なんであのカッコいいモーションで絶妙に足りない復帰距離なんでしょうねーカムイくん。
「駄目だ、こっちもだよ」
「レオン、ごめんな。ここまで大事になってるとかは思ってなかったんだ」
「気にしないでよ兄さん。僕たちは気づけた。ギリギリで。だから、まだ間に合う。間に合わせる」
暗夜王国王城の資料室、そこで俺とレオンは白夜との戦争における収入と支出を計算していた。
自分たちの戦いをする為に。
僕がマークス兄さんに王位を奪わないかと持ちかけたとき、当然マークス兄さんは頷かなかった。正直これに乗ってくるとは思っていなかったので、次の手を考えるかと思ったところ、レオンがその言葉に待ったをかけたのだ。
ここ数十年の、金の動きを知りたいと。
レオンがそう思うきっかけとなったのは、自分の話したあの戦いの日々の話がきっかけだった。
かつての父さんは厳しくも、優しく強い王だった。今の暴君のようなものではなく。それの原因が自分と同じように何者かに操られているのではないか、そんな荒唐無稽な仮説をレオンは立てたのだ。
そして、それに真っ先に否と唱えるべきマークス兄さんとカミラ姉さんは、その言葉にどこか納得してしまっていた。
「戦争をやってる以上、絶対に記録が残ってる。もし本当にこの仮説が正しいのなら、操られてから経済の指針が変わってる筈なんだ。...そして、最近のノスフェラトゥを使った自国の事も考えないやり方。これで勝って稼いでいるなら僕はそれも戦略だと受け入れる。けど、そうじゃないなら...」
そう言ったレオン。そして、その言葉を補足したのは意外なことにエリーゼだった。
「私さ、結構街を見回ったりしてるんだ。...皆、ノスフェラトゥのせいで食べ物が作れないで困ってるのを知ってる。暗夜麦も暗夜豆も、僅かな光で育つけど、絶対に土と水は必要なんだって。そう農家のドニさんは言ってた。このままだと、戦争してごはんを奪わないと皆が死んじゃうような国になっちゃうかもしれない。レオンが言いたいのは、そういう事だよね?」
そう、頷くレオン。
「...正直、僕は白夜との戦争を止める事しか考えてなかった。レオンは、僕よりちゃんと王族をやってくれてるんだな」
「そうだよ、だって僕は母様からこのブリュンヒルデを託されたんだ。そんな僕が恥を晒すわけにはいかないだろう?」
「マント逆さまに着てたけどねー」
「それは!」
「...わかった。レオン、お前はカムイと共に資料を集めてくれ。少しでも他の諸侯を説得できる材料になればそれでいい。カミラは私と共に来てくれ。第1王子である俺と第1王女であるお前が一緒にいる事で、王位を奪う事につきものの権力闘争の色を少しでも減らすぞ。エリーゼ、お前は護衛のサイラス、ハロルド、エルフィを連れて市井での情報を集めてくれ」
そうして、僕たちきょうだいは戦いを始めたのだ。
暗夜王国を守る為に。
そうして出てくるのは、戦争国家としては最悪の結論。
この国は現在、戦争する事で
戦い、勝つ事でギリギリ補えていた国費が、賄えなくなっている。
今ではもう、ギリギリの延命の為に戦いをやめられなくなっているだけだ。
変革が必要だ。それは、俺とレオンの中ではもう確定事項になっていた。
「まず、変革の為には時間が必要だ。その為に必要なのは、民が戦争をする事なく飢えないですむ状況」
「白夜から、食料を奪うのか?」
「それは、策の1つでしかない。現実的なのは、白夜の土地を奪って、その返還の対価としての食糧支援の約束を取り付ける事」
「そんな約束、白夜側が守ると思う?」
「その為に、僕が行く。この前助けたリンカは、白夜でそれなりの発言力を持ってる筈だ。正確には、そのお父さんだろうけど」
「でも、どうやって?」
「...そこなんだよねぇ。合法的に白夜に行く方法と、白夜から暗夜への連絡手段、それがないと成り立たない。無線でもあれば良いんだけど...スネークさんにつくり方聞いておけば良かったな」
「むせん?」
「離れた所にいる人と話ができる道具だ。向こうの世界で一緒に戦ったスネークさんはそれで遠方の仲間と連絡を取ってたんだ」
「...それなら、良い代替案がある。最近魔導研究所で見つかった石なんだけど、魔導師が強く念じれば対応する石に思念が届くんだ。実験段階のものだけど」
「真祖竜の力で繋がってる僕たちなら、遠くでも話せるって事か!希望が見えてきた」
「ただ兄さん、やっぱり白夜に行くのは危険だよ。暗夜の事を憎んでる奴らは多い。王子がそんな所に行ったら、感情だけで殺されてしまうかもしれない」
「それは大丈夫」
「バースト技さえ回避すれば俺は死なないから!」
「兄さんが何を言ってるのか時々わからないんだけど僕」
そんな事を言いながら魔導研究所へと向かう。目的の石のサンプルはすぐに手に入った。
様々な名前が考案されたが、発見者の名前をとってヤクシの石とする事にした。名前から用途がバレてしまっては大変だからだ。
そうして、様々な準備をしていく中でガロン王から指令が下された。
自分の力の最終テストとしての、任務。
白夜の側にある廃砦の偵察、それを自分と従者たちだけで行うという事だ。
『レオン、予定より早いけど動く。この任務にかこつけて白夜側にコンタクトを取れないか試してみる』
『了解。ただひとつだけ約束して欲しいんだ』
『何でも言ってみてくれ。兄らしく、弟との約束は守るよ』
『何を知っても、何があっても、必ず帰ってきて』
『安心してくれ』
『吹っ飛ばされてからの復帰は強い方じゃないけど、その分たくさん練習したんだ!』
『兄さん、それ違う』
そうして、ジョーカーとギュンター、そして父上から推薦された暗夜一の力自慢のガンズを共にして白夜王国へと向かう。
「へへへ、俺の力を頼りにしてくれて良いんだぜ?王子様よぉ」
「...すまないガンズ、お前の働きに文句はない。馬車に荷物を積み込む時に全く働いてくれなかったりと短い間でもお前は良き働きをしてくれた、ありがとう」
「お、おう?」
「だが眠れ、今回お前は邪魔なんだ」
そうして油断していたガンズに下強を入れて浮かせ、そこにジョーカーの持ってきたスリープの杖の力を当てる。これで、確実にガンズは眠っただろう。
「ここから王都までの旅費ってこれで足りるかな?」
「無くても良いのではありせんか?この者、間違いなく間者ですし」
「この無限渓谷の底に投げ落としてしまうのでよろしいかと存じます、カムイ様」
「なるべく人死には出したくないんだけどなぁ...」
だが、致し方ない。流石に完全に敵なガンズによりこちらの目的が果たされないというのは問題だ。
ここは心を非情にしなくてはならない時だ。
と、わかってはいる。だが、それを認めたくないのが僕の願いだ。
ガンズは略奪や殺人を犯した重罪人だとマークス兄さんは言ったが、それを命を絶たれて良い理由には、したくない。
だって、人を殺した数で言えばぶっちぎりの魔王ガノンドロフさんでも、話せばそれなりに分かり合えたのだから。
「うん、馬車にガンズの荷物と一緒に転がしておこう。どうせこの橋では馬車は通れない。置き手紙を残しておけばきっと大丈夫だ。父上に託された強者をこんな扱いにしてしまうのは心苦しいけど、仕方ない」
そうして、馬車自分たちの荷物を取り出して無限渓谷に架かる橋へと足を踏み入れる。
無人の砦のその先にある村までの食料などの装備は十分だ。
さぁ、行くとしよう!
そうして橋の中頃までたどり着いた時、思わぬ人物が現れた。
「やはり来たか!暗夜軍め!」
「お前たちは、白夜軍⁉︎」
「あ、ここの砦に勤めてる方ですか?」
ものすごく目立つ魔剣ガングレリを橋に起き、両手を上げたまま白夜軍兵士に近づく。
「貴様は何者だ!」
「僕はカムイ、暗夜王国第2王子だ。白夜の者と繋ぎが作りたくてここに来た。この戦争を、変えるために」
そうして、ゆっくりと兵士に近づいていく。いつ剣を振られてもおかしくない状況だが、それでも、だからこそしっかりと胸を張って前に出る。
「すまないが、一筆したためたい。ここの責任者の名前を教えてくれないか?」
「ここで書くのか⁉︎」
「ああ、なので少し不恰好な字になっているかもしれないとも共に伝えて欲しいな」
そうして、ここの砦の主であるモズ殿に対して手紙を書く。
暗夜王ガロンを操り、暗夜と白夜の戦争を泥沼化させている何者かが存在している事。その証拠を掴むために白夜側に協力者が欲しい事。そんな事を白夜流の手紙のフォーマットで書き連ねる。縦書きというのは慣れないものだ。
「これを、モズ殿に」
「...いいや、渡せぬ。貴様が本当に暗夜の王子であるとは思えぬ!罠に決まっておろう!」
「ならば見せようか!暗夜の王の持つ真祖竜の力を!」
そうして、橋の中継点になっている小島に行く。
そこからの距離は、行ける距離だ。
マスターハンドさんたちが作ったステージで練習したあの動きを見せる時だろう。いざ!
「とう!」
「な、この無限渓谷を飛び越えるつもりか⁉︎」
「だが、圧倒的に距離が足りない、あれでは自殺も同然だ!」
そうして、距離を稼ぐ為に空逆を放つ。自分の空逆には少し特殊な性質があり、羽ばたいた分だけ前に進めるのだ。
尚、この性質に慣れるまでは復帰ミスの嵐だった事は忘れてはならない。復帰阻止に使える技これしかないのにピーキーすぎるのだ。何故自分の技のベクトルはことごとく上に飛んでいくのか、これがわからない。
「竜になって、羽ばたいた⁉︎」
「だが、上には進めていない!落ちちまうぞこのままじゃ!」
「カムイ様!」
「待て、ジョーカー。迂闊に動くな。信じるのだ、カムイ様を」
そうして、十分な距離を稼いだ所で、二段めのジャンプをする。
「空を跳んだ⁉︎」
「凄え、これなら行けるんじゃねぇか⁉︎」
「馬鹿、なんで暗夜の王子を応援したんだ!」
「お前もさっき羽ばたいたときガッツポーズしてただろうが!」
だが、まだ届かない。それは知っている。
どうせなら上方向の空中緊急回避で安全に行きたかったが、仕方ないだろう。
「崖側のアーチャーさん!ちょっと離れて下さい!」
「お、おう!」
そうして、復帰距離を稼ぐ為にできる自分の最後の行為、上Bによる復帰を行う。
これは、たまに崖上の人にダメージを与えられるのでちょっと離れてくれないと危ないのだ。
そうして、竜の姿となり水流によっての上昇で崖を掴む。
ひさびさに掴んだ崖だ。どこか安心感すら覚える。
そうして回避上がりによりアーチャーさんたちの前に上がる。
「どうですか、やって見せましたよ俺は!」
「すまん、それを認める訳にはいかない」
「あなたがモズ殿ですか?」
「ああ、お前の行動は、正直目を疑った。だが、真祖竜の血を引く白夜の王族の方々とてそんな奇怪な動きはしない!」
「今のが、奇怪⁉︎」
信じられない事を言う、あの程度の動きで奇怪などといったらワリオさんやプリンさん、ヨッシーさんのような空中に住んでる人たちは何といえばいいのだ!
「ま、いいです。これが先ほどしたためた書状です。どうぞお受け取り下さい」
「これを、俺が信じず破り捨てるとは思わないのか?」
「ええ、きっと大丈夫なんじゃないかと。アーチャーさんたちを心配して崖の側に来てくれたあなたのような人なら、特に」
「...書状の内容は精査して王城に送ろう。しばらくは待っていてくれ」
「じゃあ、自分たちを捕虜として捕まえると言うのはどうですか?大手柄になりますよ?」
「...自ら捕まりに来る捕虜がどこにいるのやら。仕方ない、伝令だ、騎馬の老兵と執事の男を連れて来い。しばらく砦で面倒を見る」
そうして、白夜王国に繋がる1つの繋ぎができた。
明らかに僕を暗殺するようなこの任務の先に、道はあった。ならばこの奇運、逃してなるものか!
そうして、ギュンターとジョーカー、そして何故か来ていたリリスと共に自分たちは白夜の砦の中に入るのであった。
いや、リリスなんでいるの?という疑問を持ちながら、レオンにとりあえず侵入成功の報告をするのだった。
カムイの復帰の必殺技の空逆飛行でした。尚、カムイの向きを勘違いしてフィールドから離れることはしばしばあったりとか。