賢者の娘は外の世界に留学したようです   作:エスカルゴ・スカーレット

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第0章:プロローグ
出会い


「マエルベリー・ハーン…?」

 

「マエ()ベリー・ハーン、よ。どう、茜ちゃん?この名前、結構可愛らしいと思うわよ♪」

 

ニコニコと普段はあまり見せないような笑顔で、茜の母親…八雲紫は言った。それに対して、特に肯定も否定もせず、茜はただ由来を尋ねた。

 

「確かに可愛いとは思うけど……。どうしてその名前にしたの?」

 

「『マエリベリー』はマルベリーから取ったの。これは桑の実を意味するの。そして桑の実は成熟すると紫色になる。『ハーン』はあなたがさっき言ったラフカディオ・ハーンから取ったのよ」

 

「なるほど…っ!」

 

ラフカディオ・ハーンはギリシャの出身。そんな彼と同じ苗字ならば、ギリシャ出身という説明も簡単に行えるだろうという意味も含まれている。

 

─────それから、次の日。

とうとう幻想郷を出る日が来た。大きなバッグを複数持った茜は、八雲邸の前に立っている。玄関には、母親の紫と、その式の藍、そして藍の式の(チェン)がいる。

見送りは3人で十分だ。下手に見送りを多くしてこれからの行動が遅れてしまってはいけない。

 

「…行ってきます。お母さん、藍、橙…」

 

「ああ。勉学に励めよ、茜」

 

「お勉強頑張って下さい!お土産待ってます!」

 

「こら、橙」

 

「うにゃっ…」

 

ズシッと頭に藍の手を乗せられた橙は、猫らしく小さく呻いた。それにクスッと笑いつつも、茜の口元からはすぐに笑みは消えてしまった。

そして最後に、紫が娘に見送りの言葉をかける。

 

「……頑張ってね、茜。ううん、マエリベリー。私は多分、そっちには行けないと思うけれど……幻想郷からいつでもあなたを応援しているわ…」

 

「…うんっ…ありがとう、お母さんっ…!じゃ…行ってきます……っ!」

 

ジワジワと熱くなる目頭。下唇を噛む顔を3人…主に紫に見られたくなかった茜は、すぐ目の前にスキマを開き、逃げるように駆け足で飛び込んで行った──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都の某大学にて、留学生マエリベリー・ハーンとして入学してから、おおよそ半日が経過した。周囲の人達とは少し違う容姿……ましてや留学生とあり、講義が終わって自由になった筈の私は、多くの学生に取り囲まれている。

幻想郷と外は少しズレている時間だからこそ私は

「季節外れの留学生」になってしまった。現在の幻想郷は春。しかし現在の外は…夏なのである。お母さんが色々と洗脳などをしたのは教授などに対してのみ。なので私は、学生達から手酷い質問攻めに遭っていた…。

 

「何でギリシャから来ようと思ったの!?」

 

「異国の文化を学びに…」

 

「どうしてこの季節に!?」

 

「えっと…少し手続きに手間取ってしまって…」

 

「ハーンさんって目が紅いんだね!今どき外国の人でも中々居ないよ?珍しいね!すごく可愛いし写真撮ってネットに上げて良いかな!?」

 

「えっ…紅目は珍しいの…?あと写真はやめて」

 

「ハーンさんのご両親が紅目なの?」

 

「ええ、父が私と同じく紅色で…」

 

「お母さんとお父さんの名前はなんて言うの?」

 

…といった具合に、かなり酷い。母達との別れを惜しんで泣きそうになっていたはずの私なのに、もうそんな涙は引っ込んでしまった。現在のこの質問の嵐からどう退散しようか、ただそれだけを考えていた。そして、ボロは出してはいけない。

 

「ねーってばー?」

 

「......A secret makes a woman woman......」

 

「え?ウマウマ…?」

 

「ウッーウッーウマウマ?」

 

「そ、そうじゃなくて…」

 

「あーっ!私そのネタ知ってる!結構昔の漫画の

『名探偵コ○ン』のネタでしょ!!ベルモッ○が色々と誤魔化す時によくそう言ったんだよね!」

 

「ええ、その通りよ」

 

群衆の中から割り込んできた1人の少女。いや、大学生だから女性と言うべきだろうか。にしては周囲の人達と比べて、少々幼い外見をしている。

白と黒を基調にした服装にブラウンの髪、左側に白い紐で一本に結っていて、可愛らしいお下げにしている。幼く見えるのはそのせいもあるのかもしれない。白いリボンがついた帽子を被っていることで、背伸びしようとしている子供に見えてるようにも思える。

その少女に対して私は自然と笑顔で返事をした。

あのネタを理解してくれた。それだけではなく、彼女の人懐っこそうな明るい笑みにつられ勝手に笑顔が漏れてしまったのだ。

 

「今のギリシャでも、日本の昔の漫画が知られてるんだな〜。なんだか嬉しいな♪」

 

「………寧ろ、『今』だからこそ『昔』の漫画が流行り出すんだろうけどね」

 

「えっ?どういう事?」

 

「あっ、ううん、何でもない。ただ、雑誌とかで昔の物の特集とかをやると、またそれがブレイクする事ってあるよねー…って思って…」

 

「あるあるだよね!あとそれ確か、『女は秘密を着飾って美しくなる』って意味だったよね!何かカッコよくて良いよね〜、ゾクゾクしちゃう!」

 

幻想郷には過去の遺物が流れてくることがある。しかし当然、そんな事は言えず、現実でも起こり得そうな事を言ってみると、彼女は肯定し、納得してくれた。

早く帰りたいが、私が彼女と話し出すと、興味を失ったらしい周囲の人達は少しずつ離れていく。もう少しだけ、この子と話していこう。

 

「そうね…。よく私も父に読ませてもらっていたから、強く印象に残ってたの」

 

「へー!お父さん日本の漫画が好きなんだ!」

 

「私のお父さんは元日本人だから、日本の文化はよく知ってるの」

 

「元…?あっ、帰化したっていうこと?」

 

「帰…化?あ…そうそう、向こうに帰化したの!

(一瞬忘れかけてた…危ない危ない…怖っ…)」

 

「じゃあマエル…マエリベリーさんはハーフで、紅い目はお母さん譲りなんだ?」

 

「ううん、この紅目はお父さん譲り。お母さんは金色の目だから」

 

「へ?お父さんは日本人で…紅い目?日本人って大抵は茶色か黒だけどなぁ……」

 

(あああぁぁぁっ…!まずい、どうしよう…!?初日なのにドンドンボロが出てくるよぉぉっ…)

 

どのように返そうか、と表情には出さず心の中で大パニックに陥っていると、推理したらしいその少女が強気な想いをその瞳に込め、私の瞳を覗き込むように見つめながら結論を話す。

 

「…そっか!お父さんの家系がどこかの国の人の血を引いてて、お父さんはその血が出たんだっ!だから日本人離れした目の色なんだ!ねぇねぇ、もしかしてそうなんじゃないっ!?」

 

「そこまでは話聞いた事ないから、あんまりよく分からないの…ごめんなさい」

 

「ううん、大丈夫大丈夫っ!」

 

肯定も否定もせずにやんわりと返すと、その子は手を振って許してくれる。それに安堵の溜め息を漏らしつつ、思考の海に身を委ねる。

 

(…ていうか、初対面なのにここまで個人情報を聞き出しに来る人が居るなんてね…完全に想定外だったよ…。お母さんはこの流れ読んでた…?)

 

「────リーさん?マエリベリーさんって!」

 

「えっ、あっ…はいっ?」

 

…私を海から引っ張りあげたのは、またもやその少女。何か話しかけてきたようだが、考えごとをしていた私はそんな話は耳に入っていない。

 

「で、どう?」

 

「どう…とは?」

 

「えー、聞いてなかったのー!?まー考え事とかしてそうだなーとは思ったけどさー?……私ね、とあるサークルをやってるの!オカルトチックな活動をするサークルをねっ!」

 

「それで、私に何を…………って、まさか…!」

 

「そう、察しがいいっ!私と一緒に、その活動をやらない!?あなたとなら上手くやっていけると思うの!」

 

キラキラと輝く目で私を見る少女。断りづらい。これは断りづらい。かーなーり、断りづらい…!元より私は、少しだけ断るのが苦手な節がある。そう分かってはいても、元からの性格というのは治りにくいものだ。

気付けば私は、彼女に押されて、ついつい誘いを了承してしまっていた。

 

「やったっ!これでやっとまともな活動ができるようになるわ!!」

 

「え…これまでは一体何を…」

 

「1人だけだったから、活動するネタを集めたり何だりとねー…でも1人で出来ることって、案外少なくてさー」

 

「あは…ははは…」

 

そんな反応に思わず苦笑いを零す。確かにあんなグイグイと来られたら普通は怪しむから拒否するだろう。私が断っていたら、彼女は寂しい思いをしていたかもしれないので、多分これで良かったのだろう。

 

秘封(ひふう)倶楽部(くらぶ)へようこそっ!!私は宇佐見蓮子!宜しくね、マエリュェ…マエリベリー!」

 

「こちらこそ宜しく、蓮子さん」

 

手を差し伸べてきた蓮子さんに合わせて、私も、同じ方の手を差し出す。日本人といえば握手だ。どうやらそれは、今も昔も変わらないらしい。

 

「…ちょっと言い辛いから、あなたの事は気軽にあだ名で呼ぶことにするわね!…メリー♪」

 

「それじゃ、私もあなたの事は名前で呼ぶわね。

…蓮子っ♪」

 

「…あははははっ!」

 

「…うふふふっ…♪」

 

初対面ながら、かなり親交を深められたと思う。秘封倶楽部の活動は、早速明日からスタートするとのこと。それから私は蓮子と連絡先を交換し、お母さんが用意してくれたアパート───そこに住んでいるのは私だけで、大家はお母さんということになっている───へと帰って行った。

彼女のお陰で大学生活が楽しくなりそうである。

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