狼?いいえ大神です!   作:片腕仙人

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宴会……の手前


閑話
天国(宴会場)と地獄(調理場)、悪魔は2人 前編


冥界での一件を終えたアマテラスは現在神木村を一人で歩いていた。

 

「ふむ、見るかぎりは雪かきが済んでるらしいな。流石はスサノオ変なところでしっかりしている。昔なら絶対に怠けていただろうな」

 

あの酷かった吹雪はなりを潜めたらしい。曇った空からは日の光が射し込み春が訪れるのはすぐだろう。それにしても、

 

「はぁ、腕はいつになったら良くなるかものか……」

 

まだ積もっている雪をザクザクと踏みしめながら神社へと向かう。所々に春の兆しも見えている。春の訪れはすぐかと思ったがそういえば春は既に神社に来ていたな。

 

屈んで雪の隙間から顔を出した草花を手で触って……触れないんだった……はぁ

スッと立ち上がり神社に向かいながら白玉楼でのオロチのことを思い返す。

アイツは西行妖の力を取り込んだのかそれとも西行妖が力を渡したのかは定かではないがもしオロチが甦った時にあの力を持っていたら厄介なことになる。

 

首が一本に増えていたりしないだろうな、それはもはやヤマタノオロチではない別になにかだ。そんなことを考えていると漸く私の神社へ戻ってきた。

 

神社は相変わらず雪がなくここだけ本来の季節の春に溢れている。

 

「あっ!アマテラスさーん!お戻りですかぁ~!春ですよ~!」

 

そういいながら何故か濡神を腕に抱えこちらへとやってくるリリー・ホワイト。しっかりと留守番してくれていたらしい。

 

「リリー、留守の間神社をありがとう。変わったことはなかったか?」

 

「ん~、特になかったですよぉ~。それよりも!春ですよ!春が戻ってきましたよぉ~!私はこれから春を告げに行ってきますね」

 

ああ、それがリリーの仕事らしいからな。いってくるといい。ただ濡神をこちらに渡そうとされても私には今はどうすることも出来ないぞ。そんな首をかしげられても動かないものは動かない。

 

「リリーすまないが濡神をあっちまで持っていってもらえないか。私は両腕が使えない状態なんだ」

 

「えっ!?それは平気なんですか!」

 

「母様、いったいなにがあったんですか!?」

 

平気じゃない、かなりまずい。それにしても濡神が私のことを母様と呼んでいる方が気になってしまう。いつもなら我らが慈母とかそういっていたはず……なかなかに新鮮でいい。

 

自然と尻尾が左右に揺れてしまう。

 

「まあ、解決するにあたって色々とあったんだ。リリーは濡神を置いたら本来の仕事に戻ってもいいぞ」

 

「う、う~ん、でもアマテラスさんは腕が動かないんですよね……私が良くなるまでついていた方が……」

 

リリーは私のために残ろうとしているらしい。優しい子だな。

 

「それはありがたいが、リリーはリリー目的を優先してくれ。私はどうにかするさ……濡神辺りが」

 

濡神は硝子鉢の中でとぐろを巻いて首を傾げている。どうすべきか考えているのか、それとも別のことを考えているのか定かではないがなにか思案中らしい。

 

「濡神さん、平気ですか?」

 

リリーが硝子鉢を覗き込み尋ねる。

 

「……はい、問題ありません。ご安心をリリーさん、この濡神に任せてください」

 

「そう言うことなら私は春を告げに行ってきますね。でも無理はしないでくださいね」

 

そういいリリーは濡神を縁側に置いてこちらに手を振りながら飛び去っていった。こちらも手を振ってやりたかったが生憎腕がな…

 

「さて、では母様なにがあったかお話しくださいますよね」

 

「そうだな………でもまずはひとつだけ聞いてもいいか?」

 

「なんでしょう?」

 

それはだな。さっきから気になっていたんだが、

 

「いつから私のことをその…母様と呼び始めたんだ?」

 

「……え!?ああ!申し訳ありません!リリーさんとの会話の流れでつい……」

 

そんなにショボくれなくてもいいんだが、別に怒っているわけでもないしな。

 

「別に母様でもいいんだぞ」

 

「いえ!我らが慈母にそのようなことは!」

 

なかなかに強情だな。ならばこちらにも考えがある。慈母をなめるなよ濡神、絶対に呼ばせてみせるからな。

 

「では濡神、罰としてこれからは私の事を母様と呼ぶように!それとどういう経緯でそうなったのか教えてくれ濡神」

 

濡神は渋々ながらも話し始める。

 

「うっ……リリーさんと慈母「母様」……母様の話になったんですが私が慈母と呼ぶのが堅苦しいと言われまして…それでリリーさんと母様と呼ぶ練習をさせられまして…」

 

そうかそうか、そういうことか。はっきり言おうリリー良くやったと。それに練習したのであれば実践しなくてはな、うん。

 

「濡神よ、練習したのであれば実践してみてくれないか」

 

「えっ!ですが…うぅ、わかりました。…母様///」

 

………もう一度

 

「……母様///」

 

もう一回

 

「母様!」

 

うむ…この心に染み渡る感覚、悪くないな。

 

アマテラスは気がついていないが呼ばれる度に尻尾が激しく動きいつもあまり変わらない表情がほころんでいる。そして濡神も流石にこれを目の当たりにしてなにも感じないはずもなく喜んでいるのがはっきりと分かった。

 

母様と呼ぶのは気恥ずかしく思っていしまうがアマテラスが喜ぶのならいいか、と濡神は思い割りきることにしたらしい。

 

そしてたった今この時を境にアマテラスが筆神全員に母様と呼ばせるという目的を見出だした瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、母様そろそろなにがあったのか教えていただけませんか?」

 

ん?ああそうだったな。ついつい嬉しさのあまり本来の目的を忘れていた。まああまり私の表情は変わらないだろうから関係ないがな。

 

 

ああ、実はな濡神―――

 

 

 

 

 

 

~天照大神説明中~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…!またしてもオロチですか!そのようなことがあったのであれば私を呼んでくださればよかったんですが…きっとお力になれたはずです」

 

確かに無理にでも筆神を呼び寄せて一気に叩けば直ぐだったかもしれないが急に呼び出しては迷惑だと思ってしなかったのだがな。

 

「まあ、今回は致し方ないですが…次は無理せず呼んでください。それと腕の様子をお見せください」

 

分かった、次は真っ先に呼ぶことにする。……腕を見せるにしてもどうやって見せたものか…口で着物をずらせばいけるだろうか。

 

「そういえば両方の腕だったんでしたね。私にお任せください」

 

そういい濡神は鉢を転がしこちらに近づいてくるが、その姿でどうやって?そう思っていると濡神が輝きだし輝きが収まるとそこには一人の女性が立っていた。

 

髪は白髪で私と同じ特徴的な模様が入っている糸目の着物の女性。腰には水の入った硝子瓶をつけている。私が呆然としていると彼女がしゃがみこみまるで子供がイタズラが成功したような笑みを浮かべた。

 

「フフフ♪人型になれるのは母様だけではありませんよ。これでもかなり練習しましたからね。ただ定期的に水分を補給しないとですが」

 

「……濡神か」

 

「はい、濡神ですよ。母様」

 

これは一本取られてしまった。まさかこんなことができるとは思いもしなかった。もし腕が動くのなら頭を撫でてやりたいくらいだ。筆神たちも日々成長しているのだな。

 

「それでは失礼しますね」

 

濡神は私の着物に手をかけ少しはだけさせ腕の様子を見る。チラッと視界に入ったがあの時は肘ほどまでだったものが既に肩まで達して黒くなってしまっていたらしい。

 

「……これは、かなり…酷いですね。御自分でも鏡を使ってご覧になった方がいいかと」

 

濡神の言うとおりだな。一度鏡を使って見えない場所も見てみよう。早速鏡を………鏡、を…かがみ…

 

鏡が一つもない…何故だ?……あっ、霊夢達に渡して回収していない。しまったな、多分今も彼女達の後ろで浮かんでいるに違いない。

 

「ん?母様どうかされましたか?」

 

「いや、なんでもないんだなんでも。ただその…鏡を全て忘れてきてしまっただけで…

 

 

それを聞いた濡神の動きが止まる。

 

「母様…こちらに座ってください」

 

ん?言われるがままその場所に座る。

 

「正座です!」

 

姿勢をただして正座で座る。な、何故だろう濡神から何かただならぬ雰囲気を感じる。濡神が伏せた顔をゆっくりとあげこちらを向く。

するとあれほど細い糸目がグワッ!と開き()()()()()()()が私を見据える、いや睨み付けている。うっ…これはまさか。

 

「まず先に謝っておきます、すみません。……母様ッ!天照大神ともあろうお方が肝心の鏡を忘れるとは何事ですか!!しかも一つなら未だしも全てとは!あなたは馬鹿なんですか!」

 

 

くっ……それは…

 

 

「それにオロチの時もそうです!全てを一人でやろうなどとするからいけないのです。もっとご友人を頼ったりするべきです。どうやら話を聞く限りでは宴会の席でまたお会いできるようですからいいのですが。もう少し注意してくださいね、母様」

 

「わふ………すまん」

 

濡神は咳払いをひとつすると再度腕の様子を見始める。もう既に眼は戻っているが濡神は今後出来るだけ怒らせないようにしよう。これは決定事項だ。流石にこの状況で宴会はバックれようとしていたとは言えないな。

 

「母様…宴会はしっかり参加してくださいね?………見てください、母様。まるで蛇が這ったような模様です。どう考えてもこれが原因ですね」

 

……あの、娘が怖い。また眼が開いた直ぐに戻ったけど。

へ、蛇が這ったような模様か。確かにそれが原因だろう。ただしっかり食べてしっかり寝れば大体は治るだろう。

 

「なに、食べて寝ればそのうち治る」

 

「えぇ…ですが…まあ確かにどうこうできる物でも無さそうですねこれは」

 

はだけた着物を直しながら濡神がそういう。立ち上がり私も前に来て腰に手を当て、

 

「母様の身の回りのことはこの濡神にお任せください!精一杯御奉仕しますからね!それはそうと肝心の宴会はいつやることになっているんですか?」

 

ふむ、確かにそれは聞いていないな。ただ私の予想ではあと数日で雪は完全に溶けてなくなるだろうから数日後にやるだろうと当りをつけているが最悪、紫がここまでやってくるだろうから心配要らないだろう。

 

 

「それについてだが、私は聞いていないが―――」

 

 

「きいて…いない?」

 

 

濡神からスーッと何か威圧的なオーラのようなものが見える気がする。いや待ってくれ!別に行く気が無かったから聞いてないというわけではなくてだな。

 

濡神はまたゆっくりと顔をあげる。そこには既に開ききった黄色の二つの眼が………ああ…駄目か…

 

 

 

 

 

 

 

この後天照神社からは数回怒号が飛んでいたようだが特に近くに誰もいなかったので迷惑にはならなかった。

 

そしてもしこの光景を見た人物がいたのならば正座で怒られている人物がこの神社の主神であるとは絶対に思わないだろう。

普段表情を変えないアマテラスも流石にこれには反省の色がうかがえる渋い表情になっていたとか。その時の耳と尻尾は完全に垂れ下がっていたらしい。

 

 

 

アマテラスは濡神をもう二度と怒らせないように気を付けようと心に深く深く刻むこむのだった。

 

 




次で宴会に入ります

糸目のお姉さんは怒らせると怖いイメージ

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