なんで異世界勇者の俺よりも嫁と娘の方が強いの......?   作:北極狐2018

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幼馴染

ヘタリア帝国の北東に位置する魔術都市タートスは海に面した一大都市である。

海に面しているということもあり流通は盛んで人の行き来が絶えない活気のある街で様々な種族が入り混じり王都とは違い特に差別などの無い最も平和な街であり世界でも五本の指に入る難攻不落の街でもある。

その理由は一重に魔術学院タートスという学び舎があるからであった。

様々な資源が流通する都市に学院を構え早数十年、未知の魔法を研究するために欠かせない素材を求め世界から何十人もの魔術師がこの学院に滞在しているのだ。

強力な魔術師が大量にいる学院を狙うのはただの実験台に使われたいどMの愚か者か、血に飢えたバトルジャンキーである。

そんなカオスの闇鍋ーーいや由緒正しき学園の映えある校長室で一つの悲鳴が響いた。

 

「マコト君、君生きてたの!?」

 

叫び声をあげたのは若い女性だ。

空色の髪に傷一つない肌、間違いなく美人の部類に入る一人の女性。

おかしな八つの星が描かれたとんがり帽、魔導師の白ローブに身を包んだ八星位の魔導師だ。

 

腰を抜かし幽霊でも見たような顔で尻餅をついている姿はどこからどう見てもドジっ子、流石の反応にマコトは傷つき、苦笑いを浮かべた。

 

「飯田さん酷すぎでしょ...反応はわかるけど流石に帰ってきた人間に対して生きてたの!?(ドン引き)はないでしょ?」

 

「いやだって君死んだでしょ?百年前に死んだでしょ?ね?」

 

「ねじゃねぇよ!?百九年前だよ、少しは労ったらどうだよ!?」

 

「労うも何も...ははん、さては幻術で誰かが私を騙そうとしてるのね?」

 

「クマさんパンツのクラスメイトなんてって痛っ物投げんな!」

 

女性ーー元クラスメイトである飯田美雨(イイダミウ)に涙目で分厚い魔道書を投げつけられ命中、マコトは頭を抑えた。

 

「で、それで私の立場わかる?こんな簡単に会える相手じゃないのよ?」

 

本人確認が済んだところで彼女はお茶とクッキーを取り出しマコトに問いかけた。

 

「わかってるよ、筆頭中二病の女性だろ?痛い詩を書いて数式で誤魔化して魔法を使うっていう」

 

詠唱(オープン)彗星よーー」

 

「やめろ物騒な呪文唱えんな!?」

 

据わった目で指先を向ける彼女にマコトは迷わず両手を挙げた。

 

「あらあら、どうせ中二病の詩よ?何も起きる訳ないじゃない?」

 

「その痛い詩を唱えたらどうせ雷鳴の龍とか電撃とか、あとあと火炎とかでてくんだろ!?」

 

本当になるから笑えないとマコトは思う。

こんな一定の句に数式さえあればいくらでも魔術を使えるなんてふざけてる。

ひとまず席に座りなおしマコトはクッキーを貪る。

上質な素材を使ってるのか中々味が良い、お土産に買っていきたいところだ。

そのためにも給料を得なければいけない。

きちんと飲み込んでから紅茶を喉に流し込んだ。

 

「で、わかってるかだっけか?わかってるよ、物凄く偉くなったんだろ?」

 

「そうよ、そうよ。私今魔術省のこの国の魔術総合管理者なのよ」

 

「うん、二文字でどうぞ」

 

「ボスよ」

 

「おけ、それを理解してるから敢えてお前のとこにきたんだよ」

 

「そう、どういう要件?友達だし私ができる事ならなんでもやってあげるわ」

 

ふふーんとドヤ顔で言い切る彼女と裏腹にマコトは録音装置を起動しておいたスマホの画面を見せつける。

彼女はジト目で表示されている停止マークと録音の二文字に一言。

 

「ねぇねぇ、私友達よね?なぜ言質をとったのかしら?」

 

「ふっバカだな、言質を取ったからにはお前は断らない断れない!!」

 

「いっいったいなにをしたいのよ、面倒だし聞いてあげるわ」

 

「話が早いな、俺に仕事をくれ」

 

たっぷり数秒静止しどんな要求が来るかと身構えていた彼女は間の抜けた声を出す。

 

「...はい?」

 

「いやだから仕事プリーズ、俺働きたいんだよ」

 

「えっと、待って、詠唱(オープン)思考解読(リード)

 

中級魔法『思考解読(リード)』思考を読む魔術だ。

嘘を付いてればアバウトでわかるし何を考えているのかだってわかる。

その魔法を使ってマコトの脳内を除いた彼女は口を閉じた。

この魔法は大体のことを読めたり、仲の良い相手であれば過去だって覗ける。

今回は後者、洗いざらいマコトの記憶と考えが流れ込み、膨大な情報にミウは口元を抑える。

 

「おい、大丈夫か?ほらみろ、中二病を思い出すからあれほどやめろと...」

 

やれやれといった様子のマコトの袖をミウは震える手で掴み口を開く。

 

「ごめんなさい...本当にごめんなさい」

 

「どうしたよいきなり、で、仕事もらえたりする?出来るだけ楽な仕事が良いんだが」

 

「わかった、わかったわ、でもお金が欲しいんだったら私がいくらでも出すわ」

 

目深くかぶった帽子のせいで表情がうかがえずマコトは頭を掻く。

どうして周りの人間はここまでのことをするのだろうか、働かなくて良いだとか金はいくらでもやるだとか。

実際働きたくは無いし死ぬほど嫌なのだが仲が悪い長女と仲直りしたい。

あくまでその手段として働きたいのだ。

 

「おいおい、お前も俺の嫁みたいなこというなよ。俺は自分で働いてお金を稼ぎたいんだよ。それじゃなきゃ娘を見返せないからな」

 

「きょっ、今日は帰って、お願いだから。明日行くから、約束するから」

 

不快感に苛まれるように今にも吐き出しそうな体を引き止めミウは強く袖を引いた。

体調不良なのだろうかとマコトは推測し最後のクッキーを飲み込み部屋を出た。

 

「じゃあな。調子悪いんだったら休めよ?」

 

念のためにドアを閉じるときに言っておく。

気遣いは日本人の美徳だ、この一言が結構印象を変えるとマコトは強く思う。

 

マコトが部屋を出たと同時にミウは抑えていた吐き気を止められなくなり由緒正しき校長室に嘔吐物がぶちまけられた。

 

 

 

仕事が手に入り嬉々とした表情でマコトは家に帰った。

これで晴れて糞ニート卒業というわけだ。

素晴らしきかな社会人、これで非社会適合者をやめ凛とした社会人へと変わる。

 

「ただいまー!」

 

笑顔で扉を開くとバタバタという騒がしい足音とともに小さな銀色の塊が腹部に突進してくる。

慣れた動作で鳩尾に飛び込む少女を空中で回転させ勢いを殺し抱っこ。

歳が歳なので結構な重さがあるがスキルで頑張ってマコトは抱き上げた。

 

「お帰り、お父さん」

 

「おう、良い子にしてたか?」

 

「うん、お父さんはお仕事見つかった?」

 

「もちろんだ、お父さんはお仕事紹介で恥をかかない人間になったんだぞ」

 

「お父さんが無職って書いたら笑われちゃう。お父さんがみんなに笑われてるの悔しい」

 

「ごめんな本当。これからはお父さんみんなが羨ましがるような人間になるからな」

 

マコトが優しく頭を撫でるとぎゅっとユキは手を握った。

靴を脱いで抱えたままリビングに入ると見知った顔が一つ。

エルフ耳に金髪、渋い雰囲気を醸し出す老人。

百年前と全く姿が変わっていないのは一重に彼の種族がエルフという長命の種だというのが理由だろうかとマコトは推測する。

だがそれでも、百年前の知り合いとの再会は嬉しかった。

 

「エリック、久しぶりだな」

 

「マコト...」

 

約百十年ぶりの再会、男と男の再会。

エリックと呼ばれた老人はマコトに近づきーー

 

「マコト、くたばったんじゃなかったのか!?」

 

思い切り尻餅をついてドン引きされた。

眉間を揉みほぐしマコトは吐息を吐いて深呼吸。

 

「生きてるからな?所でエリック、てめぇ人の嫁にちょっかい出してないだろうな?」

 

「やるわけ無いだろう。エルフの伝統として将来を誓い合った相手にしか体を許してはいけないからな!」

 

まだ怯えたようにマコトが一歩近づくたびに彼は後ずさる。

嗜虐心がくすぐられ愉悦心がにっこりするが話が進まないのでしょうがなく近くのコップを手にとって投げるとエリックはキャッチしコップとこちらを順番に見渡した。

ここまで人が幽霊に怯えるのはただ単に侵食、つまりは幽霊に体を乗っ取られたり殺されたり、呪われたり。

野良幽霊がそういう事をしているので幽霊には世知辛い世の中なのだ。

だが世間一般では幽霊は物理的な干渉は不可能、物を持つことができないので今のコップがそのサイン。

安心したようにエリックは深い吐息を吐いた。

 

「ユイ、今帰ったぞ」

 

「おかえりなさい、お仕事見つかりました?」

 

若草色のエプロンをつけて紅茶を淹れる後ろ姿はとても柔らかい雰囲気を作り出している。

 

「喜べ、無事仕事をもらえることになった」

 

「...死にーー」

 

「ませんよ?死ぬわけ無いだろ冗談抜きで。心配しすぎだよ、もう流石に帰ってこないっていうのは無いから」

 

非は自分にあるのはマコトだってわかってる。

百年近く死んだという事実を残して消えていたのだ、それも娘が生まれて一番大変な時期をユイ一人でやらせてしまった。

差別が少なからずあるこの世界でどれだけ大変だったかわからない。

 

「ごほんっ、マコト、お前は仕事を探してるのか?」

 

「そうだが、もうーー」

 

「そうかそうか、なら仕事を頼みたいんだが」

 

「いや人の話聞けよこのハゲ。そのツルッツルの額に落書きすんぞ?」

 

「はっはっは、面白い冗談だ、依頼報酬はきちんと払おう。結構な額を出すから安心してくれ、この紙に全部書いておいたからあとはよろしくな」

 

シュパッと敬礼しリビングの窓を蹴破り外にとびだした。

着地する際に足を捻ったらしい、その姿は哀愁漂い、アホらしかった。

いくら図太いと言われるマコトでもここまで一方的な押し付けに流石に涙目だった。

 

「おっおい、ちょっと待てや」

 

「とぅ!!さらばだ!!」

 

「おーい!!」

 

マントを翻し魔術によって転移、完全に姿が消えたのを見てマコトは深く、本当に深くため息を吐いた。

 

「お父さんため息は運が逃げるよ?」

 

「だな、流石にそこまでやばいやつじゃ無いだろ...」

 

伏せてある紙を持ち上げて娘にも見えるように広げるとそこには確かに『回復薬100個の納品』と書かれていた。

 

「お父さん」

 

ピクピクとその膨大すぎる数に震えながら娘が襟を引っ張る。

回復薬一個の値段は日本円で一万円、百個なんて百万。

その納品数が多すぎるのが問題なのだ。

 

「なぁ、エリック次来たらすぐに呼んでくれよ、ぶん殴るから」

 

「はい、わかりました。それでその依頼受けるんですか?」

 

「まぁ...報酬が気になるからやろうと思う」

 

依頼内容と理由、その他諸々の書類の下に報酬と書かれた二文字がある。

報酬は指輪の在り処、その情報と書かれている。

マコトはゆっくりと自身の薬指を見てからユイの手を見る。

彼女の薬指には自分がプレゼントした安物の指輪が嵌められている、だが自分の分、肌身離さず持っていた指輪はここには無い。

なんとしてでもマコトは取り返したい、そのためにさまざまな事をしたが今のところ砂浜からアリの死骸を探すような作業、まず見つかりっこ無い。

だからこそこの情報というのは今喉から手が出るほど欲しい。

 

「まっ、回復薬があればいいんだろうしな」

 

「手伝います」

 

回復薬は市販で買うには高すぎるが作るとなるとそこまででも無い。

薬品の製造に長けたエルフと錬成術を合わせればきっと早く終わるはず。

その合間に仕事やればいいだろうとマコトは拳を握りしめ決めた。




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