水色の双璧   作:藤堂桐戸

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今回は響視点
しばらくは響で書いて行こうかなと思います。

いや〜気づけばもう年末まで二週間。これの事もすっかり忘れてましたね。これからは気が向けばちょくちょく書いていこうかなって思ってます!


分かれ道

今日は本当に不幸だ。

突然呼び出されたかと思えば告白され、拒絶したら拉致られた。しかもよく拉致等に使われるとの噂のスタンガンまで持っている。

 

スタンガンの電撃にやられて俺の身体は自由に動かない。逃げ出そうにも逃げ出せない状況下だ。僅かに痺れが取れ、身体を揺さぶって逃げ出そうにも……

 

「っ!!……っ!!!」

 

「もう切れましたか、そんなに暴れないで下さい!」

 

「ぁ……っ!」

 

再びスタンガンを当てられ、逃げられない状況に戻される。学校を出て道路の端っこを歩いている彼女におんぶされながら拉致られているなんて、情けない状況だ。なんでこんな事になっているんだ?

 

俺は彼女に何かしたか?

 

いいや、そもそも俺と彼女の関わりは殆ど無い筈だ。中ニの始め位に彼女が話しかけてきた事はあったがその時は鬱陶しいから突き放しただけ。特に何もしていない

 

突き放した事によって恨みを買った?

 

買ったら買ったで何故今なのか?彼女が恨みを持ったなら、アイツらに混ざって俺の事はどうとでも出来た筈だ。態々二年もの長い時を待つ必要は無い。

 

 

彼女の目的が分からない!!

 

氷川紗夜の話からは分かった事は俺を逃さない事。いや、自分の物にしようとしているようにも思える。普通に考えて、彼女は恋人になろうとし、俺が拒絶した事によって拉致という結果になっている。だが問題は手に入れようとした人間だ。

 

殆ど関わりが無く、親は殺人犯と精神障害者という汚点とも言える存在から生まれた穢れた子供だ。俺自身容姿は酷いもので幾ら栄養がある物を食べていると言っても運動は全くしていないせいか、身体は自他ともに認める貧弱っぷりだ。

学力も言うならば中の下。何かと言えば馬鹿の部類に入るレベルの学力だ。とてもじゃないが彼女とは比べ物にならない。そんな彼女が俺を欲する理由が分からない。

 

取り敢えずは当面の目的は彼女から逃げる事だ。このままじゃ何処に連れて行かれ何をされるか分かったもんじゃない。自分の身を守る為に逃げ出さなければ!!

 

「もうすぐ着きますよ。そのまま大人しくしていて下さい」

 

しかし、現実は非情だ。何故ならその一言と共に彼女が歩みを遅くし始めたのだ。つまりは目的地が近いという事、今更逃げ出せるとは思えない。そして数十秒歩くと一軒家に到着すると、俺を背負ったまま器用に鍵を開けてリビングへと連れて行かれソファ寝かされた。

 

彼女はテーブルの上にスタンガンを置くと俺を放置して何処かへと言ってしまった。

 

『逃げ出すなら今』

 

頭の中でその事すぐさま思い浮かんだが、行動には移そうとは思わなかった。身体の痺れは取れてきたし、何なら手位なら動かす事位は出来る様になっていた。もう少しすれば歩く事が出来る筈だ。でも俺は逃げない。何故かって?

 

簡単な話、逃げられるとは思っていないからだ

 

スタンガンの痺れによって現状俺は縛られているが、それは時間と共に回復していく。つまりは時間が経てば逃げられるのだ

逃さない他の方法として縄などで四肢を縛れば行動は出来なくなるがそれは傍から見たら明らかに不自然だ。しかもその状態で外に出たらなおさら。誰かしらが疑問持って話しかけるなりする事は目に見える

 

まあ、歳の変わらない少女が痩せ細った男をおんぶして街中を歩いている光景自体、不格好で不自然極まりない光景なのだが……

 

 

「おや、逃げなかったんですか?」

 

どうやら、逃げるか逃げないかを考えている内に誘拐犯が帰って来てしまったみたいだ。しかも今度は手に銃を持ってときたか。こいつ、本当に何が目的だ??

 

「これですか?安心してください、本物じゃありませんよ。そこのスタンガンと同じ効果はありますが」

 

スタンガンと同じ。つまりはそこにあるものとは形は違うが人を痺れさせる事が出来る道具と言う訳か。いよいよ逃げ道が無くなってきたな。一体どうしたら……

 

「まだ逃げる事を考えているんですか?諦めてください。貴方に逃げる事は出来ません」

 

彼女が俺に寄り添って来て耳元で囁いてきた。はっきり言って恐怖でしかない。彼女の顔を見て寒気が全身を駆け巡って行く。まだあの暗い目をしているのだ。まるでこれから自分が料理でもされるのかと思わされる恐怖。まな板の鯉の気分だ。

 

 

「やっと落ち着いて会話が出来る状態が出来ましたね。長かったです。とっても……長かったです」

 

 

顔を手でガッチリ固定させてこちらを覗き込んでくる。正直怖い。いや、恐怖以外何も感じない。今すぐに逃げ出したい。これなら学校生活の方が楽だ、彼女と居るとあの時とは別の恐怖心が襲ってくる。この束縛感。とてつもなく息苦しい……

 

「どうしたんですか?そんな小刻みに震えて。いつもの貴方じゃないですよ?そこまで気温は寒くは無いと思いますが……確かに外は肌寒かったですが今は私が居るのでむしろ暖かいと思いますよ?何故震えているのか私には分かりません何故震えているんですか?私にも教えて下さい早く教えて下さい私には隠し事は無しですよ?将来は私と共に生きていくのですからお互いに壁を作ってはいけませんねそれに例え貴方が私との間に壁作ったとしても私はそれをすぐに壊しますから意味ないですよ?それに……」 

 

急に彼女が早口に話し始めて俺はついていけなくなった。おまけにまだ話し続けている。もはや何を言っているのかすら分からない。だがこれを聞いてもう諦めがついた。俺はもう逃げられない。逃げられない状況が出来上がってしまった。それならもう……

 

 

 

 

彼女に身を任せた方が楽だ。

 

簡単な話だ。いつも通り感情を殺してただの人形になれば良い。その場に適応すれば反抗するよりも気は楽だ。終わった後は身体も精神もかなり疲れ果てるがそれでも反抗の意識を持つより素直に受け入れた方が自分へのダメージは少ない。受け入れよう……そう思って僅かに痛む身体の力を抜きながら未だに話し続けている彼女に言う

 

「もういい……好きにして…」

 

そう言い放った瞬間頬に強い痛みが走る。今まで経験してきた痛み。星の数程受けていた殴る蹴る等の痛みでは無く、手のひらで叩かれた痛みだ。彼女を見てみると何故かあの長々とした話が突然終わりを遂げていた

でも分からない。なぜ俺今叩かれ彼女のあの長話が終わっているのか??

 

俺としては彼女の行為を受け入れようと今の言葉を彼女に発したにも関わらず、彼女の顔を見てみると怒りと不満を抱えているような表情をしている。光の消えた黒い目で睨みつけられがら彼女は口を開いた

 

「ふざけないでください」

 

「………ふざけていると思う?」

 

「今すぐ元に戻って下さい!私が求めているのは貴方じゃありません、早く元に戻って下さい!!」

 

彼女が鬼の形相で俺に詰め寄ってくる。意味が分からない。彼女の行為を抵抗し、受け入れなければ受け入れろと言い、受けれ入れれば何故か元に戻れと言われた。

元に戻れとはどういう事なのか??俺は何も変わってないしもちろん彼女も何も変わってはいない。双方に変化があったとは思えない。なら元に戻れとは一体どういう事なのだろうか?不思議な事ばかりでもはや何がなんだか分からない

 

 

「…………貴方はそうやっていつも逃げ続けてきたんですね」

 

「逃げる?………虐めとかからの事か」

 

「そうです。反抗を捨て、全てを受けるその姿勢。何故そこまで苦痛を受け入れられるのですか?」

 

「反抗するだけ無駄と分かるからな。人が壊れる様は何度も見てきた。苦痛から逃れようと抗う姿を。でもそれが意味を成さないと知ったのは、僅かな時間だったけどな」

 

「私が求めるのは無抵抗の貴方じゃありません。もう一つの、あの時の貴方に戻って下さい!」

 

「……意味がわからない。お前が求める俺とはなんなんだ?」

 

「それは「たっだいま〜!!」なっ!?」

 

 

静寂な空間で二人っきりの環境での突然の声に、俺達はびっくりしてしまった。氷川に至っては慌てて机にあるスタンガンと手に持っていたものを隠して玄関へ向かって行ってしまった。声からして俺達とはそう違わない年齢の女の声だったが……

 

 

「日菜!?どうしてこんなに早く帰ってきたの!?学校の卒業会は?」

 

「面白く無かったから帰ってきちゃった!それより、お姉ちゃんどうしたの?そんなに慌てて」

 

「貴方には関係無いわ!いいから、早く自分の部屋にでも戻って!!」

 

 

壁越しでの会話からどうやら氷川の妹が帰ってきたようだ。それなら好都合。今この状況で助けを求めれば少なくともこの状況から抜け出せる!!身体の痺れも無くなってきたし、抜け出すから今だ…けど………

 

 

「変なお姉ちゃん。もしかして誰か居るの??」

 

「ちょっと!?日菜!!」

 

「ドーン!!」

 

 

口から大きな擬音を発しながら勢い良くドアを開けて入ってくる妹らしき人。瞬時にその人を見たせいか思いっきり目が合った。でも目が合った瞬間彼女からは戸惑いが見て取れた。明らかに動揺している。後から入ってきた氷川も同じく動揺している。まあ、氷川からしたら驚かない方がおかしい。何故なら……

 

俺は今までの事が無かったかのように平然とソファに座っているのだから

 

「えっと、こんばんわ?氷川さんの……妹さん?」

 

「うん!名前は氷川日菜、日菜でいいよ。あなたは?」

 

「遠坂響です、よろしくお願いします。日菜さん」

 

「えぇ〜?そんなに固くならな〜い!ねね、もしかして響くんてお姉ちゃんの彼氏??」

 

嫌にテンション高いな……正直やりづらい……この手のタイプに合わせるのは疲れる。ここは早めに切り上げるのが一番だな…

 

「まさか。ただの顔見知りですよ?そこまで深い関係じゃないです」

 

「ふぅ〜ん?まぁいいや。それで今日はどうしてうちに来たの?はっ!まさかお姉ちゃんとあんなことこんなことを………」

 

「いや、顔見知りとそんな事します?ただ遊びに来ただけですよ。氷川さんがどうしてもと言うので」

 

「えっ!お姉ちゃんが!?ほんとに!?」

 

「そ、それは………」

 

頭をグルンと反転させる氷川妹。どうやら男が家に居る事よりも驚愕したらしい。顔を合わせて露骨に嫌がる姉を他所に言い寄るこの光景はなんとも言えない気まずさである。

さてと、そんな姉妹事情は俺からしたら知った事では無いし、早く帰りたいしそろそろお暇させていただくとするかな

 

 

「もう大分日も暮れてきましたね。そろそろ帰らないと……」

 

「えぇ〜〜!?もうちょっと居ていいよ?お姉ちゃんとの関係も知りたいし!」

 

「そういう訳には。また会う時もあるでしょうし、その時にゆっくり話しましょう」

 

俺はゆっくりと立ち上がってこの家から出る為に歩みを進めた。スタンガンの痺れも無くなり、歩く事はもう大丈夫みたいだ。このまま立ち去っても良いが、念の為氷川には釘を刺して置くことを決め、俺は氷川とすれ違いざまに小声で囁いた

 

 

「ここは穏便に済ませてやる。だが二度と俺に関わるな」

 

「っ!!」

 

「では、さようなら。日菜さん、また何処かで」

 

「うん!またね〜!!」

 

 

笑顔で軽く挨拶を交わし俺は家から出る。正直疲れた……あの姉妹とは二度と関わりたくないものだ……精神的にあの姉妹は俺を蝕んできそうだな…。と言っても学校は卒業したし、俺はもうすぐこの地域からは居なくなる身だ。もうあいつらと関わる事も無いだろうな

そして俺は彼女から、氷川紗夜から逃げるように早足で自分の住む家へと帰って行った

 

 

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