ストライクウィッチーズの世界に日本が転移!?(リメイク) 作:RIM-156 SM-2ER
今浦と話した翌日。川野はミーナの部屋を訪れていた。
「トゥルーデ*1を出撃から外してほしい?」
「はい」
内容は前日に今浦に話したことと同じであった。
「大尉の様子はおかしいです。実戦下でパニックでも起こされてしまったら、たまったものではありません」
昨日の川野の様子を知る今浦が、今の言葉を聞いたら「自分のことを棚に上げている」と非難するであろうが、この部屋にはあいにくミーナと川野の二人しかいなかった。
「中佐も心当たりがあるのでは?」
「ええ・・・・」
ミーナの返答に、川野は自分の進言が通ると思った。
「出撃については本人に確認を取ってからとします」
「ですが!」
「これは命令です」
命令といわれてしまえば、階級が4つも違う川野に言えることはない。渋々といった様子で、引き下がった。
「そもそもバルクホルン大尉の過去に何があったのですか?」
この問いにミーナは目を丸くする。バルクホルンの過去を知るのは、ミーナとハルトマンだけであり、それ以外の人間が現在のバルクホルンの様子に気が付いても、それを過去と結びつけて考える人間はいないと思っていたからだ。
「なんで・・・・今のトゥルーデの様子が過去とかかわっていると思ったのかしら?」
「・・・・自分にも似たような時期がありましたから。何もかも失ってやけっぱちになった、そういう時期が」
2人の間に沈黙が流れる。目を合わせながら、一言も発しようとしない。
「・・・・いいわ。話しましょう」
ミーナはゆっくりと語り始めた。
「トゥルーデの故郷はカールスラント東部のカイザーベルクよ」
「確か、そこら一帯は小ビフレスト作戦時に避難命令が出されていましたよね?」
「ええ、そのあと大ビフレスト作戦が開始されると同時に、私たちはガリアに撤退したわ」
小ビフレスト作戦の時、彼は19歳であり航空学生であった。日本でも欧州の戦局は盛んに報道されており、彼にも多少の知識はあったのだ。
「しかし、ガリアもネウロイの侵攻を受けた」
「そうよ。私たちが避難していた町に、ネウロイが侵攻してきたの。私とトゥルーデ、フラウ*2の3人で迎撃に当たった」
ここまで聞くとバルクホルンの今の様子に直結する内容はないように思える。
「何とかネウロイの撃墜に成功したのだけれど、ネウロイの攻撃でトゥルーデの妹さんが意識不明のけがを負ってしまったの」
「妹さん、ですか・・・・」
川野の脳裏に、あの女子高生の姿がちらつく。
「妹さんはどうなったのでしょう?」
「今も意識不明でロンドンの病院に入院してるわ」
「バルクホルン大尉はお見舞いなどには・・・・?」
ミーナは首を横に振った。
「行ってないわ。それどころか、この3年間お見舞いにすら行ってないわ」
川野の顔が怒りに染まっていくように見えた。
「川野少尉?」
「あ、失礼しました。お時間感謝します」
ミーナが川野に呼びかけると、川野の顔は普段の無表情に戻った。
――――――――――――――――――――
この日は給料日であった。ストライクウィッチーズのメンバー全員に半年分の給料が払われるのである。
しかし、国防軍組やアメリカ軍組は、毎月専用の銀行口座に基本給の15万円~20万円*3と危険任務手当として10万、戦闘従事手当として1回の戦闘あたり2万円の各種手当が振り込まれるので、他のウィッチーズメンバーのように給料袋を受け取る、というのはなかった。
「トゥルーデはどうする?」
ミーナは、バルクホルン分の給料袋を手にしてそう聞いた。
「いつものように頼む」
「でも、少しは手元に残しておいた方が」
ミーナは、困ったような顔をする。
「衣食住すべて出るのにか?」
ちょうどその時、川野が食後のお茶を飲み終えて食堂から出て行った。バルクホルンも続いて出て行くと、ミーナは何かを考えこむようなそぶりを見せる。
「どうしたんですか?中佐」
ミーナの様子に気が付いた今浦が声をかけてくる。
「今朝、川野さんが私の部屋に来て、トゥルーデを出撃から外すように進言してきたの」
「!」
今浦は、びっくりしたような表情を浮かべる。
「今浦少佐は何か知らないですか?」
今浦は難しそうな顔をして、ちらりと桜田の方を見た。
「自分よりも、桜田の方が詳しいと思いますよ」
「「?」」
今浦の言葉の意味を理解できないミーナと坂本は、首を傾げた。今浦は桜田の方を向くと声をかけた。
「桜田!ちょっとこい」
「はい?」
リーネ達と雑談をしていた桜田は、首をかしげた。今浦に手招きされると、3人の前にやってくる。
「なんでしょうか?」
「お前、川野と幼馴染だよな?」
「はい。そうですが」
それがどうしたのだろうと、桜田は戸惑っていた。すると、ミーナが説明を始めた。
「実は、川野さんがトゥルーデを出撃から外すように進言してきたの」
「ええ?大翔がですか?」
桜田の表情は心底驚いた様子であった。
「ええ、それで貴方が何か知っていないかと思って」
桜田は腕を組んで、うーんと考える。
「もしかして・・・・楓さんかな・・・・?」
「かえでさん?」
初めて聞く名前にミーナは思わず聞き返した。桜田は「はい」と頷くと、たまたま持ってきていたAR端末を取り出す。そして、ある写真を表示するとミーナにAR端末を渡した。
ミーナは端末を付けて、写真を見る。ミーナは知らなかったが、その写真は川野が見ていたものと同じであった。
「右端の女性が楓さんです」
「この人が・・・・」
ミーナは、楓という女性の写真を見るとバルクホルンにどことなく似ていると思った。そっくりというわけではないが、顔のパーツや雰囲気はバルクホルンに似ていた。
左端には高校時代の桜田が映っている。川野の持っていた写真では、中央に立つ男子の顔は黒塗りにされていたが、この写真では何の加工もされていなかった。そこに笑顔で映っていたのは、高校時代の川野であった。
――――――――――――――――――――
その日の深夜、ウィッチ隊の待機室にバルクホルンがいた。明かりもつけずに、誘導灯だけがともる滑走路を眺めていた。
「どうしたの?明かりもつけないで」
バルクホルンはその問いに答えない。
「最近、様子がおかしいわ。もしかして妹さんのこと?」
「っ!」
バルクホルンの態度が明らかに変わる。
「あれは貴女のせいじゃないわ」
「私がもっと早くネウロイを攻撃していればクリスが巻き込まれることはなかった」
かたくなに自分を責め続けるバルクホルンを見て、ミーナは苦しそうな顔をした。
「今日、川野さんが貴女を実戦に出さないでくれって言ってきたわ」
「なんだと?」
「貴女の様子がおかしいから戦場に出すのは不安だって」
ミーナがそういうと、これ以上何も言わせる気がないかのように声をかぶせてきた。
「心配ない。次の出撃も出してくれ」
バルクホルンはそれだけ言うと、待機室から出て行った。
――――――――――――――――――――
川野は、自室のベットで寝っ転がっていた。明日はスクランブル当番である彼は、3時に交替するのでそれに備えて寝ておいた方がよいのだが、なかなか寝付けずにいた。
すると、扉が乱暴にノックされる。川野が扉に駆け寄って開けた途端、胸ぐらをつかまれた。
「どういうつもりだ?」
そこにいたのはバルクホルンであった。彼女は声を低くして、川野に詰め寄った。
「私を出撃から外すように進言したそうだな?何のつもりだ?」
「・・・・ここ3年休暇を取っていないそうですね。妹さんのお見舞いにもいっていないとか」
その言葉に、バルクホルンは一瞬目を見開いて、さらに声を低くする。
「誰に聞いた?」
「ヴェルケ中佐殿です」
「ミーナが?」
驚きの人物の名前が出たことで、バルクホルンは手を離してしまう。その間に川野は乱れてしまったパイロットスーツを整える。
「この仕事はいつ死んでもおかしくない。会えるうちにあっておいた方がいい。自分の意識がない間に、唯一の家族が会いに来ることもなく死んだと知ったらどう思いますかね?」
「・・・・・だまれ」
川野はさらにつづける。
「死んだ人間が自分をどう思っていたか、生きてる人間は故人の生前を思い出して想像するしかないんです。一回もお見舞いに行かないまま死んでしまったら、妹さんはどう思いますか?それとも、あなたは死んだ後に妹さんの前に化けて出て生前どう思っていたかを伝えるとでも?」
「黙れ!!」
ついにバルクホルンは怒声を上げた。宮藤やリーネが聞いていたら、思わず後ずさりしていただろう。
「私の何がわかる!家族を、祖国を失った私の何がわかる!!」
「・・・・」
バルクホルンは、そのまま川野の部屋から出ていった。川野はバルクホルンの後ろ姿を見ながら、ぽつりとつぶやいた。
「・・・・なら、あんたはたった一人残された人間の気持ちがわかるのかよ」
川野は、こぶしを握り締めて歯を食いしばった。
いかがでしたでしょうか?
次回あたりに、川野の過去の詳細が明らかになります。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
お楽しみに。
次回 第40話 過去
お楽しみに
ネウロイの瘴気の正体は?
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1:放射線もしくは放射能物質
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2:有毒な重金属などの微粒子
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3:毒ガス
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4:日本でもよくわからない