米花町の中心で ■ を叫ぶ   作:たけのこ

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猫飯店の常連客から映画のチケットをもらい、無料で観れるなら行ってみようと、一人映画館に乗り込んだ。ポリポリとポップコーン片手にじっと大きなスクリーンを見上げる。お馴染みの映画泥棒のCMのあと、やっと上演が始まる。

 

 

 

 

【迫りくるウィルスの脅威に、彼は一人で立ち向かう......

 

 

No war

 

 

Love and Peace

 

 

Ha Hi Hu He Ho    

 

 

Let's Go! Anpan-MAN】

 

 

 

―――その日、私は 胸につっかえていたひとつの《謎》を見破った。

 

 

 

 

***

 

 

 

映画を見終わったあと、私はすぐさまパン屋へ走った。私がずっと疑問に思っていた()()()()()......中身はあんこだったり、チョコだったり、クリームだったり、店舗差はあるが、何故かどこのパン屋でも置いてある。

 

これがメロンパン、カレーパン、食パンとなれば世間一般に定番商品として認知されているが、私が《謎》に思っていたそれは、キャラクターパンとしてある一定層の支持を得て、そこそこの人気を得ていた。

 

にこちゃんマークのそのパンは、どこのパン屋にも売られている。9割の確率でお目にかかるのだ。

 

店員に「このパンのモデルは何アルカ?」と聞いても、「そちらのパンはキャラクターパンでございます」といつもはぐらかされるのだ。府に落ちない心境だが、今日の映画をみて納得した。

 

 

きっと無許可で販売していたんだ、と。

 

暗黙の了解とやらかわからないが、あのヒーローもひと口サイズで皆に分け与えていたし、お客さんもとくに気にした様子はなかったし、これ以上言及するのも やぶ蛇だ。そっと心のなかに閉まって、店員にはこれ以上何も聞くまい。これが日本人がよくいう【空気を読む】ってことだ。

 

私は何も知らなかった。以上、おーけー?

 

 

キャラクターパンのモデルは愛と勇気だけが友だちのヒーローだ。

 

あのヒーローは自らの身を差しだし、とんだ馬鹿力でUFOに乗ったウイルスを空の彼方へぶっ飛ばしていた。

 

女傑族的にみれば、あの強さは羨ましい。しかし、殺そうとなればファーザー・ジャムとアタックNo.1のバター女子がいる限り幾度となく復活するだろう。犬のアシストもなかなかだった。

 

すっかり感化された私は にこちゃんマークのパンを買い占め、夜の町でテーマ曲を口ずさみながら散歩していた。

 

 

歌詞の深さに全私が泣いた。

 

 

何回もループして唄っていたから、端からみたら不審者だった。言い訳をするなら、俗に言う深夜テンションが舞い降りていたのだ。

 

 

そして、フラフラと彷徨う歩いていたらぱちりと目があった。

 

 

もう一度言う。

 

 

深夜の廃ビルの屋上で顎髭と長髪男のカップルのド修羅場をもぐもぐあんぱんを食していた私は目撃してしまった。

 

 

 

 

「あいやぁ!お楽しみ中だったアルカ?」

 

 

即座に否定の言葉が返ってきて、「何故ここにいる?」「組織の追手か?」と今度は二人揃って詰問してきた。さっきまで剣呑な雰囲気なのにここぞとばかり二人揃って睨んでくる。なんとかは馬に蹴られるとはこのことアルナ。

 

喧しかったので、問答無用とばかりにそのお口を強制的にふさいだ。

 

 

アタックNo.1バター女子みたく、手持ちのにこちゃんぱんを「新しい顔ヨ!」の掛け声つきで、ジャストシュートした。

 

 

顎髭の男は目論見通り、お口へシュートが決まった。顎髭は口をモゴモゴさせていて、間抜けな面になっている。

 

 

エンジンがかかった私は調子に乗ってホイホイと袋から複数のパンを両手にとり、「ホワチャー!!」と次の的へ切り替えた。

 

次の的の男は顎髭の男をチラリとみて私の次の行動がわかったのだろう。長髪野郎は生意気にも口を閉じていた。ぐしゃりとパンがへこむ。それをみた長髪野郎は鼻で嗤い、私を攻撃しようと体勢をかえてきた。

 

 

サッと頭に浮かぶのは映画のワンシーン。

 

 

 

映画でみたバター女子パイセンはあんこの顔を古いあんこの顔がぶっ飛ぶ勢いで投げつけていた。見た目は非力な女の子に見えるのにアタッカーが半端ないバター女子パイセン。そこにしびれる、あこがれる。

 

 

イメージは、あの復活シーンだ。

 

 

勢いよく、両腕を振りかぶって......

 

 

 

 

「新しい顔じゃあァァァァ!!」

 

 

 

 

長髪野郎の顔面に投げつけた。

 

 

その結果。

 

 

 

あんぱんは私のアタックに耐えきれず、原形を留めきれず、長髪の男の顔面は中身のクリームがぶちまけられ、べっとべとになった。

 

 

「これで 元気100倍アルヨ。感謝するヨロシ」

 

 

 

にこちゃんパンをゴクンと食した顎髭の男は、目に涙を浮かべながら、ブハッと笑った。

 

 

この場にいても面倒だし、さっさとトンズラするにかぎる。私はまだ日本でやるべきことがあるのだ。ご厄介はノーセンキュー。

 

 

 

ヒーロー・あんこは年齢、性別、国籍を超えた正義の味方だってことだ。

 

 

 

翌日、店で修行がてら中華まんでバター女子パイセンのように素振りをしていたら、店主から拳骨を落とされた。食べ物を粗末にしてしまったことは反省している。

 

 


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