兎の知らない銀竜の話 作:ちなデ
ぼくもそう思いました。
運動部が元気な声を出して校庭を走ってる。
空に掛かるは灰色の雲。辺りは薄暗くなり、春先の所為か少し肌寒い。
つまりは放課後である。
授業が終わり、何か言いたげな更識を放置して、やって来たのは屋上。俺の聖域。
2回目だけど最早俺の特等席と(勝手に)化したベンチに座り一息つく。
昼休みに思いっきり愚痴ったけど、やっぱり気疲れするのは変わらない。初日からこんなんじゃ、先が思いやられるもんだ。
買ってきた缶コーヒーを口につけ、あまりの苦さに顔を顰める。予想以上に苦い。
雰囲気出すために買ったは良いけど、失敗したなぁ。元々俺は紅茶派だ。
どうすっかコレ。
少しだけ飲んだ缶コーヒーの処分に困っていると、何やらギィ…と、ドアを開ける音が聞こえてくるのであった。
4.風は導く
今日までとことんツキが無い。と、屋上へと続く階段を登りながら思う。
高校受験の会場を間違えたまたま置いてあったISに触れて起動させてしまうわ、その結果希望の高校ではなく、IS学園とかいう実質女子校に放り込まれ、自己紹介では張遼…もとい教師をやっていた姉に頭を叩かれる始末。
あの一撃だけで、俺の脳細胞は幾つお亡くなりになったのだろうか。
そんでもってやけに距離感が近いもう一人の男子と交流すれば、久しぶりに再会した幼馴染が何故か不機嫌で、縦ロールイギリス貴族に煽られるという。
それで、その煽りの延長戦上で何故か決まった代表決定戦。俺VSイギリス…オルコットだっけな。ちゃっかり副代表に収まった男子…高峯だったな。あの野郎。
そして先程の疑惑、まるで野獣の様な眼光を俺に向ける
山田先生の、道草は駄目ですよという忠告をスルーしていくスタイル。
女子と相部屋宣言されてから、とてもじゃないけど部屋に戻る気が起きない。せめて男子とだろ嫌駄目だ、アイツは危険だ。
ナニが危険かわからないけど、なんか危険だ。
結局、部屋にも休まる場所が無いと悟った俺は、癒しを求めて屋上へと来た訳だ。
扉を開けると、まだ冷たい風が肌を付く。
陽が刺さない灰色の空。春先であっても肌寒い。
中学の友人曰く、『困ったら屋上へ行け』との事。空の広さに、悩みなど小さな事だと開き直れるぞ。と、何か悟った様な表情で言ってたな。付け加えるなら、その瞬間だけ目が死んでいた。
辛い事があったんだろう友人の体験談を元に来た訳だが、思いの他寒い。こんな寒い日に屋上にいる物好きはいないだろうなぁと、辺りを見回すと、銀色が目に入る。
背もたれのあるベンチに座り、校庭を見る銀色。ベンチの構造上、俺に背を向ける形になっている。
所々癖が目立つ銀色の長髪を一つに纏めた、おそらく女性だろう。
風に流され、そよそよと流れる銀。
何故だかソレが無性に気になって、気付いたらいつの間にか、銀が俺の手の中にあった。
「えっ…?」
手の中の銀を撫でる。まるで高級な絹に触れてる様な錯覚。一本一本が繊細な、それでもしっかりとした感覚。残念ながら俺の語弊が足りないせいか、この触り心地をこれ以上表現するのは難しい。ともかく、触れてるとストレスでささくれ立った心も、そよ風が吹く大草原の様な、穏やかな気持ちになれる気がする。
もっと触りたい。触れていたい。
そんな俺から逃げる様に、銀はするりと手の中から消えた。
あっ…と、情け無い声を出す俺。手を伸ばしても、銀は掴めない。名残惜しさと共にようやく顔を上げると、困った様な表情をした銀髪の女生徒がこちらを見ていた。先程のは、どうやら彼女の髪らしい。
「いきなり他人の髪を触るのは、良くないと思いますよ?」
変わらずに困った表情で、そう言った。
あれ……俺は一体ナニをしてたんだ?
「ご…ごめん!」
俺は咄嗟に触れていた髪を離した。
…初対面の女性の髪に勝手に触れる。
普段らしくない行動に、自分自身も戸惑い気味だ。こんなん千冬姉に知られたら唯じゃ済まないな。
手を離したので、触れてた髪が彼女の元へ戻る。彼女が髪を整えてる間、俺は自然と土下座の構えをしつつ、彼女の出方を伺っていた。
「いや…そんな事されても……」
癖の強い銀髪は腰ぐらいの長さまであり、それを一つに纏めてる。左目にある泣き黒子と髪の長さを除けば、その表情はつい最近見た顔と重なる。
「どうみても通報案件だし……誠意を見せようと」
「…されても困りますから。とりあえず座ってください」
鉄拳制裁の一つも覚悟してたが、かけられたのは意外にも優しい言葉だった。
色々と困惑はあるが、とりあえず彼女に言われた通りに近くのベンチに座る。
「これ、あげます」
手渡されたのは、少しだけ飲んだ形跡のある缶コーヒー。
渡されたのを受け取らないのもどうかと思い、受け取り、含む。…口の中に苦味が広がる。
「やっぱり苦かったですよね」
どうやら表情に出てたらしい。
俺に缶コーヒーを渡した銀の彼女は、そう言ってクスリと笑い、同じベンチに座った。
「ああ、すこぶる苦かった」
千冬姉はコーヒーを好んで飲んでたが、俺はもっぱら緑茶派だ。コーヒーを飲めないわけではないが。
「女子だらけの学校に入学した感想はどうですか?」
「控えめに言って帰りたい」
貰ったコーヒーに再び口を付けようとした際に、唐突に質問が来た。
彼女はですよねーと苦笑い。どうやらわかりきった答えの様だ。
「初日でそんな状態でしたら、この先持ちませんよ? 気持ちは分からないでも無いですが」
「女子なのに? 男が多少居ても、ほぼ女子校には変わりないだろ」
「…そうでもないですよ。共学出身のワタシからしてみれば、このレベルの女子校なんて、また別の世界ですから」
溶け込むのに時間がかかりそうですと言う彼女。その顔からは、疲れが見て取れる。多分、さっきの俺と似た様な感じだろう。それだけで、彼女が同情などでは無く本心で言ってる事がわかった。
「女社会も大変なんだな」
「こんな時代ですからね」
くすりと笑い、続ける。
その行為に、不覚にもドキッとした。
「ここはいいですよ。人気が無いから、気分転換にはもってこいの場所です」
確かにいい場所だ。たまには友人の言う事も当たるもんだ。サンキュー弾。
「もし、貴方が疲れたりした時には、この場所を使って良いですよ」
「良いのか? 君が最初に見つけた場所じゃないのか」
「学校の屋上ですよ。誰のものでも無いです」
いや、そうなんだけどさ。何か悪いというか、彼女の場所を(許可有りとはいえ)勝手に奪った感があって、あまりよろしくない感情。
「まぁいいじゃないですか。ワタシもたまに使わせて貰うって事で」
あまり広めないで下さいね。と、そう言った彼女は、ひらりと身を翻し、屋上を後にした。
残ったのは、ベンチに座ったままの俺と缶コーヒー。
「なんていうか…不思議な人だったな」
話しやすく、嫌な感じはしない。
なんとなく気が楽になった気もする。
屋上に行けばまた会えそうだし、その時を楽しみにしつつ、すっかり温くなったコーヒーを飲み干すのであった。
…そういえば、名前聞くの忘れてた
※change
屋上で唯一の同性と会話したおかげか、いくらか気分が回復した今日この頃。やっぱり女子校って疲れるね。だからって男子校ならOKなのかというと、そうでもない。世の中やり過ぎって良くないと思うの。適量って大事よね。
つまり、友情と青春が両立出来る共学が最高ってことで。
一人で勝手に結論出し、向かうは我が城、マイルーム。寮にある自室とも言う。
二人目の男性操縦者(笑)となっているアレと違い、こっちは普通に入学した平々凡々の女生徒(爆笑)。そして寮は二人部屋だと。
ここで導き出される答えは単純で、この女生徒(失笑)の部屋には、確実にルームメイトが居るという。
普通に考えて、代表候補生でも無く、有名人の身内でも無い俺が、一人部屋など与えられねーわな。一番上の姉がアイドルやってます!とか言えば何とかなるかな。そんな訳ないな。だからどうしたと返されるのがオチだ。
どうでもいい事を考えながら、気づいたら部屋の前。ドアノブに手をかけると空いてない事がわかる。どうやらルームメイトは不在の様だ。
部屋に入ると、ベッドが入り口側と窓際に置いてある。
窓際のベッドは既にセッティング済みで、先に入ったであろうルームメイトの縄張りと化してた。ベッドの脇に高く積んである、某密林のダンボールがその証拠だ。あの量を捨てるのは苦労しそう。その時は手伝う事にしよう。
そうして、俺は既に届いた荷物を、入り口側ベッドの脇に置く。
さて、同居人が帰ってくる前に着替えを済ませておかないと。いつまでも制服でいるのもどうかと思うし。
ここで唐突だが、俺の履いてる下着について説明しよう。野郎の下着事情なんて知りたく無いと思うがそこは寛大な心で許して。
はい。俺の下着は「安心安全。男の娘ライフの強い味方」のキャッチフレーズでおなじみのデュノア社製だ。これは酷い。
元々は軍事企業で、ISにも手を出したらしい。だが、何をトチ狂ったんだが、急に下着ブランドにも手を出し始めたという。
デザインは兎も角、最大の特徴はISの量子変換技術を応用した下着だという。
いわゆる、大きすぎる茎(オブラート)や生い茂る草(ビブラート)が下着からはみ出ない様に量子変換して、その周りをスッキリさせてくれる代物なのだ。これで恥ずかしいモッコリともおさらばで皆ニッコリ。
更に調子に乗ったデュノア社は、これまたIS技術を利用した「自然に大きく見える胸」という虚乳に優しいブラを開発。世の貧しい者達から絶大な支持を受けたという。
発案者であるデュノア夫妻には感謝しかない。ありがとうデュノア社。おかげで、今の所怪しまれずに学園ライフを遅れてます。もうフランスに足向けて寝られませんわ。どっち方面か知らんが。
閑話休題
ルームメイトが帰ってくる前に素早くシャワーを浴る。湯船に浸かれないのは残念だが仕方ない。汗を流せるだけ良しとする。
しかし風呂か……
パンフレットに乗ってた大浴場を使う訳にも行かないし、どっかのタイミングで本土の銭湯を使いたいなと。
そんな事を考えながら着替えてた時だった。
不意に部屋の扉が開かれる。
「あれ?」
特徴的な水色の髪を揺らしながら入ってきた彼女は、不思議そうな声で問うてきた。
「…貴方がルームメイト?」
「あ…うん。そうだけど」
少しだけ難しそうな表情をした彼女だったが、まぁいいかみたいな感じで、何か納得したみたいだ。
「改めてになるけど…よろしくね。更識さん」
「うん……よろしく」
Tips
・屋上
学園物の定番。現実じゃ解放されてないのも定番
・缶コーヒー
間接キスになるが、お互いに気づいてないという
・銀髪
アロマセラピー的な効果は科学的に証明されてない
・デュノア社
IS関係者以外からは仏が誇るHENTAI企業として知られる。
IS技術をこんな形で使われるのは、何処ぞの兎は想定してなかったらしい