み始めた空間にメイリーは口を閉じた。

避けた空間から本来何もない開いたスペースへとユイが舞い降りる。

右手には鎌を、左手には十字架とニンニクを。

信条家の洗濯物干しに使われていた鎌なのだが実際は結構やばかったりする。

ユイはにっこりと笑って目にも留まらぬ速さでメイリーの首に鎌を掛けた。

ケンカを売る相手を間違えたと心の底から、人としての本能がそう囁く。

 

「マコトさんは蝙蝠に協力するんですか?」

 

「まぁな、ガキンチョが一人で突っ走ってくたばるのもアレだし、亜人に好き勝手やられて思い出の場所が汚されるっていうのもムカつく」

 

「そうですか...蝙蝠さん蝙蝠さん、ニンニクと十字架どっちが良いですか?」

 

「どっちも嫌なんだけど...本当に許してください...」

 

メイリーは完全に怯えきって敬語を使い始めた。

いくら人外の再生能力があろうと鎌にかけられた能力は確実にヤバイ。

吸血鬼としての本能が警鐘を鳴らす程の一品、間違いなくタダでは済まない。

 

「まじめに許してやってくれ。ガキンチョを放っとけなかったんだよ」

 

「娘を放っておくのに、ですか?」

 

「本当にすみません許してください」

 

世にも珍しい吸血鬼と大英雄と呼ばれた勇者の土下座姿。

街の人間が彼らが何者で何をやってるのか理解したら卒倒するだろう。

本当に心の底からしょうがないという風にユイはため息を吐いた。

 

「マコトさんを誘拐したのは死刑ですけどそれよりも恩人がいる王都が攻撃されるのも許せませんし...私も協力させていただきます」

 

「助かる、まじめにユイがいれば話が進む。準備が終わったら王城に潜入すんぞ」

 

「王城って敵がいるかもしれないのに危険よ、あなた何考えてるの!?」

 

「はいはいうっさい、ところで身代わり石持ってきてくれましたかね...?」

 

「もちろんですよ、必要になるって思ったので身代わりのミサンガ持ってきました」

 

「さすがうちの嫁、話がわかる」

 

マコトはユイが取り出したミサンガを取り腕に通す。

魔力糸で繋がれた身代わり石がキラリと日光を反射して輝く。

未だ話についていけないのかメイリーは首を傾げる。

 

「説明しなさいよ、どうする気なの?」

 

そう、マコトは計画を思いついてしまった。

それはーー

 

「王女を誘拐する」

 

プランH、ハイエ◯ス作戦である。

 

「は?」

 

思わずメイリーは間の抜けた声を出した。

誘拐、キッズナップ、拐うのである。

やれやれといった様子でマコトは口を開く。

 

「だから王女を誘拐する」

 

「ちょっと...えっ、どうする気で?」

 

「王城に乗り込んで王女を拐って指輪をいただく。そうすれば王族を狙うダビンは追ってくるはずだ」

 

「でも勇者を倒すのは不可能って」

 

「場合による、ケースバイケース」

 

「確証は?」

 

未だできると思えない、可能ですらないとすら思う彼女は最もな意見だ。

この計画は一言で片付けるなら勇者撲滅作戦、ポロリもあるよ、だ。

 

「ある、転移魔法を使って一人一人ゲスい方法で潰す」

 

「...頭痛しかしないんですが」

 

「だろうな。下準備が必要だし、それを全部やってもいけるか分からん」

 

「無茶って知ってます?辞書貸しましょうか?」

 

「煽るなよ、勝ちたいんだろ?」

 

「まぁそうだけど...」

 

「なら今はできる事をやれよ、こうやって写真かき集めたりして下準備ぐらいできるんだから、やるべきことぐらいできるだろ」

 

「わかったわよ、だいぶ無茶だし不可能に近いけど...」

 

「不可能なんてないさ」

 

ドヤ顔で決めたマコトの肩を優しくユイが触れる。

刹那流れてくるは疲労回復魔法、それもかなり高位の効果があるやつ。

 

「えっとユイさん何してるんですかね?」

 

思わずマコトが敬語で問いかける。

だがひたすらユイは笑顔を貫く。

 

「マコトさんマコトさん、疲れてるんですよね?そうやって格好つけるのあまり似合わないですよ、黒歴史ってやつになるんじゃ...?」

 

「ユイ、やめてマジで」

 

「ドヤ顔で言ってる姿はまるでシンジさんのようでした、撮影したのは我が家の家宝に」

 

「冗談抜きでやめてください」

 

平身低頭、迷わず土下座。

少し調子に乗ってみただけ、決してそんなナルシストなわけではない。

マコトはただ単にちょっとシンジの真似事をしてみたかっただけなのだ。

少し格好つけて言ってみる、いう人間によって黒歴史にしかならない物。

そっとマコトは顔を上げるとゴミを見る目のメイリーと何故か楽しそうに笑うユイがいた。

絶対に許さないとマコトは心に誓いシンジとダビンとやらを恨んだ。

 

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