なんで異世界勇者の俺よりも嫁と娘の方が強いの......?   作:北極狐2018

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お仕事

婚約指輪ーーそう指輪だ。

婚儀を申し込んだ際に形として渡す一つの証。

婚約指輪を渡すというのは一つの通過事例である、そして一部の人間はそれを墓まで持っていく一つのキーアイテム。

それは一種のステータスであり、それは一種の素晴らしき装飾品。

持っていないということは紛失、もしくは大事に仕舞っているという事。

 

だがーーだが持っていればそれは一つのイメージを他人に植えつけられる。

人妻、絶対に手を出してはいけない存在へと変わる。

ナンパだって消せるし周りの人間からも一目置かれる。

 

『あっもう結婚してるのか』

 

こうなるのだ。

全ての場においてそれは最強の武器へとなり得る。

 

だがーーだがだがもし片方の人間がそれを無くしたら。

例えば旦那か嫁がそれをなくした場合浮気を示唆することにもなるし家庭内の空気が泥泥して家庭崩壊へと陥る。

 

だからこそ、だからこそマコトはなんとしてでも指輪を取り戻さなければいけない。

例えそれが安値で売り払われて地球の反対側にあろうと、例えそれが数億円の価値になっていようと、たとえそれが災龍の巣にあろうと、絶対に取り返さなければいけないのだ。

その為の情報ならばどんな手段を使ってでも手に入れる、それが常識。

 

「で、仕事はなんだね?ん?」

 

「どうしてそう偉そうなのよ...」

 

魔導師の服ではなく少女然としたワンピースにロングスカートを着たミウは溜息を吐いた。

昨日校長室でファーストインパクトを起こして数時間後、十分な睡眠をとってから手頃な仕事を自ら発注しそれを偽装、依頼人を部下にやらせわざわざ名前も隠して一つの依頼書を作り出したのだ。

依頼書を見てマコトは露骨に顔をしかめる。

 

「なぁ、俺普通の定職が欲しいんだが、こういう冒険者的なやつじゃなくて」

 

「ここの報酬見てみて、特別報酬として教員免許が与えられるわ、つまり定職につく為の踏み台よ」

 

尚先日議会を権力とコネで突如開始し魔法省をねじ伏せこの依頼を作ったのだ。

教員免許というのは学院を卒業したものに平等に与えられるものでありこのような形で発行することはまず無い。

そこを自身の立場を利用し貴族を丸め込みこの特別報酬を作ったのだ。

それを理解しているわけでは無いがジト目でマコトはミウを見つめる。

 

「これ怪しく無いか?胡散臭い」

 

「そんなことないわよ!私がコネで依頼持ってきたのよ!安全に決まってるじゃない!」

 

「まさか昨日クッキー全部食べた腹いせか?でもお前太ったしって痛っちょっと待てや、離せばわかる!?」

 

「せっかく私が仕事を持ってきてあげたのにその対応は何、文句言わず早く受け取ってサインなさい、さもなくばこの家が灰燼に化す事になるわ...」

 

虚ろな目でまくし立てるミウにマコトは無言でサインを書き終え渡した。

確かに確認しミウは本当の要件を脳裏に浮かべ頬を赤く染める。

 

「そっそれでこの依頼が終わったらだけど一緒に...その」

 

「その?って頬赤いな、熱でもあんのか?」

 

無自覚にも手の平をミウの額につけてマコトは思案する。

若干微熱があるが問題はない、よってセーフ。

 

「『いきなりなにするのよぉぉぉぉぉ!!』」

 

器用にも文句で魔法を起動し彼女の指先から風船状の水の球体が放たれマコトの鳩尾に命中、勢いよく壁に激突しゲホッと息を吐いた。

幾ら丈夫とはいえ無意識にかなりの魔力を込められた水弾を放たれ胃液がこみ上げる。

 

「えっちょっとごめん、ほんとごめん、『詠唱(オープン)回復(ヒール)』」

 

淡い緑の光がマコトの体を包み身体を癒して行く。

死者でも復活できるレベルの回復魔術を注がれマコトは痛みが完全に引いていくのを感じた。

無論すぐに浮かび上がる一つの言葉はこう。

 

「てめぇふざけんな殺す気か!?まじめに死ぬかと思ったぞ、三途の川でお婆ちゃんがニコニコ手を振ってたぞ!?」

 

「ごめん本当にごめん、そこまで強くやる気はなかったし本当にごめん」

 

「ごめんで許されたら警察いるかよ!?常識的に市街地が魔術ブッパとかおかしいからな!!」

 

「もうそんなに言わないでよぉ!私だって反省してるの、だから許して、ねぇ!?」

 

ミウはヤケクソ気味にマコトの襟を掴み涙目で押しては引っ張り押しては引っ張り、涙で顔が崩れせっかくの化粧が台無しである。

また別の意味で込み上げてくる胃液を押し返しマコトはコンマ数秒の速さで上着を脱いで後ろに下がる。

 

「いいか、許してやるから止まれ、マジでそれ以上やられたら俺死ぬぞ?」

 

「なんで死ぬとかいうのよぉ!!」

 

「めんどくせぇなおまえ!?なんか情緒不安定すぎないかてめぇ!?」

 

「てめぇって友人に言う言葉じゃないわよ!昔みたいにみっちゃんって呼んでよねぇ!最近みんな結婚してるのよ、わたしだけ、えっまだ(・・)独身ですか?美人なのにって言われたくないのよ!美人て思うならあんたが結婚しなさいよって話でしょ!?」

 

そうそれはアラサー(128歳)の泣き言、とても聞くに耐えない言葉だった。

 

「うわっ酒臭っお前飲酒してんな!?弱いなら飲むなよ!酒は飲んでも飲まれるなって言うだろ!!」

 

「うわーんまこっちゃんが虐めるー!!」

 

ミウはわんわん泣き声をあげてボロボロと涙が溢れ出す。

床に女の子座りで座って子供のように泣き叫ぶ彼女に最強の魔導師という言葉は完全に一致しなかった。

 

「ほんとお前何言おうとしたんだよ...とりあえず一回水飲んで寝ろ、ほら早く立て」

 

「ヤルなら優しくお願い...」

 

「アホなこと言ってないでとっとと寝ろ...本当酒に飲まれるのいい例だよこの反面教師め」

 

「いじわるいわないでぇ...」

 

ミウは呂律すら回らず今マコトに鴨か何かのように肩に下げられている事に気づいていない。

下の話をされ若干異性という面でマコトは否応無く彼女を意識してしまう。

幾ら既婚とはいえミウは発育がかなり良い方でボンキュッボンといって差し支えない、肩にぶら下げたせいでその艶かしい肢体が体に密着し体温が直に伝わってくる。

 

「いかんいかん、一体俺は幼馴染に何考えてんだ...」

 

自分は妻帯者であり娘もいるということを強く心に誓う。

そもそも親身になって相談にも乗ってくれた友人をそういう目で見るのは失礼ではないか。

 

マコトは早る心拍が通常運行に戻るのを感じて深呼吸してから彼女を今は家を空けている長女のベッドに寝かせた。

 

「ごめんねぇ...まこっちゃん...ごめんねぇ...」

 

譫言(うわごと)を放つミウをどうしたものかとマコトは頭を掻く。

 

「一体どうしたんだか...とりあえず依頼とか整理してスケジュール組んで...」

 

マコトは予定を脳内で洗い出しながらベッドの傍から立ち上がるが服を引っ張られ振り返る。

無意識なのかわざとなのか強く服を握られて動きようがない。

本当に本当に心の底から溜息を吐いてマコトはベッドの近くに座った。

確かに昔馴染みの友人を心配させていたのだから少しは気遣ってやっても良いだろう。

欠伸をしながら近くの本を手に取りマコトは時間を潰すこととした。

 

 

 

ガシャリと瓶が入った手編み鞄が部屋の前に落とされた。

幸い丈夫にできているのでヒビが入ることも壊れる事もない。

だがガチャリと確かにユイの心にヒビが入った。

夫が何処にいるかと家の中を探してみればスヤスヤと別の綺麗な美女と長女のベッドで一緒に寝ているのだ、それも豊満な胸に抱かれ満足げな表情をマコトは浮かべている。

 

どんな状況かは一目瞭然、浮気である。

 

「...百歳も歳とっちゃったらおばさんですもんね...やっぱり若い子が好きなんですよね...」

 

喪失感を確かに胸に感じ同時に寂しさを感じユイは俯く。

家を出て行くことを考えベッドに近づきマコトの顔を覗き込むと一切の邪な感情は見えなかった。

踵を返し、部屋を出ようとするがマコトは無意識に手を伸ばしユイの服を引っ張る。

 

「しょうがないですね...」

 

若干自分を求められた事が嬉しくてユイは近くの椅子に座る。

しょうがない、ほんの少し待って事情を聞くのだ、短絡的な行動が夫婦の溝を作ってしまうとどこかの恋愛小説が言っていた筈だ。

冷静にユイは考察し、フサフサとマコトの髪で遊び始めた。

 

 

「ただいま!!」

 

元気な声が玄関に響く、うちの次女であるユキだ。

元気一杯に今日も幼稚園を楽しんできたのだ。

靴をすぐに脱いで何時も通りリビングに飛び込み両親の姿を探すが見つからず首をかしげる。

天性の魔法の才で魔力の反応を感知し母親の居場所を突き止めると彼女の姉ーーつまりこの家の長女の部屋に飛び込んだ。

 

すぐに視界に入ったのは川の字で眠る3人の大人の姿だ。

全員高校生から大学生の中間あたりの体格なので一つのベッドでは若干寝苦しそうだ。

ニカっとユキは笑って眠る母親と父親の間に飛び込んだ。

 




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