なんで異世界勇者の俺よりも嫁と娘の方が強いの......?   作:北極狐2018

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悪ふざけ

鼻腔をくすぐる森林の匂い、腐葉土が漂わせる土の匂いがその場所を理解させる。

光が完全に消え両眼を見開くと背の高い木々に見下ろされる。

マコトは柔らかい土を踏みしめ思えばこの森に来るのも数百年ぶりだと思った。

最後に来たのは確か海洋に湧いた竜種(ドラゴン)の討伐の際にこの街に訪れたのだ。

結局クソ勇者サマが俺tueeeして倒してたしそもそも人気が無い自分の立場なんてなかった。

若干グレて抜け出そうとしてこの森に来たのだったか。

 

「じゃあ私は帰るわね、この後議会があるから...」

 

「?あぁ、だけどなんでお前震えてるんだ?」

 

ガタガタガタと某ブルーベリーモンスターゲーに出てくるモブキャラのようにそれはそれは震えていた。

顔も若干青ざめていて今すぐにでも家に帰って暖かお布団に突入したい顔だ。

 

「なんでもないわ、なんでもないわ」

 

「なんでちょっと歌風なんだよ...さてはお前虫が苦手か?」

 

「そんなことある訳ないじゃないバカじゃないのこの大魔導士である私が今更虫ごときに恐れをなす訳ないでしょ!?ハハハハハ!!」

 

「そうかそうか、そりゃあ尊敬される大魔導士だし大丈夫なんだよな、おっと足が滑った!?」

 

蹴り上げられた柔らかい土の中にはカブトムシの幼虫が数匹。

一寸の狂いもなく変態的な精度で綺麗な軌道を描いて落下する幼虫達、もちろん落下地点はミウの頭上。

完全に悪ノリ、小学生並みの嫌がらせ、この男精神年齢ガキンチョだった。

 

「『いやぁあぁっぁぁぁぁぁぁ!!』」

 

ほぼ無意識に起動された装填魔術。

前もって魔道具やアクセサリーに込められた術式と魔力が魔術の速攻発動を可能とする。

現界するは半径数十メートルはある大火の火球、周囲の木々を焼き焦がすほどの熱量を放つ魔法。

火魔法五星位の火炎魔法『ネフ・ファイア』

それは容赦なく発射され森を墨に変えながら遥か上空へと飛んで行った。

無論虫たちは一欠けも残さず大気へと消えた。

ここまでのオーバーキルを想定していなかったマコトはこっそりと木の裏へと身を潜め潜伏スキルを発動。

 

「どこ...!!どこに消えたの...!!」

 

「(やべぇ、ここまでブチギレるとは思っていなかった)」

 

若干血走った目で周りを睨むミウの姿にマコトは恐怖心を抱く。

間違いなく今出たら消し炭にされる、最悪氷結魔法でかき氷だ。

マコトはどうにか穏便に事を終わらせる方法はないものかと思案するも背後から感じる魔力反応に全力で飛ぶ。

 

刹那自身が隠れていた大樹が一瞬で氷結し崩れ去った。

水魔法六星位の氷結魔法『ネフ・アイス』。

対象を氷漬けにし一撃で崩壊させる上位の氷魔法。

通常ならば数時間かけて行われる儀式によって繰り出される大軍魔法。

希少な魔法石を触媒にして行われるであろう大型魔術がお手軽に血走った目で発動されていた。

 

まずい、本当にまずいとマコトは思う。

悪ふざけが過ぎた自覚はある、だがここまでブチギレて魔王軍幹部を殺すのかってレベルの行動をするとは考えていなかった。

 

「おい!すまんかったからちょっとーー」

 

「そこね!『時間差起動(タイマー)ネフ・アイス・バレット』」

 

指定され変革された氷結魔術は弾丸状の氷を空中に生み出し、ノータイムで偏差を込めて放たれた。

超集中ーー普通は人生に一度しか味合わないような物、つまり走馬灯である。

マコトは数百回魔王戦で死を体験し走馬灯を見続けた結果超集中という能力を手に入れた。

死を直感した脳が数百倍の速さで稼働し三%の活動限界を超えて使われる固有能力。

誰もが使えるがその入手条件が死亡なので誰も持たない、いやもっても数秒走馬灯に使われてその人物は死に至る。

最早一種の固有能力といってもいいそれを使い弾丸の軌道を予測、魔力操作によって強化された身体は通常の数倍の力を得る。

そして体を、四肢を全ての弾丸が当たらない地点へと移動。

 

「コマ◯チ!!」

 

そうそれは綺麗なコ◯ネチであった。

胸ポケットに入っていた身代わり石がマコトの身体の代わりに崩壊、胸ポケットが砂だらけになった。

数百キロを超える弾丸が全て嘘のように木々へと突き刺さり、その全てを凍結、崩壊させた。

 

「はぁ...!!はぁ...!!ゴキブリね...」

 

「いやそれゴキブリに失礼...じゃなかった、一回落ち着け本当、殺意高過ぎ」

 

「半殺しにしようとしてるのだから殺意が高いのはあたりまえでしょ?」

 

「本当にすまんって、多分メイビーもうやらないから」

 

絶対にやらないとは言っていない。

 

「それどっちも同じ意味、もう一回同じ事をやる気なの?」

 

「いや、マジでやめてくれ、身代わり石が切れたら冗談抜きで俺死ぬから...もう年取ったんだよ...」

 

「あっれっれー?自称ピチピチの二十代がこんなんでへばってるのかしら?」

 

「わかりやすい煽り文句だな、そういえば百歳超えた飯田さんは随分息切れしてるようですねぇ!」

 

はぁ...はぁ...悲しいことに歳をとった二人は息を整えるのに必死で口を閉じた。

なんとも悲しい戦いだ、それも全く意味が無い。

ここはどちらかが折れなければいけない、結婚生活で培った経験を生かしマコトは深呼吸。

 

「すまんかった、もうやらんから...はぁ...この無為な争いを止めようぜ...?」

 

「そっそうね、私が全面的に悪くなかったけどそこまでいうなら許してあげるわ...はぁ...」

 

ピクピクと二人は魔力欠乏症に顔を歪ませて戦いは終わった。

 

 

 

 

 

「うーん、雑草多すぎだなここ」

 

マコトは森をある程度抜けた場所へと目を向ける、そこには一面緑色の草原が長く続いていた。

ちなみに全て雑草である。

雑草が生え過ぎていて周りの木々が弱ってるように見える。

この世界の雑草は本当に雑草で名前も雑草なのだ。

日本の場合雑草は一部の要らない花や草、勝手に生えてきたもの全般をさすがこの世界には雑草という名の植物がある。

名の通り雑種雑食その上繁殖性能が高いときた。

しかも水を地下から吸い上げて周りの木々が弱り根の短い植物類は例外なく枯れる。

これが原因か周りの薬草などはほぼ全て低ランクの酷い状態、とても売れるようなものでは無い。

 

「これ全部毟るか...森がダメになっちまうし...」

 

マコトは本当に気怠げにため息を吐いた。

全て回復薬にすることはできない、というか作っても売る方法がないし、道具屋に行っても安く買い叩かれてしまう。

必要分は百個、麻袋二袋分、それ以上は要らないのだ。。

なのでこれは完全なるボランティア精神の何かになってしまうわけだ。

 

「さてとっ、『詠唱(オープン)再現(リユーズ)錬成(スミス)

 

マコトが使用した錬成術により地面が揺れて雑草の根が土によって上へ上へと押し出され、全てが大地に露出する。

雑草のセオリーとしては根をとらなければ延々に湧き続けるのだ。

なので錬成術によって根っこを引っ張り出して全て回収、錬成することで上質な薬草に変えて雑草を撲滅する。

 

この森の栄養は雑草によってかなりの量が吸い上げられたと思っていいだろう、それを再生するためにはーー

 

「って、何考えてんだ俺。そこまでやる義理ないだろ...」

 

ボランティアじゃあるまいし、それはタダ働きになる、マコトが一番嫌いな言葉だ。

だが確かユイとの初デートもここだったし何より娘に胸を張って仕事したと言えるような事をしたい。

たっぷり三十秒ほど思案しマコトは義理でできる限りのことをやる事とした。

 

「まずは回復薬の分を回収っと」

 

錬成によって土が手の形になり雑草を大雑把に掴み取る。

集中して動かして麻袋に突っ込んでいく。

一部の使えない、変質できない部分は全て腐敗させ土にほうり捨てる。

多少なりとも栄養になるし錬成術で腐敗させて仕舞えば速攻の栄養になる。

 

「あとは全部変質だな...他の冒険者も取りに来るだろうし」

 

タダ働き糞食らえとマコトは嘆く。

そもそもこれだって勇者サマの所為だろう、つまり自分は尻拭いさせられてるわけだ。

結果として雑草が増えたのも、結果として回復薬の素材である薬草が減ったのも、結果としてエルフが森から追い払われたのも。

 

魔王軍とか言って人は山を荒らして薬草を獲り尽くした、だが誰もそれを直そうとも改善しようともしなかった。

その結果が手入れされずに雑草によって枯らされた山々の数々。

結局人間はどこたりとも成長していないとマコトは心から思った。

何の為に自分は無茶をしたんだかと本当に自分にも呆れた。

 

 

 

 

マコトが自然に無償奉仕している頃、初老の老人ーーエリックは暗がりで魔道具を起動した。

天海の瞳と呼ばれる魔道具は使用するのを難しいとは言われているが魔法に長けたエルフであるエリックには造作もない。

彼は周囲を確認して魔道具へと魔力を注ぐ。

藍色に輝いた魔道具に吹き込むように言葉を放つ。

 

「こちらの準備は完了しました...次の段階に計画を移行する時です」

 

『そう、わかったわ。回復薬が十分あれば計画は完成する』

 

女性の声が魔道具から溢れ彼は若干ーー少しだけ残念そうに口を閉じる。

騙すようで悪いと彼も思う。

数百年前に自分を認めて助け合った仲である友人を裏切るような訳ではない。

決して、決して裏切らないと心に決めて魔道具を切る。

これは裏切りでは無いのだ。

 

「今はこれで良い。今はこれで良いんだ」

 

全て、全ては彼の為、大切な友人に恩を返すのだ。

エリックはマントを翻し暗闇へと消えて行った。





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