春の訪れ
紅霧異変と名付けられたあの出来事から季節は過ぎ去り春。新たな新芽が芽吹き気候も陽気になっていく今日この頃━━
ではなく季節は確かに春、暦の上ではとっくに冬と春の境目は越えて完全に春になっているのだが辺りはまだまだ雪が残っているどころか猛吹雪である。
私、アマテラスも未だに冬毛の状態なわけで絶賛雪かきの真っ最中なのだ。といっても……。
おもむろに後ろを振り返って見る。一面が白、白、白そして雪かきをしたはずの場所は完全に元に戻ってしまっている。かれこれ数時間やっていいるのだが全く進展はない。いくら神といってもこれは少し心に来るものがある。
かといって何もしなければ異常につく異常なこの雪で折角の神社が潰れかねない。ただこのまま続けていても永遠に終わることのない無限雪かき地獄を味わい続けることになってしまう。
私は手に持っていた雪かき道具をその辺に無造作に起き大きく深呼吸をする。冷気が肺を満たすのを感じつつかなり本気の力で筆業、紅蓮を使う。何もない場所から赤々と燃える炎が現れそれが意思を持つかのように神社内を駆け巡り次々と降り積もる雪を溶かしていく。そしてその炎はどんどんと空に上っていき降り続ける雪を雨へと変える。
私は再度力を込めて
そして不思議な事に光が差したことでみるみるうちに草花が芽吹き始めた。
「………よし」
それを見て頷きその辺に投げておいた物を回収しやっと休むことができると思っていると周りの吹雪に混じって何かが聞こえてくる。
間違ってはいけないが周りは未だに吹雪いているのだ。この神社のみが晴れている。
━━━━━━━━すよ
は━━━━です━━
それは次第に大きくハッキリと聞こえてくる。
はるですよぉぉぉ━━━━
━━春ですよぉぉぉ!!春なんですよぉ!!
そう聞こえたと思っていると真横をとてつもない速さで何かが通り過ぎていった。その方向をみてみると羽根の生えた白い服を着た金髪の少女がかなり荒い息づかいをして立っていた。
彼女は私には目もくれずにたった今生えてきたばかりの新芽を近くあまりにも近くで見てなにやら呟いていた。
「はぁはぁ、春ですよぉ!春!はーるー!ああやっとです春、はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛る゛!!!」
……………何故だろうか、絶対に関わってはいけない存在だと瞬間的にわかってしまった。といっても彼女はもう神社の中にいるわけで放置しておく訳にもいかない。だが正直いってあの状態の彼女にはいくら天照大神だとしても恐れが先に出てきてしまう。
だがいい加減に声をかけねばならないのだが本当に平気だろうか。だって今も変わらず息を荒げてなんだか体も震えているこれは本当にヤバい感じの人種では……。背中にある羽根を見る限り人ではないのはたしかではあるが。
こういった人物を相手にするときはまずは落ち着かなくてはな。そして、そして……あっちも落ち着かせなくては、どうやってだ?
…………………………………………あっ、とにかく危険人物らしきものは一回取り押さえた方がいいな。ならば一度気絶させて取り押さえよう。そう思いついさっき持ち出した天叢雲剣を再度取り出す。なに、峰打ちだから問題ないはずだ。
では━━━
ゆっくりと近づいていくアマテラス。
ある程度近づくとあちらも気がついたらしい。
「ハァ、ハァ、あっ!どうもすみませんあまりの春の無さに少しの春でトリップしていました。私はリリー・ホワ━━」
「ふんっ!」
アマテラスは手に持った物を振りかぶっておもいっきり振り下ろした。
「!?、はえっ!?危なっ!ちょっと待ってください私は怪しい者ではなくですね!」
彼女からしたら無表情で剣を振りかぶって近づいてくるというかなりの危険人物が目の前に存在しているしかも威力が威力。峰打ちとはいっても当たった地面が抉れている。彼女は思ったことだろう「あっ…これ死ぬな」と。だがアマテラスも表情には出ていないが内心かなり慌てていて正常な判断ができていない。とりあえず目の前の危険人物を取り押さえようとしているが力加減ができていない。ここからしばらく危険人物二人による謎の戦いが始まったのだった。
場所は少しだけ移って屋内に。
「いや~、本当に殺られるかと思いましたよ。アマテラスさん」
「すまない、私も取り乱していたとはいえもう少しよく考えてから動きべきだった。だが殺られるというのは言い過ぎじゃないか?」
「いやいや!だって無表情で剣を振り下ろしてくるんですよ!何度死んだと思ったことか……」
ふ~む、なんというかやはり表情には出ていなかったか。だがあの時は仕方なかったんだ許してくれ。それで彼女名前はリリー・ホワイトという春告精、文字通り春を告げる妖精らしい。だからあれだけ春を連呼していたのか。私も自己紹介はすんでいる。
「それでなぜあんなに息を荒げていたんだ?」
「それはですね。本来ならとっくに春になっているはずなんですよ。ただ何故か春度が全然足りないんですよ!それどころか何処を探しても見当たらないんです………」
春度?聞きなれない単語だがなんとなく春に必要なものだということはわかった。この規格外の吹雪もそれが原因なんだろう。
「そんな時です、いきなり何処からか春を感じたんです。その方角へ全力で飛んでいくとどんどん近くに春を感じてですね、さらに勢いがついてここにたどり着いたというわけです。そしてあんな風になっていたのはあまりにも春が無くて春欠乏症になっていたのでその反動でですね」
……春、欠乏症?全くわからんというよりも分かってはいけない気がする。ただこの猛吹雪は自然ではなく誰かもしくは何かがその春度を取っている、ということか?
「あっ!そうでしたこれが春度ですよ。見た目は桜の花びらみたいなんです。といってもこれは私が見えるようにしただけなんですが……」
そういい小瓶を取り出した。中にはリリーがいった通り桜の花びらのようなものが一枚、かなり小さいが入っている。そして微かに桜の花の香りがしている。ただかなり嗅覚がよくないとわからないレベルの物だな。
「それでリリー、その春度がどこにあるか宛はあるか?何処か、こっちから感じる、とか」
「う~ん、それなんですが一度だけここ以外で感じはしたんですよぉ。ただほんの一瞬で勘違いかもしれません。場所も場所ですし」
「それは一体どこから?」
「えっとですね、空ですね。確かに本来なら地上だけじゃなく空中にも漂ってる物なんですけどこの状況だと少し変な気がします」
空中か……んー、あまりこの空模様のなかは飛びたくないんだが。いつまでもこうして雪が止むのを待つというわけにもいかない。
さてとにかく調べてみることにしよう。それにこのままでは神社だけでなく神木村も完全に雪に埋まってしまいかねない。
今はスサノオが全力で雪かきをしているらしいから平気だとは思うが雪が止むまでは体力がもたないだろうからな。
「リリー、私はその春を探しに行ってくるが一緒に来るか。出来れば来てもらえるとありがたいんだがな」
「勿論です!……といいたいんですがちょっと体力的に厳しそうです。ここに居れば回復は速そうなんですが、すみません」
「そうかなら無理せず休んでいてくれ、それに神社にもしものことがあると悪い。出来れば留守の間ここを頼めるだろうか?」
リリーはそう言うことなら任せてください!!、と元気に返事をしてすぐにへにゃへにゃと力無くテーブルに頭をついた。本当に平気だろうかどことなく心配だ。
「リリーこれでも見て元気をだせ。代わりにこっちは少し借りていくぞ」
そういいリリーに小さな新芽にが出ている鉢を渡す。代わりにこっちはリリーの小瓶を借りたい。やはり探しているものの一部があるというのはかなり助かるからな。
「こ、これは!?春ですよ~♪小さい春ですよ~♪それは持っていっても平気ですよ~。不思議とここには春が溢れていますから。………はっ!もしやアマテラスさんこそ春の化身そのもの!」
……いや私はどちらといえば太陽の方だと。
まあ、それは置いておくとして探しに行くとしよう。だがまずはスサノオの元にいかなくては。人型から狼の姿に戻り駆け抜ける。後ろからリリーのものらしき驚きの声が聞こえてきたがそのうちなれるだろうから気にしなくていい。
スサノオの元には少しだけ足はとられたが思いの外すぐに着いた。
スサノオは必死に雪かきをしている。かなりのスピードだ。
人型に戻って声をかける。
「んん!これは誰かと思えばシロ、いやアマテラスだったな。だがこのスサノオ例え神であろうと臆することはせぬ!なんのようだ?剣の相手であったら今は無理だぞ。今はこの積もりに積もった雪を相手にせねばならんのでな。なに心配するな雪などこのスサノオ様にかかれば対したことはないわ!!がははははは!」
ふむ、この雪でもスサノオは平常運転、いつも通りだな。あと別に剣の相手はいらん。
「スサノオ、相変わらず元気で何よりだ。私はこの吹雪の原因を突き止めるために少し神木村を離れる。あとのことは頼んだぞ、あとこれもやる」
スサノオの肩に手を置き少しだけ神力を送る。あとは私の加護も少し、これでいつもより力も出るしスピードも効率も格段に上がるだろう。
「うおおおおおおお!!なんだか力が漲ってきたこれが我の真の力か!!うおおおおおおお!!」
そう叫びながらスサノオはすごい速さで雪をかき分けていく。まあ今は一時的な強化状態なだけだがあれが自分の真の力だと思って無理しないといいがな。………あとあんまり調子に乗りすぎるとあとがキツいぞ。すこし多すぎたかもしれんな、あれ。
この後数日スサノオは全身筋肉痛で動けなくなってクシナダに看病されることとなるがそれは別のお話。
春(隠語)