水色の双璧   作:藤堂桐戸

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仕事中続きどうするかな〜?とすぐ物語の続きを考えてしまっている自分が居る……

という訳で2話目です。今回は紗夜視点。だが紗夜になっているか自分でも分からない……



彼女の目的は?

初めはクラスメイトである彼に対して無関心だった。

 

日本人特有の黒髪に黒い目、酷く細く痩せ細ったとも言える身体からはひ弱な雰囲気を出していた。

 

私がこの中学校に入学してから僅か一月で平穏だったクラスの雰囲気がガラリと変わった。彼がクラスに入って来るだけで賑やかだったクラスは一瞬で静寂の空間へと変化し彼の事を敵視する目を向けながら彼を見ていた

 

「まだ来るのかよ」

 

「あれだけやってまだ分からないのかな?」

 

「早く死ねば良いのにね」

 

 

「…………」

 

中には陰口を囁く人や持っていた物を投げつける人も居た。でも、彼はそんな事を気にする様子も無く教室の端まで移動した

彼はいつも教室の端へと移動して授業が始まるまで寝ている。彼に教材や机等が無い。あったとしてもクラスの皆に撤去され、ボロボロに捨てられてしまう。この状況だけでも異常だ、陰湿な虐めだと思ったが誰も彼を助ける事も無く一年が経ってしまった

 

でも彼は助けを求める事は無かった。そして助けようとする人も居なかった。他クラスの生徒達も、学校の教師でさえ見て見ぬふりをしながら授業を進めている

 

彼が何かをした訳でも無いのに。自分の親二人が残した過去が彼を苦しめていたのだ

 

助けよう!彼の事を!!

 

そう思って彼が一人になった時を狙って話しかけようと、助け出そうとしたのだが、追いかけている最中に彼が放った独り言を聞いてその気持ちが何処かへと飛んでいってしまった

 

『もう助けは請わない。耐えれば何かが変わる気がするから』

 

もう助けは請わない。この一言で知ってはいけない事を知ってしまった気がしてならなかった。何かの違和感を感じる。

もうという事は一度は助けを求めたと言う事。でも彼の人生、生き方は変わっていない?

 

助けを、救いを差し出しても何も変わらないかもしれない?

 

そう思ってしまってしょうがない。でもここで何もしなかったら、この決意は無駄に捨てられてしまう。 

 

それは駄目!!何も変わらなくても、私は決めたの!彼を助ける、何かを変えるきっかけになれば!!

 

「遠坂さん、ちょっと良いですか?」

 

その一心で私は彼に話し掛けた。でも彼が振り向いた瞬間、彼を顔を見て私の身体に震えが走った

 

彼が私に振り向いた時、濃い黒色や夜のような暗い光の無い死んだ目をしていたのだ。思わず逃げたくなってしまう程恐怖してしまう目を、彼はしていた。しかし、彼はすぐに顔を伏せて少ししたら顔を上げて私を見て来た

 

「えっと、何の用?」

 

さっき私に向けてきた目とは違い、光のある生きた目をして微笑みながら私に話し掛けた。でも、最初の暗い目を見た後だと、その目と笑顔は全て作りだされた物だと思ってしまう。でも怖気づいてはいけない。その事を胸に納めて私は話しだした

 

「遠坂さん、貴方、クラス皆さんから……その、虐められているように見えるのですが……」

 

「…………それがどうかした?」 

 

「え?」

 

「当たり前の事を言わない。俺が忌み嫌われているのは知ってるだろ?」

 

正直、彼と話しているだけなのに胸が締め付けられる感覚が襲って来る。彼にとってこの日常はもう変えられない、変える事の出来ない現実だと思い込んでいると、ある言葉が頭を過ぎった。躊躇う事をせずに私はこの包み隠さずに彼に言い放った

 

「そうやって、逃げ続けるのですか?」

 

「……………ふぅん?」

 

流し目で私をジロリと見る彼に、私は少し狼狽えてしまった。見た目は明らかにひ弱な筈なのに目に込められた力だけは違うとこの場で理解した。どう考えてもいつもの彼じゃない。虐めを受けているひ弱な彼と、今目の前に居る強気の彼と比べても、今私に敵意を見せて来る彼が違う存在だと思ってしまった

 

「で、わざわざ呼び止めた目的は何?金なら生憎アイツ等に取られたばかりだから無一文だぞ?」

 

「え?」

 

「何奇怪な物を見る目をしてるんだ。ああ、口調の事か?それなら単に猫被ってるだけだ。アイツらに強気な所を見せたら面倒なんだよ。まあ、今の生活も面倒臭い事には変わらないんだが」

 

これではっきりした。虐めを受けている彼と今この場に居る彼は違うと。

二重人格を思わせる程彼は豹変した。学校に居る時は弱者を演じ、その他の場所では今の様な強気な雰囲気に変わる。

 

だが、逆に何故虐めに対して抵抗しないのかという疑問も浮かんできた。今の彼の状況は明らかに度が過ぎている。下手したら命を落とす様な被害もあっているという噂も立っている。

 

なのに何故猫を被る理由があるの?何故虐めを受け入れるのか、その疑問で頭がいっぱいになっていった。

 

「何故、抵抗しないんですか?」

 

「抵抗?何の事だ?」

 

「とぼけないでください!貴方に対する虐めは度が過ぎています。何故助けを求めないのですか?命を落とす様な事だってあったと聞いています。何故そこまでして「はいそこまで!」……え?」

 

「なんか丁寧に正義感出しながら言ってるけどさ、お前何様?自分の事正義の味方とか、救いのヒーロー的な存在だと思ってるの?」

 

「な、何を言って……」

 

「俺の事助けようとしても無駄、どうせ過去は変えられない。俺は一生忌み子という存在でしか生き続けないからな。第一、俺を助けて一体どうする気?俺とお前は赤の他人だろ?何故この事に関わろうとする?」

 

「それは…………」

 

彼に言われた事で迷いが生じてしまった。彼の言う通り、彼を助けてどうするか、その事に関しては何も考えていなかった。ただ今の環境に耐え切れずに、目の前の人が居なくなってしまったらという心配感で私は動いていた。何故私は彼を助けようと考え、行動し始めたのか、その事を自問自答する事も出来なくなっていた

 

「ね?即答出来ない時点でお前の正義感、考えは俺に対して無駄なの。分かったらもう俺に関わらない方が良いぞ?お前も虐めの対象になるかもしれないからな」

 

「っ!………待って!!」

 

彼は私の声に答える事は無く、私の前から消えてしまった。私は何がしたかったのか、残された私はその事しか頭に無かった。

 

「何故なの?何故あの苦しみを受け続けようとするの?」

 

疑問を口にするが誰も答えてくれない。この事が頭から離れなくてしょうがない。きっとこの疑問は忘れようにも忘れられない物になってしまったのかもしれない。

 

この疑問を晴らすには、彼の事を知る必要がある。

 

その為に、まずは私と彼との関係を強くする事から始めないと。タイミングは早くてもこの学校の卒業式の時。その時なら周りに邪魔される事無く彼に近づき、関係を築けるだろう。

 

彼についていけば、私も変われる。今私が抱えている問題も、彼なら解決してくれるかもしれない!

 

今思えばそんなのはただの錯覚だと思われるかもしれない。でも私には彼が必要だと思った。今の私を、未来の私築くのは彼!

 

錯覚?幻?そんなのは理想に過ぎない?

 

そんな事は関係無い!!

 

もう妹に超えられたくない、私がしてきた事をあっさり超えて来て、私が手に入れてきた物を全て奪う妹、常に物差しの様な扱いを受けるのはもう嫌なの!!

 

だから日菜には手に入れられない何かを手に入れる。そしてそれを離さずに片隅に置いておく必要がある

 

だから彼を手に入れる。彼を変えて、私も変わる。その未来を夢見て私は行動を始めるのだった

 

「待っていて下さい。2年後、私は貴方を救いますから。例え、私の全てをかけてでも!」

 

私は決意した。

 

『彼と私の救いを求めて』

 

私はこの日から彼を手に入れる為に変わるのだと、心の中で固く決意したのだった。

 


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