兎の知らない銀竜の話   作:ちなデ

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単独2位記念
なお今夜の相手


2.運命の足音

 

突然だが、織斑一夏は良くモテる。

当たり前の様に女性にだが、男性に惚れられる事も、稀によくある。

 

そして彼はドが付く程鈍感だ。故に彼を想う女性からのアプローチは気付かない。彼の友人である、まな板(中国産)からの執拗なアピールも、全スルーしたという経歴を持つ。

兎に角彼は、女性からの好意についてはトコトン気付かない。

 

しかし悲しかな、男性から自分に向けられる熱っぽい視線には何故か敏感だ。

 

これは彼が中学時代に、勘違いしたホモ(ゲイ、同性愛者とも言う)に襲われた事による、哀しき防衛本能なのだ。

 

余談だが、彼はそれ以来自分を襲ってきたホモと同じ体系の全身筋肉質人間を見ると、震えが止まらなくなるという。

 

兎に角彼は、ホモには敏感なのだ。

 

 

「やぁ、さっきは災難だったね」

 

先の時間クラス代表を決める話し合いが行われた。クラス中はこれ幸いと、男である一夏が良いと指名。なお、もう一人は副代表に立候補したため、空気を読んで指名されなかった。

強かである。

 

その流れにイギリスの代表候補生、古き良き縦ロールが眩しい、セシリア・オルコットが反発すれば、男が代表などという反対意見と調子に乗って罵倒の嵐。

 

ブチ切れた彼はすぐさま反抗。そしてなんやかんやあって、己の意地とプライドとクラス代表を賭けて決闘する事となったのだ。どうしてこうなったと、彼は頭を抱えていた。これを自業自得という。

 

「やっちまった…」

 

売り言葉に買い言葉とはいえ、仮にも相手は代表候補生。

ISでの決闘の行方など、結果は火を見るより明らかだ。只でさえ、入試時の模擬戦でしか動かした事が無いのに。

 

「後悔してるの?」

「啖呵切った事に対してな」

 

二人目が問えば、一人目が答える。

 

「じゃあどうするの?今から謝りに行く?」

「冗談じゃない」

 

ーーウジウジしてても仕方ない

 

後悔するのはここまでだ。

自分の頬を思いっきり叩き気合いを入れる。

 

「こうなったらやってやる」

 

ーー逃げ出すなんて男が廃る

 

決意一つ。その目には闘う意思。

 

その姿を見た二人目は、切り替えの早さに呆気に取られつつも

 

「そう…だね。見返してやらないと」

 

熱に浮かされた様な表情で、そう言った。

 

ーー外見だけじゃないんだ。

中身まで……カッコイイなんて…

 

言葉にこそしなかったが、その想いを一人目は、なんとなく感じてしまい

 

ーーコイツ…マジかよ

 

図らずも浮上してしまった二人目の疑惑に、彼は折角の決意が萎んでいくのを感じてしまうのであった。

 

 

 

 

2.運命の足音

 

 

 

お優しい春田先生と瑞雲……違った、日向先生が退出した休憩時間、4組の面々は大きく2つのグループに分かれる。

 

1つは、男性操縦者を見に、1組へ特攻しに行くグループ。クラスの7割は既に教室に居ない。なんという事でしょう、10分休憩とは思えない程、教室ががらんどうだ。

 

この調子だと他のクラスもこんな様子だろう。1組前の廊下とか、通勤ラッシュ時の都内電車顔負けの人口密度になってそう。

 

男女比率が33:4…じゃなかった99:1のほぼ女子校。その中に居る男という異質。一度生で見たいと思うのは必然。とは、今しがた出てった名の知らないクラスメイト談。

 

はたして気分は動物園のパンダか?

それとも満員のスタジアムでプレーする

スポーツ選手?

…否、サーカスのピエロが一番しっくり。

一歩間違えなければ(・・・・・・・)、俺もそっちに居ただろう。そう思うと、彼には心底同情する。強く生きろ。

 

さて、もう一つのグループだが、こちらは単純に、席が近いクラスメートで交友を深めてる者達だ。

 

まぁ、急いで見に行く必要も無いだろうとか、元々興味がないとかいう人達だろう。俺もそうだし。

 

だが、このちらちら見られてる感はどうも慣れない。教室の隅っこに銀と水色が並んでる。俺ら二人、あまり見無い髪色は、教室に残った人らの興味を引くのには十分だった。

 

とりあえず、好奇の視線を華麗にスルー。俺も周りを見習って、となりの水色とよろしくやろう。相変わらずカタカタやってるけど。

 

「少し良いかな?」

 

声をかけると、ビックン!…っと面白い程にわかりやすい反応。

そして恐る恐るとこちらを見る。

 

「……何?」

 

声が冷たい。キンキンに冷えてやがる。

だが気にせず特攻だ。折れたりしない!

 

「更識さん…で、良いんだよね?」

 

そうだけど……と、彼女は呟く。

いや、HRの一件で図らずしも名前を知ったけど、念のための確認だ。ファーストコンタクトで名前を間違えるとか、BADコミュ一直線だし。

 

「ワタシ高峯。よろしくね」

 

俺は警戒心を抱かせない様に、出来るだけ笑みを浮かべながら手を伸ばす。所謂握手の体制だ。

 

「……更識簪…」

 

少しポカンとした後、彼女はおずおずと俺の手を取った。掴みは上々。

 

「クラス代表戦、頑張ってね。ワタシも副代表として、精一杯サポートするから!」

 

「……うん…」

 

話題の一つとして直近のイベントを挙げたが、彼女の返事はなかなかどうして芳しく無い。

 

深く追求しようと思ったが、まだ良いか。

 

とりあえず、隣人とお知り合いになれた俺は、その後の会話の中で彼女が日本の代表候補生という事実を知る事になる。

 

ーーーーー

 

 

瑞雲とはーー水上偵察機を発展させ、急降下爆撃可能な水偵として開発……って違った。

 

何故かあの担任が、授業中にサブリミナル瑞雲をするせいで、ISより瑞雲に詳しくなりそうだ。奇跡的に専用機とか貰ったら、是非搭載してみよう。

 

 

何かに毒された気もするけど昼休みである。

 

 

なんとかメイトだけでお昼を過ごそうとする隣人に対して、焼きそばパンと野菜ジュースをそっと差し入れた後、一人屋上へと足を運んだ。小声でありがとうと言われ、不覚にもキュンときた。俺、卒業したら子犬を買うんだ。

 

それはそれとして、学園の屋上は常時開放してるとの事。

 

だが、お昼は学食派が多く、放課後は基本的に部活か寮かアリーナの三択なため、わざわざ屋上に立ち寄る物好きは居ない。日向先生が言ってた。

 

つまりは、以外と人が立ち寄らない隠れスポットになっていたりする。一人になりたい時にはもってこい。

 

ポツンと置いてあるベンチに腰掛け、購入したコッペパン(税込100円)を頬張る。

 

…うん、ごく普通のコッペパンだ。具体的には、家族市場とか7-11で売られてるのと大差無いのが。

 

国の税金ドバドバのIS学園いえど、ここまでは手を付けなかったらしい。

 

内心ガッカリし、明日から学食にしようと決めた頃、扉の開く音がした。こちらに向かってくる足音。ベンチは扉を背にする設計なので、姿は見えない。

 

「見つけた」

 

背中から声をかけられ、振り向く。

 

深い茶髪に縁なし眼鏡、特徴的な赤いカチューシャにまな板(日本産)を装備ーーー

 

「…失礼な事考えて無い?」

 

「何の事でしょうか」

 

出来る限り澄ました顔で言う。

何故バレたし。相変わらず無駄に鋭い。

 

「そんな事より!」

 

そんな事で済まされた。良い判断だ。

個人的にも、ソコは引っ張る所じゃないと思う。

 

さっさと本題に入ろう。次の言葉は、大体予想出来るから。

 

「何でそんな格好(女装)してるの!?趣味なの!?変態なの!?」

 

「断じて違う!!」

 

国産まな板ーー岸原理子の発した言葉を、俺は全力で否定した。

 

 

※change

 

何故か差し入れられた、野菜ジュースと焼きそばパンを頬張りながら思う。

 

ーー不思議な人。

 

私が彼女に抱いた印象は、そんなんだ。

 

後ろで括った、癖のある銀の長髪を靡かせた、隣の席の彼女

 

授業合間の休憩毎にもずっと話しかけてくるし、カロリーなんとかでお昼を終わらせようとしたら何か買ってきてくれた。

 

曰く、そんなんじゃ足りないとか。

…お母さんかな?

 

兎にも角にも、そんなに気にして世話を焼いてく彼女。当然、意識せざるを得ない。

 

焼きそばパンを受け取る前に、何故こんなにも構うのか聞いてみた。

 

「友達だから…かな? それに、副代表でもあるし」

 

銀髪を靡かせ、見惚れる様な笑顔で、そう言った。不覚にも少しドキッとしてしまった。

 

ーーあの表情はズルイ

 

気づけば私はキーボードを叩く手を止め、彼女の事ばかり考えていたのであった。

副代表の仕事に代表の世話が入ってた記憶は無いけど。

 

…初日からボッチだった私に構ってくれた。

やむを得ない事情があるとはいえ、初日から周りをガン無視してひたすらキーボードを叩く人に、誰が話しかけるのだろうか。私もそう思う。

 

ただでさえ目立つ髪色、そしてあの姉。

更にこの性格と相まって、クラスでも一人で居るだろうなと諦めてた。

 

だが、副代表にもなった銀の隣人は、私の思想など関係無く交流を深めてきた。

 

…私とばかり話すものだから、彼女自身の交友が疎かになってるのは気付いてるのだろうか。

 

話してる最中にも、チラチラとこっちを伺ってる人も散見されたし。目立つ所だと、ピンク髪と金髪とか。勿論名前は知らない。

 

「…友達…か」

 

その一言だけで、彼女の事が頭から離れなくなる。

 

ーー私って…もしかしてチョロい?

 

そんなバカなイヤ違うでもだってそうでもない。

 

結局、疲れた顔の彼女が帰って来るまで、

私は延々とその事ばかり考えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




【TIPS】
・織斑一夏
ホモに敏感なだけで別に男嫌いではない

・まな板(中国産)
プロポーズ紛いもスルーされる可愛そうな人

・二人目
ホモでは無く純愛

・33:4
な阪関無

・次の言葉は、大体予想出来るから
変態扱いされるのは予想してなかった

・ピンク髪と金髪
女好きと厨二病のコンビらしい

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