今日は紅魔館の前にあった大きな湖、何でも霧の湖と呼ばれているらしい。そこに釣りでもしながら途中にタタリ場でもあれば浄化でもしようと思ってやって来たのだが………これは。
目の前に広がっているのは大きな湖、ではなくなんともおどろおどろしいタタリ場が広がっていた。前に来たときは霧が濃かったが確かに湖があって緑もあったが今はみる影もない。
折角気合いを入れていい竿も持ってきたというのに肝心の湖が無いとは流石に私も思っていなかったな。それにしてもここまで大きなタタリ場ができているということはやはりあの影の正体は他人のそら似ではなくオロチで間違いないようだ。
だが今はその事はひとまず置いておくとしてまずはこのタタリ場をどうにかしよう。持ってきた竿を背中に担ぎ狼の姿に一瞬で変わる。端から見たら釣り竿と何か円盤のようなものを背中に着けた狼というなんとも不思議な光景となってしまった。
だがアマテラスは特に気にすることもなく息を深く吸い込み神力を込め辺りの山々に響きわたるほどの大きな遠吠えをあげる。
すると遠吠えをすると同時にアマテラスを中心にひとつの突風が吹き抜け遠吠えと突風で辺りの木々を揺らす。すると今まで色を失ったように枯れはてていた木々に葉が茂り、緑の淡い色がつきそこから一瞬で辺りに広がりあのおどろおどろしかった光景を全て塗り替え元々の湖の光景へと変化する。
それどころか草花が普段よりも生き生きしているようにも見える。
「ふむ、こんなものだろうか。ここまでの規模の大神おろしは久しぶりだったが問題なくできたな」
いつの間にかアマテラスは人型に戻ってひとりで数回頷きながらそんな風にひとりで呟いていた。
そんな風にしていると辺りがまだ日が高いというにも関わらず暗くなり数ヵ所が欠けている星座が現れる。
「……またこれか。う~む、釣りが優先だな」
まさかのアマテラスこれを無視して持ってきた釣竿を構え釣りを始める。流石にこの行動はこれから登場しようとしていた筆神も予測できなかったらしく数秒の間が空いてから空から差している一筋の光が慌てた様子でありとあらゆる角度からアマテラスに向かって星を書き足してくれとアピールしている。時には地面の方からも差し込んでいるがそれでいいのかは筆神のみが知っている。
一方アマテラスの反応はというと━━
なんかさっきからこの謎の光が荒ぶってるしチカチカして鬱陶しいな。だが、筆神の慌てている姿を想像すると自然と口角が上がってしまう。といっても表情にはあまりでないのだがな。
初めてやってみたがなかなかに楽しいのはいいんだがゆっくりと釣りをするにはやはり鬱陶しいな。
そう思いささっと星を書き足し星座を完成させる。ただこの星を書き加えるのもなかなかに大変で少しずれたりすると他の書き足した星も流れ星になって消えてしまう訳なんだが少しくらいずれても出てきてほしいと何度思ったことか。だから次は多少のずれくらいは許してくれ、頼む。
などと思っていると突然叫び声にも似たような声が聞こえる。ここにはアマテラスしかいないため当然アマテラスに向けてなのだろうが当人はというと我関せずといった様子。
「我らが慈母!アマテラス大神!何故、無関心を貫いたのですか!?」
そういいながら現れたのは丸い瓶のような水槽のようなものに入った蛇とも鰻とも見てとれるような姿の生物。その生物がアマテラスの横で跳びはねながらそう問いかける。
「ああ、濡神か……どうかしたのか?そんなに跳び跳ねて石にでも当たったらそれ割れるぞ、あと魚が逃げるから静かに」
「……我らが慈母、御心配は感謝しますが………相も変わらず我が道を貫いていらっしゃるようで。それでですが、何故直ぐに私を呼んでくださらなかったにですか?」
濡神はそうはいうが別に深い意味はない。ただ単純にどうなるのか気になっただけ。本当に深い意味はない。
それにしても筆神と会っていたあの空間に行かなくてもすぐにこれるんじゃないか。
………そういえば何で濡神がこの湖に?あの霧の時には何も感じなかったんだが。
「濡神、なんでタタリ場に巻き込まれてたんだ?」
「あー、それは、ですね。なんといいますか、良さそうな湖があるなと思い水面を漂っていたんですが………気づけば飲み込まれていたわけです」
「……そっか、そうか」
神も万能という訳ではないからな。別に問題ないだろう。
そっと濡神をこちらに引き寄せ隣に座らせる。片手で瓶の蓋を引き抜くと濡神は頭だけを瓶から出して外の様子を見ている。
とりあえず頭でも撫でておくとしよう。よしよし、因みにこの蓋濡神曰く結構な強さではまっていたらしいが私からしたら普通に取れるくらいの強さなんだがな。
始めて取った時には濡神は呆然としていたのを覚えている。
それから少し時は流れ、魚もそこそこ釣れてきた。濡神は相も変わらず頭を出して日向ぼっこをしているがあまり出ていると乾燥するんじゃないだろうか。まあそこは神ということできっと干からびたりはしないんだろう。
などと思っていると後ろから何かの気配がした。この感じは多分あれだろう。
「覗き見してないで出てきたらどうだ」
誰もいない後ろの方にそう伝えると突然空間が裂けそこから九つの金色の尻尾を持つ人物、八雲藍が現れた。
「お久しぶりです。天照大神様」
そういい頭を下げてくる。
紫かと思ったんだが藍の方だったか。確かに感じた視線には胡散臭さやねちっこいものは感じなかったし当然と言えば当然だろう。
「……………藍、口調もっと砕けてても問題ない。知らない間柄でもないだろうしな」
「それもそうだな。ならそうさせてもらうことにするよ。改めて久しぶりだなアマテラス。それとここのタタリ場、だったかな。元に戻してくれて助かった」
「ん、久しぶり。タタリ場はここに用事があったからどうあれ戻していたさ。………それとだ、藍。知り合いに目の場所に傷のある古狐なんていないよな」
藍は少し考える素振りをしてから首を横に振った。どうやら心当たりはないらしい。あったらあったで私としては少し気まずくなるだけだが。
「それでなんだがアマテラスここで何を━━「あっ!アマテラスお姉様!!」
藍が何かをいいかけたとき元気一杯な少女の声が聞こえてきた。この声には聞き覚えがある。まだあれから日にちもあまり経っていないこともあってすぐに誰なのかわかった。
声の方向に顔を向けてみると目に入ってきたのはやはり思った通りの人物だった。綺麗な金髪に特徴的な羽根、大きめの日傘をさしてこちらに駆け寄ってくる少女、フランだった。
「フランか、その様子だとオロチの影響もなく順調そうだな。今日はどうしたんだ………お姉様?」
「うん!アマテラスお姉様のお陰で元気だよ。今日はまだ遠くには行っちゃダメだからどこに行こうかと思ってたんだけど美鈴がアマテラスお姉様があっちにいるっていうから急いできたんだ」
なるほど美鈴に聞いたのか。たしか美鈴は気というものが使えたはず多分それでわかったんだろう。
「えっとこっちのお姉さんは……狐?」
「こっちのお姉さんは八雲藍。藍この子はフラン」
「よろしくお願いします、藍さん」
「ああ、こちらこそよろしくフラン」
フランの経過も良好、挨拶も済ませた、私は釣りに戻るとしよう。
「それでお姉さまは何してたの?」
「それは私も気になっていたアマテラス、何をしてるんだ」
見て分からないものなんだろうか?フランは長い間地下にいたらしいから分からないのかもしれないが藍は分かると思ったんだがな。
「藍、見て分からないのか………もしかして、実は天然か?見た目はキリッとした感じなのにな」
「なっ!?それをお前に言われるとはなぁ。できればそっくりそのまま返してやりたいが、何をしているのか教えてくれ」
「なに、見ての通り釣りだ」
「「………釣り?」」
藍とフランはお互いに顔を見合せている。
「えっと、藍さん。釣りってああゆう物なの?本で見たのと違うんだけど」
「フランが想像している方が正しいと思うぞ。あれはいくらなんでも違う。アマテラスはどこか抜けてるところがあったりしたがいくらなんでも釣り糸も針ところか餌もない状態のあれを釣りとはいわん!絶対に!」
藍がなにか叫んでいるがこれは釣りで間違いない。なぁ、濡神……そういえば寝ていたんだったな。流石に起こすのは悪いからそっとしておこう。
藍にはしっかり釣りだということをわからせるため釣った魚の入った籠を差し出す。
おそるおそる藍は籠を受けとると中を覗きこむと一瞬固まるがすぐに頭を数回振るとこちらに勢いよく顔を向けてくる。
「な・ん・で!釣れてるんだ!!普通だったら無理だろ!?」
藍の驚きようにフランも気になり籠を覗くと、「あ、入ってる」と一言だけ言葉をこぼした。
そんなに驚くことでもないと思うんだがな。あ、釣れた。とりあえず藍たちに釣りかたの説明でもしてやろう。
「なにそんなに難しくはない。まずは丈夫で少しくらいキツく曲げても折れない棒を用意する、籠は別になんでもいい。次は水面に目を凝らして魚影を見つける。その魚影と竿を筆で繋ぐ。あとは弱らせ釣り上げる、簡単だろ」
「「…………」」
二人は再度顔を見合せどこか遠い目をしている。
「……藍さん、釣りって……難しいね」
「……ああ、多分コイツしか出来ないだろうな……こんなこと」
この釣りかたはどうやら私位しか出来ないらしい、てっきり同じように釣っている人がいたからこれが正しいことだと思っていたんだがな。………なんで驚かなかったんだ、あの人たちは。
「まあいいもとから規格外な神だったしな。それでアマテラス、その隣は誰?なんだ」
「こっちか、これは筆神の一人の濡神だ。水を操ったりできる、なんだかんだあって今はここにいる」
「筆神ってことはうちにいる爆神様と同じなんだ。以外と神様って身近にいるものだね」
まあ神だからといってもどこかひとつの場所にいるとは限らないし、八百万ともいうとおり多いからな。探せば以外と見つかるものだ。
「あっ、そうだアマテラスお姉さまこれが庭に落ちてたって美鈴が」
そういってポケットから二つの手鏡のような物を取り出す。よく見ると紅魔館で投げた真経津鏡と神獣鏡だった。ただサイズが背中にあったときと見るからに違う………サイズ変更機能なんてあったのか、知らなかったぞ。
「ありがとうフラン。そうだこれやってみるか」
そういい手に持っている竿をフランに手渡す。因みに受け取った鏡は元の大きさに戻ったのでしまっておいた。
「やりたい!でも難しくない?」
「大丈夫、難しくはない。私も手伝うし糸も絶対に切れないから大丈夫だ。それに日傘が心配なら、ほら」
フランのすぐ横を指差すとそこから一本の木が生え手頃な日陰ができる。これで日傘を気にする心配はない、それに糸は勿論私が筆で作っているから耐久度はその辺の物とは比べ物にならない。アマテラス製だからな。それにしても何故日傘がいるのだろう?肌が弱い……ということでもなさそうだが。
「フランなんで日傘が要るんだ、日焼けが心配なのか?」
「そうじゃなくて私、吸血鬼だから太陽の光に弱いんだ。だから日傘がいるの。でもこの日陰なら平気だね」
ふむ、吸血鬼だったのか。太陽の光に弱い、それでか………私は平気なのだろうか。天照大神な訳だが、フランを見ている限りでは問題ないようにも見える。なら問題ない、はず。うん、問題ないな。
という訳でフランには魚を釣ってもらうことにして、竿と魚を結びあとはぶっつけ本番危なくなればすぐに私が助ける。
となれば藍には━━
「藍、これ頼んだ」
そういい籠を渡す。
「アマテラス、この籠をどうしろと?」
そんなの決まっている、というよりも藍はそのために来たんだろう。私には分かっているぞ。
「決まっているだろう、下ごしらえ頼んだ。私はフランについてないといけないからな。それじゃ」
「ちょっ!ちょっと待て!?アマテラスなんで私がそんな事しないといけないんだ!?」
なに?下ごしらえ…しないのか……。
「………なんだ生のままいくのか。それは藍の好きだが私たちの分はだな━━━━」
「いやいや!そうじゃなくてだな!おい待ってくれアマテラス!」
アマテラスはあとは頼んだぞ~、と言い残しフランの方へ向かっていってしまった。残された藍は籠の魚とをアマテラスを数回交互に見てから諦めたように下ごしらえを始めるのだった。
その時の事を藍に聞くと大変でだったが美味しかったとの事、ただあれは釣りといってはいけないだのなんだといっていたらしい。だがなかなかに楽しかったとのこと。
そして濡神は天照神社の池に住み着いたらしい。
次は妖々夢